Phantasy Star Froger's 作:Father Bear
「レーナ………もう、やめて………あなたにこんな事させる為に私は………!レーナお願い……」
「レーナ………!頼む、戻ってこい…頼むから…」
誰かの声がする。聞いた事はないのに、どこか懐かしい男女の2つの声。何故かこちらに向けて、とても…悲しそうな声色と………まるで走ってきたペットを抱き抱えようとする時の様な。とても、優しい笑顔を。
阿呆でも分かる様な"矛盾"を、私に向けている。
私の意識は、ここで途切れた。
※
「ん………ぁぁあ……」
目が覚めるとそこはいつものマンションの天井…ではなく。見たことがない純白の世界がそこに広がっていた。
「さっきのまた…………なんなんだろ、あの夢……」
しかし私は周りの状況などさておき、自らが体験したあの奇妙な夢について思考を回した。
女性と男性が一人ずつ、こちらを見て笑っていた。そんな状況はまるで身に覚えがなく、夢の内容をもう一度思いだそうとしてもまるで霞みがかった場景が広がるばかりだった。
「あ……起きた」
「んぇ……?あなた、誰?」
誰かが私に声をかける。最初は反射的にノアだと思ったが一度も聞いた事がない、澄んだ大人しそうな声が聞こえたので、違うと判断した。
私は痛みを感じつつ胴を上げる。艶やかな黒髪が綺麗で、先端はフォトン適正がすこぶる良いせいか青く染色されている。外見はとてもスレンダー体型で、着ているナース服がソレを際立たせる。
そんな、話かけてきた人物と向き合った。
「…ルミエーラ・リュミエール。貴女の、担当医。日雇いのバイトみたいなモノだけど」
「担当医……?というか、バイトなんだしっかりナース服着てるのに…。ひょっとして、ここは……」
「貴女はシェルターから救出された後気絶した」
「えぇ……!?」
自分の担当医だと名乗った"ルミエーラ・リュミエール"は淡々と何故自分が今までずっとベッドで寝込んでいました、と言わんばかりの格好でいるのかを説明し出した。
「…あの後、貴女とお連れ様の身体を調べた結果…異常喚起された状態のダーカー因子が体内を…侵食していたわ」
わかりやすく言い直すのであれば、ダーカーに堕ちる一歩手前である。
「…すぐにコールドスリープポッドに収容。…1ヶ月の洗浄を終え、艦立アークス専門病院へと搬送された。…今はアークスだけじゃなくて、一般人も大勢いるみたおだけど」
「私は…何日寝てたの?」
「…3日」
「み、3日ぁ!?」
3日4日寝るなどマンガやドラマの様なフィクションの中だけだと思っていたが、まさか自分がそうなっていたとは思いもしなかった。
そして私は、ある事がふいに脳裏を巡る。
「そっ……そうだ!!ノアは!?あの男の子は!?どうなったの!?」
ルミエーラに顔を近付け、叫ぶ。しかしルミエーラは「???」という風に首を傾げる。相当ドタバタしていたのか、いちナースが担当以外の名前など教えて貰えないのであろう。
「…もしかして、貴女と一緒にシェルターに入ってた二人?」
私と同い年くらいのこの少女。中々察しがいいのか、すぐに理解してくれた。
「そう!その二人っ!!」
「…ノアさんは、ダーカー因子の洗浄が終わった後、別の所に連れていかれちゃった。…たぶん、手術室だと思う」
「手術!?だっ、大丈夫なのっ…!?」
今でも泣きそうな顔を、初対面の人間に晒してしまう。普段なら我慢して一人になった時に安堵して泣いてしまう所だが、この時の私にはそれを制御する精神力は残っていなかった。
それにそれほどの重症を、痛みなど知らない様な顔をして果敢に戦っていたノアは流石だと思う。
嫌だ…………嫌だ………。失いたく……ない………。
「………大丈夫、だと思う。新しい死亡届けを、印刷されられてないから」
「そっ、そうなんだ………よっ……良かったぁぁ………」
「…あの男の子も軽い洗浄を済ませた後、孤児院につれて行かれた…。可哀想にね。……あぁそう。あの子から、言付けを預かっているの」
「…………??」
何だろうか……。私は泣くまいと必死に堪える顔を隠したまま、ルミエーラの話に聞く耳を立てる。
「『ありがとう!お姉ちゃん!!』…だって」
「うぅぅぅうっ……!!あぁぁぁああぁぁ…………!!」
二人とも無事だった。命を、救えた。その事だけで、私は感極まってしまった。
※
外を見ると夜かと間違えそうになり引き込まれそうになる宇宙空間午後3時。ワンワンと子供の様に泣きじゃくり、落ち着いた頃だったか。『コンコン』と、個室の扉をノックする音が静かになった室内を木霊した。
「は、はーーい!!どうぞ!!」
外に聞こえる様に私はなるべく大きく声を出した。誰だろうか。体格的に女性ではない事は確かだった。
「…………。」
「あっ……あなたは……」
前にマンションの踊り場で会った、あの時の男性だった。
「ん、覚えててくれたのか。…良かった。しばらく見かけなかったもので、心配だったんです」
「あっ…わざわざありがとうございます。あの時挨拶しただけの私に…」
「あそこで数少ない住人の一人なんだ。心配にもなりますよ」
男性はベッドの隣の小さなお見舞い用の椅子に腰かける。
「あとコレ。意識が戻ったばかりで、色々大変な時だろうけど。ちゃんと食べて、ちゃんと寝るんd……」
突然彼の喋る口が止まった。舌でも噛んだのだろうか。
「………寝るといいですよ」
「は、はぁ………」
そういうと彼は、リンゴがたくさん入った紙袋をミニデスクの上に置いた。
…何故だろうか。この男性から何か、不思議な匂いがする。
「あ……そうだ、名前。私達、同じ所の住人…とはもう行きませんけど。せめてお名前を聞いてみたいです」
「な…名前…ですか」
名前を聞いただけなのに顔がひきつり始めた。馴れ馴れしくし過ぎてしまったのだろうか。途端に申し訳なさが募る。
「ギア…。俺の名前は、"ギア"」
ギア。カッコいい名前だと思う。何を顔をひきつらせる事があるのだろうか。
「ギアさん……うん、カッコいいですよ!!」
「そっ…そうですか…?」
「はい!じゃあ…私の番ですね!私の名前はフェr「キャァァァァァアァァァアァァァァァアアアアア!!!!!!!!!」
「「!?」」
名前を言おうとした瞬間、突然女性の甲高い悲鳴が廊下を通して個室内にも響き渡る。
「な…なんでしょうかギアさん……って、あれ?ギアさん??」
その時、既に彼の姿は無かった。まだ、名前もお礼も言えていない。
「どこ行っちゃったんだろう…もしかしてもう行ったのかな…」
今度はこちらから会いに行こう。そう思いながら松葉杖を着き、なるべく早く現場に向かった。
ここにはアークスだけではなく一般人も大勢いるという話だった。正義感に突き動かされた私は、悲鳴が聞こえた方向へと向かった。
「確か……こっちの方から……」
曲がり角を右へと回り道を見渡すと、奥の方で先ほどの悲鳴を発した女性らしき人影が震えているのが見えた。
「だっ、大丈夫ですか!?おケガは……」
「しっ、死体ぃぃぃぃぃいっ!!!」
彼女が"死体"だと言って指を差す方向には…
「えぇっ…!?」
私の担当医、ルミエーラがぐったりと横たわっていた。
「ルミエーラぁ!!そんな……っ!どうして……!!」
「ひぃっ……!わ、私知らないぃぃぃぃいいっ!!」
「あっ!ま、待ってください!!」
行ってしまった。この状況の説明を頼もうかとしたのだが、あまりの恐怖にどこかに耐えられなくなってしまったようだ。
「……ルミエーラ………ううん、まだ死んじゃってる訳じゃないかもしれない!こうなったら……」
私は横たわったルミエーラの横腹辺りに手をかざし、こう唱えた。
レスタ!!!!!!!…………ドクンッドクンッドクンッ
(……!!手応えはある…!やっぱり生きてるんだ!)
その後も私は心臓マッサージをする様にレスタをかけ続けた。起きて、起きて、起きてと心の中で念じながら。
その時だった。
「ん…………私は……何を??」
「よ、良かったぁ………」
「きゃっ」
私はルミエーラを起こす事が出来た嬉しさを隠せられず、思わず抱きついてしまった。
しかし何があったのだろう。こんな何もないような普通の廊下で気絶しているなんて。
※
私は担当のフェレーナ・ネクォールさんの医療観察を終え、資料をまとめる為自分の机に向かう。日雇いのバイトといえど机くらいは用意してくれるらしい。
そもそも何故バイトなのか。答えは簡単。七番艦ギョーフには独自の医療プラントを始め、大学付属病院、専門学校等々様々な医療技術が集結した艦でもあった。
今回の一件でそれに関わるスタッフ及び患者、生徒はおよそ半分が死亡または行方不明となっている。
なので今ここに来るハズの人間がいないので、こうやってバイトを集めているのだ。回復テクニック、レスタ及びアンティが使える事を条件に。
(…もう少しで、つく。早く終わらせて次の患者さんの所に行かなきゃ)
すると私は、ある光景を目にした。
(あれ…あの子は…)
フェレーナとノアという二人が救助したという少年だった。今、車に乗せられてどこかに連れて行かれようとしている。
(…聞いた話だと…あの子は孤児院に引き取られるって聞いてたんだけど…あの人達がそう?……それにしては…)
怪しかった。格好や動作がではない、雰囲気がだ。
何でそう思うかはわからない。女の勘、というモノだろうか。
「ヤな感じ」
その時だった。
パシュゥンッ パシュゥンッ ………バタバタッ
(………!?)
微かな音だったが、だが私は聞き逃さなかった。今の音は…恐らくサイレンサー着き拳銃の銃声だった。
銃声の後に何かが倒れた事から察するに………
(………殺っちゃったの………??)
つまりそういう事だろう。男の子を孤児院に連れて行くというのは真っ赤な嘘。この男達は男の子を連れてどこかに誘拐する気だ。
「させない」
久しぶりに、純粋な怒りが沸いた。だから大人は嫌いなんだ。こうやって何も知らない人を好き勝手利用するから。
その時だった。
「………????」
目の前にはあり得ない光景が展開していた。そんなハズはない。何故ならさっきまで……
「………"フェレーナ"さん??」
病室で寝込んでいたハズだから。