Phantasy Star Froger's 作:Father Bear
「フェレーナさん」
「は………え……!?」
一日の内見ない事などなかった。
髪型や髪色、肌の色、目の色、鼻や口の形、輪郭。全てにおいてその顔は他の追随を許さぬほど私自身の顔であり、端から見ればどちらが"私"であるかわからないだろう。
というか同じ顔とはいえ、何故私の名前を知っているのだろう。
『……逞帙>窶ヲ窶ヲ窶ヲ逞帙>繧医♂縺峨♂縺峨♀縺翫♀??シ?シ』
「危ないッ!!!」
"ユージ"。それがこの男の子の名前なのだろう。
ユージが右腕を背中に回してこのドッペルゲンガーを掴もうとしたその時だ。
「……そうですか、残念」
そう言うと彼女は彼の身体に突き立てた剣を、開かずの扉を強引にこじ開ける様に使って背中を引き裂いた。
筋肉繊維の断面が見え、中からは肥大化し最早機能しなくなった臓物達が止めどなく落ちてきた。胃袋"だったであろう"透明な臓器には、今まで食ってきた人間の残骸が微かに見えた。
「この肉体、都合よく無料で使い捨てできると聞いたからわざわざ出向いて使ってみたというのに。やはり天然モノは違いますね」
ドス黒く変色した返り血を浴びながら、何か独り言をブツブツと言っている。無料?使い捨て??天然モノ???
訳がわからない。
「さて、初めまして。フェレーナさん」
血まみれになった顔の上、明かりが消えた瞳でこちらを見つめる姿は単純な恐怖以外の何者でもなかった。
更には自分の顔だ。
「……………ぁ………ッ………」
声が出なかった。この時私を襲った恐怖は、私の身体を縛るには十分過ぎる威力であった。
「さて、きみに"質問"があります」
感情が乗っていない声で、淡々と喋り始める。
「きみは…ユージくんと接してみて、どう思いましたか?」
「……ど…………ッも………」
"どう、と言われても"。そう言おうとしたのだがその言葉がハッキリと私の口から出る事は無かった。
私の身体は今もなお金縛りの様な状態に陥っていた。
「黙っているのですか?何故?私は感想を求めているのです」
ギギギギギギ。という様に剣の先端部分を引き摺り火花を散らしながら近付いてくる。まるで死神のように。
「……あなたは………何………なんなの………」
「それは、先の質問の回答ですか?」
質問に対する回答ではなく不意に、目の前の対象に対する疑問が口から零れ出てしまった。
そしてその発言の後の彼女の言動、感情が無い分際立つその"無"の中に感じる何かが私の罪悪感を刺激した。
「ちっ……違ッ………!」
「違う??何故??何故わざわざ違う事を口に出したのですか??時間の無駄…いえ、命の無駄という事に」
右腕に持つ剣を振り下ろし、
「何故気付かないのです」
「~~~~ッッ!?」
直撃………する事はなく、私の身体の股の間に叩き落としただけの様だった。
本人的には脅して情報を吐かせるつもりの様だが、私は決してそんな事は思えなかった。殺す気満々、という風にしか思えない。
「もう一度、お願い致します。彼と接してみて、どうでしたか??大丈夫、何もするつもりはありません」
などと、左腕に持った剣を"振り上げながら"そう言った。
ダメだ。この人物、言動と行動が破綻してしまっている。話が通じる相手ではない事は容易に分かった。
「嘘つけゴラァァァァァァァァァアアアアア!!!!!」
突如ドッペルゲンガーの向こう側から、"少年"と思わしき声がした。と、いう事は…
「おっ、遅いよぉ!?」
「……………」
全速力で走ってきたのか、息を少し荒らし耳どころか頭を貫く様な大声を出した"ユウキ"に少し身構えてしまった。
「マグナの旦那がピンチだと思って急いで天井裏から降りてみりゃ……どうなってんだこれェ???」
スゥーーーハァーーー………と、深呼吸を終えたユウキは一旦呼吸を落ち着かせ再度こちらに走ってくる。
「旦那は真っ二つになってるわ、バケモンはさらにグロテスクになってるわ、しまいにゃ目の前にフェレーナが二人も居やがる!!」
偶然落ちていたパイプを手に掴み、勢いよく目の前の彼女に振った。
「ソイツから離れやがれェ!!!」
これには堪らず防御するしかないと彼女は思ったのか。左腕で構えを取っていた体勢から一変、その左半身は防御形態へと入っていた。
そして互いの武器は衝突。鼓膜を破けさせる様な激しい金属音を辺り一面に響かせた後木霊し、しばらくの静寂が続いた。
(………?? 音が止んだ…)
これからまさに戦闘が激化するであろう時の突然の静寂と不気味さに少し身構えた。
私は先ほどの爆音から耳を守る為耳を塞いでいたのだが、その時に勢いで目まで閉じてしまった。つまり目の前で今何が起こっているのか、知るよしもないのだ。
「ぅ………ぁ………」
「ユウキくん!…ってうわわわわっ!!」
派手にスッ転びながら私の方に転がってきた。
まさか、あの一瞬でやられたとでも言うのだろうか。
「ぎゃうんっっ!!!」
しかしその勢いのせいで思い切りお腹辺りに食らってしまった。かなり痛い。一体どんなスピードで走ればこんな勢いになるのだろうか。
「ちょちょちょ、大丈夫ユウキくん!?」
「……………」
気絶していた。
「い……一体何が………」
「父から教わったのです。知らない人から話かけられたら無視しろ、と」
無視など出来ていない。思い切り接触してしまっているではないか。あろうことか気絶まで追いやって。
しかし改めて思う、この人物は気が狂っている。話している事とやっている事の相違があまりにも激しすぎる。
「しかし困りました。あなたがこの質問に答えてくれなければ、"この子"が可哀想ですね」
そう言って彼女が顔を向けた方向は、先ほど自らの手で始末した怪物………"ユージ"の亡骸であった。
「……自分で殺しておいて……勝手な事言わないでよ!!!!!!!」
「わたしが殺した????違いますよ、フェレーナさん」
そう言われた時だった。
「うぐっ………あぁぁああぁぁっ……!?!?」
突如として視界にノイズが走り、脳が揺れ激しい頭痛がする。
そして、目を開けるとそこには鮮明な視界が写し出された。そこに写っていたのは……
「お母さん………お父さん…………どこぉ………………」
頭がおかしくなりそうな程そこらじゅう真っ白な空間に一人、亡くした母親と父親を探すユージの姿がそこにあった。
「うぅぅっ………うわぁぁぁん…………」
座る事もなく、ただただ一人で。泣きじゃくりながら"歩く"。居ないハズの両親を見つける為に。
「待って!ユージ君!!!」
手を伸ばしながら、そのあまりにも悲しい背中を追いかける。しかし私がどれだけ走ってもその背中に追い付く事はなかった。
"親を探す為に一人歩いた距離は計り知れない"、という事を表した暗示だろうか。
小さな背中そのものの目測は変わらない様に見えるが実際は果てしなく遠い。ずっと一人でこんな場所を歩いてきたのだろうか。
「……ユージくん…………」
今の私には恐らく、どうする事もできないのだろう。
そしてしばらくしてまた目眩と頭痛が襲ってくる。
「お母さん……お父さん………」
「ごめん……ね……」
彼のそんな声を最後に、私の意識はそこで途絶えた。
※
「ん…起きた?フェレーナ」
「んぁ…………」
私は一体……どれくらい眠っていたのだろうか。
気絶したルミエーラを見つけて……本読んで……ゲームして…………そのまま寝てしまったのだろうか。
そして聞き慣れた声が私の脳内を刺激した。
ノアだ。胴体や足先辺りに包帯がぐるぐる巻きにされているようで、一見重体そうに見えるがそうでもなく元気そうだった。しかし声を聞くのが久しぶりの様な気がするが、それだけ長く寝てしまったという事だろう。
「一緒の病院だったとか奇遇ね」
「そうだね……私達仲良しだもん。そう簡単に離れられないよ」
「…それ仲良し関係ない。そうだ聞いた?このニュース」
「……??」
ノアが見せてくれた今時珍しい紙媒体の新聞の見出しにはこう書かれていた。
『艦立病院で猟奇的殺人事件』と
「………艦立病院って………」
「ここ」
「えぇぇぇぇえええーーーーーーーーーーー!?!?」
さらに詳しく読むと、被害者は56名。全てアークスの様だった。それもダーカー因子を取り込み過ぎて重要監禁状態にあった者達ばかり。犯人は未だ見つかっていないらしい。
「超怖いじゃん……」
「そうね…」
ノアは深刻そうな顔をして俯いた。
「なんだか……母さんと父さんの時みたいだわ……」
「…言われてみればだけど……そんな訳ないよ、だって……」
「だって、なんて言える相手じゃない。アイツにやられた事、忘れた訳じゃないでしょ」
そう。ノアは今回病院で起きた惨劇と自らの家族に起きた悲劇を重ねていたのだ。
確かに言われてみれば、今回の事件と以前の事件。似ている点はいくつもあるがコレは確実に違うだろう。
記事によるとこうも書かれている。
『遺体の内臓が全て、"大きな口で"切り取られた様な痕跡を残し消えている』と。私達の悲劇の犯人の手法にしては明らかな差が浮かび上がる。
しかしノアはそれでも、この事件の事件の犯人が同一人物と疑って止まないらしい。
「それは……そうだけど……」
妹として、姉が早まる前に止めなければならない。
では何故すぐに否定しなかったか。
私も心のどこかで迷いがあったのだろう。その論を否定しきれる根拠がなかったのだ。
「……………ごめん、熱くなった」
「ううん……ノアの気持ちは分かるから……」
「とりあえず、退院した後の事を考えよう。まずは家探しからね」
「そっかぁ……また一からなんだね…」
七番艦ギョーフではそれなりにフェレーナも有名人であったが、ウィンでは違う。いわば私は地方アイドル。クーナの様な全艦を跨いでの有名人とは違い私はその船でしか輝けない。
例えるならば、今の私は電気の通っていない白熱灯の様なモノ、である。
「また這い上がればいいわ、フェレーナ」
そのノアの一言が、今の私には希望の一言に聞こえた。
「うん…そうだね、ノア」
その時だった。
「おーーっほっほっほっほ!!!!」
「「???」」
ずいぶんな高笑いだ。聞いてて気持ちいいくらいの。
しかしここは病院。殺人事件が起きた後の。空気は読んでもらいたいモノだ。
コンコン 「いらっしゃいますか?」
ノックの音だ。そしてその直後先ほどの高笑いの主であろう声がした。
「……え?今の聞き間違いかしら。今ここの扉ノックしなかったあの高笑い女」
「ふぇっ?い、いや、でもほら……お客さんかもだし……」
「そんなのいなかった、わかった???」
「聞こえてますわよ、全く……いるならいるとすぐ言いなさいな。ダンフォード家は一体どんなご教育をなされていたのでしょう…」
そして私の許可なく、勝手に扉を開けられる。
特徴的なカールが効いた茶髪に金色の瞳。そして何より古臭い貴族口調に対し見た目が若かった。私と同い年かそこらだろうか。
そして"彼女"は私の寝るベッドの目の前に立ち少し声を張ってこう言った。
「無礼な貴女方に代わって私が挨拶致しますわ」
右手に控える杖を私の顔に向けながら。
「ラスレニア家の一人娘!ラスレニア・アーリですわ!!!」
『無礼なのはお互い様だ』とノアと私、付き添いのSPらしき男2人は心の中でそう思った。