『選択』 〜ヒーローになるための〜   作:りんごあめ

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第15話よろしくお願いします。


第15話 昼休みの策略と1回戦

 騎馬戦が終わり1時間程の昼休憩になった。いつものようにデックンを誘おうとしたがなぜかやつの姿は見えず、仕方なく1人で食堂に向かうことにした。

 既に大勢の生徒で賑わっている食堂に入ると見知った2人が何やらひそひそと人目を気にしたように話しているのを見つけ声をかけてみることにした。

 

「よっ、おふたりさん!2人で何コソコソ悪巧みしてんだ?俺も混ぜろよ〜」

 

 いきなり背後から肩を叩かれたことに驚きそいつはびくりと震え振り向く。

 

「うおっ!な、なんだよ三神か。俺達はな、いまから重要な任務に行ってくるんだ、止めないでくれ……」

 

 いや止めてないけど。

やたらと神妙な面持ちで上鳴は俺の肩にぽんと手を置いた。すると俺が声をかけたもう1人の相手、峰田が閃いたように目を見開かせた。

 

「いいや待てよ上鳴、ここでこいつを追い返すのはもったいねぇ……三神、俺達に力貸してくれぇ!!」

 

ちょっと怖いくらいに目を見開いて俺を見上げる峰田に少し引きながら俺は問い返す。

 

「そんで、お前らは一体何企んでたんだ?」

 

「実はな、………で…………よう………」

「よしわかった。行こう、いますぐにでも行こう」

 

神妙な面持ちの峰田に企みを耳打ちされた俺は即答し、2人同様これから戦地に赴く兵士のような覚悟の決まった顔で肩を並べ歩きだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

『さぁいよいよ最終種目発表!……とその前に予選落ちのみんなに朗報だァ!あくまで体育祭、ちゃんと全員参加のレクリエーションも用意してんのさ!本場アメリカからチアリーダーも呼んで……ん?』

 

 昼休憩も終わりグラウンドに戻ってきた俺達の耳にプレゼントマイクの声が響く。実況でも言われた通り目立つ所にアメリカから来たチアリーダーが会場の視線を釘付けにするなか、それと同じように視線を集める集団がこちらにも。

 

『どうしたA組!どんなサービスだァ!?』

 

チアリーダーの格好をしたA組女子の面々が困惑も入り交じったような視線を向けられていた。

 

 

 

「いやぁ〜!お前ら天才だな」

「「ヨシ!!」」

 

「峰田さん上鳴さん三神さん!騙しましたね!?」

 

八百万からの怒号を背に俺達3人はガッツポーズをした。

 

 

 

 

 

 数十分前のこと。

峰田から企みを聞き、俺達は昼飯を食おうと席を探していた八百万と耳郎のもとを訪れた。

 

「八百万、耳郎!」

 

「ん、何か用ですの?」

 

「いやクラス委員だから知ってると思うけどよ、午後は全員のあの服装で応援合戦しないといけないんだって」

 

食堂に現れた華々しいチアリーダーのお姉さん達を指さし、すました顔でそう告げる峰田に八百万達はそんな話あったかと首を傾げる。だがそうはいくかとそこで俺がもうひと押し。

 

「いやぁ〜やっぱり一応確認に来といて正解だったな。さっき相澤先生に忘れてねぇか確認しとけって念押しされたからねぇ、危うくA組だけ不参加なんていう失態を晒すとこだったぞ?」

 

「そ、そうなんですか?」

「おう!じゃあ俺達はちゃんと伝えたからな?よし急がねぇと昼飯の時間がなくなっちまう!峰田上鳴早く行こうぜ、じゃあな〜!」

 

未だ半信半疑といったご様子の八百万にそう捲し立て3人で足早にその場を去る。

こっちだけ言うだけ言って逃げ有無を言わさない作戦だ。

結果として上手く事が運んでくれ峰田達の企み通り女子達にチアリーダー姿にすることに成功し今に至る、というワケだ。

 

「やっぱ三神を引き入れて正解だっだぜ!オイラ達だけじゃ説得力に欠けたかもしれねぇし!三神の顔の良さでゴリ押しもできたかもしれねぇし!」

 

「ほんとそうだな!にしてもお前がこういう話に乗ってくるとは思わなかったぜ」

 

「いやいや俺だって立派な男子高校生……こんなウマイ話乗るに決まってんだろ〜!」

 

意外だったと笑う上鳴の肩を組んでニヤリと笑う。そう、俺も健全な男子高校生、そういった方面への欲求なんてあるに決まってるじゃないか。チアコスなんて最高だろ、見たいに決まってるじゃないか。

 

「三神さんはともかく峰田さんと上鳴さんがいる時点で疑うべきでしたわ……なぜこうも峰田さんの策略にハマってしまうの私……!」

 

大盛り上がりの俺達とは正反対に悲壮感を漂わせへたり込む八百万、他にも不満げな反応なやつもちらほらと……。

 

「まあまあいいじゃん、こういうのって後から思い返すとなんだかんだいって盛り上がる思い出話になったりするもんだぞ?ほら、せっかくだし写真撮っとこーぜ!俺撮るからさ♪︎」

 

「アホだろお前ら!辱めを受けてるこっちの身にもなれっての……!」

 

これでもかというくらい空気を読まない飄々とした俺の口ぶりに、持っていたポンポンを耳郎が顔を真っ赤にして投げつける。いやーおっしゃる通りですよほんと。まぁ悪びれるつもりはないけど。

 

「まぁでも三神君の言う通りかもね。せっかくだしみんなで写真撮ろうよ!本戦まで時間空くし張り詰めてても仕方ないしさ!」

 

意外なことに女子の中にも案外乗り気のやつがいたらしく葉隠がそんなことを陽気に言ってくれた。それが鶴の一声となり、渋々ながらも受け入れてくれた。

 

 

 

「んじゃいくぞー。は〜いチーズ♪︎……よ〜し撮ったやつ送るからみんな連絡先教えて〜!」

 

「……ハッ!三神オマエまさか女子と連絡先交換することも狙って……くそぉ、ズリぃぞこんにゃろぉ!オイラも女子と連絡先交換してぇよぉ!!!」

 

「ふふーん、さぁね♪︎残念だったなこっちには撮った写真を贈るためっつう大義名分があるんだよ、んじゃあな〜!」

 

悔しそうにジタバタする峰田に勝ち誇るようなピースサインを見せつけ、足早に女子達の方へ向かう。

 こうして何人かの女子の連絡先とチアリーダー姿を拝むという一石二鳥なイベントを経て昼休憩は終わりを迎えた。

 

 

 

 

『さぁみんな楽しく競い合おうぜレクリエーション!それが終われば4チーム総勢16人からなるトーナメント形式……1VS1のガチバトルだァ!!』

 

 なるほど、やっぱり最後は1体1 (サシ)やるのか。毎年ある程度形式が違うこともあるが1体1で決めてたな、たしか去年はスポーツチャンバラしてた気がする。他のやつらも同じようなこと言ってるし間違いなさそうだな。

 

 対戦の組合せを決めるクジ引きを始めるとミッドナイトが箱を持って話す。息抜きしたい人もいりゃあ温存したい人もいるだろうという理由から、どうやらトーナメントに進出する俺らはレクは参加してもしなくてもいいらしい。

 

手短に説明を終えたミッドナイトがクジを引かせようとステージから降りようとしたちょうどその時、1人の生徒が手を挙げそれを制止した。

 

「あの!すみません、俺…………辞退します」

 

「「「「「えぇぇええ!?!?」」」」」

 

 手を挙げバツの悪そうな表情をした尾白が声を上げる。当然辺りはどよめき困惑の表情を浮かべる。

 

「尾白君!なんで!?」

「せっかくプロに見てもらえる場なのに……!」

 

「そ、そうだぜ尾白!せっかく俺達さ、騎馬戦勝ってここまで来たんだぞ?なのになんで……」

 

「その騎馬戦の記憶が終了直前までぼんやりとしかないんだ……!奴の個性で俺は……!」

「あっ…………」

 

一緒に騎馬戦を突破した仲間が突然そんなことを言うもんだから慌てて問いかけた俺だったが、尾白からの返答におもわず固まる。やばい、心当たりしかないんですけど。

 

チラッと心操のほうに目線を送るとすぐにそっぽを向かれた。

あの野郎、俺と目が合った瞬間に目ぇ逸らしやがった!これはあれか、もしかして俺がチクチク周りから責められたりするやつか……?

 

「チャンスの場なのはわかってる……でもさ!みんなが力を出し合って争ってきた場なんだ!こんな、こんな訳わかんないままそこに並ぶなんて俺にはできない……!」

 

「まぁ半分くらいそれ俺のせいでもあるからすまん!で、でも最後……最後はちゃんと全員でB組の騎馬からハチマキ守り抜いたじゃねぇか!お前もちゃんと参加してたって、気にすんなよ、な……?」

 

「気にしすぎだよ、本戦でちゃんと成果を出せばいいんだよ!」

「そんなん言ったら私だって全然だったし……だいじょぶだよ!」

 

なんとか説得を試みようと、今もなおうつむいている尾白に必死に声をかける。まさか棄権を選択するとは思わなかった、さすがにこんなことになっては後味が悪すぎる。葉隠や芦戸も気にするなと声をかけてくれたしこれでなんとか思い直してくれないだろうか……。

 

「違うんだ……俺のプライドの話さ、俺が……嫌なんだ!

……あとなんで君らチアの格好してるんだ?」

「それも俺のせいですいろいろとごめんなさい!!」

 

声を震わせながらそう答えた尾白に俺はもうすぐ謝らずにはいられなかった。なんなら土下座した。間髪入れずに凄まじい勢いで地面に頭を打ちつけた俺に「え?」と言わんばかりに目を点にした尾白とばっちり目が合う。そうなんです、ほんとに全部俺のせいなんですごめんなさい。

 

 

 棄権者が出るというまさかの展開は主審のミッドナイトの采配に一任されることになった。尾白の申し出を聞き僅かな沈黙の後、ミッドナイトが閉じていた目をゆっくりと開いた。

ごくり、と唾を飲み込む音が聞こえてきそうな張り詰めた空気が辺りに広がる。

 

「そういう青臭い話はさぁ……好み!!!!

尾白君の棄権を認めます!」

 

自分の好みで決めやがったぞあの人……。なんかすげぇニヤニヤしてるし。

 

「僕は……やるからね?」

 

「お、おう。むしろ出てくれさすがに同じ理由で2人も棄権されたら罪悪感がアレなんで……」

 

 それからいろいろあって尾白に代わって俺達と最後までやり合ってた鉄哲チームから騎馬を務めていた鉄哲が繰り上がりでトーナメントに進出することになった。

 

 

 

 

 

 そうしてクジを引きいよいよトーナメントの組合せが決まった。

俺は第3試合、上鳴と戦うことになった。

 

「なぁ尾白」

 

レクリエーションの準備に周りが騒がしくなるなか、俺はもう一度声をかけた。

 

「さっきはふざけた感じになっちまったからもっかい謝らせてくれ、ほんとにごめん!」

 

「いやいいよ三神。お前は気にしなくていいんだ、お前がアイツに声かけた時にはもう洗脳されてたんだし、俺の責任だ」

 

俺の謝罪に尾白は苦笑して首を横に振る。

 

「俺はやろうと思えば洗脳を解除できたのにそれをしなかった。結果的にお前のプライドを傷つけたことになっちまったからそれがほんとに申し訳なくてさ」

 

「ははは……そっか。じゃあその代わり俺の分もしっかり勝ち上がってくれ!棄権しといてこんなこと言うのは自分勝手かもしれないけどさ……!」

 

「……!わかった、任せとけ!お前の分もしっかり勝ってくる、絶対な!!」

 

 そう言って互いに笑みをこぼし、握った拳をこつんと合わせる。

そんなふうに託されちゃあ敗けるわけにはいかねえじゃねぇか。

胸の高鳴りを感じながら俺は応援席に向かった。

 

レクリエーションで楽しみたい気持ちあるがここは温存のためにゆっくり休んでおこう。こっから先、一筋縄じゃいかないやつばかりだろうしな。

 

 

 

 

 

 

 楽しげなレクリエーションも終わり遂にトーナメントが始まった。

ルールはいたってシンプルでセメントスの創った特設リングから相手を場外に出したり参ったとか言わせて降参させたら勝ち、といったもの。

 

 第1試合はデックンVS心操。

 

しっかりと尾白から心操の個性について聞かされていたはずのデックンだったが、開始早々に何か心操に向かって叫び洗脳されるというまさかの展開。

場外に向かって黙って歩いていきもうダメだと誰もが思ったその瞬間、僅かに指が動き起こした爆風で洗脳を解除。そして心操と取っ組み合いの末に場外へ投げ飛ばし勝利というまさかの逆転劇を見せ2回戦進出。

 

 それを見届けてすぐ、俺は選手控え室に向かった。その途中、手当てをしてもらった帰りのデックンと鉢合わせた。よっ、と軽く手を挙げ声をかけると向こうも微笑んで手を振ってきた。

 

「おつかれさん、いやぁあれはさすがに焦ったぞ?対策聞いてたはずなのに秒で洗脳されんだもんお前!はははっ!」

 

「あはは、ほんと笑えない試合だったよ……ワン・フォー・オールの幻覚、みたいなもののおかげで何とかなったって感じで……」

 

「え、なんかコワ、幻覚見えるとか危ねぇクスリみたいじゃん。やっぱ何でもアリって感じだなワン・フォー・オールって」

 

「ぷっ、ふふ!危ないクスリって……そんなんじゃないってば!

 ノア君僕は先に行ってるからね、君も敗けたりなんかしないでね!」

 

いきなり真面目な声色になってに不思議そうに首を傾げると恥ずかしくなったのかデックンが顔を赤らめて早口に喋りだした。

 

「き、君が言ったんじゃないか!ノア君が僕に負けられないって思うのと同じで、僕だってもう負けてばっかりいるつもりはないんだってことだよ!騎馬戦の順位じゃ負けたけどここではきっと勝つよ……!」

 

「あぁ、そのことか。フン、いいねぇ〜言うようになったじゃねぇか。俺も勝ちを譲るつもりはまだまだないぞ。今回はダチからも想いを託されてるしぜってえ勝つからな!」

 

 互いに威勢よく言い放ってデックンの前を横切った。

さすがは親友、しっかりとテンションを上げさしてくれたな。いよいよ本当に敗けるわけにはいかなくなった。

 

 自然と緩む口元を抑え、控え室からモニターで第2試合を観戦する。

 

第2試合は轟VS瀬呂。

 

「……ちょ、こんなん誰が勝てるの?」

 

 あまりに一瞬の出来事に顔が引きつる。

開始早々に轟を拘束し場外へ放り出そうとした瀬呂だったが、轟が瞬きする間もなく創りだした会場の天井をも越える程の大氷壁で逆に瀬呂を行動不能にしてしまった。

こんなの使われた瞬間負け確だろ。これはマズイな、どうやっても勝てる気がしないしなぁ……どう対策しようか。

などと少々呑気にそんなことを思いながらも、

 

左手の熱で氷漬けにされた瀬呂を溶かす轟の後ろ姿。それが会場に響くどんまいコールのせいなのか、その背中がひどく悲しく見えたのは俺だけだろうか。何故かその後ろ姿からしばらく目が離すことができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

『大変長らくお待たせしたぜェ!第2試合で氷漬けになったステージもようやく乾いて次の対決……』

 

 轟達の試合がすぐに終わったからすぐに俺らの番がくるかと思ったら、ステージが元通りになるのを待つという待ちぼうけをくらってようやくステージへ続くゲートに立つ。

実況のやかましい声に気持ちを昂らせ、ニッと歯を見せて笑い歩きだす。

 

『ここまで全て3位通過!と、好成績ながらもすこ〜し派手さに欠けてるこの男、そろそろお前の本気見せつけてくれやァ!

ヒーロー科・三神乃亜!!』

 

「ぐっ、ハッキリと言ってくれたなぁ気にしてたのに……!」

 

プレゼントマイクからの紹介に一瞬苦い顔をしながら観客に手を振って余裕を見せてみる。

 

確かにそうだ。特に轟や爆豪、デックン辺りと比べるとド派手な活躍してここまで来たとは言い切れないんだよなぁ。

それでも、こんだけの声援が俺に向けられてるって考えると結構テンション上がるなぁ、自分がすげぇやつだと思ってしまいそうになる。

 

『VS!スパーキングキリングボーイ!

ヒーロー科・上鳴電気!!』

 

反対側のゲートから上鳴がこちらも自信ありげな笑みを浮かべ歩いてくる。

互いにステージに立ち相手をまっすぐに見据えるなか、上鳴が口を開く。

 

「へへっ、悪いな三神。昼休みん時は同じ目的を果たす仲間だったが今回はそうはいかねぇ。ま!後で慰めとして屋台で好きなもん奢ってやるくらいはするから安心しな?」

 

「へ〜?自分が勝つ前提とはずいぶんと自信があるじゃねぇの、上鳴クン?」

 

俺の疑りの声に上鳴は表情を崩すことなく、好戦的な顔でこちらを見ている。

 

 そしてスタートのかけ声の後、腕を振り上げ声をあげる。

 

「そりゃこの勝負一瞬で終わるからなァ!……『無差別放電130万ボルト』!!」

 

その叫びと同時にまばゆい光を発しながら電撃がこちらへ真っ直ぐに走り抜ける。それが目前まで迫ってくるなか俺は……、

 

「ウェ〜イ!ウェ…………ウェ!?」

 

「ふぅ〜危ない危ない……っと。お前が単純なやつで助かったよ。あまりに予想通りすぎてわざとギリギリまで避けるの待っちまったじゃねぇか……!」

 

うおおおおぉ!と歓声が響く。

上鳴のことだから開始早々に全開の電撃ブッパでくると予想していたがさっきの一瞬で終わるという言葉を聞いてそれも確信に変わった。

 

攻撃をくらう直前に電撃の通っていない辺りまで姿勢は前を向いたままに、反射で斜め後ろに跳んで回避した俺は勝ち誇った顔でそう告げる。

 

 これはもう俺の勝ちで間違いないだろう。その証拠に上鳴がアホな面してダラダラと額から汗を流している、いまの一撃で既に許容の電力を超えちまったみたいだな。

 

後はあいつを場外に押し出してしまえば俺の勝ち、口元に笑みを作りゆっくりと歩いて距離を詰めていく。そしてそんな俺を怯えた様子で見ている上鳴。

おいおい、よしてくれよ、そんな顔をするなって。そんな顔されたらさぁ…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

殺シタくなるダろ?

 

 頭の中でそう自分の声で囁く気がすると、歩くスピードが速まっていくのを感じた。

それは自分の意思とは裏腹に1歩、また1歩と進むたびに速まる足と連動しているかのように胸の鼓動も速く、そしてうるさくなっていく。

視界は周りの観客の姿はぼんやりとしか見えなくなり、声もほとんど聞こえず上鳴の震える声と自分の心音ばかり顔を耳の中で響き渡っている。

小走りくらいのスピードになった頃には、自然と握った拳をすっと後ろまで引き絞る。

 

「ウ……ウェ?ウウウ、ウェ!ぶべっ!?!?」

 

 

 顔を青くしブンブン首を横に振り必死に何かを訴える上鳴、それを俺の腕は何の躊躇いもなくその頬を思い切り殴り飛ばした。

 

小さく放物線を描いたそれは、ステージ白線の外でドサッと重い物が打ちつけられた音をさせる。

 

「上鳴君場外!三神君、2回戦進出!」

 

 

 

 

 

「……っ!?あ、上鳴!」

 

 ミッドナイトの声がした途端、視界も聴覚も普段のように戻りすっきりとした感覚が走る。と、同時に自分が上鳴を殴り飛ばしたことを思い出し慌てて駆け寄った。

 

 

 

「わりぃ、やりすぎた!上鳴大丈夫か!?」

 

「ウ、ウェ〜ェイ……」

 

何とか意識はあるようで、俺の呼びかけに鼻血を垂らした顔で腕をぷるぷる震わせながらサムズアップをしてきた。これは一応大丈夫ってことでいいんだよな……?

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 保健室に運ばれる上鳴を見送った後、クラスのやつらのいる席に戻ろうと廊下を歩く。

初戦を勝ち上がるという喜ばしい結果だったはずだが、顔にはその喜びの色が見えることはなく……むしろ強ばっていた。

 

 

「クソっ、まただ。自分が自分じゃなくなるみたいだった。……気持ちわりぃ」

 

入試やUSJの時にもあった自分の意思とは関係なく突然現れる黒い感情、人の怯えたような顔を見た途端ああなる。

 自分が壊したり殺したりすることを望んでいる……ワケではないはずだ、そう思いたい。

 

これまでとは違い、初めて仲間にその矛先を向けてしまった。

いつか自分がそうやって誰かを……もしかしたら仲間を意思に反して殺してしまう日が来るかもしれないと思うと身体に悪寒が走った。

 

 身体中に力が入ってが固くなり、なかなか飲み込めない唾を無理やり喉へと押しこみながら俺は応援席へと戻った。




読んでいただきありがとうございました!

ゆっくり細々とではありますが更新続けていくので読んでいただけたら嬉しいです。
今月中にもう1、2話くらいは更新できるように頑張ります。

次回もよろしくお願いしますm(_ _)m
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