『選択』 〜ヒーローになるための〜   作:りんごあめ

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ヒロアカ5期始まりましたね!毎週楽しみです!!

第17話よろしくお願いします。


第17話 三神から轟へ

 飯田との試合を終えた俺は席へ戻るのではなく、その途中にあるステージを一望できる高い場所から手すりに体重を預け1人で、立ち見をしていた。

 

 今は常闇と芦戸の試合が行われている、が試合は一瞬で決まってしまった。

開始早々『黒影』を伸ばした常闇があっという間に芦戸を場外へ押し飛ばしてしまった。

爆豪や轟ばかりが実力者と注目されがちだが、常闇も負けず劣らずのなかなかのやつだと思う。

1回戦2回戦共に瞬殺で勝負を決めたのは今のところ常闇ただ1人だ。こいつとも戦う可能性はあるし今のうちから対策を考えておきたいところだな。

 

 

 その後すぐに始まった切島と爆豪の試合。

防御力の高い切島の個性に思いのほか苦戦を強いられる爆豪。爆破を直撃させても仰け反ることもなく反撃する切島に防戦一方となっていた。

 

 あの爆豪が防戦に出ることになるとは意外だねぇ〜と、興味深く2人の闘いを見下ろしていると背後から聞き覚えのある声がして振り向く。

 

「あ、ノア君!ここにいるってことはもう試合終わっちゃった?」

 

「まぁな。手術上手くいったみたいでよかったな、お疲れさん!」

 

「うん、ありがとう〜。やっぱりそうだよね、うわぁ見たかったなノア君と飯田君の試合……」

 

 悔しそうに顔をくしゃっとさせるデックン、そんな彼に口元を緩ませピースして答える。

 

「そりゃ残念だったな〜まぁでも!約束通り準決勝に勝ち上がったぜ♪」

 

「わぁーすごいじゃんノア君!ベスト4だよ!!」

 

そう言って顔を輝かせるデックンにそうだな〜と軽く笑って答える。

 

「正直言うとさぁ、まさかこんなとこまで来れるとは思ってなかったんだよね〜。

 まぁせっかくここまで来たんだ、俺も本気で1番取りにいくさ」

 

そう宣言して改めてステージに視線を送る。

さっきまでは劣勢だった爆豪が切島の防御を破りノックアウト。

爆豪が準決勝へと駒を進めた。

 

「試合終わったか……うし、もう準備しねぇと。やっぱ席に戻んないでここで見といて正解だったな、すぐ控え室に行けるし……ってことでじゃ!行ってくる」

 

陽気にそう言ってデックンの肩をポンと叩くと、控え室に行こうとする俺をデックンが呼び止めた。

 

「ノア君……見てるからね、頑張って!応援してる」

 

「おう、見とけ見とけ!轟のことはお前の敵討ちのぶんも全力でぶっ飛ばしてきてやっからさ♪」

 

「うん、敵討ち期待してるよ……!」

 

そう力強く答えてお互いに突き出した拳をコンと合わせる。

そうして笑顔で見送られ俺は控え室に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 それから5分ほど経ちステージへ来るようにとアナウンスが入り控え室を出る。

 

『その代わり俺の分もしっかり勝ち上がってくれ!棄権しといてこんなこと言うのは自分勝手かもしれないけどさ……!』

『決勝で会おうぜ……!!』

『頑張ってくれよ三神君、君が決勝に勝ち上がること期待しているぞ!』

『ノア君……見てるからね、頑張って!応援してる。敵討ち期待してるよ……!』

 

託してくれた尾白の言葉を、

ライバルとして闘おうと言った麗日の言葉を、

俺が勝つと信じ応援してくれた飯田とデックンの言葉を思い出す。

 

 いろんな想いを背負って俺はここまで来たんだ。

そんな人達のためにも、自分自身のためにも絶対に勝つ。勝って決勝に進む、優勝してやる。

 

硬く拳を握りしめステージへ向かった。

 

『準決勝第1試合!実はお互い父親が有名人同士の対決だァ!』

 

「……?お前の親父もヒーローか何かなのか?」

「い、いや!んなこたぁない気にすんな!……ったく余計なこと言ってくれるじゃないの」

 

 首を傾げ静かにそう問いかけてきた轟に慌てて首を振ってからジト目で実況席のプレゼントマイクを見る。

あ、ホラ隣にいる相澤先生に余計なこと言うなってどつかれて注意されてるじゃん。先生の言う通りだよまったく……。

 

 どことなく微妙な雰囲気になったような気がして軽く咳払いをして改めて轟を見る。

 

「やるからにはお互い全力で闘ろうぜ轟クン?」

 

「……。」

 

 俺の呼びかけに轟は何も答えない、一瞬何か思うことがあるかのように眉をピクリと動かしたくらいか。

 

これは使わないという方向で考えていいのだろうか。

2回戦、デックンの投げかけた言葉であいつは使わないと宣言していたという左側の炎を使用していた。だったらこの試合でもガンガン撃ってくるかと構えていたがあの様子からして案外使う気がないのかもしれない。

 

 これから闘う身としては攻撃パターンが減るってのはありがたいことだ。そうではあるがしかし……

 

 

 

それはそれで気に入らないな。

 

デックンとは全力で闘っていたってのに俺には使わないってのはなぁ。

それこそデックンも言ってたが半分の力で勝とうとしてるのはちょっと気に入らねえ。

こっちはガチでやるんだ、仮に負けるとしても互いに全力でやって負けるんならまだ納得できる。絶対に左側を使わせてやる。

 

 

 

『準決勝第1試合スタートォ!!』

 

 その掛け声の直後、地面を氷が這い迫ってくる。

それなりの速さだが避けるのは造作もない、軽く横に跳びそれを回避する。

 直後、再び氷が地を這う。それをまた横跳びで躱して軽く周りを見渡す、なるほどそういうことね。

 

「壁造って閉じ込めようってか?だがありがとよ、俺からすりゃいい足場が増えただけだね!」

 

 轟が放った氷はV字のような形で伸び、俺の行動範囲を狭めようとしていた。

だが俺の個性ならむしろそれを利用することもできる。氷壁へ走りそれを蹴り飛ばすように飛びつくと、氷壁に触れた両脚と片手に反射を発動させ一気に跳んだ。

 

そのまま背後まで回り込み蹴りを入れようと足を上げると攻撃が当たる直前、壁を造り防ごうとする。

 

「……ッ!」

 

そうして俺の蹴りは氷壁を粉砕しながら轟の背中を蹴り飛ばした。

 

「へっ、そんな氷なんざ簡単にぶち抜けるぜ?氷結だけならお前は俺に勝てないんじゃねえのかオイ!」

 

 挑発的な言葉をぶつけながらわざとらしく首を傾げる。そんな俺の言葉に轟は何も答えず険しい表情でこちらを見る。

余裕の笑みを見せている俺だがその実、

 

 

 あっっっぶねえ!壊せてよかったあぁぁ……。

 

背中に嫌な汗をかきながら胸を撫で下ろしていた。

 

 背後から蹴り飛ばそうとしたはいいがノールックで壁を貼られるとは思わず足を振り上げてから、

「あ、やばい。」と内心ものすごく焦っていた。

そのまま氷に脚を激突させ俺だけダメージを受けるかと思いきや、その予想に反し氷壁ごと轟を蹴り飛ばすことができた。

 

 

 いやぁ〜内心かなり焦ったがいいことを知れた、反射を発動させた俺の攻撃なら氷に対抗できるようだ。これなら思っていたより強気に攻めてもいいな。

当初の予定では氷を砕くことはできないと考え、回り込んだりして翻弄しながら闘うのを前提にしていたが割と気軽に攻めていってみよう。

 

 

 ふぅーっと息を吐き呼吸を整え走り出す。

当然氷結で阻んでくるが、近くの氷塊に飛びつき反射で進路を変えそれを躱す。

 

 反射で飛び出した勢いそのままに轟に接近するが先程同様に氷壁を出し防御の構えをとられる。

 その程度の氷なんて造作もないと横になぎ払い真っ二つに割る、が。

 

「あれ?いない……やばッ!」

 

 氷壁の先にいると思っていた轟の姿が見えず辺りを見回すと横から右手で触れようと迫っていることに気づき、振り上げていない方の脚に反射を使い間一髪のところで回避する。

 

 

「チッ、その避け方厄介だな、動きがいまいち読めねぇ」

 

舌打ちと共にぼそっとつぶやく轟。

 

「へっ、厄介だと思うんなら左側も使えばいいじゃねえか。もしかしたら呆気なく完封できるかもよ?」

 

 俺がそう言うと左手を見つめ黙りこくる轟、やはりまだそう簡単に使ってはくれないってか。

 

「あっそ。ならこのまま右だけ使ってろよ手抜きの轟クン!」

 

 そう啖呵を切って一直線に殴りかかる。

迎え撃とうと構える轟に接近する前に反射で直角に轟の右真横に移動し接近する。

右側に来たためそのままのほうが早く撃てると思ったのか轟は体の向きを変えず視線だけをこちらに移し氷結を発動させる。

 

 が、それは予想通りの動きだ。接近するための走りを助走にし、走り幅跳びの要領で跳び出して轟の身体の左側へと一気に移動する。

 

「そのままふっ飛びなァ!!」

 

 俺の動きに驚きできた一瞬の硬直に轟の左腕を掴み、反射を発動させ場外までフルスイングする。

 

 なかなかの速度で場外へと飛ぶ轟だったが、あともう少しというところで氷壁を張ることでそれを防ぐ。だが結構なスピードでぶつかっていたため痛みに顔を僅かに歪ませる。

 そこへ追い打ちをかける好機だと俺は体勢を立て直そうとする轟へ一気に距離を詰める。

 

「今度こそ決めるッ!!」

「……ッ!!」

 

 俺の拳が当たる寸前に更に氷壁を造られる。その隙に抜け出され右手で腕を掴まれる。その瞬間、自分の腕が冷たくなるのを感じ慌てて轟の身体を真っ直ぐ蹴り飛ばす。

 

「ちょっと深追いしすぎたかな……」

 

 凍らされた腕を擦りつぶやく。

 まぁ、凍らされたといってもすぐに蹴り飛ばしたおかげでそこまで被害はデカくない。

 ちょっと動す時に違和感がある程度だ、まだまだ闘える。

 

 距離をとられ体勢を立て直した轟が再び攻撃を再開する。

とはいっても出てくる攻撃が最初からほとんど変わらない、氷結を地に這わせ迫ってくるものばかり。

 

「さっきからずいぶんと攻撃が単調だなぁ、そんなモン……簡単に躱せちまうぜ!!」

 

 どんどん増える氷塊を足場に利用し反射でぴょんぴょん跳びまわり、轟を殴り飛ばす。

 

「だから言ったじゃねえか左も使えってよぉ〜?右側、だいぶ霜が降りてきたな?デックンとの試合でわかってんだよ、攻撃も動きも鈍くなってんぞ。

 ……使えよ左側、ソッチも使わなきゃこのまま敗けんぞ。いいのか?半分しか力を出さないで敗けちまってよぉ……!!」

 

 ふらふらと立ち上がった轟にそう問いかけ走り出す。

 これでも氷結しか使わないつもりでいるんならこの試合はもう俺の勝ちだ。動きが鈍く、攻撃の勢いも弱まった今の轟になら負ける気がしない。ついさっきの攻撃を決めたとき、そう確信した。

 

 いままでなら攻撃を出していたであろう距離になっても轟は何もしてこない。

 なんだ、もう勝負する気もないってことか。ならとっとと場外までいっちまえ。

 

そう心の中で吐き捨て殴り飛ばすために拳を引き絞った。

 

 

 

 

 

 

 

『このまま終わるかと思いきやまさかァ!

 轟ここにきて完全に三神を捕らえたァ!!』

 

実況と歓声が響く。そんな観客席を一瞥し俺は、

 

「あらら、ちょっと読み違えたな……まぁ結局全力は出してくれなかったワケだけど」

 

胸の辺りから下を氷に囚われ身動きも取れずつぶやいた。

 

 

 

 氷結しか使わないのなら。と勝ちを確信し殴りかかった俺に轟はその拳が決まる直前に右手と右脚から一気に氷塊を造り出した。

1回戦の瀬呂を呑み込んだ大氷壁に比べれば半分にも満たない大きさではあるが。

霜が降りれば攻撃も弱まると、フェイントも何もなしに突撃した俺は為す術なくその氷に呑まれた。

 

 最後の最後で一手間違えた、俺の油断が生んだ致命的なミス。

2回戦で飯田に言ったことがまんまと自分に返ってきたってワケだ。これはなかなかに悔しい。

 

 幸い拳を振り上げていた右腕は呑まれずに済んだ、ため息をつきながらその腕をだらんと降ろし氷に触れる。

 

そこへ近づいて来た轟に気だるげに声をかける。

 

「まだこんな氷壁を造れる力残ってるとは思わなかったわ、やるじゃん」

 

「まぁ結構限界は近かったからな、これ外したらマズかったかもしれねぇ」

 

「ふ〜ん。ところでだ、その限界だって左側の炎があればどうとでもなるんじゃねぇの?

 ……そこまでして左側を使わない理由、何かあんのか?どうしても気になってな、教えてくんない?まぁ手短にでいいから」

 

俺がそう言うと轟は考えるように黙る、そして静かに口を開いた。

 

 彼の話に思わず俺も固唾を呑む。

エンデヴァーのこと、彼の野望のために自身が個性婚により生まれたこと、精神的に限界を迎えた母に煮え湯を浴びせられたこと。

 予想以上の壮絶な過去に俺は黙って轟の話を聞くしかなかった。

 

「だから俺は親父の個性を使わず1番になって完全否定しようとしていた……。

 けど緑谷と闘った時、あの時はアイツを忘れることができた。

 悪ィな……あの時から自分がどうするべきか、自分が正しいのかどうかわかんなくなってんだ」

 

 そう俯いて答えた轟。なるほどね、こいつもなかなかに重いモン背負ってここにいるんだな。そんな轟の背景を知った俺は──

 

 

 

 

「それならなおさら使えばいいじゃん、左側」

 

 明るい声で言った俺に、え?という声がいまにも聞こえてきそうな顔でこちらを見る。

 

「せっかく迷う機会が来たんだ、なら今こそ使うべきなんじゃねぇの?

 すぐに答えは出ねぇかもだが使わなかったら結局どうすべきなのかも、正しいのかどうかもわかんねえままだろうがよ。

 

 だからどんどん使ってこーぜ、全力でやっても文句は言われない、やばかったら救けてもらえる…… 今この場なんか試すのにうってつけだとは思わねぇか?」

 

「でもお前はもう動けねぇ、この試合はもう──」

「俺がいつ、参ったなんて言った?」

 

 轟の言葉を遮り俺は声を大きくしそう問う。何言ってんだという顔をする彼を見て俺は口元を緩ませる。

 

「悪いな。試合前から全力でやろうとか言ってたのに俺自身、全力出してなかったわ。

 そろそろ始めるとしようぜ……第2ラウンドをなあぁぁ!」

 

 そう叫び辛うじて自由が利く右腕を自分を呑み込む氷壁に叩きつける。

そして掌全体に1つのイメージと共に力を込める。

 

 

 

──『壊す』。

 

 

 

 込めた力が掌全体に伝わったその瞬間、轟音と爆風と共に氷壁は粉々に砕け散る。

その様子を離れた所へ飛び退いた轟が目を見開き呆然と見つめる。僅かな沈黙の後、口を開く。

 

「お前も、なんで……!」

 

「がッ、あぁああ!!…………へっ、持ち得るもの全部使わねえで、何が全力だって話だよなァ……」

 

 USJの時と同様に衝撃波を放った右腕は負荷に耐えきれず折れ、身体に激痛が走る。痛む右腕を左手で押さえ、堪えながらそう言って笑う。

 

「お前も緑谷も……なぁ、お前はなんでそこまでするんだ。何がお前を突き動かす?」

 

「……託してくれたやつがいる、期待してくれたやつがいるんだ。

 いいや、そいつらだけじゃない、みんな見てんだよ……ッ!その想いに応えたいとは……っ、思わねぇか?」

 

 折れた腕の激痛に時折息を詰まらせながら答える。そうしてさらに言葉を紡ぐ。

 

「だから全力で闘って、それに応えようとしてるってのにお前はどうだ、自分のことしか見えてなかったワケだ。みんなが全力でやってたなかでお前は!自分の恨み晴らすことばっか考えてここにいた……。

 

 お前のなりたいもんはなんだ、復讐鬼か?違ぇよな!親父に復讐したいだけならヴィランに堕ちりゃいいだけだもんなァ、ヒーローなんだろ!だから雄英に来たんだろ!?

 

 テメェのなりたいもん、しっかり見ろ!!」

 

 俺の言葉にハッとした顔で瞳を揺らす轟。やがてぎゅっと左の拳を握る彼に三度、言葉をかける──

 

 

 

「誰に何を言われようが関係ない、例えそれが親から継いだものだとしても……右も左もどっちもお前の力だ!

 その炎はお前の意志で!お前から出てくる炎なんだよ!

 

 轟焦凍の『個性』()なんだよ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 父親がヴィランで、そんな父親の個性を少なからず引き継いでいるが自分は今ここにいる、ヒーローになるためにここにいる。

ヒーローに憧れ、同じような力でも人を救うためにこの力を使うことができると信じてここにいる。

 

 大事なのはどんな力かよりも何をしたいか、どうなりたいかだと俺は思うから。

お前も宿した個性や親を恨むだけじゃなく自分のなりたいものが何なのかそれをちゃんと見てみりゃいいんじゃねぇか轟……!

 

 

 

 

 

 

「……それがお前の答え、ってことか?」

 

 静かに問いかけた俺に轟は一呼吸おいてゆっくりと口を開く。

 

「まだわからねぇ。いままで考えるなんてこと考えようともしなかった。まだ迷ってる、考える時間がほしい。だから──」

 

 そう一旦口を噤んでを目を閉じる。そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いまはお前の口車に乗ってやることにした……!」

 

 

後ずさりしたくなるような熱風を吹き荒らし轟は笑っていた。

 

 

 

「緑谷といいお前といいわざわざ敵に塩送りやがって……どうなっても知らねぇぞ」

 

「ふっ、最初っから言ってたろ全力でやりたいんだよ俺は。互いにガチでやってそれで敗けるほうがまだマシだろ?」

 

「まぁ確かに……なッ!」

 

そう言って左腕を振るい炎を撃ち放ってくる。それを右斜め前に跳び回避する。

 

 轟にあれこれ言って左側を使わせたのはいいがここからは短期戦で終わらせたいところだ。

折れた右腕のこともあるしデックンとの試合で起こった爆発をさせたくないってことのほうが大きい。

 

 ここまで散々氷結を使わせたから空気はおそらく十分冷やされているはず、そうなるとまたいつあの熱による膨張が起きるかわからない。

あれをくらう前に終わらせる。

 

 右に跳んでからすぐに反射で轟めがけて加速する、まだ氷結に比べたら制御ができていないらしく、こちらに向けるまでの隙が生まれた。そこをつき懐に入り込んで左腕で腹を殴り飛ばす。

 

「っ、ぐっ……!」

「あ、があぁッ!」

 

が、攻撃を与えたはずの俺も痛みにその場でよろける。

激しく動くだけでも折れた右腕には相当響くらしい、こうなるともう痛みに震える間もなく動き続けるしかない。もう一度止まればおそらくもう闘いどころじゃなくなる。

 

 

 

 覚悟を決めゆっくりと息を吐き走り出す。

そこからはもう頭で考えたりなどしなかった。攻撃がきたら体の動くまま反射的に避ける、そして接近する。そうして攻撃をくらいそうになれば距離を取りすぐにまた懐に飛び込もうと動きだす。

 

 何度も炎や氷結が体を掠る。本来ならば痛みを感じ僅かにでも動きが止まってしまうような攻撃、だが俺の体は止まりはしなかった。

痛みなど感じていなかった、それほどまでに意識は轟と彼が撃ち出す攻撃のみにしか向けられていなかった。観客の姿も歓声もその時だけは目に、耳に入っていなかった。

 

 時間にしておそらく2分あるかないか。だが体感的にはその遥か何倍、闘っていると思うほどに俺は体を動かし続けていた。

 

 

 

 しかしそれだけ没入していればそれが切れた時の呆気なさはなかなかのもの。おそらく誰もよりも速く動き続けていたのに、それに気づいたのは誰よりも遅かったかもしれない。

いままで聞こえていなかった歓声が最初は小さく、やがて大きく耳の中に響き渡った。

 

「は、………え?……」

 

 自分の体がまったく動かない、そうして氷壁に呑み込まれている現状にようやく気がついた。

 

「ぁ、ぐ……ぁ……ッッ!」

 

身体中に走る激痛に声にならない声でうめく。

 

「はぁ、はぁ……まだ、だ。左で壊せ……ば、まだッ!」

 

 

 

「三神君、これ以上はあなたの身体が危険だわ。ここまでよ」

 

消え入りそうな声でもがく俺にいつの間にか近づいていた主審のミッドナイトにそう告げられる。

 

「っ!まだ……まだやれ──」

「三神君行動不能、轟君の勝利!!」

 

抗議は通ることなく、ミッドナイトがそう叫んだ。

 

 

 

奮戦むなしく俺は準決勝敗退という結果になってしまった。

 

 その後轟に氷壁を熱で溶かされ担架で運ばれる際、静かに声をかけられた。

 

「わりぃ、やっぱまだ決められねぇ。もう少しちゃんと考える……向き合ってみることにする」

 

「はは……いいんじゃない……?ま、ゆっくり考えなよ。……後悔のないように……な…?……」

 

 小さな声で途切れ途切れになりながらもそう返し、担架はゆっくり動きだす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ……やっぱガチでやっても、悔しいもんは悔しいなァ……ちくしょう………」

 

 保健室に運ばれる道中、身体中に残る激痛と敗北の悔しさを噛みしめながら担架に揺られ、俺はゆっくりとその意識を手放した。




読んでいただきたありがとうございました!

次回で体育祭編は終了です。
楽しんでいただけていたら幸いです……
お気に入りや感想、評価などもよろしければお手柔らかにお願いします(^^;

次回もよろしくお願いしますm(_ _)m
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