第18話よろしくお願いします。
夢をみた。それは子供の頃から繰り返しみたことのある同じ夢。
空が緋く染まりそこには顔のような模様をした三日月が静かに浮かんでいる。
周りには瓦礫が散乱していて、それを見渡すとゆっくりとただ歩いていく。
……かと思いきや突然場所は変わり、どんよりとした曇り空を誰かに膝枕してもらいながら眺めている。
そうして俺は……いいや、『その人』は微笑んでゆっくりと膝枕をしてくれている人の頬に手を伸ばし、優しく撫でる。
愛おしそうに、惜しむように。
そして最後に、満足したように手を離し今度は空めがけてその手を伸ばして『その人』は言うのだ、
「……オレたちは家族だ──」
「おや、目が覚めたのかい」
「えっ、あ…………」
聞いたことのある声に思わず声が出る。一瞬ぼーっと天井を眺めた後、ゆっくりと身体を起こす。
「何やらつぶやいてたみたいだけどありゃ寝言かい?」
「あ〜はい。たまに出るんスよ、寝言」
声の主、リカバリーガールにそう頬をかきながら答えた。
別にリカバリーガールの声で起こされたわけじゃない。あの夢はいつもあの言葉を言ったのを最後に終わる、たまたまタイミングが重なっただけだ。
小さい頃から度々見るまるで誰かの記憶のような夢。
理由は分からない、まぁ不思議には思うがあまり気にはしていない。どうせそのうち見なくなる、夢ってのはそういうもんだろう。
夢のことはこれくらいにしてリカバリーガールに問いかける。
「あの〜今どういう状況なんすか?」
「試合が終わった後あんた気を失った状態で運び込まれたんだよ。もう治癒はしといたからね。
右腕の骨折や身体中の軽い火傷は治ってるハズだよ、まぁ体力のこと考えてすり傷はそのまんまだけども体動かす分には問題ないハズさね。」
なるほど、と頷いて右腕を見てみる。
右手は普段通り握れるし腕もちゃんと動かせる、他のところを見てみても火傷らしい傷や痛みなどはどこにもなくリカバリーガールの言うとおりすり傷以外は完治しているらしい。
「ありがとうございます、助かりました。じゃ!大丈夫そうなんで俺は応援席に戻りまーす」
お礼を言いひょいとベッドから出ようとすると、わたわたとリカバリーガールから止められた。
「ちょっと待ちなさいな、あんたもう1試合あること忘れてないかい?」
「え、決勝ですか?それなら俺じゃないしやっぱ応援席に──」
「3位だよ!表彰は3位までされるんだよ!あんたには3位として表彰台に上がるチャンスが残されてるんだよ」
リカバリーガールの話にそうだった、と手を打つ。
3位まで決めるとなれば準決勝で敗退した俺ともう1人で3位決定戦をやるってことか。いっけねえすっかり忘れてた。
「ちなみに決勝で轟と闘うのはどっちになったんですか?」
「勝ち上がったのは爆豪だよ、ちょうどこれから試合が始まる頃だろうねぇ」
「てことは俺が闘うのは常闇かぁ……」
なんとなく予想はしていたが勝ったのはやはり爆豪だったか。轟と爆豪どちらが勝つかは結構気になるところだ。
「一応確認しとくけど出るのかい?ケガはおおよそ治ってるけどここまでの闘いと治癒でかなり体力を消耗してるよ。思うように動けないかもしれないし無理に出る必要はないけどどうするんだい?」
「はっ、愚問ですね」
俺の事を案じそう問いかけてきたリカバリーガールに俺は即答する。どうするかなんて、そんなの決まってる。
「出ないワケないでしょう、どんな風になろうと最後まで全力でやり抜きますよ。意地でも縋りついてやりますよ表彰台……!」
「そうかいわかったよ、なら決勝終わるまで寝ときな〜ギリギリまで体力の回復に務めなさいな」
俺の返答に静かに頷いたリカバリーガールはそう言うとそそくさと俺をベッドにもう一度寝かしつけた。ここはお言葉に甘えて休ませてもらうとしよう。
布団をかぶり目を閉じるとやはり疲れは溜まっていたようであっという間に眠気が襲い2度目の眠りについた。
「時間だよ、動けるかい?」
「ん〜?あ、ども。おはようございます……」
肩を叩かれ大きなあくびをして身体を起こす。
「試合は20分後に始めるそうだよ、体の調子はどうだい?」
「よっ……うん、割と普通に動かせそうです」
身体を軽くひねったりジャンプをして身体の状態を確かめる。
少しばかりいつもより重い気はするが十分動けるだろう、準決勝電車折れた右腕も治癒のおかげですっかり元通りになっている。
「そうかい、じゃこのまま控え室行って準備してきな。
あ、そういえばさっきあんたが寝てる間にお友達がぞろぞろとお見舞いに来てたよ。休んでる真っ最中だから後にしなって追い返したけどね」
「え、そうなんすか?友達ってデックンとかですか?」
「そうだね、あんたがお見舞いに来た時とだいだい同じ子達だったかね」
てことは麗日や峰田達ってことか、後でお礼でもしておこうか。
ありがとうございましたとリカバリーガールにお礼をして保健室を出る。そうして俺は控え室へと向かった。
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20分なんて案外あっという間に過ぎてしまい俺はもう既にステージの上、静かにこちらを見る常闇と向かい合っていた。
『さァ!雄英体育祭1年生の部もいよいよ最後の試合!3位に縋り付き表彰台に登るのは果たしてどっちだァァ!!』
ハイテンションな実況に煽られ歓客も大盛り上がり。
というか歓客もよく最後までそんな大声上げていられんな、喉痛くなんねぇのか。
と、観客への疑問はほどほどに向かい合う常闇に意識を戻す。
ここまでの試合、常闇は2戦とも瞬殺で圧倒的な強さを見せつけていた。爆豪との試合はみていないから分からんが敗けたということは何かしら弱点を突かれたってことだろうか。
だとすればそれは俺にも突ける弱点なのか……うん、情報量がちょっと足りなくて分からねぇ。とりあえず闘いの中で見つけるしかないな。
『3位決定戦、スタートォォ!!』
「行け『黒影』!!」
『アイヨ!』
「そりゃそう来るよなっ!!」
開始早々に一直線に突撃してくる『黒影』を横には跳んで躱し叫んだ。
1回戦も2回戦もあいつは開始早々に突撃させ、相手の行動を意に介さず真っ向から押し出していた。それだけ他を圧倒できちまう強さってことだ、今回だってそりゃ最初からガツガツ攻めてくるよなぁ。
それだけ攻撃的な戦法なのだ、当然一撃目を外せば間髪入れずに次に出てくる。躱した俺に向かって全速力で再び迫ってくる『黒影』を今度は白線から距離を取ろうとステージの内側へ進みひらりと躱す。
「へっ、避けるだけならなんとでも──ッ!?」
そう言って常闇へ攻撃を仕掛けようと体の重心を前にした途端、ガクンと右膝の力が抜けその場で崩れ落ちる。
突然のことに自分でも何が起きたのか分からず目を見開くなか、その隙を見逃すはずがなく『黒影』の体当たりで強く吹き飛ばされる。
体を打ち付け地を転がるがなんとか持ち直し立ち上がろうとする。しかしまたもや上手く力が入らず、立ち上がった途端すぐに膝をついてしまう。
迫る『黒影』を飯田との試合で見せたようなしゃがんだ体勢のままでの平行移動で間一髪それを躱す。
「はぁ、はあ………なるほど……っ、準備運動とガチの運動じゃこうも勝手が違うのな……」
よろよろと立ち上がりながら誰に語りかける訳でもなくぼそりと呟く。
保健室で軽く体を動かした時はほとんど問題なく動くと思っていたが、実際のところまともに動くのも難しいほど体力を消耗しているらしい。完全に立ち上がった頃には息も切れ切れに額から汗が流れていた。
これくらい普段なら息のひとつも切らさず余裕で動けたんだけどねぇ。
これは冗談抜きでやばい、個性の相性以前に基礎的な運動能力で完全に劣ってしまっている。本当に短期決戦で決めなければ勝ち目はなさそうだ。
だとすればだ、闇雲に『黒影』から逃げ回ろうとしてはだめだ。そんな走り回るようなことをしようにも体力がもたない。
だったらどうするか──
「畳みかけろ『黒影』!!」
『アイヨッ!!』
常闇のかけ声に応え迫る『黒影』、そんなヤツを静かに見据え息を整える。
体力の限界が近いならどうするか、そんなの簡単だ。
「小細工なんかせず、必要最低限の動きで──」
『ギョェ!?』
「ぶっ飛ばしゃあいいだけだよなァ……!」
『黒影』の顔面にアッパーをお見舞いして静かに笑みをこぼした。
どうせ体力がもたないんだ、なら色々と小細工しようとしたって体が言うこと聞かない。それならシンプルにぶっ飛ばしにいくしかない、それをするくらいの体力と策ならある。
『黒影』にアッパーを打った直後走り出す。もちろん、常闇目掛けて一直線に駆ける。
そんな俺を警戒し身構えた常闇が迎撃に出るよう命じ、それに応じた『黒影』が俺の背中を追って伸びてくる。
その姿を確認し一瞥し僅かに減速、そして。
「いいとこなんだ、ジャマすんな……よっ!!」
『ウギャ!?』
アッパーに続き今度は全力のエルボーをお見舞いしてやった。
クネクネと仰け反って怯む『黒影』を後目に俺は接近をやめ、常闇と『黒影』が繋がっているへその緒のような部分を両手でがっしり掴む。これにはさすがに常闇も予想外だったようで目を丸くしこちらを見ていた。
『黒影』に再び襲われる前にと俺はすぐに攻撃に出る。
絶対に離すことのないよう全力で掴んでいる手に力を込め、ハンマー投げの要領でその場でぐるんぐるんと回転する。
常闇は驚いた表情そのままに振り回され、繋がっている『黒影』もアワアワ言いながら同じくされるがまま回されていく。
いままでのような普通のパンチや蹴りじゃ1、2撃で場外まで出すことは難しい。それなら体力的に1度しかチャンスはないだろうがこうやってぶん回して放り投げるほうが可能性は高い、これなら本人の身体に触れられるまで接近しなくてもいい、意表も突けているハズだしきっといける……!
疲労感や男一人を振り回す重さから腕はもちろん、身体中が痛みに悲鳴を上げる。しかし最後の力を振り絞り、歯を食いしばって耐える。
こういう時こそアレだろ、Plus ultraってやつだろ?今すぐにでも手を離したいくらいの痛みが走るが身体中に力を込め続ける。
2回、3回、4回……と回していくと僅かに常闇の足が地面を離れてとうとう宙に浮いた。そして──
「吹っ飛べぇぇえええ!!!」
「…………不覚」
俺の叫びと共に反射を発動させ全身全霊のフルスイング。
常闇の身体は『黒影』もろとも白線を軽々越え、グラウンドの壁に激突寸前という所まで吹き飛んで尻もちをついていた。
振り回しぶん投げた時の勢いに押され、放り投げたと同時に前のめりに倒れこんだ俺は顔を上げ常闇を場外に出したことを確認すると右手をゆっくりと掲げ──
「よっ…しゃあ〜〜…………」
「常闇君場外、三神君の勝利!!」
『決まったァァ!!これで表彰台に登る3人が出揃ったぜェ!雄英体育祭1年生の部これにて終・了〜!!!』
力のまるでこもってない間抜けな声でガッツポーズをした後、実況と響く歓声を聞きペタンと顔を再び地面に伏した。
「あ〜こりゃやばい、立てん……」
試合が終わり張り詰めていた緊張が緩んだからか溜まった疲れがどっと流れ、俺は手足をぴくぴくと震わせるだけで立ち上がることさえできなくなっていた。そんな俺の肩に手が触れゆっくりと身体を起こされる。
「手を貸そう、大丈夫か三神」
「お、ありがとよ。昨日の敵は今日の友ってやつか?」
「数分前の敵だかな。そういうことだ、見事だった……俺の完敗だ」
そう言うと常闇はふっと笑った。
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「今年度雄英体育祭1年の全日程が終了、それではこれより表彰式に移ります!」
花火をバンバン打ち上げる派手な演出のもと、ミッドナイトが高らかに言う。
そうしてグラウンドに集められた生徒、報道陣、観客の視線が表彰台に集中する。
ここまで熾烈な闘いが繰り広げられたのだ。報道陣は逃してなるのものかと目をギラつかせカメラを一斉に向け、観客は大歓声と共にどんちゃん騒ぎをして。そして生徒達は悔しさも胸にしながらなんだかんだで拍手を表彰台に登る人達に向ける……
のが本来あるべきであろう姿なのだが、
「うわぁ……」
「なにアレ」
「起きてからずっと暴れてんだと。しっかしまァ締まらねえ1位だなぁ……」
「そんでそんな1位を見て腹抱えて笑っている3位、かぁ……ほんとに締まんねぇ表彰式だなこれ」
「もはや悪鬼羅刹……」
「~〜ッ!〜〜〜ッッ!!!」
「あっははははは!お前見事に全国に醜態晒されてんぞ……く、くくっ!ぶははは!」
柱に身体を括り付けられ口と手まで塞がれるというとても体育祭の優勝者とは思えない姿で表彰台に登る爆豪と、それを見て腹を抱える俺に会場のほとんどの人がなんともいえない表情をしていた。
「それではメダル授与よ!今年メダルを贈呈するのはもちろんこの人!!」
そんな微妙な空気を意に介さず言うミッドナイトがグラウンドの上の方へ視線を向けると、誰もが聞いたことがあるであろう高笑いが会場に響き渡る。
No.1ヒーローオールマイトの登場に会場が色めき立つ中、颯爽と飛び降りいつものようにカッコよく台詞を──
『私が「我らがメダルを持ってヒーロー来た!』オールマイト!」
決められず、ミッドナイトの紹介とダダ被りになりながらグラウンドに現れた。
う〜んこれは締まらないねぇ……。
しっかり真面目に行われるはずだったであろう表彰式がなんとも言えない感じで始まっていく。
「そ、それでは3位からメダルの授与を……」
「あ、あぁ……」
登場がカッコよく決まらなかったことが悔しかったのかきごちない笑顔でメダルを手に取り、こちらに歩み寄ってくる。
「ハッハハハ、三神少年おめでとう!いやぁ〜最後までよく闘い抜いたな!」
どーも。と小さく返事をして首を下に向けオールマイトからメダルをかけてもらう。
ずっしりとメダルの重さを感じた頃、「ただ!」と切り出してオールマイトがその大きな身体でハグをしてきた。
「Oh……なんという硬いハグ」
筋骨隆々な身体でのハグにおもわずそんな感想がボソッと漏れる。
「そこは熱いハグと言うところじゃないかな!?
と、ともかく!君の個性は汎用性が高い、上手く伸ばせばまだまだたくさん取れる択が増えるだろう。そうすればもっと上を目指せる!これからも頑張ろうな、期待してるぞ……!」
「……!はい!!」
そう言ってトントン背中を叩くオールマイトの手は温かく、そして優しかった。そんな温かいハグに自然にこぼれた笑みと共に大きく返事をして頷いた。
そうして俺の元を離れ今度は轟の前に立つ。
「轟少年おめでとう。決勝で左側を収めてしまったのは何か訳があるのかな?」
見ていなかったから知らなかったが轟、決勝では左側使わなかったのか。
まぁ、もう少し考えてみるとか言ってたしなぁ。そう簡単には割り切れないんだろう。
オールマイトからの問いかけに轟は静かに語る。
「緑谷戦できっかけをもらって分からなくなってしまいました。あなたがやつを気にかけるのも少し分かった気がします。
そして三神戦でこう……背中を押してもらえた気がして。ただ、俺だけが吹っ切れてそれで終わりじゃ駄目だと思った。
精算しなきゃならないものがまだある、だから一度よく考えたいと思います。自分が何をすべきなのか、何になりたいのかを……」
「うん、顔が以前と全然違う。深くは聞くまいよ、今の君ならきっと精算できる……!」
そう答えると俺と同様に轟にも優しくハグをし、彼の気持ちを押すようにポンと背中を叩いた。
確かにオールマイトと話す轟の顔は以前と違い、とても穏やかなものになっているのが横で見ていてなんとなく分かる。
俺との闘いで背中を押してもらえた気がしたと轟は言った。
俺が思ってぶつけた言葉があいつをいい方向に変えるきっかけにでもなればいいな、などとお節介ではあるがそう思う。
あいつがその答えを教えてくれる時を密かに楽しみに待とうと心の中でつぶやいた。
「こんな1番何の価値もねぇんだよ……世間が認めても自分が認めてなきゃゴミなんだよォ!!!」
「うむ、相対評価にさらされ続けるこの世界で不変の絶対評価を持ち続けられる人間はそう多くない。
メダルは受け取っとけよ、自分の傷として決して忘れぬよう!」
「いらねえっつってんだろうがァ!!」
結果に納得がいかず縛られながら暴れ続けていた爆豪が吠えオールマイトがそれを往なして無理やりメダルを渡す。
ほんっとすごい顔してるな、やっぱりヴィランのほうがお似合いなんじゃねぇかと思いたくなる形相で叫んでやがる。
1位なのに不満てどんだけプライドが高いんだよコイツ……。
3人全員にメダルを渡し終えたオールマイトはくるりと振り返りカメラを向けるマスコミ達の方を見る。
「さぁ、今回の勝者は彼らだった!
しかし皆さんこの場の誰にもここに立つ可能性はあった、ご覧いただいた通りだ。
競い、高め合い更に先へと登っていくその姿、次代のヒーローは確実にその眼を伸ばしている!!
……てな感じでご唱和ください、せーの──」
「お疲れ様でしたぁ!」
『『『『Plus Ultra!!』』』』
「いや、そこはPlus Ultraだろ普通……」
「あ、あぁ〜いや、疲れたろうなっと思ってさぁ……」
最後までイマイチ締まることなく体育祭は終わりを迎えることとなった……。
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「ハイお疲れ。つうことで明日と明後日は休校だ。
体育祭を観戦したプロヒーローから指名などもあるだろうが、それはこっちでまとめて休み明けに発表する。ドキドキしながらしっかり休んでおけー」
教室に戻った俺達は帰る前のホームルームを経て家路につくこととなった。
「ノア君ほんとすごかったよ!3位入賞おめでとう!!」
「ははっ、ありがとな。俺もまさか表彰台に立てるとは思わなかったわ」
いつものようにデックンと2人言葉を交わしながら歩く。
「あ!そうだ、準決勝終わってから麗日達と保健室にお見舞いきてくれたんだってな。寝てたから分かんなかったけどありがとな!」
「あぁうん、あんなボロボロになったらそりゃ心配するさ!すぐにリカバリーガールに追い出されちゃったけどね……」
「その言葉そっくりそのまんま返してやんよ、お前のほうがいつもボロボロなってんだよなぁ〜」
「あ〜……あははっ確かにそうだね。僕もこれからもっと頑張らないと」
そんな感じで時折笑い合いながらゆっくりと歩く。そうしてふと思い出したように夕空を見ながら口を開く。
「そういや飯田大丈夫かなー兄貴がヴィランにやられたって言ってたんだろ?」
「うん……お兄さん、インゲニウム無事だといいね……」
常闇との試合が終わってから飯田の兄インゲニウムがヴィランにやられ、飯田が兄の元へ向かうため早退したことを聞いた。
サイドキックも多くいる実力のあるヒーローだし大丈夫だといいが。
無事だったと安心したように報告を受けることを願うばかりだ。
それからしばらくしてデックンと別れ家路につく。
さすがにここまで来ると安心感からか、再び自分がかなり疲労していることを実感し眠気が襲ってくる。
目を擦りながら玄関のドアを開く。
「ただま〜」
「おやおやこれはこれは!かの有名な雄英体育祭で3位に輝いた方ではありませんか〜!ちょっとお話よろしいですカ!?」
俺の声を聞いた途端リビングのドアが開き、なぜかクルクル回りながらそんなことを言う千年公に出迎えられる。
「ははは、なんでインタビュー形式なんだよ。ワケわから……」
そう言いかけたところでふと思い出す、そういや体育祭始まる時おんなじようなことデックンにしたなぁ俺……。
「うわぁー俺ってば千年公と同レベルのボケしちゃってたのかぁ」
「え、我輩ってそんなにセンスないって思われてるんですカ!?」
「冗談だよじょーだん、そういうことにしとくよ」
「しとくよってやっぱりセンスないと思われてるじゃないですカ……」
靴を脱ぎながらそんなことを言ってしゅんとする千年公の横を横切る。
すると千年公が思い出したように声を上げ立ち塞がってきた。
「あ、我輩ただいまを聞いてませんよ!お家に帰ってきたらまずただいまでしョ!」
「いや言ったわ!こっちこそまだおかえりを聞いてねぇんだけど!?」
口を丸く開けてポンと手を打つ千年公。
「あぁ〜そうでしたそうでした!おかえりなさい乃亜……よく頑張りましたねお疲れ様でしタ」
「うおっと……」
そう言った千年公がおもむろにぎゅっと抱きしめてくる。風船みたく膨らんだやわらかい身体に顔をうずめて落ち着く自分に少し恥ずかしくなり、抱きしめられたまま顔を背ける。
「……汗くさいと思うからそんな抱きしめないほうがいいと思うぞ〜」
「そうですねぇ、たしかに汗くさいでス」
「いやそこは別に認めなくていいとこなんだよ」
そんなことを言って小さく笑うと千年公がすっと身体を離す。
「そんな汗くさい君には温かいお風呂が待ってますよ、ご飯の前に入ってきちゃいなさイ」
「おっ、入れといてくれたんだ。んじゃそうさせてもらうわ、先部屋に荷物置いてくるー」
「えぇ、疲れたからってお風呂で寝ちゃダメですよ〜」
「はいはい、分かってるってー」
半笑いで答えながらすたすたと階段を上り自分の部屋へ向かう。
机の上にバックを置き何気なく中からメダルを取りだしじっと見つめる。
あれだけいた生徒の中の3位だ、メダルを貰い表彰されるだけでも素晴らしいことだ。頭では分かっているがそれでも思ってしまう。
もっと明るく輝く銀や金のメダルを手にしたかった。
あと少し。もう少しというところで敗れ、手にしたのは一つの黒星がついた末に縋りつき与えられたメダル。金や銀に比べればどうしても見劣りしてしまうと大半の人が思うであろう銅のメダルだ。自分だってニュースなんかで聞けばそう思ってしまう。
次はこんなことを思わなくて済むように。
次は手放しで喜べるようにもっと強くなろう。
そう夕陽に照らされたメダルをぎゅっと握り締めた。
読んでいただきありがとうございました!
次回から職場体験編です。
お気に入りや感想、評価などもよろしければお手柔らかにお願いします(^^;
次回もよろしくお願いしますm(_ _)m