第22話よろしくお願いします。
昼食も済ませ再び修行が始まる。何となく辺りを見渡すと数時間前までは綺麗に広がっていた白い街並みは所々の家が瓦礫と化し、廃墟が立ち並ぶゴーストタウンになりかけていた。
修行のためとはいえあんな綺麗だった街並みをボロボロにしたのは少し罪悪感があるなぁ。
「おい、なにボーッとしてんだ。そろそろ始めんぞ気ぃ引き締めろ」
「あ、はい!元気です」
「誰も健康観察なんかしてねーよ小学校かここは」
何やら午後からの修行に必要な物があると家の中に入って行った師匠が戻ってきてそんなことを言う。
「さっきも言ったがお前にはもう一つ技を習得してもらう。それはお前の使い物にならん力を制御するためのものだ」
「使い物にならない力……あっ」
「自分が1番よく分かってるだろうがお前の個性の中で一つ、全く制御できてないのがあるよな?」
「……はい、母親譲りの『衝撃波』。何度やっても威力を制御できなくて腕を折っちゃうんです。どうにかしたくても骨折ってデメリットがデカすぎてなかなか練習もできなくて……」
俺が困り顔でそう言うと師匠はふむ、と頷いて口を開く。
「いままでそいつをどのように使ってきた?」
「ん〜物とかに触れて『壊す』って強くイメージしてから掌全体に力を込める、って感じですね。加減しようとして軽く力を込めたりはしたんですけど結局いつも骨折しちゃいましたね」
苦笑しながらそう答えると師匠は「やっぱりな」と一度目を閉じ、ゆっくり開きながらそうつぶやいた。
「やはりな。午前中も言ったが行動は必要最低限にするのがいい。個性は使う場所を無駄に大きく使うことで身体に余計な負荷が加わることもあるからだ。
おそらくお前の掌の使い方がこれに該当する。別に掌全体に発動させる必要ないんじゃねえのか」
師匠の推察になるほどうなずき唸る。
掌に普通に個性を発動させること自体が自分の身体を壊す原因になっていたとは考えたこともなかったな。個性が体質的に身体に合ってないとかそういう理由だとばかり思ってた。
「んでもそうするとどうやって使おう、掌で範囲がデカすぎるんなら指から出すとか……?」
「それなら骨折は免れるかもしれんが逆に小さすぎて威力が不安だな。実戦で使うんならベタ踏みで高火力ではなく、無理のない範囲で何度も使えるそれなりの火力にするのが望ましい。
そもそも自傷するばかりの超火力なんざヒーローとしては役に立たんだろ。
お前といい『9代目』といい体育祭では見るに堪えなかったぞ」
「なるほど確かに一理ありま………え、いまなんて?」
師匠の言葉にうなずきかけていた手前、最後の一言に心臓の音がドクンと大きく跳ねたのを感じた。『9代目』ってのはきっと……。
「ふっ、おいおい何しらばっくれてんだ。受け継がれてきた力の後継者のことさ、知ってんだろお前?」
俺の反応に吹き出して手を横に広げる師匠。この言い方間違いなくワン・フォー・オールのことを、デックンのことを言っている……!
どう答えるべきだ、いくらヒーローとはいえ力のことは他言無用だってのがオールマイトとの約束だ。カマをかけて何か聞き出そうとしてるって可能性もある。ならここはやはりシラを切っておくのが最善か。
「すいません、なんのことだかほんとに分かんないっス……」
できる限り平静を装い首を傾げる俺をじっと見た後、ゆっくり息を吐き、
「ハッ、ちゃんと口が堅いようでなによりだ。永らくオールマイトが宿し戦っていた、巨悪を倒すために蓄え聖火の如く受け継がれてきた力。
………俺もワン・フォー・オールの秘密を知る者の1人さ。味方だ、心配ならオールマイト本人に聞いて確認すりゃいい」
そう自信満々に、穏やかな声色で言った。
「なっ!?え、ま、まじすか……師匠もオールマイトの秘密を知ってる一人だったんですか」
この人思っているより遥かにすごい人なんじゃないか……?まさかの告白に口を開けたまま固まる。
「あぁ、昔色々とあってな。緑谷出久、だったか。数ヶ月前そいつに力を譲渡したことから、やつの活動時間が1時間そこらまで縮まったことまで知ってる……もっと昔の話もな?」
意味深にそんなことを言われ驚きのあまり声が出ないでいる俺に師匠は小さくため息をついて再び口を開く。
「話が脱線しちまったな、この話はまたいつかってことにしてだ。
まぁとにかく自傷なしで個性を扱えるようコントロールする手段を得る、これが目標だ。なんならこの職場体験で習得を目指すのは移動法とコントロール、この2つだけだ」
淡々と語る師匠になるほどと頷いていると、スっと何かを取り出したかと思うと何も言わずそれを投げ渡してきた。
「ちょっ!と、なんスかいきなり……へ、鉄パイプ?」
落としそうになりながらも何とか掴み上げそれを見ると、渡されたのは何の変哲もない鉄パイプだった。
困惑の表情を浮かべる。これで一体何をしろっていうんだ?もしかしてあれですか、これで俺のこと殴ってみろとかですか。いいですよ、死ぬかと思うくらいボコられたし1発くらい思い切りやりますよ。どうせあなたこのくらいじゃ死なないんでしょ。
「おい、なんか失礼なこと考えてないか」
「え……いや別にそんなことないですよ思い過ごしですよ」
頭の中でも覗かれてんのかな。
しっかりと言い当てられ内心びくりと震えながら真顔で即答する。
俺はこの1週間心の中で悪態つくことすら許されないんじゃなかろうか、そんな風に大きくため息をつく。もちろん心の中で。
「見ての通りそれはただの鉄パイプだ、その辺の店で買って短くカットしといた。さっきも言ったが掌全体での発動が自傷の原因かもしれん。そこでそいつ使って発動範囲の縮小とそれにより自傷が起こるかを試す」
「へ、へぇーもしこれでも骨折した場合は……」
「すぐに他の方法を考えるさ。なんだ骨折すんのが怖いのか?
そんなモン1発で成功させりゃ問題ないだろ」
「そりゃそうだろ!別にこれ100パー上手くいく訳じゃないんですよね?骨折したら1週間で治して他の方法試すなんて無理ですよ!」
「雄英に行きゃあ治癒してくれるババアがいんだろうが。あのバアさんに頼みゃいいだけの話だろ」
「マジで言ってんのかこの人……」
鬼なのかこの人は。
つまり成功するまで腕が折れる度に雄英行って治癒してもらってまたここに戻ってきて……と往復しろと言っているらしい。
この人は本当にヒーローなのかと疑いたくなってきた。まだ1日目ですよ?それなのに俺はこの人の行動、言動に何度も目や耳を疑っている。
1週間後俺は無事に家へ帰れるのだろうか……。
「いいからとっととやれ、掌に付けて撃ってみろ」
「あれ、そういや掌に付けるってどうすりゃいいんだ?握ればいいのか……?」
ふと気になり鉄パイプが前に突き出るような向きで握ってみる。
「まだまだ発想が乏しいなお前は。『触れたくない』と拒絶できるのなら、その逆だって可能なんじゃねえのか」
俺の行動にタバコを吸いながらそうボヤく師匠。
触れないという選択の逆。ということは………
「触れたくないんじゃなく『触れ続けたい』と選択するってことか……!いままでそんなこと考えもしなかったな」
俺の言葉にようやく気づいたのかとでも言いたげな目線だけを送ってくる師匠に苦笑しながら、早速試してみることにした。
「この鉄パイプを掌に触れたままにしたい、離したくない……!うおっ、すげぇ!逆さまにしても手にくっついたまんまだ!!」
鉄パイプを地面に立てて倒れないよう右手で支えながら左の掌の中心に当てそう強く思ってみると、鉄パイプはピッタリと左手にくっついて離れなくなった。選択を解除するとすぐに重力のままに地面へと甲高い音を立て落下した。
こんな単純なことにすら気づかなかったとはいままでの俺バカか。
まぁ、拒絶の『反射』や『透過』が便利でそれだけである程度なんとかなってたからなぁ。他の方法なんて考えようともしてなかったんだよな。
これ使えば建物の壁とかに身体のどこか少しでも触れていれば張り付いたりできそうだ、後で試してみよう。
「よしっ、んじゃいきます……!」
深呼吸して息を整え意識を手に集中させる。
ミスったら地獄を見る、ミスったら地獄を見る……。骨折って治してまた骨折って治してなんて絶対御免だ。そう念仏のように唱えていると心臓の音はうるさくなり、整えたはずの息が荒くなってくる。
そんな中覚悟を決め手に力を込め──!
「あ、そうだ一つ助言をくれてやろう!」
「でえええぇっびっくりしたぁ!急に声かけないでくださいよ、せっかく人が覚悟決めてやろうとしてたってのに!?」
「ああ、わざと今声かけたからな。うっかり暴発でもするんじゃねえかと思って」
「この人っ!ほんとにもうっ……!!」
殴りたい、この笑顔。
ニヤニヤしている師匠にそんな感情を抱きながらそれを押し殺すように歯を食いしばる。この人もうやだぁ……。
「そう怒んなよ初めての試みだからな、イメージしやすいように助言してやるつってんだ。
目標は発動範囲をぐっと絞ってその鉄パイプからビームのように『衝撃波』を撃ち出すことだ。コツは一点に溜めて撃つこと。これを頭でイメージして実践してみろ、その辺の家の壁に向けて撃て」
「一点に集中すること、か。掌にくっついてるパイプの直径をしっかり意識してそこだけにゆっくり力を込める……!」
再び深呼吸で息を整え掌へと意識を向ける。
イメージすることは2つ、一点に溜めること。そして、
──『壊す』。
「…………そりゃそうなるわな」
師匠の声が静かに響く。
そんな小さなつぶやきを俺は、
「あ、あぁ……マジかよ、くそっ」
聞こえていないかのようにシカトして。
「腕、壊れてない……できたあああ!」
家の外壁にできたヒビ割れを見ながら飛び跳ねていた。
「やかましいやつだな一度できたくらいでガキみたいにはしゃぐんじゃねえよ」
「い、いやだっていままで1回も上手くいかなかったんですよ!?何年も!それがやっとまともに使えるようになったんだ、さすがに嬉しいじゃないですか。これで腕壊さずに済むんだ……!」
呆れ顔で言う師匠にそう明るい声色で答え喜びを噛みしめる。腕が壊れるからいまいち使うに使えなかった力を制御することができるってのは想像以上嬉しいもんだ。何の痛みも感じない左腕を見て姿勢と頬が緩んだ。
「そりゃよかったな。まぁだがそいつはあくまで実験用、実際の戦闘でそのパイプは使わんからな。感覚を身につけるために使っているにすぎん。
まぁひとまず今日の所はそれを使って『衝撃波』を撃ち出す感覚を体に叩き込む、これから行う修行がそれだ」
「なるほど、撃ち方は何となく掴めたんで何回もやってりゃ何とかなりそうです!それで午後はどんな修行を!?」
師匠の言葉に嬉々とした様子で答える。
さて次はどんな修行をしてくれるのか、結構楽しみになってきたぞ。
「ふん、そりゃコイツを使うに決まってんだろ」
「あれれ〜おかしいぞ?俺が今1番見たくない物がでてきたぞ」
師匠の取り出した物に先程までの嬉々とした表情はどこへやら、顔を青くしてその場に立ち尽くす。
「午前同様ひたすら俺はこのおもちゃの銃をぶっ放していく、さっきはただ逃げるだけだっが今回はちょっと違う。
お前はコイツから逃げつつその『衝撃波』で弾丸を撃ち落とせ」
「え、それは無理でしょ。師匠が言ったんじゃないスか。俺の弾丸はターゲットにブチ込まれるまで止まらないって」
「そうだな、だが俺の個性『追撃』にも弱点がある。
放った弾はターゲットに当たるまで飛び続けるがその弾そのものが跡形もなく破壊された場合、その時点で追尾は不可能となり残ったエネルギー弾はその場で蒸発して消える。
つまり弾丸を『衝撃波』で粉々に破壊できりゃお前は無事に逃れられるってワケさ」
師匠の個性にそんな弱点があったとは。手も足も出ない個性だと思っていたが案外そうでもないのかもしれない。
「なるほどそれなら『
「そういうことだ。今回は少々加減してやる。『追撃』は威力や速度を一定の範囲まで強めたり弱めたりすることもできるからな、最初は威力も弾速も弱めに設定して撃ってやるから確実に発動させることに重点を置け」
へぇ、そんな細かい設定までできるのか。予想以上に自由が効く便利な個性だな。なんて感心しながら屈伸などをして身体を動かす準備を整える。
「おっと忘れるとこだった、もう一本パイプを用意してある。左右どちらでも扱えるために両手に付けて撃ってけ」
「ちなみに師匠、これ使って直接ぶん殴ろうとしたら──」
「そん時は骨の1本も残らないと思え。まぁお前程度の攻撃当たるはずもないし冗談だがなァ……!」
ひええええ……思ってたより怖い返答が来やがった。
冗談だ、なんて言ってますけどそんなギロっと睨んでちゃあ冗談に聞こえないんですけど。目つきが鋭すぎて光って見えるんですけど気のせいですか。
そんな師匠の眼光に思わず身震いしながら新たに投げ渡された鉄パイプをさっきと同じ要領で右手にくっつける。そうして鉄パイプが落下しないか手をブラブラと振りながらふと自分の姿を見回しながら思う。
タキシード着た男が両手に空気砲みたいに鉄パイプをくっつけそこからビームを撃とうしてる、なんていうこの姿を見たら世の人々はどう思うだろう。きっと変人認定される。もしくは厨二病絶賛発動中のイタタタな男の子、みたいな更に悲しくなる扱いを受けそうだ。
サポートアイテムじゃなくただの鉄パイプってとこがまたそういう味を引き出してる。公園とかでヒーローごっこしてるちびっ子がこういう使い方してるの見たことあるもん。このままの格好で外出るのは絶対やめとこ。
「その状態で外出たら白い目で見られるだろうな」
「はいダメですよーいまちょうど同じこと思って恥ずかしくなってたんスから、傷に塩を塗るようなマネはやめてくださいね〜」
心でも読んでたのかこの人は。考えていたことと全く同じことをつぶやかれ真顔でツッコミを入れる。さぁそろそろ話が進まないし真面目にやろう、軽く後ろに飛んで距離を置き戦闘態勢に入る。
「まぁとにかく修行始めましょう師匠、早く試したくてわりとウズウズしてるんで」
「そうか分かったんじゃ行くぞー」
「あっ、え、ちょ!そんな一呼吸置く間もなく撃たなくても!」
俺がそう言った瞬間に師匠は流れるように素早い動きで銃を構えドカドカと4〜5発撃ち出した。
よしそれじゃあ始めるぞ。とか軽い前置きくらいあると思っていた俺はもちろん呆気なく宙を舞った。
「おいコラ何してんだバカ弟子、わざとああやって撃ったが何もせずしっかり全弾体にねじ込まれるとは思わなかったぞ」
「……もっと加減というかなんというか。どうにかなりません?あんなんで修行になりますかね」
「実際に戦うヴィランがお前の都合よく待ってくれると思うか?俺がヴィランだったらお前死んでたぞ」
「もう半分くらいヴィランだと思ってんですけどそれは」
「そうかそうか、なら望み通り地獄をみせてやろう」
「スンマセンでした」
地獄が見たいだなんて誰も言ってないじゃないですか。と物騒なことばかり言う師匠に文句の一つでもぶつけたくなる気持ちをぐっと抑えのそのそと立ち上がる。
「はぁ……いちいち小言を挟まんと喋れんのかお前は。次行くぞ、とっとと構えろ」
今度はしっかりと前置きをしてくれたことに小さな感動を覚えながらしっかりと相手を見て構える。
「じゃあ今度こそお願いしますっ!!」
グダグダ感が否めなかった修行午後の部がようやく始まった。
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「そろそろ時間か。今日はここまでだ、とっとと帰る支度しろよ」
「……しばらく動きたくないですというか動けないです」
懐から取り出した時計を見ながらスタスタと歩いていく師匠の背中をぼんやり眺めながら逆立ちに失敗した時のような体勢になった俺は覇気のない声でそうつぶやいた。
帰ると言っても家からは離れているため1週間学校が用意してくれたホテルで寝泊まりすることになる。とりあえず腹が減っていたので近くのファストフード店に吸い込まれるように入っていきハンバーガーを頬張っていた。
「はあああ疲れた。結局午後もこっぴどくやられたしなぁ……」
加減してやると言っていた師匠だったが放たれた弾丸は俺の『衝撃波』1発で破壊はできず数発撃ち込んでようやく、という感じだった。あれはマジで焦った、師匠ってば加減という言葉を理解してねぇんじゃないかと疑いたくなったね。その後もっと威力の高い弾丸が飛んできて、あ〜ちゃんと手加減してくれてたんだぁと疑いを晴らすことはできたんだけど。車に轢かれた人のように何度も宙を舞うことにもなったけど。
それでも師匠の思惑通り『衝撃波』を撃つのにはかなり慣れることができた。感覚に慣れるのと同時に弱点についても何となく把握もできた。
まずしっかり鉄パイプくらいの範囲に発動することや点にして撃つことを意識すれば割とすぐに放つことはできるが、しばらく使い続けると腕に徐々に痛みが生じるってことだ。以前のように一撃で腕を骨折なんてことにはならないが使い続けることで腕がやられる可能性は十分あるため少々注意が必要かもしれない。
もう一つは直線にしか撃つことができないことだ。撃ったらその時掌が向いていた方向そのままに真っ直ぐ衝撃波は飛んでいく。ちなみに弾速はある程度調整できるが出せても30〜40くらいだなと師匠は言っていた、野球のピッチャーが投げる球くらいと言えばわかりやすいか。
そんな感じで今日のことを振り返りながら本日2つ目のハンバーガーを食べ終えたところでスマホの着信音が響く。電話の相手は──、
『あっ!もしもしノア君、いま大丈夫かな?』
「おう、今ファストフード店でバイトの可愛い子が『キミ、3日連続で夕食それじゃん』ってハンバーガーをこっそりくれるのを待って3個目を食おうとしてたとこー」
『それ何日も連続で行かなきゃ言われない台詞だよ!というか3個も食べてたら追加でくれるわけないと思うよ!?食べすぎだよ!?』
「え〜東京のマックに来れば絶対に晴れにしてくれる女の子に会えるワケじゃないのかぁ」
『東京にマック幾つあると思ってんの!?そんなんだったら晴れ女大量発生だよ!?東京雨降らなくなるよ!』
「ははははっ、いいツッコミだなこっちもボケた甲斐があるってもんだ。そんでどうした、なんか用か?」
まくし立てるようにツッコミを入れてくれたデックンの声に笑みをこぼしながら向こうには見えるワケではないが失敗した首を傾げて問う。もう〜とため息をつくような声が聞こえたが気のせいだろう。
『えっとね、体験先で個性をフラットに考えろって言われてね。いろいろ考えて試してるとこなんだけどさ。ノア君向かい合う壁をトントン蹴って上に登ったりできるよね?あれのコツとかあったら教えてほしくて……』
「ほ〜ん、これまた真面目な質問が来たな。そうだな、俺は壁を蹴る頃には次どの辺りに向かうか、どのくらいの強さで蹴るかを意識するようにしてるな。後は足だけじゃなく手も使うことかな、そっちのほうがバランス取りやすいし。そしたら後は慣れだなやっぱり」
真面目な質問にしっかりと真面目に答えればなるほどと唸る声とスラスラとノートにペンを走らせる音が聞こえてくる。持ち歩いてるいつものノートにメモしてるんだろうなきっと。ブツブツと漏れ出ている独り言に、そういえばと俺は再び口を開く。
「これは師匠に言われたことなんだけどさー」
「え、師匠?職場体験先のプロヒーローのこと?」
「あーそうそう、師匠って呼んで敬えとか言うやべー人なんだよ。
んでその人が個性は使い方ひとつでできることが大きく変わったりもするって言ってたんだよ。まぁだから色々柔軟によ〜く考えるといいみたい、俺もそれでだいぶ変わったからし。お前そういうの得意だろ?」
「やっぱりそうだよね。色んな視点から自分の状態とかやりたいことを分析するとして……うん、ありがとノア君参考にさせてもらうよ!」
「おう、あんまいい助言してやれなかった気もするけどお互い頑張ろうぜ。俺も師匠に殺されないよう頑張っからよ」
そんなんことないよ!とブンブン首を横に振ってる姿が思い浮かぶデックン声にそっか、と軽く笑みを浮かべながらまたなと一言付け加え電話を切った。久しぶりに師匠以外の声を聞いて何故か安心感を覚えながら、残ったハンバーガーやポテトを口に放り込んだ。
よしデックンと喋ってちょっと元気出た、明日も頑張ろう。
しっかり完食してごちそうさまでしたと手を合わせ、決意新たに店を出た。
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そして翌日。廃ビルに入り昨日と同じゲートをくぐって方舟へやってくると眼前に現れた景色に目をぱちくりさせる。
「あれ?元通りになっとる……」
昨日の修行で俺でなく師匠が。俺でなく師匠が(大事なことなので2回言った)破壊の限りを尽くしたため崩壊していた白いレンガの街並みはまるでそんなことは起きていなかったかのように、元通りの美しい街並みを取り戻していた。
「来たか。あぁ〜頭痛てェ」
「あ、師匠おはようございます。大丈夫スか、どっか具合でも悪いんですか?」
「んなわけあるか二日酔いに決まってんだろ。久しぶりに若い女達と飲んだからな、つい楽しくなって飲みすぎた」
「何しとんねんアンタ」
頭をかきながらのそのそと歩いて現れた師匠がしょうもないこと言うもんだからついそんな容赦のない言葉が出てしまう。普段はそんなこと微塵も思ったりもしないんだけどな。ホントだよ?
「というかなんで方舟の街が元通りになってんスか?昨日師匠の攻撃でめちゃくちゃになってたのに」
「方舟はハコブネが創った空間だからな、中にある物はほとんどがあいつが創り出した物だ。つまり壊れたってハコブネがまた創れば元通りになるって訳だ、言ってなかったか?」
「初耳ですよそんなの。ほんっと便利な個性をお持ちですなぁ」
そんなことまでできちまうとかホントすごい個性だな。ハコブネさんマジすげぇ。一家に一台欲しいくらいですよハコブネさん。
そんな感じハコブネさんを心の中で褒め称えているとそのハコブネさんが何やらダンボール箱を抱えてこちらにやってきた。俺の前にドンとダンボール箱を置くと指をさしてこちらを見てきた。
「……コレ、お前宛…ノ、荷物……」
「えっ、俺宛て?誰からだ………千年公?」
誰からだと伝票を覗き込むとあったのは見慣れた名前。何が入ってんだろうとガムテープを引きちぎって箱を開く。中に入っていたのは一枚の紙と被覆控除の時に見たサポート会社の名前が入った箱だった。とりあえず入っていた紙を開いてみることにした。
「えーなんだって?
『彼に頼まれてサポート会社にサポートアイテムの作成をお願いしておきました。あ、彼というのはあなたの前にいる二日酔いで頭でも抱えているであろう男ですよ?彼にはアイテムの構造だけを指示されたので我輩がオシャレにデザインしておきました♡頑張ってくださいネ。
千年公より』
……二日酔いなってるバレてますよ師匠。てかサポートアイテムとかマジか!どんな感じなんだ……ろ」
初めてのサポートアイテムにワクワクしながらサポート会社の箱を開いた俺の顔は嬉々とした様子から突如真顔へと変わる。いや、コスチュームのこともあったし千年公がデザインしたってとこでちょっと嫌な予感はしてたんよ、やっぱりこうなるのね。
「………どうして蝶々なの?」
箱から取り出したそれをじっと見回しながら俺は静かにそうつぶやいた。
『蝶型自動展開砲・ティーズ』
と説明書にイカつい名前で書かれたこのサポートアイテム。
通常時は掌で覆うことができるサイズのキューブになっているが付いているボタンを押すことで展開し、中心が空洞になった翅を広げた蝶のような形へと変形するワンタッチ式のサポートアイテムらしい。見た目は師匠のサイドキックであるマリアさんの仮面みたい、と言ったらわかりやすいだろうか。
昨日の鉄パイプのように掌へくっつけてから両手を合わせて押し込んだり、自分の身体に触れて押し込んだりすればボタンが押されカッコよく展開してくれる、というワケらしい。戦闘中に壁や地面に押し込んだりして展開してもいいかもしれないな。
「構造しか伝えてなかったんだがなぜ蝶の形になってんだ。虫好きかお前」
「蝶なトコは千年公の趣味な?違いますよ完全にあの人の独断と偏見です。というかこれ師匠が作るように言ったんスね、手紙に書いてありました」
「まぁな。ただの鉄パイプじゃ威力を抑えられてるとはいえ衝撃波に耐えられなくて壊れるからな。ソイツは特殊な素材で作られてるし内側から壊れることはないだろう。試しに撃ってみろ、要領は昨日と同じで大丈夫なハズだ」
「なるほど、んじゃ早速……『ティーズ』!!」
近くの家の壁を狙い2、3発撃ってみると昨日同様、しっかりと穴が空いた。撃ってみて腕への違和感もないし、見た目も安っぽい鉄パイプ比べりゃだいぶまともになった。ちゃんとヒーローっぽい、これなら外を歩けそうだ。
「問題なさそうだしそれじゃ今日も始めるとするか。内容は昨日と同じ、俺に殺されないようせいぜい頑張るといい」
「よしっ、今日はテンションちょっと上がってますからね。余計な小言はなしで始めますよ、お願いします師匠!」
こうして職場体験2日目が幕を開けた。
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「職場体験ももう3日目……そろそろ進んでもいい頃か」
と思ったらもう3日目ですよ奥さん。2日目は省きますよ〜だって師匠ったら初日からやることずっと同じなんですもん。これといって目新しいイベントはなかったんですよ。
強いて言えば2日目の昼メシも頼んでもいない高級弁当を人数分用意されその請求が俺に回ってきたくらい。ほんとに1発殴りたくなったね、まぁ返り討ちにあうだけだろし堪えたけど。
そんなこんなで今日も今日とて請求された昼メシ代の領収書を恨めしく睨みながら先ほど師匠の言ったことに首を傾げる。
「進んでもいいって何か新しい修行でも始めるんスか?俺としては大歓迎ですけど」
「バカ弟子よ、ここまでの2日間と今日の午前でだいぶ新技の使い方にも慣れてきた頃だな?」
「そうっスね。最初に比べてだいぶスムーズに使えるようになってきました。まぁ『
「それはお前の集中力がまだ足りねえって話だが……まあ大方予定通りだし、次のステップへいくとしよう」
師匠の決断におぉ〜と感嘆の声が漏れる。初日に比べてかなり弾丸を防げるようになってはきたものの依然撃たれて宙を舞うことにはなっていたため、それが終わるのを心待ちにしていた。もう軽いトラウマなんだよ……。
そうして期待に胸を膨らます俺に師匠が言い渡した次の修行は──、
「バカ弟子よ、夜の街に繰り出しヴィランを倒してこい」
「ごめんちょっと何言ってんのか分からない」
またウチの師匠が変なこと言いだした。
日が沈み夜が訪れ街は昼間とは装いを変える。街灯や看板が煌々と輝き辺りを照らし、帰路に着く者や飲み歩きに行く者達が行き交い街は昼間とは違った騒がしさに包まれる。
そんな街の喧騒から少し遠ざかるビルの屋上で頭を抱える男が一人。
「はああああ〜マジでやんのかぁ、ほんっとやばいってあのバカ師匠……!」
今ここにいないのをいい事についつい悪態が口からポロッとこぼれる。半ば追い出されるような形で街へやってきたがやるしかねぇよな。
よし、と軽く頬を叩き大通りを避け人通りの少なそうな路地目掛けて勢いよく飛び降りた。
職場体験は7日間かけてヒーローがどんな活動をしているか実際に間近で見て学ぶ、というものだ。
そんな職場体験がこの日で最後となることをこの時の俺は知る由もなかった。
読んでいただきありがとうございました!
やはりティーズも出したいなと最初から思っていたので、今回サポートアイテムとして登場していただきました。
次回いよいよちょっとは強くなったであろう主人公が保須の街に解き放たれます。そこで何をやらかすかはまぁ、決まってますよね。保須ですからね、ヤツと戦りあいます。
お気に入りや感想、評価などもよろしければお手柔らかにお願いします(^^;
次回もよろしくお願いしますm(_ _)m