『選択』 〜ヒーローになるための〜   作:りんごあめ

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いつの間にか8月が終わっていた……!
そしてお気に入りが200件を超えていました!ありがとうございますありがとうございますm(_ _)m

第23話よろしくお願いします。


第23話 プロヒーローをたずねて・闇夜のエンカウント

「バカ弟子よ、夜の街に繰り出しヴィランを倒してこい」

「ごめんちょっと何言ってんのか分からない」

 

 言い渡された指令に何言ってんだよ師匠ォ!と真顔で即座に返すと、同じく何言ってんだよバカ弟子よとでも言いたげに真顔で首を傾げる師匠が口を開いた。

 

「そのままの意味さ。それなりに強くなったであろうお前にはこれから実際に街にいるヴィランをパトロールがてら倒してきてもらう、俺とばかり戦ってると変なクセがつくかもしれんからな。街へ出て様々なタイプの敵と戦ってこい」

 

「は、はぁ……まぁそれは一理ありますね」

 

「だがしかしバカ弟子よ。お前はヒーロー免許を持っていない身、そんなお前が街で個性を使うのは法に触れる。そこでだ、俺の活動に同行中に二手に分かれて動いてる際に捕まえた……みたいな理由をでっち上げる」

 

「マジで何言ってんだアンタ」

 

 ぽかんと口を開けて思わず目上の人に対する言葉としては不適切なものがまたしても飛び出してしまった。でも仕方ないではないか、それほどのことを目の前にいるこの男は言っているのだ。

 

「口裏合わせてそう言や警察にもバレねえよ。こちとら悪いやつを捕まえてきたって大義名分があるんだ、人目につかねえとこならなおさら証拠もないし深くは追求されないさ」

 

「……。」

 

 もう突っ込む気すらなくなったよ。

 師匠の言葉をただただ真顔で耳に頭に流し込む。流し込み一呼吸おいて出てきた言葉は「この人ほんとにヒーローやってていいのか」である。ここまでくるとなぜにこんな野郎がプロヒーローやれてるんだと開いた口が塞がらなくなってくる。まぁ今は口閉じてるんですけど。

 

「つーことで街でヴィランを倒したら俺に必ず連絡をよこせ。そうしてお前と共に警察へヴィランを引き渡し修行は完了、という流れだ。連絡にはこの携帯使え」

 

 ポイと投げられたスマホを軽々キャッチしてコスチュームのポケットにしまい込む。うーんと唸りながら俺は口を開く。

 

「これバレたらほんとにやばいと思うんですけど大丈夫ですかね。俺が大怪我したりしたら師匠に責任問題とかいろいろ追求されるんじゃ……」

 

「そうなるだろうな。だから俺だけには(・・・・)迷惑をかけるようなマネはすんなよ?ヴィラン相手になら多少のおいたは許そう。まぁ最近あの街に出てるっていうヒーロー殺しに殺されねぇようせいぜい気をつけることだな」

 

「もう俺ァあんたのことをプロヒーローとは認めたくねぇよ。てかそんなリスクを負うなら師匠も一緒に来ればいいじゃないっスか!」

 

 俺だけには迷惑かけんなとかいう発言にとうとうドン引きしながら俺はそう反論する、が……。

 

 

 

 

「俺、パトロールキライなんだよ!!!ほらとっとと行ってこい!」

 

「そりゃあねぇよ師匠ぉぉぉぉ!!」

 

 サイテーな理由で一蹴され、いつの間にか現れたハコブネさんによって開かれた家のドアに放り込まれ方舟から追い出された。

 

 

 こんなめちゃくちゃなやり取りがあってからだいたい2時間が過ぎた。そうして俺は悪いことしてそうなやつを探して度々ビルの屋上に上っては飛び降りるという傍から見れば自殺行為を繰り返すやべー奴と化している。途中で空気を踏んで留まるから地面に激突、なんてことはないのだけれど。

 

 2時間が過ぎた、と自分で思い返しあっと声を上げポケットからスマホを取り出し手短に打ち込んだメールを送信する。あぶないあぶない、忘れるところだった。

 保須に放り出された後渡されたスマホに師匠からのメールが届き、何も起こらなくても1時間に1回必ず経過報告をするようにとの事だった。

 

「特に変化はありませんと送ったはいいがほんとに何もねぇな……いや何もない方が平和でいいんだけど。しかし参ったな、いつまでこうしてりゃいいんだ」

 

 街でヴィランを倒してこいってのが今やっている修行な訳だ。さすがに朝までずっとこんなことさせるほど師匠も鬼ではない…………とは言い切れない。

 だって師匠だもん。普通の師匠ならともかく、うちのはバカ師匠だもん。ヴィラン倒すまで帰れま10とか普通に有り得るぞ。ヤバい、これは本当にヤバい。もうその辺にへなちょこなチンピラがピラピラ出てきてくんねえかなぁ。

 そんなふざけたことを考えていた矢先のこと、

 

 

 

 

 

「……ぁ、居たあぁぁぁああ!」

 

 ハッと目を見開かせ今日何度目か分からないビルからの飛び降りをキメた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 駅周辺の明るく賑わった場所からは離れ人気のない薄暗い路地。そんないかにもな場所で数人の男が1人の少女を取り囲んでいた。

 

「ねぇねぇお嬢ちゃん一人?こんなとこで何してんの?」

「キミ可愛いねぇ!制服着てるけどJK?」

「ちょっとオラ達と遊ばない?金なら出すからさ?」

 

「今日はツイてないです、うっかりこんなオジサン達と会っちゃうなんて。全然好みじゃないです邪魔です。どいてください」

 

「そんなオジサンって、オレらまだハタチそこそこよ?」

「そうだよ全然若いって!てかどうしたの?急に手を後ろに隠したけど……」

「オラ達優しくするからさ、ね?すこォし楽しいことしよ?」

 

「しつこいです。さ──」

「こんばんは。今日も月が綺麗ですね」

 

 そんな会話がされるなか、話を遮るように声を上げ路地裏に降り立った俺はシルクハットのつばに触れながらゆっくりと歩きだした。

 胸ポケットから長方形の箱を取り出して中から白い細長い物を取り出すとそれを口に咥えそこそこの距離のところでピタリと足を止める。

 そんな俺の方へ向き直り、男達は見るからに不機嫌そうな顔をして舌打ちをした。

 

「あぁ?月がなんだって?んなモンいちいち見てねえよ」

 

「あらら、そいつは残念。ちなみに今日は曇ってて月は見えないぜ♪」

「舐めてんのかテメェ」

 

 ケロッとした顔でそう言うと吐き捨てるように低い声でチンピラが言い返してきた。お〜コワイコワイ。

 

「てかオメェ誰?あの子を助けようとでもしてんの?もしかしてヒーローかァ?この辺じゃ見たことねぇツラしてっけど」

 

 すると今度は他の男が本人はドスを効かせたつもりなのであろう声で小馬鹿にしたように声を上げた。正直全く怖くない。中途半端に高い声してるからな、イマイチ迫力に欠ける。

 

「いいや?ただの高校生だけど。まぁ救ける、かもしれないね」

 

「高校生がなに調子乗って大人にケンカふっかけてんだよオイ。てかいいのかよ高校生がタバコなんて吸っちゃってさァ!学校に通報しちゃおっかな〜!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これ駄菓子だけど」

「舐めてんのかテメェ」

 

 真面目な顔をして答えてみると本日2度目の舐めてんのかテメェを頂戴いたした。

 

 

 昔からあるタバコみたいな形をした駄菓子、さっきたまたま駄菓子屋を通りかかって入ってみるとそれがあり懐かしくなってつい買ってしまった。小学生の頃デックンと駄菓子屋行った時は必ずそれ買ってタバコを吸う真似をしてたんだよなぁ。懐かしい。

 

 そんな物思いにふけってガリッと駄菓子を噛み砕いていると心底機嫌が悪そうなチンピラ達がジリジリと距離を詰めにこちらに迫ってくる。

 

「高校生のガキが大人舐めるとどうなるかちょっと教えてやるよ」

「オラ達優しくないから覚悟しとけよ?」

 

「オラ達優しくするって言ってなかった?」

「それはオメェにじゃねえよバカ!」

 

 コスチュームの胸ぐらを掴んでそう脅しをかけられた。チンピラ達は見た目にお似合いな下品な笑みを浮かべて俺を取り囲む。

 背後に回ったチンピラ2人は手に持った鉄パイプを威嚇するように手で叩いて見せつけている。ちなみにその鉄パイプはいったいどこから現れたんだ。

 

「そっか、戦る気なのね……師匠もその辺のチンピラでいいって言ってたしちょうどいいか」

 

「なに、オメェこそ俺らと戦る気?ごめんなさいして今すぐしっぽ巻いて逃げれば許してあげないこともないけど?」

 

「は、逃げる?冗談じゃない……」

 

 そんなチンピラの言葉にピクリと肩を動かし胸ぐらを掴む手の手首を掴み男の方へとゆっくり押し戻す。

 逃げるだなんて本当に冗談じゃないよ。そんなことするわけがないだろう、だって──

 

 

 

 

「せっかく帰れるチャンスが来たんだ、みすみす逃すワケねぇだろ……!!」

 

「ん?何言って、ごばぁあ!」

 

 唇を震わせながら言い放ち、掴んでいた手首を捻りながら男を蹴り飛ばした。

 

「はっ、バカなガキだ。自分からボコられにくるとか!」

 

 後ろで構えていた男が俺の蹴りを合図に鉄パイプを振り上げながら走り出す。それを横目で見ながら軽くジャンプをした後、『弾板(バウンド)』で一気に男の後ろへ移動しさらに建物の壁を蹴り背中目掛けて距離を詰める。

 

「正当防衛ってことで許してちょ!ティーズ!」

「ごはぁあっ……!?」

 

 壁を蹴った直後、すぐさまテイーズを展開させ撃ち放つ。吹っ飛んだ男は捨てられたゴミ袋の山に頭から飛び込んでぐったりとしている。一応クッションになりそうな所に飛ばしてやった、計画通りってやつだ。

 

 たまたまクッションになりそうなとこに飛んでくれてよかったぁ……。

 

 とは言っても相手は3人。そのうちの1人を仕留めただけだ、まだ2人残っている。

 

「うおおおよくもテッチャンをぉおぷぎゃあ!?」

「遅せぇ、バレバレだ」

 

 もう一人の鉄パイプを持っていた男を振り向きもせず裏拳を顔面に叩き込む。そんなドタドタとやかましい足音立てられちゃ丸分かりだ。

 というかお前らあだ名で呼び合う仲かよちょっとカワイイな。

 

 そんなことを思いつつ何となく手を見てみると裏拳を叩き込んた手の甲が紅く濡れていることに気づく。目線を下に送ると男は鼻血を流して倒れ伏していた。なるほどコイツの血がついちゃってたのか、とりあえずハンカチで拭いとこ。あ〜あコレ最近買ったばっかのやつだったんだけどなぁ。

ハハッ

 

 

 

 

 

 

 

「ハイ、これでもうダンナだけだぜ〜どうする?」

 

 そんな軽口を叩きながら最初に蹴り飛ばしたチンピラに声をかけてやる。

 

「て、テメェほんとにただの高校生かよ……!」

 

「ん〜まぁ高校生っつってもヒーロー科の、だけどな?」

 

「そういうことかよ、どうりで!クソっ!……こうなりゃ仕方ねェ」

 

 チンピラは少し驚いたように目を見開いたかと思うと、その目を細め何やら覚悟を決めたような顔になった。

 

 こういう時って最後に残ったやつが変身とかしてバケモノになって一気にピンチに!なんてこと漫画とかだとよくあるよなー。お約束ってやつ?

 

 

 

 

 

「逃げるが勝ちってなァ!俺はしっかりと引き際は弁えている男!」

「いや逃げるんかーい」

 

 奥の手的なもので攻撃してくるのかと思いきや両手首から糸のような物が飛び出し倒れた2人を巻きとると、そのまま更に糸を出し路地の奥へとあっという間に消えてしまった。

 糸出して街を飛んでくとかどこのスパイダーマッだよ。

 

 ふざけたやつらだがあの動きからしてこの辺の土地勘は俺よりあるだろうし今から追っても追いつけそうになさそうだ。

 そうなればだ、他に俺というかヒーローならやるべきことは。

 

「あ〜キミ大丈夫だった?ケガとかしてない?」

 

 絡まれていた少女のことだ。多分何もされる前だったろうけどだからといって何もせずここから立ち去るのはよろしくない。せめて人通りの多い場所まででも送っていったほうがいいだろう。

 制服を着ているし身長的に高校生だろうか、てことはだいたい俺と同い年くらいか。

 そう声をかけて近づこうとした時だった。

 

 

 

 

 

「血……好きなんですか?」

 

 彼女の放ったその一言で歩み出そうとしていた俺の足はぴたりと止まっていた。

 

「え、ち……ちって血液とかの血のこと?」

 

「それ以外に何があるんですか?ふふっ、面白い人です」

 

 両手を口の前に持っていき、制服の袖で口元を隠して笑う彼女に俺は困惑の色を隠せないまま口を開く。

 

「いや別に好きじゃないっスよ、なん──」

「ウソです」

 

 静かな声で彼女俺の言葉を遮り、そう切り捨てた。

 

「私見えちゃいました。オジサンを殴った時、オジサンの血が自分の手についているのを見た時、キミはとっても嬉しそうな顔をしてました……!」

 

「っ!?!?そんなことっ!」

「ホントですよ?あの時のキミはとても喜びに満ちた顔をしてたんです。隠さなくていいんです、誰にも理解してもらえなくてそんなフリをしているんですよね。でもいいんです。今は取り繕う必要はないんです。だって、」

 

 歩みを止めた俺に代わり彼女が悟っているかのような口ぶりを続けて一歩二歩と進み目の前で足を止めるも、その手で俺の頬を撫で言った。

 

「私も血、大好きですから」

 

 

 彼女の放った言葉とその屈託のない笑顔に背筋がゾクリと震えるのを感じすぐに後ろへ飛び退く。

 俺はどうやら勘違いをしていたらしい。この路地にいた人間で最も危険だったのはあんなチンピラ達ではなかった、本当に取り押さえるべきだったのは──!

 

「……っ、消えた!?どこ行きやがった!」

 

 ほんの一瞬、後ろへ退いた時わずかに視界の中心からそれただけ。瞬きをした程度のごく短い時間で目の前にいたはずの彼女は姿を消していた。

 

「私をオジサン達から助けようとしてくれたキミ、血を見て悦んでいたキミはカッコよかったです。でも私思うんです、血が出ているキミのほうがもっともっとカッコいいって!だから…………刺すね」

 

 

 刺す。その一言が俺の耳に届いた瞬間、予想だにしていなかった方向から彼女は飛び出し俺の身体を片方の腕に体重を乗せてビルの外壁へと押し付け、もう片方の手に握られたナイフを躊躇いなく俺へと突き刺した。

 

 

 

 

「おかしいです。確かに刺したはずなのに血が出てない、刺した感触もない……」

 

「ッ!はぁぁああ……」

 

 引き抜いたナイフを見回しながら低い声でつぶやく彼女に俺は小さく安堵の息を漏らす。

 危なかった。身体を壁へと押し付けられはしたがナイフが突き刺さる前に透過を発動させすり抜けることができた。個性による攻撃じゃなくてよかった、死ぬかと思った……。

 

「残念、俺の運がよかったみた、い……ってちょちょちょ刺すな刺すな!無駄だから!俺にナイフ効かねえから!!」

 

 俺が話し始めたのをガン無視して再び容赦なくナイフをドスドスと突き刺しまくる彼女に慌ててツッコミをいれる。どうやら諦めてくれたらしい、俺の声にきょとんとした顔で首を傾げてナイフをしまってくれた。

 

「個性で防がれたみたいですね。残念です、相性サイアクです」

 

「わかってくれたようでなによりだ。というかキミこれ普通にアウトよ?一緒に警察来てもらえる?」

「え、イヤですけど」

「でしょうね……」

 

 分かってはいたがあまりの即答ぶりにちょっと笑えてくる。マジで何者だよこのコ……。

 

「警察なんてイヤです、行ったらもう好きなことできなくなっちゃいます」

 

「そりゃそうよ。てかキミ常習犯だろ、身のこなしが素人じゃなかったんだが」

 

「はい!私血が好きなんです、血をチウチウ吸うのが大好きなんです!」

 

「ひぇぇぇぇソレ大丈夫なん?衛生面とか。てかそりゃマズイよ、悪いけど世の中に絶対認めてもらえない趣味よソレ」

 

 ちなみにいま普通に会話をしているが体勢は未だ俺が壁に押し付けられたままである。

 傍から見るとタキシード姿の男が自分より背の低い女子高生に取り押さえられているという珍妙な光景ができあがっている。なぜこのまま話し始めてしまったんだ俺は。

 女の子特有の甘い匂いがする、こんな状況じゃなきゃちょっとヤバかった。………ちょっとだけだからな。

 

 

「そうなんです!生きづらい世の中なんです!キミだってそう思っているでしょ?なのにキミはヒーローになろうとしている。

 ヒーローなんて規則に、世間に見られて縛られるばかりなのに。血が好きなキミを認めてもらえるはずがないのに。そんなの生きにくいです、可哀想です」

 

 俺への同情のような哀れみのような言葉をかけられる。血が好きだという彼女には世界はそんなふうに見えているのか。そもそも血が好きなわけではないから彼女の言い分は少しズレているとは思うがそれでも共感できた部分もあった。

 

「もっかい言うが俺は血は好きじゃない。でも生きにくい世の中ってのは分かるよ、生きにくい世の中だから俺はヒーローになろうとしてるんだ」

 

「……よくわかりません、どういうことですか」

 

「そりゃ見ず知らずの人には言えねぇな、ちょいとセンシティブなお話なんでな?」

 

 父親がヴィランだから。

 

 そんな理由で後ろ指さされるのは嫌だから。

 

 そんな生きにくい世の中にしたくなくて、父親じゃなく俺をちゃんと見て評価をしてほしいから。

 

 俺はヒーローになって父親がたくさん傷つけた『人間』をたくさん救けたいんだ。

 

 

「まぁとりあえず俺らは分かり合えない2人ですよってことさ」

 

「……それは残念です、お友達になれるかと思ったのに」

 

「こんな路地裏じゃなく学校とかで会えてたら仲良くなれてたかもな?とりあえず警察行こうぜ?」

 

「なんでそうなるんですか話飛びすぎです」

 

「最初に言ったろ、それが目的なんでね……!」

 

 そこでようやく彼女は俺から離れ距離を取る。手にはナイフ、殺る気満々って感じだ。

 俺も片手にティーズを装備し向かい合う。武器がナイフな限り俺が負傷する可能性はぐっと下がるしきっと大丈夫だ、あのコを取り押さえて師匠を呼ぶ。これで今日は終わりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きゃあああヴィランだあああ!!」

「ヒーローに連絡は!?」

「もうしてる!もう集まってるらしいわ!」

「みなさん落ちついて!落ちついて避難を!!」

 

 突如、静寂をかき消す声がが響き渡った。

 

「は、ヴィラン!?こんな時に……!」

 

「ヒーローが近くにたくさん……捕まるのはイヤなので帰ります」

 

「あっ、待て逃がすかよ!」

 

 

「そこに誰かいるのか!近くにヴィランが出た、危ないので避難を!」

 

 路地の入口から声がした。その声の主に気を逸らされた瞬間、彼女は早足で路地の奥へと消えていく。

 

「ふふふっバイバイ、ヒーロー志望のおにいさん。お話できて楽しかったです、今度また会えたらたくさん血を出させてあげます」

 

「あっ、おい!」

 

「早く!そんなとこにいたら危ないぞ!」

 

「くっそ、今日はツイてねぇな……」

 舌打ちをして路地の先から叫ぶ声に尾を引かれるように声の先へと走った。

 

 

 

 

 路地を出た先は地獄だった。

 

 車が衝突したことで大きな煙を上げ、燃え盛る街。

 悲鳴を上げ、パニックに陥り逃げ惑う人々。

 そんな人々の誘導に叫び続ける警察官。

 消火作業に奔走するヒーロー。

 

 そして燃え広がる炎と共に空から舞い降りた複数の異形の存在。

 

 剥き出しになった脳と獣のように近くのヒーロー達を次々に薙ぎ払って巨体。USJでの光景を思い出す、姿形に若干の差異はあるが間違いなくコイツらは……!

 

「嘘だろ、なんで脳無が……!」

 

 USJでヴィラン連合とかいうヤツらと現れた脳無が燃え盛る夜の街で耳をふさぎたくなるような咆哮をあげていた。

 

 

 

 

「何してんだい!ここは私らが食い止めるから警察の避難指示に従いな!」

 

 プロが束になってかかっても苦戦する相手に俺が介入できるはずもなく、ここから立ち去るよう促されそれに従おうと走り出す。

 

 

 

「天哉君!!どこだぁあ!クソっなぜこんな時に限ってどっか行っちゃうんだ!!」

 

「っ!あの人は確か飯田の訪問先のヒーロー……飯田がいなくなった?こんな時に!?」

 

 走り出した足を止め聞こえた叫びに耳を疑う。

 あのバカ真面目な飯田が勝手にどっか行くなんてありえない、すぐに辺りを見回すが飯田の姿は見当たらない。

 避難誘導から進路を変え、近くの建物に飛びつき『弾板(バウンド)』で屋上へ跳ぶ。

 

 更に高いビルの上へと移動し街を見下ろす。あんなに平穏だった街からは至る所で火の手が上がり、人々の悲鳴がこんなに高い場所でも聞こえていた。

 

 逃げろとは言われたが警察は市民の避難にヒーローも脳無の対処などで手一杯のはず、飯田を探す余裕があるかと言われれば微妙なとこだ。

 

 俺が探そう。どうにかしてこの街からあいつを見つけだしてやる。

 そう心に決めて捜索を開始しようとした時だった。後ろで足音がした。

 

 

 

 

 

「こんな時にこんなところで何をしてるんですか……!」

 

 明らかに緊張で強ばらせた声、確かにヴィランが現れパニックになっている街で一人こんな所から街を見下ろしているってのは怪しすぎる。それこそ事を起こしたヴィランなんかのやる事だ。漫画とかでもよくあるよな、悪役が高いとこから街見下ろしてニタァ……ってしてるやつ。

 やべぇ、今の俺完全にそういうことやってるみたいじゃん。

 

 弁明しよう、するなら早めにしといた方が絶対いい。包み隠さず正直に話そう。振り返りながら弁明を始める。

 

「あ〜いやいや、怪しいモンじゃないです。ヒーロー科の職場体験に来てる学生で…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

「「あ。」」

 

 

 

 2人揃って指を指しあんぐりと口を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もうノア君!紛らわしいことしないでよ!!」

「仕方ねぇだろ!あんなとこに俺以外のやつが来るなんて思わなんだ!!」

 

 現在お互いに声を荒げながらお互いに関節技をかけあっている。

 

 ヒーローか警察に変な勘違いされたと思って焦った男

VS

 事件を起こしたヴィランを見つけたと思って焦った男

VS

ダークライ

 

 による互いの不安の相手がまさかの幼馴染だったことによる安堵と緊張して損したみたいな感情のぶつけどころが見つからず、気づいたら2人とも掴みあっていた。

 

「痛ただただあああギブ!離してっノア君ギブ!!」

「んぎゃああああギブギブ、お前こそ離せってぇ!」

 

 互いに悶絶の声を上げたことでようやく冷静になり手を緩める。まったくこんなことしてる場合じゃないってのによぉ……。

 

「……はぁ、てかデックンお前なんで保須にいんだよ」

 

「……い、移動中の新幹線に脳無が突っ込んで来て、それで降りたら保須だった」

 

「たまたま乗ってた新幹線にってマジか。どんな引き運してんだよ」

 

「それを言うならノア君だって体験先の町で大事件ってどんな引き運してんのさ」

 

「……お互い様だな、ってかそれどころじゃねぇ!デックン力貸してくれ飯田が!」

「えっ、飯田君がどうしたの!?」

 

 目を見開いて声をうわずらせるデックンに下であったことを手短に伝えた。

 

 

 

 

 

 

「僕の考え過ぎかもしれない、確証も全くないけど可能性としてはあると思うんだ!」

 

「でも俺もそれはありえると思うぜ、あまりにタイミングが良すぎるしな……!」

 

 冷や汗を流しながら2人でビルの屋上を走る。

 

 

 

 

 ヒーロー殺しが現れたこの街で脳無が暴れている。

 このことからヴィラン連合とヒーロー殺しが繋がっているのではないか。

 つまり今日ここにヒーロー殺しもいるんじゃないのか。

 飯田が一人で消えたのはヒーロー殺しを見つけちまったからなんじゃないかってのがデックンの考えた可能性。こじつけのように思えるかもしれないが俺にも気になることがある。

 

 

 

『脳無の製作者には心当たりがある。俺が日本に戻ってきたのはそいつが本当に動き出したのか確めるためだ』

 

 ヴィラン連合の手駒なのであろう脳無、その製作者を追って日本に来た師匠。

 

 

 そんな師匠がなぜ保須にいるのだろう。

 そして今日、

『ヒーロー殺しに殺されねぇようせいぜい気をつけることだな』

 

 わざわざ名指しにして忠告のような言葉を伝えてきたのは偶然だろうか。

 師匠はヴィラン連合とヒーロー殺しが繋がっていると知っていたんじゃないか。

 

 ワン・フォー・オールのことも随分と詳しく知っているような口ぶりだった師匠だ、俺の想像を遥かに超える情報を持っていると考えてもおかしくない。

 

 全てたらればの話だがありえない話ではない、早く飯田を見つけなければ。

 

 

 

 そうやって走っていたなかでふと気づく。反射を使って加速しているはずなのにデックンがピッタリ横に付き並走していた。

 

「そういやお前、速くねぇか?俺個性使って走ってんだけど!」

 

「うん、負荷に耐えられる5%の力を全身に常に発動させるようにすることで身体能力を向上させる新技フルカウル!ノア君やかっちゃん、体験先のグラントリノの素早く小回りの効く動きを参考にさせてもらった。もう君の後ろを追うばかりの僕じゃないよ。君の隣を、先を走っていくよ!」

 

「なるほど急成長したな。へへっ、カッコいいこと言ってくれんじゃん。じゃ2人で飯田見つけんぞ!」

 

「うん!ヒーロー殺しは大抵人気の少ない場所で襲ってる、だから探すなら──」

 

「やっぱ薄暗い路地裏だよな!んじゃ分かれて探そう、俺は空からデックンは下からでいいか」

 

「わかった、じゃあ連携を取れるように通話を繋いだまま捜索しよう!」

 

 互いに頷きデックンはビルから飛び降り地面へ、俺は空中へと跳び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 人気の消えた冷たさを感じるような暗い路地裏。そんな場所で男が2人、身動き取れず倒れ伏していた。そしてそんな様子を1人の男が冷えきった眼差しで見下ろしていた。

 

「ハァ……じゃあな正しき社会への供物」

 

 刃こぼれした刀を構え倒れる男へ言い放つ。

 

「黙れ!何を言ったってお前は兄を傷つけた犯罪者だ!!」

 

 目に大粒の涙を貯め、恨めしそうに叫ぶ男の声が暗い路地裏に木霊する。

 

 

 

 

 

 

 

 

「見つけた!次の角を右!!」

 

「『SMASH』ッッ!!!」

 

 

 男の叫び声に呼応するかのように新たに2人の声が響き渡り刀を持った男が吹き飛ばされる。

 

「まったく、本当に今日はツイてないぜ」

 

「よかった、なんとか間に合った……!」

 

「な…んで……君たちが……」

 

 

 倒れ伏す少年が自分の目の前に現れた男達に驚愕の目を向ける。そんな彼を横目でチラリと見た2人はすぐに前へ向き直り、

 

「なんでってそりゃお前決まってんだろ?」

 

 

 

「救けにきたぜ飯田!!」

「救けにきたよ飯田君!」

 

 

 

 口元だけに無理やり笑みを作った迷いなく答えた。

 

「今日は…ハァ……邪魔者が多いな……!」

 

 そんな乱入者に吹き飛ばされた男は口元を拭い目をギラつかせ笑う。

 

 

 暗く冷めた空気が流れるその路地裏の温度は、3人の放つ気迫に熱され心做しか少し上がったような気がした。




読んでいただきありがとうございました!
続きは明日投稿します。

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次回もよろしくお願いしますm(_ _)m
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