『選択』 〜ヒーローになるための〜   作:りんごあめ

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お久しぶりです、5期も終わり6期の放送を待ち望んでいる日々を送っております。

第25話よろしくお願いします。


第25話 プロヒーローをたずねて・この夜を乗り越えて

 ヒーロー殺しが飯田に刃を突き立てようとしたその時、突如現れた轟によってそれは防がれた。一人で戦うにはさすがに手厳しいと思ってはいたが、これまた心強い援軍が来てくれた。

 

「というか轟お前なんでここに来れたんだよ」

 

「なんでってお前も一緒じゃないのか」

 

 身に覚えのないことを言われ首を傾げていると轟は手に持っていたスマホの画面をこちらに見せてくる。見たところこれは位置情報のようだな、でも一体誰がそんなもんを?

 

「緑谷こういうのはもっと詳しく書くべきだ。数秒意味を考えたよ、一括送信で位置情報だけ送ってきたからな。意味なくそういうことするやつじゃねぇからなお前は」

 

「マジかよお前いつの間にそんなことしてたんだ!?」

 

「アイツと戦う前こっそりね、悠長に文章なんか打ってる暇なかったからクラスのみんなに位置情報だけ送信したんだ」

 

 そう言われハッとする。確かにヒーロー殺しと戦う直前、スマホのバイブが鳴っていた。なるほどあの時A組全員に位置情報を送っていたワケか。轟はこうやって直接駆けつけてくれたが、他のみんなももしかしたら通報くらいはしてくれているかもしれない。

 

「ピンチだから応援呼べってことだろ?大丈夫だ、数分もすりゃプロも現着する」

 

 そう言いながら轟は氷の道を作り、デックン達を更に後方へと避難させる。応援を呼んで援軍に駆けつけさらに負傷者達の救出までするとはさすがは轟、対応に抜かりがねぇな。

 

「そんじゃ援軍に来てくれた轟クンに忠告な、アイツに血ぃ見せちゃダメだ。多分だが血を取り込むことで相手の自由を奪うっぽい、それで後ろの3人全員やられてる。少量でも口以外は完全に動き止められっから気ぃつけろよ」

 

「血を吸って動きを止める、それで刃物ってワケか……」

 

 ここまでの戦闘で推測したヒーロー殺しの個性を轟に伝えると、轟は冷静に頷いて腰を落とす。

 

「俺なら距離を保ったまま──」

 

 刹那、轟の頬を投擲されたナイフが僅かに斬りつける。あまりの速さに対応できなかった俺達は予想外の出来事にさらに後れを取る。その隙に飛び上がっていたヒーロー殺しは刃を向け接近する。

 

「いい友人を持ったじゃないか、インゲニウム!」

 

 そう言って刃物を振るわれた攻撃を寸でのところで轟の氷が防ぐ。しかし表情一つ変えず上を見上げるヒーロー殺しに釣られ視線を追うとそこにはくるくる回り俺達目掛けて落下してくる刀があった。ナイフに注意を向けた隙に投げてやがったのか。

 

「させねぇよ!ティーズ!!」

 

「っぶねえ!!」

 

 すぐさま掌を上に向けティーズで撃ち落としたが隣にいた轟が切羽詰まった声を張っていた。横を見ると轟の頬から流れる血を舐めようとヒーロー殺しが胸ぐらを掴み舌を伸ばしていた。出血していたのが左側だったため咄嗟に出した炎によって間一髪ってところで距離を取らせた。

 

「くっそやられたな、狙いは放り投げた刀じゃなく血だったワケか……まんまと騙されたぜ」

 

「あぁ、かなり頭も回るようだな。こいつ相当手強いぞ……!」

 

 ほんと轟の言う通りだ。動きを止める個性も厄介だがああいう視線の誘導とかできちまう辺りかなりの切れ者だ。戦闘経験の差ってのも大きいだろう。そういう時点で俺らは明らかにアイツに後れを取ってしまっている。

 

「まぁでもそういうのは人数差でなんとか押し切ってみようぜ。俺が前で攻めるからお前は後方支援メインで頼む」

 

「わかった、まだプロが来るまで時間はかかりそうだしな……危ない橋だが守るぞ、2人で」

 

 互いの役割を決め軽く息を吸って吐き出し俺は真正面から狙う。途中、地面を蹴る足を反射で加速し距離を詰める。すぐさま拳を振るうがそれは躱され、次々と拳を撃つがヒーロー殺しはそれをひらりと避けていく。拳による攻撃を続けたところで蹴りを放つとそれをヒーロー殺しは避けるのではなく受け流そうと脚に触れ、横に払おうとする。がそれを俺は見逃さない、待ってましたと言わんばかりに口角を上げ反射を発動させそのまま脚を振り抜く。

 

 ヒーロー殺しの手が触れている部分に反射を使ったため巻き込まれるようにヒーロー殺しは脚を振った方へと投げ出される。鈍い音をさせて背中を打ちつけたがそんなことはお構い無しにナイフを俺に目掛けて投げてくる、がそれを狙いすました轟が氷壁を生み出し防いでくれる。

 

 そのままそこで拘束しようと更に氷を造り追撃を仕掛ける轟。しかしそれはできた氷壁を足場にして跳びながら刀で切り刻むヒーロー殺しに打ち消された。あまりの速さに俺も轟も息を呑む。

 

「己より速い相手に自ら視界を遮る…ハァ……愚策だ」

 

「そりゃどうかな……ぐっ!?」

 

 迎撃しようと左腕に炎を纏った瞬間、投擲された2本のナイフが突き刺さり纏った炎は消えてしまう。すぐに轟を心配してやりたいところだがそうもいかない、ヒーロー殺しからしてみれば好機であろう。轟の注意が逸れたのを見計らい刀を真っ直ぐ縦に構え倒れるヒーローを突き刺そうという体勢に入る。

 

 

 

 

「ザンネ〜ン、本命は俺でした♪」

 

 氷壁があったであろう辺りの壁際から反射で一気にここまで後退し、ティーズを発射する。これは予想外だったのかヒーロー殺しは驚いたように目を見開き、ティーズから放たれた衝撃波が直撃し後ろへと吹き飛ばされる。

 

 それでも倒れることはなく、空中でくるりと回転し綺麗に足から地面に着地しハァと息を吐かれた。あの状態から空中で体勢建て直して一回転できるとかどうなってんだよ、身体能力高すぎないか?

 

「視界を遮る壁を作ったのはそいつへの注意を逸らせるためか。いいな……!」

 

 そう言ってまた気味悪く笑ったヒーロー殺しが今度は俺を狙い接近し刀を振る。躊躇なく仕掛けられてくる攻撃は速く、少しでも気を抜いたりでもしたら確実に俺の体を切り裂きいてしまうだろう。

 

 右に左にとギリギリで躱していたところで空いたもう一方の手でナイフを投げてくる。近くの壁を蹴り空中へと逃げたところで俺の視界が遮られる、ヒーロー殺しが跳び上がり俺の目の前で刀を振り上げていた。

 俺が空中へ跳んだ直後にはこいつも跳んでやがった、反応速度が尋常じゃない、避けらんねぇ……!

 

 

 

「おりゃあああ!!」

 

 しかしその刃が俺に届くことはなく、突然飛び出してきたやつが雄叫びを上げ、ヒーロー殺しを掴み地面へと投げ飛ばしていた。

 

「ひゃ〜危ねぇとこだった!助かったわ、すげえいいタイミングで来てくれるじゃねぇの」

 

「もう大丈夫なのか、緑谷」

 

「なんか普通に動けるようになった!これで僕も少しは役に立てたかな……!」

 

「何言ってんだ、最初っから役に立ってるっての。今度は一緒にいこーぜデックン!」

 

 背中をバシバシ叩きながらデックンに笑みを見せた。

 

「やっぱり動きを止める時間制限があるみてぇだな」

 

「そうだろうがデックンは一番後にやられた。2人はまだ動けないみたいだし他に何か条件がありそうだ」

 

 警戒はそのままに、轟の言葉を皮切りに一旦敵の個性を推測することにした。

 

「血を取り入れ自由を奪う、僕だけ先に解けたってことは考えられのは多分3パターン。

 人数が多くなると効果が薄くなる、血の摂取量で効果時間が変化する、血液型によって差異が生じる、このどれかだと思う」

 

 人数に関しては他のケースを知らないし調べようがないな。

 血の摂取量は見たところたしかに他の2人と比べデックンは出血が少ないしありえなくはない。

 血液型は……なるほど今確かめられるしありえそうだ。

 

「はいそれじゃみなさ〜ん血液型教えて〜!」

 

「お前情緒どうなってんだ」

「ハイそこの轟クン、失礼なこと言わないの」

 

 突然俺が陽気な声で手を叩いたことで驚いて目を丸くしているが、倒れている2人は口を開く。

 

「血液型……俺はBだったと思う」

 

「僕はA……」

 

「なるほどね、デックンはたしかO型だしこれ血液型が関係してるかもな。AやBよりOの方が拘束時間が短いとか?」

 

 俺がそう言ってわざとらしくヒーロー殺しの方を見ると、

 

「血液型…ハァ……正解だ……!!」

 

 個性を見破られたのにも関わらず、ヒーロー殺しは何故か嬉しそうに顔を歪ませていた。……どういうメンタルしてんだコイツ。

 

「個性がわかったところで……あ、ノア君の血液型ってたしか……」

 

 ぽつりとつぶやいたデックンにあ、と口を開けて冷や汗を流す。

 

「俺、血液型Bだわ……やばっ、俺くらったらアウトじゃん!?みんな全力で俺を守って!」

 

「そうか、三神はじゃあ絶対攻撃くらうんじゃねぇぞ。すぐに2人担いで撤退してぇとこだがあの反応速度だ、1人でアイツを完全に足止めするのは多分無理だ。プロが来るまで粘るのがやっぱり最善か」

 

「え、そんなあっさり流しちゃうの……?」

 

 俺の慌て顔をさらりと受け流しここからの方針を決める。といってもやることは同じでプロが来るまで2人を死なせないように持ち堪えるってワケなんだが。

 

「轟君は血を流しすぎてるし後方支援をお願い、僕とノア君でやつの気を引きつける!」

 

「そーだな。1人増えたとて相変わらず危ねぇ橋だが……守んぞ、3人で!」

 

「3対1か、手厳しいな……!」

 

 俺がそう締めヒーロー殺しに意識を集中させるとやつも目を細め腰を落とす。互いに臨戦態勢に入る。手強い相手だが不思議と恐怖なんてものは先程から全くない。

 隣には一緒に戦ってくれる心強い仲間がいるんだ、しかも2人。

 こいつらがいる限り俺が挫け、止まることは絶対にない。

 

 

 デックンと2人左右から挟み込むように分かれ殴り込む。若干の時間差を作り2人の攻撃どちらかでも当たればと画策したが、ヒーロー殺しはひらひらと舞う紙のように躱してしまう。

 

 跳んで空中へ逃げたヤツを追いデックンも個性を発動させ跳躍するが今、このタイミングで来ると分かっていたかのようにデックンが近づいた時には既に刀は振り笑うヒーロー殺し。

 すかさず俺も地面を蹴り空気を蹴り、その刃が届くかというところで反射を発動させた掌でデックンを思い切り叩き落とす。

 刀が空を切ったところで俺の行動に予想外だったのか目を見開くヒーロー殺しを見ながら俺はそのままの体勢で『弾板(バウンド)』を使い真後ろに退く。

 

「残念ながら本命は俺じゃないぜ」

 

「……っ!ンがっ!?!?」

 

 俺が空中で肩をすくめた直後、地上から勢いよく跳び出してきたデックンのアッパーがヒーロー殺しに直撃しそのからだが上へ飛んだ。そこへ畳み掛けるように轟が氷壁を繰り出し、その隙に俺達は1度後退する。

 

「助かったよノア君、ハエみたいに叩き落とされるとは思わなかったし一瞬意図に気づけなかったけど……」

 

「それでもちゃ〜んと決めてくれたじゃん。いいコンビネーションだったぜデックン♪」

 

 わずかに顔をほころばせ互いの拳をコツンとぶつけ再び戦闘に向かう。

 

 俺達と同じように壁を蹴り素早い動きを見せるヒーロー殺しがデックンを狙い空中で俺に背中を向けたところで好機と俺も空中へ跳び拳を振り上げ接近する。

 

「お前の戦い方を見て分かったぞ。お前、触れた物を弾く個性だろ?なら触れられ発動する前に切り裂けばいいだけのこと……!」

 

「ノア君!!」 「三神ッ!!」

 

 そう言って空中でくるりとこちらを向き刀を振ったヒーロー殺しの声とデックンと轟の叫び声が耳に届く。

 こいつはやられたね、俺が突っ込んで来るのも予想済みだったとは。

 眼前に迫る刃を見ながら内心そう吐き捨てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一体いつから物を弾くだけの個性だと錯覚していた?」

 

 俺の体をすり抜けブンッと虚しく空を切る音を鳴らしたヒーロー殺しに、どっかの悪役が言っていた台詞をマネしながら、振りかぶった足を全力で振り下ろしたかかと落としがなかなかに鈍い音を立てて炸裂した。

 

 

 

『お前の個性反射だけでも十分立ち回れンだろ。騙せ、物体を弾くっつー個性で戦っていると錯覚させろ。相手が武器を使い戦うやつなら尚更だ。そしてここぞという時に透過で相手の虚を衝いて渾身の一撃をお見舞いしてやれ……!!』

 

 これも師匠から叩き込まれたことの一つ。

 確かに俺の戦闘法は移動も攻撃も、そのほとんどが反射を使ったものばかりだ。師匠の言う通りそれ一つでもほとんど立ち回れてしまう程に反射は汎用性が高い。

 だからこそそれを前面に押し出した俺がいきなり物をするりとすり抜けたりなんかしたら相手も流石に驚き隙を見せるだろう。そこまで見越した立ち回りをしろと師匠からは叩き込まれた。

 

「物を弾く個性って見立て悪くないね。でも残念、それだけなら50点ってとこだな」

 

「ハァ……そうか、まんまと騙されたわけか。そろそろ時間もなくなってきたが俺はここで引くわけにはいかない……!!」

 

 スっと立ち上がったヒーロー殺しがまるで自分に言い聞かせるようにそんなことを口走り再び距離を取り、壁を蹴り素早い身のこなしで俺達へ刃を向けてくる。そんなヤツの姿を見て目をぱちぱちさせ、スーッと息を吸いながらゆっくり首を傾げる。

 

 ちょっと待て、さっきの攻撃かなり鈍い音もしてたしどっかしら折れててもおかしくないんだが。なんでコイツ平然と動いてんの、バケモンかよ。

 

 あまりのタフネスさにドン引きしながらも再び身構えヒーロー殺しを迎え撃つ。

 

 その速度から来るなぎ払いや投げられるナイフをギリギリの所で回避したり間に合わないものは透過ですり抜けて無効化したり、時おり轟の放つ氷壁と炎に護ってもらいながら防戦一方となっている状況に冷や汗が頬を伝う。

 

 おかしい、身体へのダメージも増えているはずなのに。にも関わらずその動きは最初の頃より俊敏に、より鋭いものになっている。

 

 コイツの最も恐ろしい所は血を得た相手の動きを縛る個性なんかじゃない。その手間のかかる発動条件を容易に満たせる状態にできてしまう、その圧倒的な身体能力の高さだ……!!

 

 

 俺の透過は個性以外であればどんな物でもすり抜けられる。

 だかそれを行うにも透過したい物を必ず目で見て認識しそれを『選択』することでようやくすり抜けが可能になるという条件がある。

 この流れは1秒もあれば完遂できる程短く、発動の難易度も低い。

 

 しかし裏を返せばどうなるか。

 

 目で視認することができない程速く動かれ、視界に入らない場所からであればどうなるだろう。

 

 透過の発動条件が満たせない、となれば当然──

 

 

 

「があっ!ぐッ……!!」

 

 為す術なくそれは俺の身体に突き刺さる。

 

 ナイフが刺さった左腕からは血が流れ、走り抜ける熱さとこれまで感じたことのない鋭い痛みで顔を歪ませる。

 そんな左腕を右手で抑え、退れと促しながら氷を這わせる轟に従い一度後退する。

 

「おい腕大丈夫か!?」

 

「こんくらいヘーキだ、そこまで傷も深くないしすぐ止血すりゃ大丈夫だ!」

 

 早口にそう捲し立て刺さったナイフを透過させて何の痛みもなく地面に落とし、すぐにポケットからハンカチを取り出して傷口をぎゅっと縛る。応急処置としてはまぁこれで十分だろう、少しの間前線はデックンだけになるが俺もティーズで多少は後方支援はできる。

 

「もう、やめてくれ……君達が傷だらけになって戦ってくれても僕は何も返せない……もう、やめてくれ……!」

 

 俺達が傷ついていく姿を見てか、他にも理由があってか小さく震えた声でそう訴えてくる飯田。

 こいつ本気でこんなこと言ってんのか?だとしたら本当に頭にくる。

 眉をひそめ握った拳にぎゅっと力が込められる。

 

「やめるワケねぇだろ!ダチを見殺しになんかできるかよ、バカなこと言うんじゃねぇ」

 

「こうなったのは俺の自業自得だ!それで命を落とすのなら仕方ないだろう!関係ない友に傷だらけになりながら救われるわけにはいかない、そんな愚かな友を救けても君達には何の得もないじゃないか!!」

「得なんかいらねぇよ!ダチにいちいち見返りなんか求めやしねぇっての!つーかそもそも、そんな恩着せがましく見返り求めたらそれは正義とは言わねぇぞ」

 

 互いに声を荒げたところで俺の言葉を聞いた飯田がハッと目を見開き押し黙る。そんなソイツを横目に一呼吸置いて再び口を開く。

 

「困ってる人を救けるなんざヒーローじゃなくても大抵の人はやるだろ、ヒーローはその規模がちょっとデカいだけでさ。

 どんな理由であれダチを救けるっていうガキでもできる当たり前のことに背を向けるってんなら……俺はヒーロー以前に人としてダメになっちまう。

 お前がバカやらかしたなんて俺達みんな分かってんだ、分かったうえで戦ってんだよ。俺達に護らせてくれよ、飯田天哉っていうダチをさ……!」

 

「三神の言う通りだ。それが嫌なら……やめてほしけりゃ立て!」

 

 ここまでデックンの援護に黙って徹していた轟が言葉をかけた。

 そうして僅かな沈黙の後、

 

 

「なりてぇもんちゃんと見ろ!!」

 

 

 左側の炎を強く激しく燃え上がらせそう叫んだ。

 

 

「なりたいものちゃんと見ろ、か……ははっ!どっかで聞いた言葉だな?」

 

「そうだな。悩んでふらふら迷ってた俺の背中を押してくれたどっかの誰かさんの受け売りだ……!」

 

 

 そんな軽口を叩きながら口元を緩ませ歩き出す。

 

 

「そうだ飯田、見返りがどうこう言ってたよな?そんなに見返りをやりたいってんなら1つ要求させてもらおうか。

 

 ……生きてくれ。こんな嫌な夜とっとと乗り越えて一緒に朝を迎えよう、そんでまたいつもみたいに色んな話して笑い合おうぜ。

 じゃっ、止血も済んだことだし俺はまた前に出るぞ……先に行って待ってる」

 

 振り返らず、返事も聞くこともなくそう言い残し再びヒーロー殺しへ飛びかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クッソ、ほんとバケモンかよお前ッ……!」

「っんで避けられんだよこれを!!」

 

 俺の放つ蹴りや拳を、その前後の隙を補うように素早く的確に放つ轟の氷と炎を全て驚異的な身のこなしで躱し尽くすヒーロー殺しに切羽詰まった声が漏れる。デックンは再び血を舐められ動きを止められ、俺と轟は疲労やナイフを刺されたダメージで徐々に動きが緩慢になっているというのにコイツは動きが落ちる素振りも見せない。それどころかむしろ動きがキレキレになっているような気さえする。

 

「ぁ、轟君!!!」

「ッ、やべっ!」

 

 疲労や腕の痛みから僅かに動くのが遅れたその隙に、ヒーロー殺しは轟の眼前まで迫りその刃を振るおうとしていた。

 間に合わない、誰もがそう思ったその時。

 

 

 

「『レシプロ……バースト』ッッ!!」

 

「へっ、待ってたぜ?思ってたより早かったな」

 

 

「いや遅すぎるくらいだ、遅れてすまない……!」

 

 刀をへし折り、高速の蹴りを叩き込んだ飯田が噛みしめるように静かにそう顔を上げた。

 

「3人とも関係ないことで申し訳ないっ……!」

 

 立ち上がった飯田がまた顔を伏せそんなことを言う。

 

「まだんなことを、だから気にすんなって言っ──」

「だからっ!君達にこれ以上血を流させるわけにはいかない!!」

 

 ため息混じりに言った俺の言葉を遮り自分に言い聞かせるように飯田はヒーロー殺しをじっと見る。

 

「感化され取り繕おうと無駄だ、人間の本質はそう変わることはない……お前は私欲を優先させる偽物に過ぎない!

 ヒーローを歪ませる社会のガンだ、誰かが正さねばならないんだ!!」

 

 その言葉を嘘だと言うように目を血走らせ否定するヒーロー殺しを俺は鼻で笑う。

 

「ならアンタも自分の理想の社会の実現っつう私欲を優先させ人を不幸にする世の中のガンだと思うけどねぇ?」

 

「耳貸すなよ飯田、あんなん時代錯誤の原理主義だ」

 

「いいやヤツの言う通りだ、僕にヒーローを名乗る資格などない。

 それでも折れるわけにはいかない……俺が折れればインゲニウムは死んでしまう!」

 

「ハア……論外ッッ!!」

 

 血の滴る腕で強く拳を握りながら想いを述べる飯田を軽蔑するように吐き捨てたヒーロー殺しが飛びかかってくるが轟が炎でそれを防ぐ。

 俺もティーズで加勢しながら改めてヒーロー殺しを見る。

 

 こいつ最初に戦った頃と様相が変わっている気がする。なんとなく焦りの色が見える。近接必須で多対一が特に苦手であろう個性にも関わらずここまで引き下がろうとしないのはおそらく、増援が来る前に飯田のあのヒーローを殺そうとその決意を譲らないからだろう。とんでもない執着をもってやがる、さすがに引くわ。

 

「轟君頼みがある、俺の脚を凍らせてくれ!排気塔は塞がずに!」

 

「なんか考えがあんのか、なら任せとけ!俺が時間稼いでやる」

 

 何か思いついたように頼む飯田を見てすぐに俺はヒーロー殺しめがけて跳ぶ。腕は止血したとはいえ痛むがこのくらいどうってことはない。

 

「邪魔だ!!」

「あっクソっ、お前の相手は俺だっての!!」

 

 跳び出す俺を避けるように轟を狙い放たれたナイフは、それを庇い飛び出した飯田の腕へと突き刺さる。

 更にもう一本投げようとする腕を俺が掴み叩きつけるように投げ飛ばすがくるりと空中で体勢を整えられ華麗に着地される。

 

「ハアッッ!!」

「させるかあぁああ!!」

 

 2人を斬りつけようと疾走するヒーロー殺しを今度は動けるようになったデックンが弾丸のように飛び出し腕を押さえつけ、そのままガクンと体勢を崩させる。更にそれを好機と踏み、俺がヒーロー殺しの懐へ潜り力の限り真上へと蹴り上げる。

 見たところ飯田も準備が終わったようだし、ここはお膳立てして決めさてやることにしよう。

 

 

 

「最後は任せた……ぶち込んでこいッ!!」

 

 

 

 

「ぐっ!脚なんか気にするな……今は拳が──!」

「ッッ!腕の痛みなど捨て置けッ!今は脚が──!」

 

 

 

 

脚を傷つけられ全てをその拳に注いだ男の一撃が。

腕を傷つけられ全てをその脚に注いだ男の一撃が。

 

 

 

 

 

「「あればいいッッッ!!!!」」

 

 

 宙を舞う男の頬と脇腹に寸分の狂いもなく完璧に捉え叩き込まれた。

 

 

 

 

 

「よしっ、やったか!?」

「あっ、バッ!それは今一番言っちゃいけないやつだろ!?」

 

 素でそんなことを言う轟にデコピンをくらわせながら再び視線を空中へ戻す。

 

 

「………むっ!りゃあああああ!!」

 

 気絶したかと思えていたヒーロー殺しは目をかっぴらき手放しかけていた刀を握り無造作に一振した。やっぱりダメだったじゃないか!

 

「「っ!畳かけろ!!!」」

 

「お前を倒そう、今度は犯罪者として……ヒーローとして!!」

 

 俺と轟の一声のもと、飯田が更に蹴りをお見舞いし打ち上げ、そこへ追い討ちをかけるように轟の放った燃え盛る炎がヒーロー殺しの身体を包んだ。

 

 この攻撃で流石のヒーロー殺しも体力の限界が来たのか意識を失い──

 

 

 

 

「がぁッ、まだ……だ。ま…だ………ッ!」

「あぁまだだよッッ!」

 

 指をピクピク震わせ口を開くのに誰よりも早く気づいた俺は即座に跳び出し『弾板(バウンド)』でヒーロー殺しの上へと回り込む。

 そしてヤツがこちらに気づき上を見た頃にはティーズを身体に押し当てにやりと笑う。

 

 飯田達に花持たせようと思ったがやっぱやめた、最後はカッコつけさせてもらうぜ。

 

「師匠が言ってたぜ、戦いにおける勝者ってのはな……最後に立って笑ってるやつのことだってなァ!!」

 

「………かァっ!!」

 

 両手に装備されたティーズに限界ギリギリまで力を込め渾身の衝撃波がヒーロー殺しの身体を突き抜ける。

 撃ち落とされたヤツの身体は轟の張った氷柱を軽々粉砕し、地面へと叩きつけられた。

 着地してうつ伏せになり今度こそ意識を失ったヒーロー殺しを見下ろしニッと歯を見せ勝ち誇るように拳を握る。

 

 

 

「この勝負俺の……俺達の勝ちだ!!」

 

 

 

 こうしてひっそりと始まった路地裏の戦いは、最初の静けさはどこへやら、大立ち回りの大騒ぎで終わりを迎えた。




読んでいただきありがとうございました!

書きたいとは思っているんですがなかなか時間が取れなくてほぼ毎回1ヶ月くらい空いちゃって…テンポ悪くてすみません(^^;
できる限り早く更新できるように頑張りますので(*==).
職場体験編は残り1話か2話で終わります。

お気に入りや感想、評価などもよろしければお手柔らかにお願いします(^^;

次回もよろしくお願いしますm(_ _)m
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