第9話よろしくお願いします。
「よ、よろ…!よよ、よろしくお願い、します……」
皆の前に立つデックンが膝と口をガクガク言わせながら頭を下げる。それと対照に落ち着き払い凛とした佇まいで「悔しい。」と目を伏せる八百万。なぜこんなことになっているのかというと、
「じゃあ委員長は緑谷、副委員長は八百万だな」
デックンが学級委員長になったのだ。
相澤先生から突然委員長を決めてもらうと言われクラスのやつらのほぼ全員が自分がやると手を挙げ大騒ぎする中、飯田が「民主主義に則り真のリーダーを決めるというのならこれは投票で決めるべき議案!」
と腕をそびえ立たせながら提案し投票を行うことになった。
その結果、デックンが4票も獲得するというまさかの結果になった。
「なんでデクに!?誰がァ!!」
「ま、落ち着けよ爆豪クン?そりゃオメェにいれるよりか妥当だろ?」
「んだとコラァ!?オマエか、オマエがいれたんだろ!!」
驚愕して立ち上がる爆豪に軽い口調でなだめるとキレられた。声がでけぇな。まったく、朝から元気なヤツだなほんと。
「さぁな。」と返して腕を枕に顔をうずめる。授業始まるまでちょっと寝よーっと。
さぁて、一体誰がデックンに票入れたんだろうなぁ〜?
午前の授業が終わり食堂で飯を食う。メンバーはデックンと麗日、そして飯田と俺。入学以来、この4人でいることがほとんどだ。
「はぁ〜…いざ委員長やるとなると務まるか不安だよ…」
「大丈夫さ、緑谷君のここぞというときの判断力は他を牽引するに値する。だから君に投票した」
「飯田君だったのか!?」
デックンの不安に飯田が励ましの言葉を送る。
それにしても飯田はすげぇな、まだ知り合ってから日が浅いってのにこんなふうに分析できちまうとは、それだけよく見てるってことか。
「へ〜、てことはデックンに投票したのはここにいる4人ってことかな。薄々わかってはいたけど」
「え、なんでわかったの!?」
「え、麗日さんもなの!?」
麗日がビクンと肩を震わし驚いた声を上げる。そしてそれにデックンがビクンと驚いた声を上げる……すごい、2人して全く同じ反応してるよおもしろ〜い。
「まぁなんとなく?お前らしかいないかなーって。というか飯田も委員長やりたかったんじゃねえの?腕そびえ立ってたぞ?」
「やりたいと相応しいかは別の話、僕は僕の正しいと思う判断をしたまでだ」
飯田はそう静かに答えた。なるほど、やっぱりこいつ真面目だな。まったく感心しちゃうわ〜………ん?
「「「ぼく?」」」
飯田の言葉に俺達3人が声をそろえて首を傾げた。
「飯田おまえいつもは俺って言ってんじゃん?なに、もうキャラ変?」
「あ…いや違う。そういうのじゃない、いまのは……!」
俺のツッコミにめずらしく慌てふためく飯田に麗日が更に追い打ち、というよりトドメをさした。
「飯田君ってちょっと思ってたけど……ぼっちゃん?」
「ぼっ!……そう言われるのか嫌で一人称を変えていたのだが…」
「「「ふ〜〜ん???」」」
俺達の興味津々な顔で根負けしてくれたらしく飯田は自分ん家の家族について話し始めた。
飯田の家は代々ヒーロー一家であいつはその次男らしい。
しかもそのヒーローというのが東京でサイドキックを65人も雇っているターボヒーロー・インゲニウムであると。
「なんか思ってた以上にすごくてびっくりしてるわ……おまえすげぇな」
「ほんっとすごいよ!まさかインゲニウムの弟だったなんて!」
「びっくりや……」
「規律を重んじ人を導く愛すべきヒーロー、俺はそんな兄に憧れヒーローを志したんだ!」
俺達が驚き感心した様子を見せるとあからさまに誇らしそうな顔で立ち上がり飯田は答える。そこにはいままで見せたことのなかった笑顔があった。
「なんか初めて笑ったかもね、飯田君!」
「ん、そうだったか?笑うぞ俺は」
「いいや?俺も初めて見た気するな〜。お前ほとんど真顔だったぞ」
などと談笑して平和な雰囲気が流れていた俺達の昼休みは突然終わりを迎えた。
ジリリリリリリリ!
「け、警報!?」
『セキュリティー3が突破されました。生徒の皆さんは速やかに屋外に避難してください。』
「うわぁなんかヤバそうだな、とりあえず俺達も避難するかぁ〜」
「だからなんでそんなひょうひょうとしてられるの!?君に緊張感ってものはないの!?」
デックンに手を引かれ食堂を飛び出した。
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響き渡る警報に辺りはパニックに陥り廊下に出たはいいものの、俺達は人ごみにもまれて避難どころじゃなかった。
肩とかガンガンぶつかるし、すしずめ状態だしめちゃくちゃ痛かった…。
一向に収まる気配がないかと思われたこの状況だったが、いきなり空中をぐるんぐるんとタイヤのように回り非常口の標識のように壁に張りついた飯田の呼びかけとすぐに駆けつけた警察により混乱は収まり事なきを得た。飯田の行動にはそこにいた誰もが釘付けになった。
俺には他をまとめる力なんてないとか言ってたりしてたが全然そんなことないじゃん、と俺もデックンも感心していた。
そうして午後の授業、デックンが先程の飯田の行動から委員長は飯田の方が適任だと提案し、飯田が委員長を務めることになった。
まぁ見た目や言動からして間違いなくあいつが一番委員長っぽいしな、それに本人もすごい乗り気だし。
いいぞガンバレ飯田くん。
相澤先生が今日の授業の説明を始める。掲げられたカードにRESCUEの文字がある。
「災害水難何でもござれ、レスキュー訓練だ」
「なるほどねぇこれまたヒーローっぽいのきたなデックン」
「うん!これこそヒーローの本文だよ、頑張らないと…!」
振り向いて後ろの席のデックンに話しかけると強い意気込みを感じる顔で頷かれる。今回は俺も活躍できるように頑張らないといけないな。
訓練場は離れた所にあるらしくバスで移動するってことで校舎の前に集まりバスを待つ。
「そういやデックンおまえコスチューム着なくていいの?」
「ほんとだぁ、デク君どうしたの?」
皆がコスチュームを着ている中、1人体操着に手袋などの簡単な装備だけを付けただけのデックンに問いかける。
「訓練でボロボロになっちゃって…サポート会社の修理待ちなんだ」
「そっか、確かにすごいことなってたもんな」
デックンといつも通り他愛もない話をしながらバスに乗り込んだ。
「くそう、こういうタイプだったか!!」
バスに乗り席に着くやいなや、飯田が悔しそうにうなだれた。
座席が2人ずつの前を向いたものだと思い、スムーズに乗れるよう番号順に座ろうとでっかい声で笛まで吹いて誘導していた飯田。
しかし実際席を見てると向かい合わせになった横向きの座席がほとんど、後ろの方にちょっと前向きの座席があるだけだった。
結果として飯田の頑張り虚しく、それぞれ自由に座ることになったのだ。
俺やデックンは前方の横向きの席に座り飯田を宥めていた。そんな時、隣に座っていた蛙吹がデックンに話しかけた。
「私思ったことなんでも言っちゃうの。緑谷ちゃん、あなたの個性オールマイトに似てる」
「「…!」」
その言葉にデックンだけじゃなく俺も思わずビクッとする。似てるどころか彼から貰ったおんなじ個性なんだよなぁ……。
「え!あ、そそそうかなぁ!いやでもぼくあの……」
「あ〜…確かに!でも蛙吹、似てるだけだよ同じ増強型なだけでさ?オールマイトはいちいち腕壊したりしねぇだろ?」
「梅雨ちゃんと呼んで。確かにそうね」
あたふたして口ごもるデックンに代わり俺が梅雨ちゃんに答えて助け舟を出す。
本人がそう言うんだしこれからは梅雨ちゃんと呼ぼう、うん。
ふう、とほっとして息をつきながら申し訳なさそうに目線を送るデックンに小さく笑みを返して正面に向き直る。
こういうのにいちいち反応してちゃ怪しまれるもんな、気ぃつけないと。やっぱりポーカーフェイスは上手くなっておかなきゃな。
「しっかし増強型のシンプルな個性はいいな!俺の『硬化』は対人戦じゃ強えがいかんせん地味なんだよな」
デックンの話から切島が腕を硬化させながら羨ましそうにする。デックンは「僕はかっこいいと思うよ、プロにも十分通用する個性だよ!」と目を輝かせる。
「プロねぇ、しかしヒーローも人気商売みたいなとこあるぜ?」
切島が眉を下げながらそう笑った。
「そうだな、俺もそんな派手には見えねえだろうしなぁ、人気出なさそう」
「いやいや三神は絶対目立つって、コスチュームが派手だしそれにイケメンだし!」
俺がぼやくと向かいに座っていた芦戸がブンブン首を横に振り笑った。「そう?」と目を丸くしているとまったくだぜと峰田が声を上げた。
「そんなシャレたコスチューム着て少女漫画にでも出てきそうな美形してよぉ…オマケに泣きぼくろまでつけやがってモテないわけねぇだろチクショオォ!!」
「…あ〜。ド、ドンマイ?」
峰田の叫びに車内が微妙な空気に包まれる。気を取り直すように咳払いをしながら切島が話を続けた。
「ま、まぁ派手で強えっつったらやっぱ轟と爆豪だな!」
急に自分に話が回ってきたことに爆豪はピクリとこちらに視線を移してケッとまた窓の外を向き直った。
轟は……寝てる。会話に混ざる気はサラサラないってことかな。
「爆豪ちゃんはキレてばっかりだから人気出なさそ」
「んだとコラ出すわ!!」
「ほらね?」
梅雨ちゃんがぼそっとつぶやいた一言に爆豪がキレて立ち上がった。
さらっとひどいこと言ったな〜、でも俺もホントにそう思う。
歯をギリギリ鳴らす爆豪にさらに上鳴もそれに続いて言葉をかける。
「この付き合いの浅さでぇ、既にクソを下水で煮込んだような性格と認識されてるってすげえよ」
なかなかにえげつない言い方に爆豪が怒鳴る。人の性格を表す時にはほぼ出てこないであろう言葉たちなんだけどでもなんでだろうなぁ〜それすごいわかる。
「ハハっ!なんかわかるわ。俺もコイツは自尊心が服着て歩いてるモノだと思ってるぜ?中学の時なんかなぁ……」
「テメエのボキャブラリーもどうなってんだ余計なこと言おうとしてんじゃねェ殺すぞコラァ!!」
怒鳴り散らす爆豪とそれを制しようとする飯田、それに乗っかってああだこうだと言う俺達でバスの中はお祭り騒ぎとなった。
ガキ大将だった爆豪がこんな風にいじられてんのって初めて見たな、中学まではアイツを茶化すのなんて俺くらいだったしなんかこういうのいいな〜雄英ってやっぱりすごい!
もうすぐ目的地に着くという相澤先生の一言でお祭り騒ぎだった雰囲気は静まり適度な緊張感に包まれる。
バスを降りるとそこにはドーム状の施設があった。そしてその入口で1人のヒーローに出迎えられる。
スペースヒーロー13号。
宇宙服のようなコスチュームを身にまとい、災害救助でめざましい活躍している紳士的なヒーロー。
麗日は13号のファンだったらしく、腕をぶんぶん回してはしゃいでいる。知名度も高く他のやつらからも歓声が上がっていた。
挨拶を済ませ13号に連れられ中に入る。そこは様々な環境が再現された巨大な空間だった。
「水難事故、土砂災害、火災暴風etc…、あらゆる事故や災害を想定し僕が作った演習場です。その名も……
なるほど、救助活動が主な13号らしい演習場だな。
というかUSJって名前使っちゃって大丈夫なのか…?
そうして授業に入る前、13号からめちゃくちゃ大事なことを言われた。
各々の個性が簡単に人を殺すことができるということ。
だからこそ、その個性を人命のためにどう活用できるかを考える授業にすること。
自分達の個性は人を傷つけるためではなく救けるためにあるのだということを心得ておくこと。
その通りだ。俺の父親だって自らの個性で多くの人を傷つけ、そして殺めたのだ。
俺はそうはならない。父親と同じ個性でも俺は人を救うためにこの力を使う、そう強く拳を握る。
「よし、そんじゃまずは……」
相澤先生が授業に入ろうと動きだしたその時、異変は起こった。
照明が全て消え、僅かに薄暗くなる。そして中央広場の噴水が不自然に揺れ黒く揺れうごめく空間が広がった。
「ひとかたまりになって動くな!13号生徒を守れ!」
相澤先生の強ばった声に困惑しながらも言うとおり固まって指示を待つ。
中央の噴水には突如出現した黒い空間からぞろぞろと人が出てきていた。現れた連中は皆ギラついた目や刃物や鉄パイプで武装していたりと物々しい雰囲気が遠目でも感じられた。
まさかとは思いつつちらっと相澤先生を覗き見、そして確信する。
「また入試の時みたいなもう始まってんぞパターンか?」
そんなのんきなことを言い、現れた連中の様子をうかがおうと前に出ようした隣にいる切島の前に手を出し止める。
「まった、切島動かねぇ方がいいぞ。あれはヴィランだ、それもマジの。そうですよね…先生?」
俺の言葉にクラスのやつらがどよめく。不安げに相澤先生の顔をうかがい答えを待つ。
「ああ、あれはヴィランだ。お前ら絶対にそこから動くなよ」
ゴーグルをつけながら静かに、それでいて力のこもった声に俺達はごくりと息を呑む。本当に非常事態であるということにクラスに緊張感が走る。
皮肉なことに命を救う訓練の時間が、命を奪われる時間に成り代わろうとしていた。
読んでいただきありがとうございました!
USJ編は3話に分けて書こうと思います。
次回もよろしくお願いしますm(_ _)m