今シーズン。横浜は最下位で終わってしまうが、茂治は代打成績15打数9安打3本塁打という見事な成績で、来シーズンへ向けて明るいスタートを切る。
「ほぉ……現役バリバリのメジャーリーガーを巨仁が獲ってきたってよ」
「え、この人こんなにすごいの?」
「去年メジャーで20勝もあげているピッチャーだからな。本当にすごいぞ」
メジャーという言葉を知らない吾郎は茂治に聞き、丁寧に教えてもらう。
それに対して、日本とアメリカだとどっちが強いのか質問するが、茂治はアメリカだろうと言う。
吾郎はそれにショックを受けつつも、茂治に期待を込めて話す。
「お、おとさん! 打ってよ!」
「ん?」
「来年、このピッチャーが日本に来たら……絶対にホームランを打ってよね!」
ホームランを頑張って打つよと言う茂治に、吾郎は絶対に打つと約束してとわがままを言う。
「ね! 大地もそうだよね!」
「……」
「ねぇ! 大地ってば! また勉強してるの!?」
「……ん? ああ、ごめん。英語の勉強をしてた」
大地は千秋が他界する前から英語の勉強をしたいといい、教材を色々と買ってもらっていた。
だが、実は前世で大地は4カ国語を話せていたので、この世界でも問題ないことを確かめていただけであった。
「大地は勉強もたくさんしているんだな」
「おとさん……まぁね。一応外国人選手とも話せるようになっておきたいからさ」
吾郎にも英語の勉強を勧めてみたのだが、全く興味を持ってくれなかったため諦めていた大地。
(多分吾郎は追い詰められないと嫌いなことはしないタイプの人間なんだな)
そう納得してからは1人で勉強をするようになっていた。
◇◇◇◇◇◇
「大地くーーん! 吾郎くーーん! あーーーそーーーぼーーー!」
寿也が大地達の家の前まで迎えに来てくれていた。
大地は先に寿也と外に出ていたが、トイレから出てきた吾郎が茂治に、
「あ、そだ。おとさん。今日は何月何日だっけ?」
「んーー? 11月6日だぞ? それがどうかしたのか?」
「んーん、なんでもない。行ってきます……」
吾郎は明らかに落ち込んだ顔で外に行く。
茂治はそんな吾郎をチラリと見て、すぐに家の電話でどこかにコールする。
「あ、すみません。本田ですが……昨日お願いした件ってどうなりましたか……?」
大地は明らかに落ち込んだ顔をした吾郎に声を掛ける。
「吾郎、どうしたの?」
「おとさん、俺達の誕生日……忘れてるよね?」
「あー、そういや昨日だったっけ?」
「え! 大地も忘れてたの!?」
「むしろ大地君と吾郎君、昨日誕生日だったの!? 昨日も遊んだんだから、教えてよ!!」
前世では自分の誕生日を気にする年齢でもなかったので、誕生日すらうろ覚え状態だった大地に吾郎は驚く。
それ以上に何も聞かされていない寿也も知らされていないことに少しショックを受けていた。
「まぁおとさんのことだから、忘れてるか何か用意してくれてるよ」
「忘れてたらだめじゃんー!」
「いや、その前に僕にも誕生日をちゃんと教えてって!」
キャッチボールをしながら、3人で誕生日について話しているが、それでも正確なキャッチボールをしているのはかなりの成長だった。
大地は能力を上げたいが、GからFに上げるときの必要ポイントが明らかに多いので、少し迷っていた。
ただ、ポイント自体はかなり貯まっているので、早めに使いたいとは思っている。
今日は軽く遊んだら、大地が「今日は疲れたから早めに帰るね」と言い出したので、吾郎達は心配しつつも早い時間に解散した。
「大地、大丈夫? 風邪とか引いたの?」
「ううん、大丈夫だよ。今日はこのあと多分出掛けるだろうから、体力を残しておきたくって」
「え? 出掛けるの?」
吾郎の質問はスルーして、大地は家のドアを開ける。
そこには出掛ける準備をしている茂治がいた。
「「ただいま〜」」
「おう、帰ったか! ちょうど良かった! もう少ししたら出掛けるから、準備しろ!」
「え? 大地の言ったとおりだ!! これからって……どこ行くの?」
「ん? まだ内緒。とりあえずグローブは持って行けよ」
「えー! でも見たいテレビがあったのにー!」
そう駄々をこねる吾郎に大地は優しく微笑んで、茂治を見つめる。
茂治は大地の顔を見て、何か見透かされていそうな気がしたが、黙っていてくれているなら気にしなくていいかと準備を再開する。
◇◇◇◇◇◇
「さあ、着いたぞーー!」
茂治が車を運転してついた場所は横浜スタジアムだった。
吾郎は車を降りながら、なぜここに来たのかを茂治に尋ねるが「ついてこい」としか言わないので困惑しっぱなしだ。
そして、関係者入り口を抜けて、その先にある扉を開けると、
「「わーーーっ!!!」」
そこには横浜スタジアムのグラウンドが目の前にあった。
いつも観客席で見ている光景ではなく、選手と同じ目線の光景のため、大地も吾郎も興奮を隠せない。
「吾郎! あそこ! バックスクリーンの電光掲示板を見て!」
──────HAPPY BIRTHDAY DAICHI! GORO!──────
そこには、『誕生日おめでとう! 大地! 吾郎!』と英語で書かれていた。
吾郎には英語が読めなかったので、大地が教えてあげるとものすごい嬉しそうな顔をして茂治を見た。
「ごめんな。1日遅れの誕生日で。昨日までイベントで球場を借りられなかったんだ。
でも今日は貸し切りだ。おとさん、6歳になったお前たちの球をここで捕ってみたかったんだ」
吾郎は嬉しそうな顔をして茂治に抱きつく。大地は嬉しそうな顔をして茂治に寄り添い、頭を撫でられていた。
茂治とカクテルライトの下で交わしたキャッチボール。
この日を大地と吾郎は一生忘れることはないだろう。
〜帰り道〜
「ねえ、おとさん」
「ん? 大地どうした?」
「誕生日プレゼントとか色々と嬉しいんだけどさ……おとさんの
「う……わ、分かった。気を付けるよ」
吾郎が疲れて寝入っている時に大地に窘められて、苦笑いをする茂治であった。
(言い方が千秋に似てきたんだよな……ちょっと怖かった……)
◇◇◇◇◇◇
2月1日、プロ野球キャンプイン。
開幕へ向け、主力組はここで心・技・体の全てを整え、そうでない者は一軍のベンチ入りやレギュラー獲りを掛けて、熾烈なサバイバルレースが始まるのである。
そして──────
今年もまた活躍を義務付けられ、はるばる太平洋を渡ってくる男達がいた。
「吾郎! そろそろ記者会見やるよ!」
「うん! 今行く!」
大地と吾郎は、メジャーリーグから日本にやってきたジョー・ギブソンの記者会見をテレビで見ていた。
超大物が日本の東京シャイアンズに来るとあって、日本中の野球ファンは大興奮していた。
「えー、では質問のある方どうぞ」
「ミスターギブソン、あなたは現役大リーガーでトップクラスの選手です。あんなあなたがなぜ今日本でプレーをしようと思ったのですか?
あなたのような全盛期の超一流投手が日本に来たのは初めてといっていいのですが……」
隣にいる通訳の日下部がギブソンに英語で伝える。
ギブソンはその質問に表情を一切変えることなく、淡々と答える。
『金がいいから来たまでだ。700万ドルもくれりゃ、火星の草野球チームにだって行ってやるさ』
日下部は少し困惑したが、ギブソンの言葉をかなり柔らかくして「
「日本のプロ野球について何か聞いていますか? その自信のほどを、抱負を含めてお願いします」
『俺はメジャーリーガーだ。マイナーレベルと聞いているこの国のバッターに打たれる予定は入れていない』
日下部は顔面が真っ青になりながら、「と、とにかくチームのために頑張りますと言っています!」と慌てて誤魔化した。
そんな会見を見ていた大地は不満の顔を隠さなかった。
「ギブソンの今の言葉……通訳の人が内容をかなり変えてたよ」
「え、なんて言ってたの?」
大地は吾郎にギブソンが話していた内容をそのまま伝えると、吾郎は激怒していた。
ただ、こういうときのために英語を勉強しておいて良かったと実感する大地であった。
「あんなやつはおとさんが打っちゃうもん! ギブソンなんて大したことないもん!」
「……だね! おとさんに打ってもらおう!」
大地だけはこの世界で、茂治が今後どうなるのかを分かっていたため、複雑な気持ちでいたのだ。
しかし、ふとあることが大地の頭をよぎる。
(……あ、もしかしてだけど、ギブソンに頭にボールをぶつけられた日に病院に無理やり行ってもらえば、おとさんって助かったのでは……?)
茂治はギブソンにデッドボールを当てられたあと、病院に行かずにそのまま家で亡くなってしまっていた。
それをなんとか覆す方法があるんじゃないかとずっと考えていたのであった。
◇◇◇◇◇◇
『この俺様を守るだと!? ふざけるなクソ野郎! イメージなんかクソ食らえだ!! 俺は俺だ!
これがメジャーのジョー・ギブソンだ! イメージを気にしてこんな地球の裏側で野球なんかやれると思っているのか!
次そんな真似をしてみろ! その女の足首みたいな首をへし折ってやるからな!!』
『は、はい〜〜!!』
記者会見の帰り。通訳の日下部が、ギブソンの記者会見時の発言について気を付けるように窘めていた。
しかし、勝手に発言を変えられたことへ怒り出し、胸ぐらを掴んでふざけた真似を2度とするなと脅していた。
ジョー・ギブソン。未来の大スターもまだまだ若く、精神的にも未熟な人間であった。
時と場所は変わる。
オープン戦が始まり、球場で練習している茂治は、茂野に茶化されながらもギブソンについて話をしていた。
「昨日、早くもオープン戦で1イニングだけ投げたそうじゃねえか」
「ああ、テレビで観たよ。三者三振に仕留めたやつだろ」
「やつは本物だが、打てそうか?」と問い掛ける茂野に、とにかく楽しみだと言う茂治の顔は笑っていた。
茂野は茂治の余裕そうな顔を見て、こいつならなんとかしてくれるのではないかと高校時代に思っていた期待を持つ。
その夜。遠征先のホテルで茂治は桃子先生に電話を掛けていた。
「もしもし。本田です」
「あ、こんばんは」
茂治は桃子先生と世間話をしつつ、大地と吾郎の様子も聞いていた。
「もうすぐ卒園式ですね。僕のキャンプも終わります。そうしたら……」
「……はい。待っています」
キャンプから戻り、家に帰る茂治。
大地と吾郎は茂治を出迎えて、コーヒーを入れたりしてのんびり過ごす。
そんな茂治を見て、大地は突然話し出す。
「おとさん……何か話があるんじゃないの?」
「……え?」
「おとさんを見ていれば分かるよ。いつもと雰囲気違うし」
「え? 俺分からないよー?」
(大地……なんか全部見透かされてるのかな? ……千秋と話しているときみたいだ)
茂治は千秋が生きていた頃を思い出して懐かしんでいた。
いつも何かあると千秋が促してくれたり、窘めてくれていたりしていた。
大地は千秋に似たんだろうなと思い、苦笑いをする。
「大地、吾郎。前さ、桃子先生なら新しいおかさんになってくれても良いって言ってたよな……」
「う、うん」
「もし本当にそうなったらどうする?」
「……え?」
「おとさんな、桃子先生のことを好きになっちゃったんだ。おかさんのことを忘れるわけじゃない……。
俺もお前達も……ずっと忘れることなんてできないと思うけど……おかさん、ゆるして……くれるよな……?」
茂治は涙を流して大地と吾郎に話す。
千秋を裏切ってしまっているのではないかという罪悪感でずっと胸が一杯だったのであろう。
大地も吾郎もそんな茂治を見て、母である千秋を思い出して泣いてしまっていた。
「「……うん。桃子先生だったら、きっとおかさんも許してくれるよ……!」」
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