これからは更新頻度をなるべく上げていこうと考えています!
9時からは寿也の方も更新しますので、ぜひお読みいただけると嬉しいです。
「吾郎がアメリカに!? な、なんでよ!?」
登校中、清水は吾郎がアメリカに留学することを聞いて、バスの中で大声を張り上げた。
周りの視線に羞恥を覚え、声の音量を下げて再度理由を問う。
「……いきなり過ぎない? なんでか理由くらい教えてよ」
「ちょっと、な」
「ちょっとってなによ?」
「あ〜! しつけーな! もうなんでもいいじゃねーか!」
あまりにもしつこく清水が聞いてくるため、先程の清水と同じくらいの音量で言い返す吾郎。
言いたくない理由は、単純に格好悪いと思ったからである。
その様子を大地と寿也はくすくすと笑いながら見ていた。
「大地もなによ! 教えてくれないの!?」
「まぁ、吾郎が言いたくないって言っているんだから、俺から言うことはなにもないよ。短期間の留学のようなものだから、そんなに心配しなくても大丈夫だよ」
「……なっ! べ、別に心配なんてしてないし!」
もちろん寿也には説明済みであり、野球部のメンバーにも今日の部活開始時に簡単には説明するつもりである。
実際に寿也はもちろん、野球部メンバーの誰にも反対されることもなく、受け入れられるであろうと思っていた。
それはここ最近の吾郎の様子を心配していたからこその予測である。
心配していたのは清水も同じだが、ここは吾郎が言いたくないと言い張っているので大地が無理に言う必要もないと決めていた。
(あ〜あ、拗ねちゃったじゃん。俺も薫に言わないことは反対しなかったけど、あとでちゃんと機嫌を取れるのかな?)
清水はバスの中で不貞腐れてしまい、そっぽを向いてしまう。
さすがにこれには大地も寿也も苦笑いを浮かべていたが、吾郎の頑固さも知っていたので、余計な口は挟まないようにしていた。
◇
それから吾郎がアメリカに行くまでは早かった。
荷物を吾郎の代わりに送り、何度もスリや置き引きには気を付けろと言うが、彼の性格上、確実に合うことは分かっていて対策を立てているため、最悪が起きても大丈夫だと思っている大地。
「ちゃんと着いたら連絡するのよ?」
「分かったってば」
「忘れ物はない?」
「ないよ」
「置き引きとかスリには──」
「だーー!! しつけーっての! 大地からも何度も言われてっから大丈夫だって言ってんだろ!」
「だって、だって……うううぅぅ」
空港で吾郎のアメリカ行きを心配する桃子。
あまりにもしつこく言ってくるため、少しうっとおしくなったのか雑な対応をしたところ、桃子は泣き出してしまった。
それに慌てた吾郎は、「き、気を付けちゃう! 電話も毎日しちゃうって!」と良く分からないことを言って桃子を慰めようとするが、桃子は吾郎としばらく離れ離れになるのが寂しいだけなので、何を言っても無駄である。
「向こうでやっていけそうか?」
「……何言ってんだよ。
その言葉に大地は「そうだったよな」と薄く笑う。
「俺が戻ってきたとき、腑抜けた実力をしてんなよ」
「それはこっちのセリフだよ。俺らの成長ぶりに度肝を抜かれんなよ」
これはお互いのための一時的な別れなのだと分かっているからである。
「俺がいない間、母さんのこと頼んだ」
「ああ、お前も向こう行って迷惑掛けないようにしろよ」
「ああ……って滞在先がどこだかも聞いてねーっつーの」
大地はアメリカでの滞在先がどこなのかを吾郎に伝えていない。
少し考えれば分かることではあるのだが、それは向こうに着いてからのお楽しみだとだけ伝えている。
(
一抹の不安を抱えている大地ではあるが、吾郎ならなんとかなるだろうと思っている。
そして必ず完治させて聖秀に戻ってきてくれると信じていた。
「じゃあ……行ってくる」
「ああ」
「本当に気を付けてね」
搭乗手続きの時間も迫ってきたので、吾郎は最後の挨拶をして手続きに向かおうとしていた。
そのとき背後から吾郎を呼ぶ声が聞こえる。
「ん? おお、清水か! 来てくれたんだな」
「…………」
清水は吾郎の前まで来るが、顔を俯かせて何も言わない。
その後ろでは桃子がきゃーきゃー言いながらはしゃいでおり、そんな桃子を見て苦笑する大地。
「…………」
「……来てくれてありがとな。もう時間がないから行くぞ」
その言葉を聞いて清水は少し赤らめた顔を上げるが、何も言えずまた俯いてしまう。
吾郎はそんな清水を見て、わずかに笑う。
「せっかくなんだから何か言ってくれよ」
「……う、うん。あのね、えっと──」
勇気を出して再度顔を上げたとき、目の前に吾郎の顔があり驚く清水。
吾郎は驚いた顔をした清水を見て口を開く。
「何も言わなくてごめんな。戻ってきたら必ず話すから。……
「────!? う、うん。気を付けて行ってきてね。……
少し照れくさそうに頬を掻く二人。
(これでまだ付き合っていないんだもんなぁ。なんだかおかしな話だよ)
二人に言い寄られているお前が言うなということでもあるが、大地は吾郎と清水の甘酸っぱい微妙な距離に青春を感じていた。
実は登校中でのバスの一件以来、一切話していなかった二人だが、吾郎がアメリカに行ってしまう前に仲直りが出来たようである。
その後、飛行機が出発したのを見届けた三人は桃子の運転で自宅まで帰ったのだが、途中でガソリン切れでエンスト起こしてしまったのは余談である。
◇
吾郎がアメリカに旅立ってからは、聖秀野球部の結束は以前より深まっていた。
そして、ポジションも吾郎がいなくなったことで若干の変更が入っていた。
ピッチャーは大地と渡嘉敷。登板しないときは、大地がショートで渡嘉敷がセカンドを守る。
ライトを守っていた内山が、大地と渡嘉敷の登板に合わせてショートとセカンドの守備につく。
これに関しては、素人の内山にとってはそれなりに大変なのではという話にもなったのだが、本人が了承したことと、実際に練習試合で試してみたところ、内山の本来の器用さと大地、渡嘉敷のフォローもあり、問題なく機能できていた。
そして控えにいた宮崎がライトの守備について、現メンバー九人全員である。
「ライト! 行ったぞ!」
「お、おお!」
吾郎がいなくなったことでレギュラーとなった宮崎がライトに飛んだフライをキャッチして、試合終了。
聖秀野球部メンバーの中では一番運動が苦手な宮崎。しかし、今までの吾郎の辛くても懸命な姿を見て、彼がいなくなってからより一層練習に打ち込むようになっていた。
そのかいもあってか、まだ野球を始めて一年も経っていないにも関わらず、中学レベルで野球が出来るくらいにまでは成長していた。
これが一年生最後の春休みでの練習試合の光景である。
もうすぐ新入生がやってくる。創部一年目にして甲子園出場を果たした聖秀野球部には注目度も高まっており、各シニアや軟式野球部での実力者達が見学にも来ていた。
(このメンバーなら俺も一年目からレギュラーになれるポジションはある!)
見学に来ていた中学生はほぼ全員がそう思っていたし、創部一年の野球部であればそこまで上下関係も厳しくないだろうという気持ちを持った男子生徒もいた。
(う〜ん、良い傾向ですね。大地君たちの世代のあとが心配だったのですが、今のメンバーに野球未経験者がいることで、即レギュラー入りを狙う実力派の新入生が入ってきてくれそうです)
監督で顧問の山田は見学者を見渡して笑みを浮かべる。
野球部を作って有名になれば、男子生徒の入学も見込める。共学になったばかりの聖秀学院にとって、野球部の甲子園出場というのはかなりの広告となっていた。
そして、野球部を作るからには、大地世代で終わるのではなく、そのあとも強豪と言われるだけの実力をキープするために、実力のある新入生の入学は大歓迎である。
吾郎がいつ戻ってくるか分からない状況のため、来年の夏大会がどうなるのか、その次の選抜は? といったこともあるのだが、まずは地盤固めを行おうと考えている山田。
そのために大地が怪我から復帰した頃、大地にお願いをして監督業の勉強を始めていた。
今までは大地が代わりにサインを出していたのだが、それでは昨年の夏のように大地が離脱してしまったときに指示を出す人間がいなくなってしまうためである。
山田は秋から春にかけて勉強と実践を行い、今では大地のサポートは少しだけで、ほぼ全ての試合で指示出し等を行うようになっていた。
質に関してもメンバーから不満も出ることもなく、そのことからきちんと出来ているのだろうと自信を持ち始めている。
まだまだ学び、経験を積むことは必要ではあるのだが、そればかりは時間を掛けていく必要があるので仕方ないことである。
そして、聖秀野球部の二年目が始まる。