細かい表現で納得できる内容が出来ず、何回も書き直していました。
これでいいのかもちょっと悩んでいますが、一旦公開します。
よろしければご覧くださいませ。
『えー、本田選手は昨夜病院を訪れ、検査中に頭を抑えて意識を失いました。その後、緊急手術になりましたが、容態が回復することなく亡くなりました。
死因は、昨夜ギブソン投手から受けた右側頭部への死球による”
「し、信じられん……。昨日の試合ではあんなに元気だったのに」
病室にはベッドに横たわる茂治とその横で顔に何の感情もなく立つ大地と吾郎がおり、そして茂野をはじめとした球団関係者が沈痛な面持ちで3人を見ていた。
「では、葬儀の段取りはそんな感じで……」
「はい、よろしくお願いします」
球団の管理部長と茂治の兄夫婦が病室を出たところの廊下で今後について話をしていた。
両親を失った大地と吾郎の引き取り先の話になったところで、茂治の兄が両親も年金で細々と暮らしているため自分が引き取るしかないと話すが、妻が勝手に決めるなと反対をする。
2人が揉めている様子を見て管理部長が困惑していたところに、桃子が現れる。
「あの……本田さんの部屋はこちらでしょうか?」
「は、はい」
茂治の兄は突然現れた桃子に驚くが、お辞儀をして入っていく桃子を見送る。
桃子が病室に入ると、大地と吾郎が振り返る。その先にいる茂治を見て、呆然とする桃子に吾郎が話しかける。
「先生……おとさん、死んだんだって……。もう目を覚まさないんだって……。
……でもね、俺ちっとも悲しくないよ……。だっておとさんが言ってたもん。
天国に行った人とは、ほんのちょっとの間だけお別れするだけだって……俺らが一生懸命生きていけば、また天国で一緒になれるんだって……。
だから……だから今だけ……ほんの少しの間だけ──」
────さよなら。おとさん。
◇◇◇◇◇◇
茂治にお別れを告げた大地と吾郎、そして桃子は病室から出てきたところで茂治の兄に話し掛けられる。
「今日からうちで一緒に暮らすんだ」と告げられるが、大地と吾郎は桃子から離れようとしない。
茂治の兄は優しく2人を説得しようとするが、声を揃えて桃子と一緒にいると言って譲らない。
そこに革靴が歩く音が廊下に響いてくる。
大地と吾郎は足音がする方向へ振り向き、歩いてくる人物に対して驚いた顔をする。
遅れて桃子や茂治の兄、茂野達も振り向き、警戒心をあらわにする。
「ギ、ギブソン……!この野郎ぉ……ヌケヌケとどのツラ下げて──」
「よせ茂野!」
突然現れて、何も言わずに病室に入っていくギブソンに対し、茂野は殴りかかろうとするが管理部長に止められて舌打ちをする。
ギブソンは横たわっている茂治の顔を見るが、感情を押し殺しているのか無表情のままだ。
騒然とする廊下で日下部が全員に対し話し始める。
「皆さん……これはミスターギブソンからのお悔やみの言葉として申し上げます」
茂治へのデッドボールに対する謝罪、しかしそれはスポーツで起こりうる不慮の事故であり決して故意ではないということ。
今後は2度とこのようなことがないように茂治の分まで日本球界の発展のために尽くしていくことを伝えた。
大地や吾郎をはじめ、全員は黙って聞いているしかできなかった。
ギブソンが病室から出てきて日下部と一緒に帰ろうとしているところで、管理部長の声が廊下にポツリと響く。
「仕方あるまい……やはりあれは事故だったんだ。心から懺悔していなければ、葬儀より前に駆けつけるなんてなかなかできることじゃないよ」
誰も何も発することが出来ない。
分かってはいたのだ。ギブソンが故意に茂治にぶつけたわけではないということに。
しかし、茂治を失ったという現実を受け入れることが出来ず、何かに当たらないと気持ちの整理ができなかった。
そこに、小さな影が走り出したのを全員が視界の端に捉える。
「ご、吾郎君!?」
吾郎が突然走り出し、帰ろうと後ろを向いていたギブソンの足目掛けて体当たりをした。
しかし鍛え上げられたギブソンの身体に吾郎は跳ね返され、尻餅をついてしまう。
何かにぶつかった衝撃を感じてギブソンは後ろを向くが、そこに1人の少年が倒れていて、自分を睨んでいるのが分かった。
(本田の……息子か……?)
「か……返せ……」
ギブソンは吾郎が何を言っているのかが理解できていない。
しかし吾郎は泣きながら、さらに言葉を発する。
「返して……俺のおとさんを返してよぉ〜〜!!」
ギブソンは日本語を理解していなかったが、吾郎が何を言いたかったのかを理解した。
だが、彼にはこの言葉しか出てこなかった。
『
いや、他にも言葉はあったのだ。言葉を尽くして謝罪をしたかった。
しかし、今の自身が何を言ってもそれは
泣き崩れる吾郎と立ち去るギブソンを見て、全員が何も言えずにその場に立ち尽くしていた。
「あの……私、大地君と吾郎君を引き取ります」
「えっ!?」
ギブソンと吾郎のやり取りを見ていた桃子が、突然大地と吾郎を引き取りたいと言い出す。
それを聞いて、全員がさらに困惑してしまうのであった。
◇◇◇◇◇◇
ギブソンは日下部と一緒に車に戻ろうと歩いていた。
『ミスター……』
『日下部……何も言うな』
『……ですが』
『今の俺達が何を言っても、それは
ギブソンの言葉を聞いて、何も言えなくなってしまう日下部。
病院の外に出て、駐車場に向かおうとしたギブソンに1人の少年が立ち塞がる。
「坊や……何か用かい? ギブソン選手へのサインなら……」
『日下部。彼は違う……本田の息子だ。……
『……えっ!?』
驚きながら、少年の顔を見る日下部。
そこには確かに先ほどギブソンにぶつかってきた
ギブソンと大地は目を合わせるが、言葉を発しない。
数分ほどそのまま立っていたが、大地が話し出す。
『ミスター……父の最後を見に来てくださってありがとうございました』
そう言って頭を下げる大地。
ギブソンは年端もいかない
『父は……野球が本当に好きでした。あなたのような偉大な投手と勝負が出来て、本当に嬉しかったと思います』
ギブソンはその言葉を聞いて、今まで我慢していた感情が溢れ出してしまった。
吾郎のときは耐えられたのだ。ああやって──言葉は通じていないが──自分を罵ってくれた方がまだ心が軽くなったのだ。
しかし、大地の言葉を日下部を通さずに直接聞いてしまったことで、耐えきれなくなってしまった。
『……なぜだ? なぜ君は俺を罵ってくれない!? 俺は……俺は君の父親を奪ってしまったのだぞ!』
『……はい。父を失ったことはとても悲しいですし、今も許せません』
『ではなぜ!?』
『……違うんです』
『え……!?』
『許せないのは、助けられなかった”自分自身”です。
ギブソンは混乱していた。大地が何を言っているのかが理解出来ないのだ。
(知識……だと……? 彼は何を言っているんだ? このくらいの少年の年齢で助けられるわけがないだろう)
ギブソンは大地が原作知識を持っていることは知らない。
だから
ギブソンの混乱は構わずに大地は話し続ける。
『父を助けられなかった事実は変えられません。だから……俺はミスター、あなたにも背負っていただきたいのです』
『……』
『私は家族を助けられなかったです。でもあなたには家族がいますよね』
事実、ギブソンには妻と息子、そして娘がいた。
大地くらいの年齢でまさか自分に家族がいることを知っているとは思わなかったが、何も言わずに続きを聞く。
『だから、あなたはご自身の家族を大切にしてあげてください。
────いつか俺たちがあなたを倒しにいく、その日まで
◇◇◇◇◇◇
次の日。茂治の葬式が兄の義治の家で行われようとしていた。
「ほら! 早く朝ご飯食べて支度しなさい! もうすぐお葬式が始まっちゃうわよ!」
義治の妻である良枝が、娘2人に対してご飯を食べるように促していた。
長女は新聞を見ながら茂治が有名人だったことに驚いていた。
「ねえ、お母さん。いとこの大地君と吾郎君はうちで引き取るの?」
次女の質問に良枝は桃子が引き取るから助かったと返事をする。
弟が欲しかったと次女は言うが、双子の男の子の面倒を見るのは面倒くさいと切り捨てる。
「へえ。遺族には球団から補償金4,800万円出るんだってー。養子にしとけばこの家のローンも返せたのにねー」
長女のその言葉を聞いて良枝は驚き、少し考える。
そこに義治が弔問客の応対をしてくれとリビングにやってくる。
良枝はそんな義治を呼び出して、物陰で話をするのであった。
◇◇◇◇◇◇
葬儀の後、茂治の遺骨を持った桃子に話があると良枝が家のリビングに呼び出した。
「え!? 大地君と吾郎君を引き取る!?」
「しっ! 二階の2人に聞こえるでしょ!」
「な……なんで……? 昨日は私が引き取っても良いって仰ったじゃないですか!」
困惑する桃子に良枝は血の繋がらない桃子に預けるのはどうかと思ったなどともっともらしい話をする。
桃子は責任感などではなく、大地と吾郎だから引き取りたいのだと一生懸命に熱意を伝える。
それでも良枝は大地と吾郎を引き取る権利は桃子にはないことを冷たく伝えて、さらに2人の将来を考えろと言う。
(ふん、どうせあなたも大金
「そういうことですから、星野さん。仕方ありませんでしょ?」
「……わ……分かりました」
納得していないが、渋々了解する桃子。
そしてそのまま家を出ようとする桃子に義治は2人を呼んでくると伝えるが、
「いえ、2人はぐずるといけないので……このまま失礼します」
「そ、そうですか……」
「それと、あの……」
「は、はい?」
「大地君と吾郎君のことをよろしくお願いします……幸せに……してあげてください……!」
泣きながら義治に訴え、走って家を飛び出す桃子。
その様子を良枝は「大金が入らなかった悔し涙」と吐き捨てるが、
「ば、馬鹿野郎! 金が目当てであんな若い子が他人の子を引き取るなんて言えるかぁ!!!」
良枝にそう怒鳴り、2階に駆け上がる義治。
部屋に入り、長女とゲームをしている大地と吾郎の肩を掴んで質問する。
「大地君、吾郎君! これは大事なことだから、自分達で考えて決めるんだ」
「「え……?」」
「2人は誰と一緒に暮らしたい!? おじさんとおばさんかい? それとも桃子先生かい!?」
急に質問をされて戸惑う大地と吾郎。
煮え切らない態度を取る2人──特に吾郎──に対して、厳しくもはっきりと伝える。
「男の子ならはっきりとしなさい! 2人は桃子先生が一番好きなんだろ!? お母さんになって欲しいんだろ!?」
「「……うん!」」
「分かった!」
返事を聞いた義治は吾郎を抱え──自分で走れると大地は拒否した──家の外に出て走り出した。
そのときに義治も昔野球をやっていたこと、茂治にも野球を教えていたこと。茂治がプロ野球選手になったときは羨ましくて、自分にも息子ができたら野球をやらせたかったこと。結果は女の子2人になってしまったけど、大地と吾郎が養子になってくれたらついに夢が叶うと思っていたことなどを話していた。
「でもいいんだ、そんなことは。それよりも君たちが一番幸せなことは桃子先生と一緒にいることなんだから……」
義治が走り出して数分で歩いている桃子の背中が見える。
大地も息を切らしていたが、一生懸命についていく。
「ほ、星野先生!」
「……ほ、本田さん」
突然現れた義治と大地、吾郎に困惑し、「お別れはいいって言ったのに」と泣きそうな顔をする。
吾郎を背中から下ろした義治は息を整えて桃子に話す。
「星野先生。もしよければ大地君と吾郎君を預かってもらえませんか?」
「……え!? ど、どうして……だって奥さんは……」
「いいんです! うちなんてどうでも! 大切なのは……あなたが今、世界で一番大地君と吾郎君を愛しているってことです!
そして、2人があなたを選んだ……もう我々には何もいう資格はない。きっと
その言葉を聞いて泣き出す桃子。
大地と吾郎は桃子のところへ行き、お互いに抱きしめる。
────大地君と吾郎君のこと、幸せにしてやってください。千秋さんと茂治のためにも
〜幼少期編 完〜
今回で幼少期編が終わります。
ようやく寿也sideにも追いついたので、2つとも更新していきます。
不定期更新になりますが、これからもご愛読をよろしくお願いいたします。
『MAJORで寿也の兄になる』という作品も掲載しておりますので、下記から併せてご覧いただけますと幸いです。
https://syosetu.org/novel/216813/
面白い!また続きが見たいと思ったら、ぜひ高評価、お気に入り登録、感想をお願いします!