どんどん高評価や感想を頂けるので、嬉しくなっています。
そして初めは吾郎sideの方が人気だった(今でもお気に入りやUAの数は多い)んですけど、
中身は寿也sideの方が面白いという声が多くなってきました(笑)
両方もっと面白い話が書けるように頑張ります!
日下部を家の中に招き入れることにした大地と吾郎。
「すみません、いきなりお邪魔して。昼からお電話入れていたのですが、どなたもお出にならなかったので……」
「いや、俺ら学校ありますし、母さんは仕事なんですから出るわけないじゃないですか」
「あ……確かにそうでした」
はははと苦笑いをしながら納得する日下部。
「何飲む? インスタントのコーヒーか紅茶しかないけど…」
「あ、いいですよ。お構いなく」
「良いよ、遠慮しなくて。それよりその喋り方なんとかしてよ。俺らは子供なんだからタメ口でいいよ」
「あ、そうかい……じゃあコーヒーを頼むよ」
「へーい」
吾郎はそう言って手際良くコーヒーを作る。
とはいってもインスタントなので、お湯を沸かして注ぐだけなのだが。
「お母さんは何時ごろ帰ってくるの?」
「んー、多分もう少しで帰ってくるとは思うんですけど」
「それよりさ、ギブソンがうちに何の用なの?」
「あ、ああ……これを渡してくれと」
用件を急かす吾郎に対して、日下部は一枚の封筒を手渡す。
そこにはアメリカにある航空会社の名前が書いてあった。
「……何これ?」
「アメリカ行きの航空チケットと今年のメジャーリーグオールスターゲームの招待券です」
「「ア、アメリカの……オールスター!?」」
「ええ……もちろんギブソンも出ます。夏休みにぜひお母さんと一緒に来てくれと」
「もし3人で心細ければ、私も同行してサポートするように言われています」
吾郎は封筒をテーブルに置くと、日下部に真意を聞く。
「何のため?」
「え?」
「なんで俺らが今更あいつにこんな真似されなきゃいけないわけ? 別にもう何の関係もないじゃんか」
「……吾郎」
大地に相談することもなく招待状を返すと言う吾郎に対し、日下部も困ると返答をする。
確かにギブソンは茂治の命を奪ったので恨まれても仕方ないが、そのお詫びとして招待状を送ってきたのだと話した。
「日下部さん、それはおかしくないですか?」
「ど、どういうことだい?」
「なんか……それだけ聞いてると、招待状を送るから水に流せよって風に聞こえるんですけど」
「そ、そんなつもりじゃ──」
「──別に恨んじゃいないんだよ、俺も大地も。けど、葬式にも来なかった奴が、いまさらこんなモノでご機嫌取ろうとしないでよ。
どーせおとさんを殺したことなんて、運が悪かったぐらいにしか思ってないくせに。
ほとぼりが冷めた頃にアメリカ旅行でもさせてやれば、お人好しのバカな日本人は喜んで許してくれるとでも思ったら大間違いだよ!」
「そ、そんなんじゃない!!」
「「……!」」
「彼は……ギブソンはそんな男じゃない!」
吾郎の言葉に日下部は強い口調で反論した。ギブソンの内面をどの日本人よりもよく分かっている彼だからこそ言える言葉であった。
そして茂治の葬式の日について話し始めた。
◇◇◇◇◇◇
葬式の当日。関係者や報道陣が全員集まっている中、巨仁の首脳陣は陰でコソコソと話をしていた。
『何!? ギブソンがいないだと!?』
『は、はい。今、日下部から連絡があったんですけど……彼のマンションにも、行きつけの六本木の店にもいないらしくて……一体どこへ行ったのか……』
『馬鹿野郎!! 手当たり次第に探させろ! 本田君を死なせてしまった本人が葬儀に来なかったら大問題だぞ!』
『は、はい!』
ギブソンのマンション、六本木の行きつけの店にもいなかったので、日下部は球場で選手から話を聞いていた。
しかし誰もギブソンの居場所を知らず、どうしようか途方に暮れていたところで助っ人外国人のマークがギブソンを見かけたと情報をくれた。
『ああ……やつなら30分ほど前に水道橋の駅前を歩いてたぞ。こっちは車だったから声を掛けそびれちまったけど』
『それは本当かい!? ありがとう! そっちを探してみるよ!』
急いで水道橋の駅に行くが、ギブソンらしき人はいなかった。
そして近くにある喫茶店をしらみつぶしに探そうと思った時であった。
(そういえば……以前しゃぶしゃぶを食べに行ったとき……パチンコに行きたいと言っていたな。ま、まさかね……)
そう思いながらも不安を隠しきれず、駅前にあるパチンコ店を回る日下部。
3店舗探すがやはりいるわけがなく、諦めつつも4店舗目に入った時であった。
そこには黒服で髪の毛を後ろで束ねている大柄の男性が席に座っていた。
そして大当たりを連発しているのを周りの人が褒めているのであった。
『ミスター』
『おう、日下部か! これはとても面白い遊びだな! お前もやれよ、面白いぞ!』
『ど、どういうつもりですか!? 今日は本田選手の葬儀ですよ! 冗談はやめて今すぐ一緒に来てください!』
『……代わりに行っておいてくれ。本田の亡骸には昨日会ってきているだろう』
『いい加減にしてください! 怒りますよ! 本田を死なせてしまったのは間違いなくあなたのファストボールなのですよ!』
その言葉を聞いた瞬間、ギブソンは目を見開き、そして思い切り利き腕である左の拳でパチンコ台を殴りつけた。
パチンコ台のガラスが割れ、釘がギブソンの拳に刺さり血が滴っていた。
『ミ、ミスター! 利き腕を──』
『──分かってるよ……。分かってるよ! そうさ、本田の家族から父親を奪ったのは俺のこの左腕だよ!』
『……』
『だが葬式に行って、何を言えばいい……。あの泣きじゃくる本田の息子と……泣きたいのに恨みごとを言いたいだろうに、俺の家族の心配をしてくるもう1人の息子に……俺はなんて言葉で詫びたらいいんだ!
教えてくれ……教えてくれ、日下部!』
◇◇◇◇◇◇
「それからすぐに式には駆けつけたけど……間に合わなかった。ギブソンはそのあと1ヶ月、背筋痛を理由に登板をしなかったけど……本当はその時ガラスで切った左手の怪我のせいだったんだ」
「……」
「本当は半年の契約だった彼が、そのシーズン全てを日本でプレーしたのは、本田選手を失った日本球界と遺族の人達への彼なりの精一杯の償いだったんだ……。
日本人に、日本の子供達にメジャーのピッチングを見せることだけしか、今の俺にはできないと言ってね。
そして、今年。大きくなった本田の息子達にメジャーリーグのプレーをぜひ見に来て欲しいと言ってきた」
そして日下部は封筒を裏返し、そこに書かれていた文字を読む。
「ここに彼の直筆でこう書いてあります。
私の野球人生で出会った中で最も偉大なるスラッガー、本田茂治の息子達へ贈る。と」
そう言うと日下部は立ち上がり、帰ろうとする。
「これで彼を許せとか、そういうことは言いません……しかしぜひ見に行ってあげてください。
きっと彼はその歓迎の気持ちをオールスターのマウンドで表現してくれるはずです」
「……」
吾郎は黙ったままだったので、「これで失礼しますね」と言って玄関に行き、外に出ようとする。
その時、大地が日下部に話しかける。
「あ、あの……」
「ん? どうしたんだい?」
「ギブソンのご家族は……ご健在でいらっしゃいますか?」
「……いや、昨年奥さんと娘さんが交通事故に遭ってしまってね……今は息子と2人暮らしだよ」
「そう……でしたか。分かりました。わざわざ来てくださってありがとうございました」
頭を下げて日下部を見送る。
吾郎は封筒を見たまま、俯いてその場から動かなかった。
『MAJORで寿也の兄になる』という作品も掲載しておりますので、下記から併せてご覧いただけますと幸いです。
https://syosetu.org/novel/216813/
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