MAJORで吾郎の兄になる   作:ねここねこねこ

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第三十二話

「「「「ええっ!? マ、マラソンーー!?」」」」

「そうだ。あの若尾山にグリーンラインが通っている。山頂の休憩所までおそらく10kmはあるだろう。

往復で20kmだ。歩いても構わない。日のあるうちに帰ってこい! これがテストだ!」

 

 20kmという距離に対して、ほぼ全員が絶望的な顔をする。

 そんな中、大地と吾郎だけは笑顔だった。

 

「へへ……いーね! おじさんの本気が伝わってくるよ!」

「だな! よーしやるぞ! 20kmくらい走れなくて、横浜リトルが倒せるかよ!」

「よし行け! 健闘を祈る!」

 

 大地と吾郎の言葉に他の全員が頭おかしいんじゃないかと思っていたが、口に出す前に安藤にスタートと言われてしまい、素直に走り出す三船リトルメンバー。

 清水が「あたし長距離苦手なのにー!」という言葉に、沢村が「長距離だけじゃねーだろ」というボケとツッコミはもはや定番になっていた。

 

(頑張れよ……。叶うなら全員帰ってきてくれ!)

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 グリーンラインという道路をひたすらに走る一同。

 まだ5キロ地点だが、すでに前列と後列にかなりの差が出てきてしまっていた。

 これは体力差もあるが、身体能力の差でスピードが違っていたのもあった。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 先頭集団は大地、吾郎、沢村、そして少し遅れて小森だった。

 沢村が後ろを振り返ると小森が膝の上に手を置いて、息を切らしていた。

 

「どうした小森!? もうギブアップか!?」

 

 沢村が優しく声を掛けるが、小森はかなり辛そうであった。

 

「はぁ……さ……先に……行って良いよ! 僕……3人のペースには……ついて……行けないから!」

「おう! 無理することはねーよ! 時間はあるんだ。自分のペースで登ってこい!」

「分かった! ありがとう!」

 

 小森は一息つくとゆっくり走り出す。

 大地達は小森を心配するが、自分たちのペースを守ることにした。

 

「なんだかんだ言いながらちゃんと走ってんじゃねーか沢村」

「バーカ、なめんなよ! これでも俺は学校のマラソン大会で1位2位を争う韋駄天だぜ?」

「じゃあ、もう少しスピード上げようか? そろそろ身体もあったまってきたし!」

「え、いや! てかお前達ってなんでこんなに早く走れるのにマラソン大会で真面目に走ってねーんだよ!」

 

 吾郎の挑発に対して、強がる沢村。それに気付いた大地がからかうようにスピードを上げることを伝えるが、流石にキツイのか話を誤魔化す。

 実際に大地達はいつも学校のマラソン大会は10位前後くらいで走っていた。

 理由は単純に疲れるからだ。それならばトレーニングだと思ってほどよいペースで走ることを心掛けていたのだ。

 

「しっかしこの山道の20kmはきついな。小森は根性あるから心配ないにしても……清水や他の連中は大丈夫かな?」

「さーな、でもおじさんが言ってたようにこれくらいで根を上げていたら日本一なんか目指せないだろ。結局はあいつらのやる気次第さ…」

「だな。まずは俺達で出来ることをしよーぜ!」

 

 

 スタートから3キロ地点。5年生達は全員一緒に走っていた。

 だが少しずつ遅れ始めた前原が突然足を止める。

 

「あーあ、バカバカしい! やめたやめた!」

 

 息を切らしながら地面に座り、「何が日本一だよ! 勝手にやってくれってんだ!」とギブアップ宣言をする。

 

「ま、前原……」

「行きたいやつは行けよ! こんなの俺はやってらんねー! そこのバス停で今度来たバスに乗って俺は帰るぞ!」

 

 前原は目の前にあるバス停を指差し、疲れたから帰ると言い出す。

 それにたらこ唇が特徴的な田辺も「お、俺も……」とギブアップをする。

 

「ちょっと待てよ! まだ5kmも走っていないぞ、お前ら!」

「5kmも20kmも関係ねーよ! どーせやめるなら早いうちにやめた方が得だっての!」

「そーそー!」

「で、でもバスで帰ったら三船リトルを辞めるってことだぞ! お前ら本当にそれで良いってのかよ!」

 

 夏目が前原と田辺を説得するが、頑なに拒否をする2人。

 

「だから行きたいやつは行けって言ってんだろ! 俺はこんなハードな練習がこれからも続くなら、リトルなんかやってらんねー。

大地達に合わせて日本一目指すなんてどうかしてるぜ。

根性とかやる気とかいくらあっても俺達なんかが日本一になれるわけねーだろ!」

「でもよ……昨日話したじゃんか……。大地達に教わったことが試合で出来てよかったって……俺はその気持ちにも正直でいたいし、お前達とも一緒に野球をしたいんだよ!」

「夏目……」

 

 夏目が熱い気持ちを伝えているところに、ヘトヘトになりながら走ってくる清水がいた。

 前原は良い仲間が来たとばかりに清水を脱落組に誘おうとする。

 

「あれ? 何やってんの、あんた達?」

「お……おい清水!お前も一緒にバスに乗って帰らねーか?」

「……え?」

「お前だって日本一なんてバカらしいと思ってんだろ? みんなで一緒にボイコットしようぜ!」

「前原! 本当に辞めるのかよ!」

「おい! バスが来たぞ!」

 

 清水は脱落組の前原と田辺を一瞥すると、全員を無視して走り出す。

 

「な……なんだよ本気かよ!」

「やめとけよ! 運動苦手なお前が完走できるわけねーだろ!」

 

 清水は話しかけてきた前原と田辺に振り向き、息を切らしながらも返事をした。

 

「そんなもんやってみなきゃわかんないだろ! 早々に何くだらない相談してんだよ! お前らそれでも男かよ!」

 

 そしてそのまま走っていく清水。

 夏目と鶴田と長谷川は、黙って清水を追いかけていく。

 バスの運転手が「僕達、バスに乗るの?」と前原と田辺に聞くが、返事をしなかったためそのままバスを走らせてしまう。

 

「俺も……もうちょっと行けるとこまで頑張ってみるよ。あの清水が頑張ってんだもんな」

「あ、あれ? ……う、裏切り者! 俺は次のバスが来たら帰るからなぁ! 日本一なんて目指さねえぞ!」

 

 田辺はもう少しやってみると走っていき、それに対して前原が裏切り者と叫ぶが返事は返ってこなかった。

 そして、前原の心の中には清水が言っていた「そんなもんやってみなきゃわかんないだろ!」という言葉が繰り返し胸を打つ。

 自然と動き出す足。「次のバス停までだかんな!」と誰にも聞こえないのを分かっていて叫びながら、前原も走り出すのであった。

 

 そこからは全員が必死に走り続けた。途中、立ち止まったり歩いたりしている者もいたが、決して諦めようとしていない様子を見て、折り返してきた大地は嬉しそうな顔をするのであった。

 全員が大地の笑顔と「もう少しだから頑張ろう!」という言葉に励まされ、また足を動かし始める。

 彼はもはや三船リトルのキャプテンにふさわしい器を得ていたのであった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「はぁ……はぁ。や、やった! ようやくゴールだ!」

「よーし! ご苦労さん! よく頑張ったな!」

 

 長谷川が帰ってきて、安藤が労い(ねぎらい)の言葉をかける。

 もうすぐ日が暮れるところで、残りは清水と前原だった。

 

「2人とも大丈夫かな? 折り返しで見たとき、足引きずってたから……」

「う〜む。体力的な個人差も考慮してあげるべきだったかな……?」

「なーに、大丈夫さ!」

「そう! あいつらなら大丈夫! あれで負けん気だけは人一倍強いから!」

 

 そしてその数分後、2人は一緒に走って帰ってくるのであった。

 この日、子供達の中で確かに何かが変わったのであった。

 




前原君はなんて典型的なツンデレなんだろうか…。

『MAJORで寿也の兄になる』という作品も掲載しておりますので、下記から併せてご覧いただけますと幸いです。
https://syosetu.org/novel/216813/

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