MAJORで吾郎の兄になる   作:ねここねこねこ

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ドラゴンクエストΩ 〜アルテマこそ至高だ!〜
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第四十三話

 パァンと大きな音が響き、全員がマウンドを見て絶句した。

 宇沙美が球太の頬を思い切り叩いていたのであった。

 

「なんだそのザマは! そんなピッチングをしてて、来年の横浜シニアに合格すると思っているのか! ……もういい! ピッチャー交代だ!」

 

 その言葉に球太が必死になって追いすがる。

 

「ま……待って父さん! つ、次は必ず抑えるから……僕を見放さないで!」

「本当だな? ……これ以上がっかりさせたらもう知らんからな」

「は…… はい!」

 

 宇沙美が交代させないという判断をしたことに球太は安心した顔をする。

 しかし、その光景を周りは苦々しい顔で見ていた。

 吾郎もその1人であった。

 

(ふーん、どうりで笑顔の1つも見せないはずだ…親父の言いなりで野球やらされてて、楽しいわけ無いじゃん)

 

 吾郎はネクストバッターズサークルで球太と宇沙美を観察していた。

 そして、打席には3番の小森が入る。

 

「小森ぃ! ホームランで突き放せー!」

「かっとばせー! こっもっり!」

 

 応援を背に受けて小森が構える。

 球太は改めて深呼吸をしたあと、振りかぶって投げる。

 フォークボールが決まり、ワンストライクとなる。

 

「ストライーク!」

「ああ! 殴られてあいつ立ち直った! こりゃ、だめだぁ〜!」

 

(そうだ! それでいい!)

 

 前原が一塁で頭を抱えているときに、宇沙美は球太のピッチングを見て頷いていた。

 球太はフォークボールが落ちたことで宇沙美の期待に答えられると思い、薄く笑う。

 

(見ててよ、父さん! 僕は負けない! 父さんに教わったこのフォークボールで……一緒に未来を掴むんだ!)

 

 2球目もフォークボールを投げたところで、狙っていたかのように小森がバットを振り切る。

 ボールは三塁線上を強い打球で転がっていき、清水、長谷川、前原とホームに帰ってくる。

 小森は二塁で止まり、走者一掃のタイムリーツーベースとなった。

 

「よっしゃー! これで8点目!」

「すげーぞ小森ぃ! あのフォークを小森が打ちやがった!」

 

 三船リトルが盛り上がる中、球太はマウンドで膝をついてうなだれていた。

 

「う……打たれた。僕のフォークが落ちなかった」

「宇沙美……」

 

 球太のベストのフォークボールが打てたのではなく、変化量があまりなかったため小森も打つことが出来たというのが正確だった。

 しかし結果として打てているので、そのことに気付いていた安藤、大地、吾郎は何も言わなかった。

 

「ええい! みっともない! 立たんか球太!」

 

 球太は宇沙美の怒鳴り声に顔を上げる。

 

「交代なんかさせんぞ! 自分で蒔いた種は自分で刈り取れ!」

「は……はい……」

 

 そして4番の吾郎が打席に入る。

 ここで宇沙美が指示を出す。

 

「こいつは敬遠だ、球太! こいつと5番を敬遠して、6番の雑魚を打ち取ればいい!」

「なにぃ!?」

「8点差で敬遠……? そんなことをする意味はあるのか?」

 

 安藤は疑問を持っていたが、ほぼ勝利は揺るがないので何も言わなかった。

 球太は指示に従って敬遠をする。

 吾郎はその様子を見て、イライラがピークに達した。

 

「けっ! 超つまんねー野郎だぜ!そんなに親父の言いなりで野球やっておもしれーのか!?」

「な……何……!?」

「ムカつくんだよ! 親のご機嫌取るために野球やりやがって! お前一体誰のために野球やってんだよ!」

 

 突然の吾郎の暴言に三船リトルだけではなく、戸塚西リトルのメンバーも困惑する。

 宇沙美はすぐに反論する。

 

「お、おい審判! 注意しろ! 選手としてあるまじき中傷、挑発だ!」

「こ、こら! やめなさい! スポーツマンシップに反する言動だぞ!」

「……そうかなぁ? 試合中に点を取られた息子を殴るヤツのほうが、俺はよっぽどスポーツマンシップに反していると思うけどね」

 

 吾郎が審判に注意されても声の音量を抑えることなく反論する。

 大地は止めようか悩んだが、笑って見守ることにした。

 これは必要なことだと思ったのと、大地自身が思っているのと全く同じだったからだ。

 

「うるさい! 貴様に何が分かる! たとえ才能に恵まれていても、お前のような夢も計画性もないやつは結局くだらん人生を送るんだ!」

「……まぁいいや。あんたら親子の人生なんかどーだって。そうやっていつまでも親父の野球ロボットをやってりゃいいさ。

でもどんなに高性能なプロ野球ロボットになれたとしても……仲間と励まし合ったり喜びあえたりできないなら────俺はその方が百万倍くだらない人生だと思うね」

 

 吾郎の言葉に球太はハンマーで叩かれたかのような衝撃を受けた。

 宇沙美が吾郎を退場にしろと言っているが、審判は無視をしてプレイ続行を指示する。

 

「い、言いなり……ご機嫌を取るため……」

「どうした球太! 早く敬遠をしろ! わしの言う通りにやっていればお前は勝てるんだ!」

 

(ち……違う。ぼ、僕は父さんの野球ロボットなんかじゃない!!)

 

 球太は振りかぶり、渾身のストレートを投げ込む。

 吾郎は待っていたとばかりにバットを振るが、ボールの勢いが勝っていたのか前に飛ばすことが出来ずファールとなる。

 手のしびれを感じ、嬉しそうな顔をする吾郎。その様子を見て球太も嬉しそうな顔をする。

 

「ぬぐぐ…… ピッチャー交代だ! 失せろ球太! わしの言うことを聞けんやつに用はない!」

 

 宇沙美がピッチャー交代を進言しながらマウンドに歩いてくる。

 球太は宇沙美の怒り顔に怯えながらも何かを言おうとするが、

 

「何も聞く必要はない。下がれ! お前にもう用はない!」

「ぼ、僕抑えるよ! フォークはダメだけど、真っ直ぐでも十分あいつを抑えられるよ!」

「そんなことはどうでもいい! わしはやつを敬遠しろと言ったはずだ!

監督の指示に従えんやつを使うわけにはいかんね! おい審判……ピッチャーとサードを交代だ! 松岡! サードに入れ!」

「は、はい!」

「と、父さん!」

 

 球太の声を無視してベンチの戻ろうとする宇沙美。

 サードが呆然としている球太に声を掛ける。

 

「う……宇沙美……」

「い……嫌だ」

「何?」

 

 球太の反抗的な声に後ろを振り返る宇沙美。

 球太が宇沙美のところまで歩いていく。

 

「ぼ、僕はずっと父さんの言うとおりにしてきた……サッカーもダメ。ゲームや漫画も野球のものだけ……。

学校の友達と仲良くするのも禁じられて、いつも僕は父さんと野球するだけ。

リトルですら1人だけ贔屓(ひいき)されて、僕はチームの誰とも親しくなんかなれない……」

「ふん、それがどうした! そんな犠牲は当たり前だ! それらと引き換えにお前はもっと大きな勝利を手にするんだ!!」

「でも僕だってもっと楽しく野球をやりたいんだ! 1人ぼっちじゃなく、チームのみんなと泣いたり笑ったりしながらみんなで勝利を手にしたいんだよ!」

 

 泣きながら宇沙美に必死に訴える球太。

 その言葉を反抗と受け取ったのか、宇沙美の顔はどんどん険しくなる。

 しかし、球太の言葉は止まらない。

 

「僕は本田君と三船リトルの人達に教えられたんだ!

そして……今の本田君の打席で、僕は野球をやって初めて心の通った素晴らしい真剣勝負が出来ると思ったんだ!

変化球(フォーク)なんか使わないでも……。だから代えないで!

敬遠する作戦も分かるけど……僕に野球の本当の楽しさを体験させてよ!!」

 

 精一杯の球太の叫び。これは心から出た、初めて父親へ伝える本心でもあった。

 しかし、その言葉は宇沙美へは届かない。

 全員の前で恥をかかされたと思った宇沙美は真っ赤になりながら球太に迫る。

 

「た、たわけたことを……!! 何がみんなと楽しくだ! 何が心の通った勝負だ!

マウンドでは誰しも孤独なんだよ! その恐怖に打ち勝てる精神力を身につけるために、わしは友情ごっこを否定しているんだ!

まだわしが甘かったよ! その辺をもっと厳しく叩き込まなきゃ分からんらしいな、このバカ息子は!!」

 

 宇沙美は右手を振りかざし、球太を殴ろうとする。球太はまた殴られると思い、目を瞑る。

 しかし、いつまでも殴られないので目を薄っすらと開くと、そこには右腕を2本のバットに抑えられて動けなくなっている宇沙美がいた。

 そして、バットで宇沙美の腕を抑えている吾郎と大地の姿があった。

 

「よせよ、もういいだろ! その辺にしとかねーと、しまいにゃ俺もみんなもブチ切れるぞ!」

「な……何!?」

「あなたは怒りで周りが見えていないようですね。全体を見回してみてください」

 

 吾郎と大地の言葉で周りを見渡す宇沙美。

 そこには呆れた顔をした審判、今にも飛びかかりそうな三船リトルと戸塚西リトルの子ども達。

 そして、立ち上がりながらヤジを飛ばし続けて、全体の雰囲気が悪くなっている観客席の姿があった。

 

 宇沙美はその様子を見て、困惑し始めた。

 審判はため息をつくと、宇沙美に交代は認められないのでベンチに戻るように促す。

 

「何だあんた……! 審判が自分勝手にそんなジャッジをして良いのか!? それで負けたらどうしてくれるんだ!」

「勝ち負けではない! リトルリーグの理念は、健全で礼儀正しい子供を育て、野球を通じてチームワークとフェアプレーの精神を授けることを基本としているんです!

あなたの言動がそれにふさわしいですか!? スパルタは自由ですが、あなたのはただの恐怖政治でしょう!」

 

 何も言い返せずに立ち尽くす宇沙美。

 審判が選手にこの状態のまま試合再開するので元の守備位置に戻るように促す。

 宇沙美はずっとその場にいるわけにもいかないので、うつむきながらベンチに戻る。

 

「へえ……リトルってそんな目的があったんだ……なーんかおじさんにかっこいいところ持っていかれちゃったな」

「他人事じゃないよ。君は少し礼儀を学びなさい!」

 

 審判に軽口を叩く吾郎を注意する審判。

 大地はその様子を見て、苦笑いするのであった。

 




「わしの言う通りにやっていればお前は勝てるんだ!」

……8対0なのですけども。

「それで負けたらどうしてくれるんだ!」

……8対0なのですけども。


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