MAJORで吾郎の兄になる   作:灰猫ジジ

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第四十四話

(父さん……)

 

 試合は再開されたが、ベンチの椅子に座ったまま、うなだれている宇沙美を見る球太。

 すると、野手から球太に声が掛かる。

 

「宇沙美! 大丈夫だ! お前なら抑えられるぞ!」

「頑張れ宇沙美! 俺たちは上手くないけど、どんな打球も身体で止めてみせるさ!」

「み……みんな……」

 

 ノーアウト二塁、カウントがワンボール、ワンストライクで試合が再開される。

 

(こんな……こんな気持ち初めてだ……)

 

 球太は涙が流れるのをうつむきながら隠す。

 三船リトルのベンチでは、安藤が椅子に立てかけられた茂治の写真を見ていた。

 

(私自身、苦い経験があるが、あなたのような素晴らしい父親を持った彼らにしてみれば……きっと球太君(あのこ)のことが放っておけなかったんでしょうな……)

 

 宇沙美は球太の言葉をベンチで座りながら思い出していた。

 あそこまで明確な反抗をされたことがなく、自分の意志をそこまで主張されたことはなかったからだ。

 

(違う……違うんだ球太! そんな平凡な欲求(楽しく野球をやりたい)は今のうちに捨てておかなきゃいかんのだ!

これから先、その優しさはいつか必ず仇になる! 情を捨て、もっとシビアに冷静に、自分をコントロール出来た者だけが人生の勝利者となるのだ!)

 

「ストライクツー!」

「「「な、なにぃ!?」」」

 

 審判と三船リトルのメンバーの声で顔を上げる宇沙美。

 そこには吾郎をストレートで空振りにしている球太の姿があった。

 

(速いな……それ以上にストレートに強い吾郎を空振りにするなんて、なんて気持ちがこもった球を投げるんだよ…)

 

「……まいったね、こりゃ。下手に挑発なんかしないで、大人しく敬遠されておきゃ良かったかなぁ?」

 

 大地は吾郎が空振りしたことに驚き、吾郎自身もまさかここまで吹っ切れた状態のストレートを球太が投げてくるとは思っていなかったため、挑発したことを後悔していた。

 逆に戸塚西リトル側は非常に盛り上がっていた。野手が球太に声を掛け、励まし、チーム一丸となろうとしていた。

 

(父さん……僕は負けないよ! 何も犠牲にしなくても勝てるんだ! 誰からも祝福されない栄光なんて、本物の栄光じゃない!)

 

 球太の球は更に勢いを増していた。

 吾郎はバットを振るが三船リトルベンチ側に打ち上げてしまい、あわやサードフライになりそうだった。

 「うひ〜! あぶねぇ〜!」と顔を青くしている吾郎を見て、宇沙美は不思議な気持ちでいっぱいだった。

 

(なぜだ……データ上ではストレートに強い本田なのに、完全に押されている……。

こんなに力のある球を投げる球太は今まで見たことがない! 一体どういうわけなんだ!?)

 

 宇沙美は今まで理解が出来ていなかった。データ以上の結果を出す子供たちの潜在能力に。

 そして、一試合ごとに成長していく子供たちの可能性に。

 だが、チームメイトに声を掛けられて力を増している球太を見て、ようやく気付き始めていた。

 

(ま……まさか()()()()()が……? あの子の眠っていた力をも引き出したというのか!?)

(みんなが僕に力を与えてくれる……! もう父さんを喜ばせるためだけじゃない! 僕は僕自身のために────この勝負に勝つ!!!)

 

 球太は自身の持つ全てを賭けて、全力のストレートを投げた。

 それは真ん中高めの絶好球ではあったが、野球を始めてから自身最高のストレートだった。

 これなら誰にも打てないとそう確信した球太。

 

 しかし────

 

 

 

 

 

 

 

 

 大きな打球音とともに、吾郎はそのストレートをバックスクリーンに叩き込んだ。

 それはリトルリーグ用に作られたホームラン用のフェンス越えただけではなく、得点ボードに当てたのだ。

 吾郎はバットを置いて、静かにベースを回っていく。そして、ホームベースを踏んだ先で、

 

「ナイスバッティング、吾郎」

「……おう」

 

 吾郎と大地はハイタッチを交わしたのであった。

 その瞬間、球場全体が最高潮に盛り上がり、歓声が舞い上がった。

 三船リトル側のベンチからも選手が出てきて、吾郎を出迎える。

 

「う……宇沙美……」

 

 バックスクリーンを見て呆然としている球太に、サードを守っている松岡が後ろから声を掛ける。

 すると球太は後ろを振り返り、舌を軽く出して笑った。

 

「ごめん……打たれちゃった……」

 

 その様子を見て、他のチームメイトも声を掛ける。

 10対0でもまだ試合が終わったわけではない。これから逆転してやろうという気持ちが高まっていく。

 そして、ノーアウトランナー無しで大地の打席が回ってくる。

 

(そうだ。まだ終わっていない! これから3人を抑えて、逆転すればいいだけの話だ!)

 

 球太に力がみなぎっていく。

 決してフォークボールを投げられるようなベストの状態ではないが、ストレートでの勝負なら今度は勝つと言わんばかりの顔つきをしていた。

 大地は警戒しながらも、バットを構える。

 

 

 

 

 

 そして球太が再度投げた渾身のストレートを────大地は一振りでレフトスタンドに運んでいった。

 

 

 

 

 

 

 吾郎と同じく静かにベースを一周回って、ホームに帰ってくる。

 ベンチ前には吾郎が待っていた。

 

「あの球をあんな打ち方されたら、手こずっていた俺が格好悪いじゃんかよ。……ナイスバッティング」

「……ああ」

 

 2人は笑顔でハイタッチをした。

 そして先程の吾郎のときと負けないくらい大きな歓声が球場内を包んだ。

 

「な、なんだあいつら!?」

「三船リトル……ついに強豪チームとして復活だな!」

 

 さすがの球太も2連発でホームランを打たれるとは思っていなかったが、自然と笑みが溢れていた。

 吾郎と大地のホームランを引きずることなく、6番以降をストレートでねじ伏せる球太。

 しかし────

 

 

「ストライク! バッターアウト! ゲームセット!」

 

 大地が打者3人を抑え、試合終了となった。

 結果は11対0で三船リトルのコールド勝ちであった。

 

 

 

 試合終了の挨拶の後に宇沙美と球太が会話をしていた。

 

「自業自得だ」

「……ごめんなさい」

「……もういい。早く着替えろ。風邪を引くぞ」

「……と、父さん! 僕、本当に野球をやっていてよかったよ! ありがとう、父さん……。僕に野球を教えてくれて…」

 

 宇沙美は球太の言葉にハッとした。

 そして目に涙を浮かべたが、誰にもバレないように拭い去る。

 

「持ち上げてもダメだぞ!監督命令に逆らったんだからな! これから……みんなで飯でも食いながら大反省会だ! ……わしも含めてな……」

「「「「「はいっ!!」」」」」

 

 大地達は次対戦するときはもっと手強くなっているであろう戸塚西リトルに負けないように、もっと練習しようと心に誓うのであった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「今日もやったわね! 2試合連続でコールド勝ちだなんてすごいじゃない! しかも2人ともノーヒットで抑えたんでしょ!?」

「とりあえずもう疲れたから先に風呂入りたいよー。大地、俺先に入るね」

「あ、吾郎、ずりーぞ!」

 

 その時、電話が鳴り、桃子が電話に出る。

 

「大地ー! 安藤さんからお電話よー!」

「え、分かったー! 吾郎! 俺も入るから、先に身体とか洗っておけよ!」

 

 大地がユニフォームのまま、電話に出る。

 

「はい、大地です」

「あ、大地君かい?」

「はい、どうしましたか?」

「じ、実はね……3回戦の相手が決まったんだよ!」

「もしかして……横浜リトルですか……?」

「え、な、なんで分かったんだい!?」

「あまりにも慌てていたので、多分そうかなと」

 

 大地は原作知識があったので、そうなるであろう(次の対戦相手が横浜リトルである)ことは分かっていた。

 だから慌てずに受け入れることが出来ていた。

 電話後に風呂に先に入っていた吾郎に横浜リトルが次の対戦相手だということを伝えたところ、初めは驚いていたがすぐに笑いながら話を受け入れていた。

 

「へっ! ちょうどいいじゃん! こっちも全力全開で戦えるし、相手にとって不足はないぜ!」

「だな! 次の先発は吾郎だからね。……まぁ打たれても俺が点を取るから安心してよ」

「よし! 絶対に勝とうぜ!」

 

 

 2人はお風呂に入りながら、桃子に怒られるまで横浜リトル対策について話し合っていたのであった。

 




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