MAJORで吾郎の兄になる   作:ねここねこねこ

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涼子回です。



第四十五話

 大地と吾郎が風呂を出て、夕食を食べたあとに電話が鳴る。

 桃子は少し気分を弾ませながら電話を取る。

 大地はその姿を見て、バットとグローブを持って吾郎に声を掛ける。

 

「ご、吾郎。これから外で野球でもしないかい?」

「はぁ!? 何言ってんだよ。今外だとボール見えないだろ! やるなら素振りだけだ、素振りだけ!」

 

 決して暗いから野球の練習をしたくないとは言わない吾郎。

 その言葉に感謝しつつ、桃子に気付かれないようにそっと部屋を出ようとしたところで、大地の肩に手が乗る感触があった。

 

「だ・い・ち♪ 彼女から電話なのにどこに行こうっていうのかしらぁ〜?」

「あ、いや、その……素振りに行きたいなって思って……」

「何言ってんのよ。涼子ちゃんから電話きてるんだから、ちゃんと出ないとダメでしょ!」

 

 満面の笑みで大地の顔を見ている桃子。

 大地はため息を吐くと、「分かったよ…」と言って電話に出る。

 

「はい。大地です」

「あ、大地君? 涼子です」

「うん。涼子ちゃん、どうしたの?」

「えっとね……今日の試合お疲れさま! そしておめでとう!」

「ああ、ありがとね。涼子ちゃん達はシードの初戦で勝ったみたいだね」

「うん……それでね──」

 

 涼子は大地と今日の試合についての内容についてお互いに話していた。

 大地が先発で勝利したことを伝えると、自分のことのように喜んでくれたことは大地にとって少し恥ずかしさもあった。

 涼子も最終回だけ投げたということだった。

 

「そうなんだね……次は……俺達の対戦だね」

「うん……お互いに負けないように死力を尽くしましょうね!」

「そうだね!」

 

 涼子がいつもこういった(野球関係の)電話を掛けてきてくれるのであれば、大地としてもやぶさかではないだ。

 だが、それだけでは終わらない──というよりも、いつも野球の話はあまり出ない──のが涼子との電話だった。

 

「あの……それでね……」

「うん、どうしたの?」

「来週の水曜日、祝日で学校休みでしょ? ……よかったらどこかに遊びに行かないかなぁ〜って」

 

 野球漬けの毎日で、しかも来週横浜リトルと対戦があるからこその貴重な祝日(練習時間)なのだが、涼子は練習後でいいから遊びに行きたいと大地を誘ってきた。

 大地は断ろうかなと思っていた。来週の対戦相手と遊ぶというのは、あまり良いとは思えなく、なるべく練習の時間を取りたいとも思っている。

 少しの間があったため、断られると思った涼子が慌てて言葉を追加してきた。

 

「あ、あの、えっと……そう! バッティングセンターとかキャッチボールとか野球するなら……来週の対戦相手でもまだ大丈夫でしょ? ……だめ……かなぁ?」

 

(まぁ……それなら断る理由もないか。バッティングセンターにもちょうど行こうと思ってたし)

 

 大地は涼子に了承の返事をする。

 電話越しに大きな声で「え!? 本当に!? やったぁぁぁ!!」と聞こえ、思わず受話器を耳から離す大地。

 そして待ち合わせ時間と場所を決めたところで、桃子から爆弾発言が飛んできた。

 

「あら、涼子ちゃんと遊びに行くなら、うちに誘ってもいいからね♪」

「「えっ!?」」

 

 その場にいた大地はびっくりして振り向き、受話器越しの涼子も驚きの声を上げる。

 桃子の声は涼子に聞こえており、まさかそうなると思っていなかったのでとても驚いていたのであった。

 

「ちょ、か、母さん! 勝手なこと言わないでって!」

「別に良いじゃないのよ。私も大地の彼女に会ってみたかったし!」

「だ、大地君の……か、彼女……」

 

 涼子は同じ言葉を繰り返したままそのまま固まってしまい、大地が声を掛けても反応を全くしなかった。

 5分ほど声を掛け続けて、ようやく正気に戻った涼子。

 大地は心の中でため息を吐きつつ、涼子との電話を終えたのであった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 そして水曜日の祝日。

 三船リトルは午前中だけグラウンドを使って練習したあと、解散した。

 そのときに今週末の三回戦が横浜リトルだと聞いて、五年生は初めだけ落胆していたが、そのあとすぐに勝つ気満々の発言が出たので大地は安心していた。

 大地は一旦家に帰り、お昼を食べて待ち合わせ場所に向かう。

 

「大地君! お待たせ!」

「ううん、俺も今来たところだよ」

 

 涼子相手(小学六年生の女の子)にデートで使うフレーズベスト10に入りそうなセリフを使ったことに、大地は少し落ち込む。

 だが、今は自分も小学生なんだと言い聞かせて、頭を切り替えることにした。

 

 バッティングセンターではお互いを見つつも自由に打つ。

 ただ、涼子はピッチングを中心にやってきたせいか、あまり打つほうが得意ではなさそうだったのでアドバイスをする大地。

 

「そうそう。コンパクトにスイングすればボールは打ちやすくなると思うよ」

「あ、本当だ!」

 

 涼子は筋がとても良く、大地も教えていて楽しかった。

 あとで、次の対戦相手だということを思い出して反省するが、野球好きな人に教えたことに後悔はしていない大地だった。

 そしてバッティングセンターのあとは、近くのファストフードのお店に入ってポテトやハンバーガーを食べながら話をする。

 

「やっぱりバッティングセンターは気持ちいいね! ストレス発散にもなるし!」

「そうだね。やっぱり野球って楽しいなぁ……」

 

 お互いに楽しく野球談義をしていると、時間が経つのは早い。

 夕方になってきたので、そろそろ帰ろうかなと大地が思っていると、

 

「あの……今日って大地君の家に行ってもいいの……?」

 

 思わず飲んでいたコーラを吹き出しそうになるが、必死に我慢した大地。

 桃子のいたずらを本気にしていた涼子は期待を込めた顔をしている。

 

「えっと……ほら! 涼子ちゃんのご両親も心配するし!」

「うちの両親は大丈夫よ。……むしろ大地君を連れてこいって言ってたくらいだし」

 

 小さな声だったため、後半の言葉が聞こえていなかったが、向こう(涼子)の親も許可出しているということに更に慌てる大地。

 「……ねぇ……だめ?」と上目遣いで言われてしまったら、さすがの大地も断ることが出来なかった。

 そして2人でお店を出て、大地の家に行くのであった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「ただいま」

「お、お邪魔します……」

 

 少し緊張した涼子の声を聞いた途端、奥の方から2つの足音が響いてきた。

 さすがに本当に家に来るとは思っていなかったので、桃子も吾郎も驚いていた。

 

「り、涼子ちゃん!? 本当に来たんだ!?」

「あなたが涼子ちゃんね! 大地と吾郎の母です。よろしくね♪」

 

 「ささ、上がって!」と言いつつ、涼子を部屋に通す桃子。

 その勢いに涼子も驚きながらも、大人しくついて行く。

 リビングに座ると、すぐにお茶が出てきたため、涼子は緊張を紛らわせるために一口飲む。

 そして部屋の周りを見渡すと、野球用品などがたくさん置いてあった。

 

「す、すごいね……」

「ああ、俺らで使う物もあるんだけど、おとさん……父親が使っていたものとかも置いてあるんだよね」

「お父さんが……使っていたの?」

「そう。3年前までプロの選手だったんだけどね。ほら、そっち(アメリカ)でも話題になってたと思うんだ。ギブソンのデッドボールで死んじゃった日本人選手がいたって……それうちの父親なんだよ」

「……え?」

 

 涼子は大地のカミングアウトに驚いて言葉を失う。

 自分が尊敬していた選手(ギブソン)がデッドボールで日本人選手を死に追いやったということは知っていた。

 ただ、それに対して涼子は避けられなかった相手(茂治)が悪いと思っていたのだ。

 

 その選手(茂治)の子供がまさか大地だとは思っておらず、今回の件を聞いて驚く。

 更に桃子は血の繋がった母親ではなく、実の母親も大地達が小さい頃に亡くなっていたことを聞き、更にショックを受けた。

 

(わ、私……何も知らないのに……大地君のお父さんが亡くなったのは本人が悪いって一方的に思っていたなんて……)

 

 涼子は自分でも気付かずに涙を流していた。

 その泣いている姿を見て、その場にいた大地と吾郎は混乱し、大慌てになる。

 2人の声で桃子もすぐにやってきて、涼子が泣き止むまで背中をさすってあげていた。

 

 少しの間泣いていた涼子だったが、落ち着くと桃子達に「ごめんなさい」と謝り、先程まで思っていたことを語りだした。

 話を真剣に聞いていた3人だったが、涼子が話し終わると口々に話し出す。

 

「涼子ちゃん……話してくれてありがとう。あなたは本当に優しい子なのね」

「気にしなくて大丈夫だよ! 俺らだって初めはギブソンに対して思うところはあったけど……あれは事故なんだってもう分かっていることだからさ」

「そうだね」

 

 吾郎が話したいことを話してくれたので、大地は同調するだけだった。

 そして涼子がここで素直に話してくれると思っていなかったので、大地としてもとても嬉しかった。

 

「怒って……ないんですか…?」

「私も大地も吾郎も怒ったりはしないわよ。むしろこれからも大地と仲良くしてあげてほしいわ」

「……って母さん! なんでそこに俺の名前がないのさ!」

「え、だって涼子ちゃんは大地の彼女でしょ? ……もしかして吾郎も好きになっちゃったのぉ?」

「何でそんな話になるんだよ!」

「そうだよ! 彼女じゃな……い……じゃん……」

 

 吾郎は桃子にからかわれてムキになり涼子は笑っていた。

 しかし大地が彼女じゃないと強く否定しようとしてところで、涼子が泣きそうな顔に戻ったので小さな声でしか最後まで言えなかった。

 桃子は意地悪な顔をしつつ、「あ、そうだ! 今日は夜ご飯食べていきなさいよ!」と涼子を誘う。

 そして女同士の話があるからと、強引に涼子を夕飯の手伝いに連れて行ってしまった。

 

「……なんか……大変なことになってるな……」

「お、おう。どうしようか……」

 

 気まずい状況になった吾郎と大地だったが、なんとか夕食を乗り切り、桃子の指示で家まで大地が送っていくことになった。

 帰りは大地のフォローもあり、そこまで気まずくならずに自然に話すことが出来た2人。

 それでもお互いに意識せずにはいられなかった日でもあったので、ぎこちなさはあった。

 

 涼子の家に着き、「お礼に家に上がっていって」と大地を家に招待しようとする涼子だったが、さすがに明日は学校があるからと断る大地。

 少し残念そうだったが、涼子は納得して諦めることにした。

 

 帰ろうとした大地が駅に向かって歩き始めたとき、涼子に名前を呼ばれる。

 振り向いた瞬間、左の頬に何か当たった感触があった。

 そしてすぐそばには涼子の顔があり、大地は何があったかを察する。

 

「今日はありがとう」

 

 そう言いながら家に入っていく涼子。

 大地は左頬に手を当てて、しばらく佇んでいたのであった。

 




なんかめちゃくちゃ長くなりましたね笑

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