MAJORで吾郎の兄になる   作:ねここねこねこ

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吾郎編と寿也編だと、今のところ吾郎編の方が面白いと思ってくださっている方が多いみたいですね。
両方とも楽しんでいただけるように頑張ります。

『MAJORで寿也の兄になる』という作品も掲載しておりますので、下記から併せてご覧いただけますと幸いです。
https://syosetu.org/novel/216813/



第三話

◇◇◇◇◇◇

 

 

『左ひじ内側の靭帯(じんたい)に異常が認められます。おそらくもう手術するしかないでしょう』

『手術!? 手術すれば治るんですか!?』

『ええ。ただし、今までの8割ほどの速球が良いところでしょう。当然根気よくリハビリをやっての話ですがね』

『い、今から手術して、完治にはどれくらい掛かるのですか!?』

『最低でも2年は掛かりますよ』

 

(30歳で2軍にいるこの俺を……球団がそこまで待ってくれるわけがない…)

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

(どうしてなんだ千秋。どうして神様は俺から何もかも奪っちまうんだ。なぁ千秋、天国の神様に聞いてきてくれよ。そうじゃなきゃ俺はもう……疲れ果てて一歩も動けねえよ)

 

 茂治は医者と話した内容を思い出していた。

 家族の写真を見ながら、ダイニングの椅子に座って項垂れる茂治。

 

「おはよう、おとさん」

「おとさん、おはよー!」

「大地、吾郎……」

 

 朝起きてきた大地と吾郎に若干気まずそうな顔をする。

 昨日酔っ払ってしまい、暴言を吐いてしまったことを覚えているからだ。

 

「これから朝ご飯作るから待っててね」

「俺も手伝うよ!」

 

 大地はそう言って朝食の支度をする。吾郎も最近は大地の手伝いをするようになり、パンを焼くくらいなら出来るようになっていた。

 簡単に用意も終わり、3人で食卓を囲む。

 

「すべり台も登れるし、渡り棒も簡単に渡れるようになったんだよ!」

「へぇ、すごいな」

「もっともっと運動して、おとさんみたいにすげー球を投げるんだ!」

「あのな、大地、吾郎」

「あ、そうだ! 昨日桃子先生がうちに来てカレー作ってくれたんだよ!」

「そ、そうか」

「吾郎。おとさんが話あるみたいだ。……聞こう」

 

 大地は吾郎を嗜めたが、吾郎も昨日の話であることは気付いていた。

 気付いていて、話を聞きたくないからわざと別の話題をたくさん話していたのである。

 

「それでおとさん……昨日の話だよね?」

「あ、ああ。昨日は酒を飲んでいて勢いで言ってしまったが、ちゃんと聞いてほしい」

 

 茂治は大地と吾郎に、肘を怪我してしまったこと、手術すれば治るがリハビリを2年以上しないといけないこと、球団はそれを待ってくれないから間違いなくクビになるだろうということを伝えた。

 

「う……嘘だ! おとさんがもう野球できないなんて……そんな嘘信じるもんかぁ!」

「ご、吾郎!!」

 

 吾郎は現実を受け止めることが出来ず、家を飛び出してしまう。

 大地は冷静に食事をして、茂治のことを見る。

 

「おとさん。話は分かったよ。吾郎のことは任せて」

「大地……」

 

 大地は準備をして吾郎を追いかけようと玄関に行く。

 茂治はその様子を見ていることしか出来なかったが、家を出る前に大地が、

 

「おとさん。吾郎の気持ちも分かっていると思うけど、俺も寂しいんだからね。……それにまだ諦めるのは早いでしょ」

「大地……それはどうい──」

「投手以外でも出来ることはたくさんあるってことだと思う。俺達はおとさんが野球をやっているのが好きだし、尊敬しているんだから」

 

 そう言って家を出ていく大地。

 大地の言葉を聞いて、頭の中で何度も繰り返す茂治。

 

(投手以外って……俺には投げるしか出来ないだろうが。それに今更……)

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「吾郎」

「……大地」

 

 大地は先に幼稚園に来ていた吾郎の隣に座る。

 お互いに何も話さない。そのまま5分くらい経った頃に、

 

「大地。おとさんの話って本当なんだよね……?」

「ああ、本当だろうね」

「おとさん……もう野球出来ないんだよね?」

「少なくともピッチャーは難しいだろうね」

 

 それを聞いて泣き顔になる吾郎。

 大地も吾郎にはきちんと現実を知って欲しかったので、あえて淡々と伝えたが、吾郎の気持ちは痛いほど分かっている。

 転生した元大人とはいえ、親に対しての尊敬や愛情は変わらないからだ。

 

「でもさ、野球ってピッチャーだけじゃないだろ? おとさんにもまだ可能性があるかもしれないし」

「……そうなの?」

「まだ分からないさ。おとさんがどう選択するかだと思う。でもさ、何を選んでも俺らだけはおとさんの味方でいてあげようよ」

「……うん、そうだね! 俺たちだけはおとさんの味方でいよう!」

「それでさ、ちょっと相談あるんだけど」

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「そうか……まあ君の方から言ってきてくれるのはありがたいよ。気の毒だが、ここへきて肘の故障では引退も仕方ない」

「はい……」

「今後の身の振り方についてだが、本田君は確か体育大学を出ていたよね?」

「え、ええ」

「それなら……トレーニングコーチか、スカウト部でも考えてみるよ」

「あ、ありがとうございます! よろしくお願いします!」

 

 茂治は横浜マリンスターズの球団事務所で代表と管理部長に引退すると話をしていた。

 球団側も仕方ないと諦めて、今後の身の振り方まで示してくれたことに感謝をしつつ、事務所を後にする。

 

 外に出て、横断歩道を渡っているときに茂治は車に乗った男に話しかけられた。

 

「おーい! 本田じゃねーか!」

「茂野……!」

 

 偶然マリンスターズで昨年最多勝を獲得した茂野と会い、カフェに立ち寄ることになった茂治。

 茂野は茂治の高校時代からの友人であり、同じ投手でもあるのだ。

 当時は茂治がエースで茂野が控えだったが、今では立場は逆転している。

 

「久しぶりだなぁ! そういや腰の具合はどうだ? そろそろ一軍に上がってくるって聞いたぜ?」

「それが……実は肘の靭帯(じんたい)を損傷しちまってな。引退することにしたんだ」

「引退!?」

 

 茂治はもう球団は待ってくれないこと、先ほど球団に行ってきたことも話した。

 途中、サインをせがんできた女性に暴言を吐いて泣かせてしまった茂野が、苦笑いでサインをするといった一幕もあったが、茂治は少し羨ましそうに「バチが当たるぞ……俺なんか誰にも覚えられずに引退しちまうんだからな」とぼやいていた。

 

「馬鹿野郎! 俺とお前はちょっと運があったかなかったかだけの違いでしかねぇ! 高校から一緒に野球やってきた俺の前で2度とそんな卑屈なセリフを吐くな! さすがに……怒るぜ」

「……すまん」

 

 茂治は気を遣って厳しくも優しい言葉を掛けてくれた友人に感謝をした。

 カフェから出て、子供を迎えに行く予定のため「送って行こうか?」と言ってくれる茂野の提案を断り、別れる。

 車を発進させる前に茂野が、

 

「……お前本当に野球やめちまうのか?」

「ああ。言ったろ? やりたくてももう物理的に不可能なんだよ…」

「……物理的か。だったら物理的に引退しない方法が1つだけあるぜ」

「なに?」

「バッターに転向して再起するんだ。野球はピッチャーが投げるだけじゃねーんだぜ」

 

 そのとき、大地が言った言葉が茂治の頭の中で思い出される。

 茂野は笑いながら冗談だと言って去っていった。

 

(バッターか……いくら高校で4番打っていたからといって、この年じゃな。あと5年若かったら、それも考えられただろうに)

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「さあみんな起きよー! お昼寝の時間は終わりですよー!」

 

 桃子先生や他の先生に起こされて、どんどん起きていく子供達。

 全員がちゃんといるかチェックしていると、桃子先生が大地と吾郎がいないことに気付く。

 グローブも無いため、幼稚園にはいないことがすぐに分かった。

 

「もし事故でも起きたら一大事よ!」

「はい! とにかく私は心当たりを探してきます!」

 

 園長先生に報告したあと、桃子先生は外を探す。

 昨日行った公園、2人の家、商店街など、どこを探してもおらず、途方に暮れて帰ってきた。

 

「あ! 星野さん! 2人はいた!?」

「いえ、どこにもいませんでした……」

 

 園長先生達も大地達が見つからないため慌てている。

 警察も呼んだ方がいいのではないかと話になっているところで、後ろから声がする。

 

「あの〜、うちの息子達を迎えにきたのですが……」

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「もう帰っても良いですよ、先生。あいつらは結構しっかりしてるからちゃんと帰ってきますよ」

「でも誘拐とか事故とか……」

 

 桃子先生は心配しすぎて、悪い方向に考えてしまっている。

 茂治は少しだけ苦笑しながら、

 

「多分俺のせいなんです。あいつらにとっては、俺が野球をやめるってことがそれだけ衝撃的だったってことなんです」

「……」

「でも俺達は全員、その現実を受け止めなきゃいけない」

 

 「ま、腹が減ってきたら帰ってきますよ」と茂治が言ったところで玄関のチャイムがなる。

 茂治は「ほらね」と笑いながら玄関のドアを開けると、そこには昼間に話をした球団職員達が大地と吾郎を背負っていた。

 

「か、管理部長! どうして2人を!?」

「疲れて眠っているだけだから、心配しないで大丈夫。そりゃあ疲れるのも無理はないけどね。夕方に2人で球団事務所まで来ちゃったんだから」

 

 大地と吾郎を下ろしながら話を続ける管理部長。

 

「2人しておとさんをクビにしないでって。吾郎くんの方は泣きじゃくっていたよ」

 

 手術すれば治るから待ってほしいと泣きながら頼む姿に心を打たれたと話す管理部長。

 だが、今の状態の茂治を残すわけにはいかないと優しく伝える。

 

「すまんなぁ」

「いえ……当然です」

 

 茂治は迷惑をかけた謝罪をし、管理部長はそのまま帰って行った。

 2人を抱えて茂治と桃子先生は布団まで運ぶ。そのときに桃子先生が、

 

「2人とも本当にお父さんと野球が好きなんです。いつも幼稚園で早く大きくなっておとさんと一緒にマリンスターズを優勝させるんだ! って言ってるんです」

 

 茂治にはその言葉が離れずに、布団に入っても眠れていなかった。

 妻である千秋、そして今度は野球までも奪おうとする死神に対して何も出来ないと思っていた。

 

(だが、それでいいのか……? 本当にそれでいいのか……?)

 

 そのとき、大地と茂野が言った言葉が再度頭に蘇ってくる。

 

 

『投手以外でも出来ることはたくさんあるってことだと思う。俺達はおとさんが野球をやっているのが好きだし、尊敬しているんだから』

『バッターに転向して再起するんだ。野球はピッチャーが投げるだけじゃねーんだぜ』

 

 

 茂治はその言葉を頭の中で何回も繰り返した。

 自身に出来ること、やりたいことを頭の中で思い出してちゃんと形にしていく。

 そして布団から起き上がり、バットを手に持ち外に行く。

 

(俺は……俺はまだ野球をやめるわけにはいかない! 俺がこの子達に残してやれるのは野球しかねえじゃねーか!)

 




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