詳細は活動報告に載せましたので、今後ともよろしくお願いいたします。
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山根の事件が終わってから約1年が経ち、大地達は中学三年生になっていた。
昨年の横浜シニアは全国優勝を果たし、ベストナインに大地、吾郎、寿也が選ばれていた。
そして、中学最後の大会の予選大会が始まる前日、練習が終わった3人は不意に後ろから話しかけられる。
「本田君と佐藤君。ちょっといいかな?」
後ろを振り返ると、そこには無精髭を生やした小太りの男性と、肩までの長さの髪をした20代そこそこの女性が立っていた。
「ん? 誰だ、このおっさん?」
「……吾郎。すみません、うちの弟が……」
「ああ、いいんだよ。覚えてないかな? 本田君達には3年前にも1度挨拶させてもらってるんだけどね」
苦笑いをしながら懐からそれぞれ名刺を取り出して3人に渡す。そこには”大貫”と”名倉”と書かれた名前があった。
そして、大貫は
「か、海堂高校!?」
「ああ、そうだ。ぜひ大地君と吾郎君、寿也君には
「我々海堂高校野球部は、あなた方を第25期特待生として正式にスカウトさせていただきます。
条件等はご両親とも話し合ってからだとは思いますが、先に皆様のご意思をお聞きしたく声を掛けさせていただきました」
吾郎が「そんなことあったっけ……?」と首をかしげていたが、寿也はかなり驚いていた。
海堂高校とは神奈川県屈指の強豪校であり、甲子園でもほぼ必ずベスト4以上に入っている高校だからだ。
そんな名門高校からのスカウト、しかも特待生となれば誰しもが憧れるのであった。
「えっと、とりあえず俺らは前回と同じく母親に相談をしてから決めたいです」
「あ、僕も両親に相談をしないと…」
「そうですか。ではまた今度具体的な話を聞かせてもらってもいいかな?」
「「はい、よろしくお願いします」」
大地と吾郎、寿也は大貫達と別れて、帰り道を駅に向かって歩いていく。
大貫のことを大地は覚えていたが、吾郎は「そんなこともあったかな?」レベルの朧気な記憶であった。
寿也はまさか海堂高校からスカウトされるだけでなく、本田兄弟が小学校時代にスカウトされていたことにも──きちんと考えると納得はできるが──驚きを隠せなかった。
「大地君達、海堂付属中学からもスカウトが来ていたんだね。なんで行かなかったの?」
「んー、実は母さんを1人にしたくなかったんだよね……。だから全寮制の海堂は選択肢になかったんだよ」
「そうだったのか……え、でもそれじゃあ……」
「うん、今回も多分断るかな。母さんに心配掛けたくないし」
「そっか。そうだよね」
「寿くんはどうするの?」
「んー、大地君達が行かないなら、僕もやめようかなぁ。せっかくなら一緒のチームで高校も野球やりたいからね」
寿也の言葉に嬉しそうな顔をする大地。一方の吾郎はその日、ずっと思い出そうとしていて、結局思い出したのは次の日の昼のことだった。
◇◇◇◇◇◇
海堂高校のスカウトから半月が経過する。横浜シニアは順調に大会を勝ち上がっていた。
基本は吾郎と寿也のスタメンバッテリーで、大地は登板感覚を忘れないように途中から投げたりする程度で、基本はショートに専念していた。
そして準決勝を勝ち上がった日、大貫達がまた大地達の前に現れる。
「やあ。何度もすまないね。この前の返事はどうかなと思って」
「大貫さん……ごめんなさい。俺と吾郎は海堂高校に行くことは出来ないです」
「……理由を聞いてもいいかい?」
大貫はなるべく明るい雰囲気を崩さないようにしながら──顔は怖いのだが──大地に理由を問いかける。
大地は小学校時代のときと同じく、桃子を1人にはしておけないということを正直に伝える。
「……そうか。それなら仕方ないな。だが
目指していないのであれば、どこの高校に行って楽しく野球をやればいい。だが、もし少しでもプロになる気持ちがあるのであれば、最善手を取るべきではないのかなと、私は思うよ」
大貫は無理に引き止めたりせずにその場を立ち去った。
海堂高校はここ数年、かなり強引な引き抜きを行っていることもある。本田兄弟や寿也にもそれをすることは出来たが、あえてそれはしなかった。
それは
(くそ! 出来れば俺の手で海堂にスカウトをして、プロになるためのレールを用意してやりたかった……)
大貫の相棒である名倉は、今までの大貫のスカウトのやり方とかなり違っており、困惑していた。
ここで簡単に引くような人ではないと分かっているからだ。
「お、大貫チーフ! 本田兄弟と佐藤寿也を簡単に諦めてしまってもいいんですか!?
これでは上から何て言われるか──」
「──いいんだ。責任は俺が取る。彼らは強引に縛ったとしても、きっと無駄だ」
「ですが……いえ、チーフの判断に従います」
「名倉……すまないな」
「大丈夫です。チーフのこういった面を見れたのは役得だと思っておきます」
からかうような口調で話す名倉を苦笑いで返した大貫は──タバコに火を付けながら──
◇◇◇◇◇◇
「はい、それではよろしくお願いいたします」
本田家を出ていく男が1人。
桃子は笑顔でスカウトを見送ると、家のドアを閉めてため息をついた。
「これで何校目よ……もう数えるのも馬鹿らしくなってきたわ……」
夏の大会で全国大会出場を決めた横浜シニア。そこからスカウトの人が毎日のように何校も挨拶に来るようになった。北は北海道から、南は沖縄まで。
それも仕方がない。大地と吾郎の進学先は高校野球界にとって──いや、日本の野球ファンにとって──注目の的になっていたからである。
リビングに戻った桃子は大地達に声を掛ける。
「大地、吾郎。スカウトの人、帰ったわよ。それで……返事はどうするの?」
「ん? 行かないよ? 俺らは三船高校に行こうかなって思ってるから」
「んー、俺は大地や寿也と一緒のところに行ければどこでもいいや」
「……その前に吾郎は三船にも落ちるかもしれないことを理解しておけよ」
「え!? そうなの!?」
「あくまで可能性の問題だけどな。夏の大会が終わったら勉強尽くしになることを覚悟しろよな」
大地の言葉を聞いて吾郎は「げっ!」と物凄い嫌な顔をしたが、今更大地から逃れられないことを分かっているので、すぐに逃げることを諦めた。
桃子はそんな大地の言葉を聞いて、少し不安そうな顔をする。
「本当にいいの? だってあなた達、プロ野球選手を目指しているんでしょ?
それなら強豪校に行った方がいいんじゃ……北海道とまではいかなくても、例えば神奈川だと
桃子は海堂の発言を出した後、スカウトに来た高校の中に海堂が無いことに気付く。
「そういえば海堂って小学校のときに来てくれたけど……今回は来てないわね?」
「ああ、海堂なら大地がとっくに断ってたよ。母さんを1人にしたくないって──」
「──吾郎! 余計なこと言うな……母さん、俺らは公立の三船に行くから大丈夫だって。ちょっと素振り行ってくるね」
そう言って、大地はバットを持って外に出ていった。
吾郎は大地に怒鳴られて少し気まずい顔をしたが、桃子が本音を知りたがっている様子だったので、ため息をついたあとに話し出す。
「大地はね、って俺もなんだけどさ……母さんを1人にしたくないんだよ。おとさんが死んじゃって、不安になってた俺達を引き取って一生懸命に育ててくれた母さんに、これ以上金銭的な負担も、精神的な負担も背負わせたくないんだよ」
「ま、これは大地の受け売りだけどね」と笑いながら寝転がる吾郎。
いつもと違う雰囲気の吾郎を見て、桃子は思わずショックを受けたような顔をする。
「それは……母さん1人だと頼りないからってこと? そのせいで……私のせいで
「い、いや、そうじゃなくてさ……」
吾郎は慌てて起き上がって桃子を見るが、桃子の目には涙が溢れていた。
茂治がいなくなってから、一生懸命に大地達を育てていたのだが、それが2人の負担になってしまっていると気付きショックを受けていた。
そして、そのまま外に走って出ていってしまう。1人取り残された吾郎は、「え、てかこれから夕飯じゃねーの……?」と、とぼけたことを呟きながらも桃子の後を追うのであった。
◇◇◇◇◇◇
「大地!」
「……母さん?」
息を切らしながら素振りをしている大地のところに来た桃子に対して、大地は素振りをやめて振り向く。
桃子は息を整えて、真剣な顔をして大地に話しかける。
「あなた達、好きな高校に行きなさい」
「え──」
「三船じゃなく、自分の夢を叶えるのに最大限活かせる場所で野球をしなさい。
あなたが母さんに気を遣っているのは分かるわ。でもね、私は
「……」
「あなた達を愛しているから。私の人生を使って、あなた達の全てを応援したいから。だから一緒に暮らしてきたのよ。
……私は
桃子が一生懸命訴えているところに、後ろから吾郎がやってくるのが大地の目に入る。
吾郎が大地に両手で謝るポーズをしているところで、全てを悟った。
初めは急に言われて、何がなんだか分かっていなかったのだが、自分達の気持ちを吾郎が話してしまったのだ。
「──母さん、分かったよ」
「だから…………え?」
「分かったって。俺らは自分達で行きたいと思った、プロになるのに良い環境の高校を選ぶことにするよ」
大地は頭の後ろを掻きながら、桃子の意見を素直に受け入れる。
桃子は感情を出して訴えているところに、急に自身の発言の受け入れがあったので少し困惑していた。
「まぁ……いずれは親離れしないといけないからね。だからさ…………」
「え?」
「…………近所迷惑だから、ここで大声出さないでください」
桃子は俯きながら顔を真っ赤にして、大地と吾郎に寄り添われて自宅へと帰っていったのであった。
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