MAJORで吾郎の兄になる   作:ねここねこねこ

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第六十五話

「ではトーナメント戦が終わったところで、次はEチームとの試合を開始する!

なお、初めに言った通り、Aチーム以外の3チームもEチームに勝てばセレクション合格とするので油断をすることはないように」

 

 北川の話を聞き、本当にもう一度チャンスが有ると確信したB、C、Dチームは安堵の表情をする。

 ルールとしては、先程と変わらずサドンデス方式。

 ただし、Eチームは3人のため、もし大地達が3人とも塁に出た場合は、残りのチームから代走を選び3塁にいた人が次の打者となる。

 

「まずはDチームとだ! 各自用意しろ!」

 

 審判はトーナメント戦のときと同じく大貫が務める。

 整列したときに一瞬だけ大地達を見て、声を掛けたい衝動に駆られるが、審判として公平にしなくてはいけないため、すぐに気持ちを入れ替える。

 じゃんけんの結果、先攻はDチームとなった。

 

「それでは始めるぞ! プレイボール!」

 

 大貫の合図で試合開始が告げられる。

 ポジションはピッチャーが吾郎、キャッチャーが寿也、そして大地はファーストとセカンドの間に立っていた。

 バント処理は吾郎が行い、大地がファーストに入るだけというシンプルな布陣である。

 

(何だよこれ……。こいつらがいくら全国優勝チームのメンバーだったとはいえ、5人対3人なんて(こんなの)野球になるのかよ……)

 

 Dチームの新見は試合内容の不平等さに不満を持ちつつも、打席に立つ。

 

(いまいち納得出来ない部分はあるが、こいつらに勝てば海堂に入れるんだ……遠慮はしないぜ)

 

 新見が構えたのを確認した吾郎は、ワインドアップからボールを投げ放つ。

 キャッチャーミットへ吸い込まれるボールと、ミットで受けた際に鳴った大きな音にその場にいた全員が静まり返った。

 新見はボールが通ったことすら認識できず、いきなり後ろに大きな音が鳴ったことで驚きのあまりビクッと震えた。

 

「ス……ストライク……!」

 

 寿也は「ナイスボール!」と何でもないような様子で吾郎へボールを返す。

 大地は腕を組んで立っているだけだった。

 

(な……なんだ、あのスピードは……?)

 

 大貫は真正面からボールを見ていたにも関わらず、自身の目を疑っていた。

 吾郎のスピードは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

(たしか夏の大会時にはMAXでも145km/hが限界だったはず……! だが今の球は確実に……)

 

 横で見ていた試験官達も驚きのあまり黙ってしまっていたが、その中の1人がなにかの指示を出すと、指示された男は校舎の方へと走っていったのであった。

 その間も試合は進み、試験官の男が手に機械を持って校舎から戻ってきたときには、ちょうど3死(スリーアウト)でチェンジとなったところだった。

 

「吾郎、ナイス!」

「吾郎君、ナイスピッチ!」

 

 大地と寿也は、吾郎を褒めつつもベンチへと戻っていく。

 Dチームは守備につこうとグラウンドへ向かうが、全員の顔が真っ青になっていた。

 

「お待たせしました、江頭チーフマネージャー。あれ? もうチェンジになってしまったのですか?」

「……ええ。スピードガンを使うのは、次の試合の時になりそうですね」

 

 江頭にスピードガンを渡した男は、周りの空気を察して黙って席に座った。

 そして1回裏の攻撃が始まる。打席には大地が向かっていた。

 

(な……なんだよ、あのスピード。あんなの打てっこないじゃんかよ……)

 

 新見はマウンドで泣きそうになりながらピッチング練習をしていた。

 新見だけではない。Dチーム全員が諦めたような顔で俯いてしまっていたのである。

 大地が打席に入り、構える。新見は目に見えぬ大地の威圧感に恐怖を覚えながらボールを投げるのだが──

 

 

 もはや敗色濃厚の雰囲気のボールでは大地を抑えることは出来ず、中途半端に投げられた新見のストレートをセンターのフェンス越えまで運ばれて、試合終了となった。

 大地はゆっくりとベースを回り、ホームへ到着した後に吾郎、寿也とハイタッチを交わすのであった。

 

 

 

「1対0でEチームの勝ち!」

「「「ありがとうございました!」」」

「「「「「…………」」」」」

 

 Eチームはきちんと挨拶をするが、Dチームはショックのあまりまともに声も出せないくらい落ち込んでしまっていた。

 同じ中学三年生でここまで実力が違うと見せつけられては、そこまで落ち込むのも仕方がない部分もあった。

 

「よし! 次はBチームとの試合だ!」

 

 北川の声にBチーム全員がビクッとなる。北川から「どうしたBチーム! さっさと準備しろ!」と言われて慌てて準備を始めるBチーム。

 しかしDチームとの試合を見たあとのBチームは何もすることが出来ず、先程と同じく1対0で敗退するのであった。

 この試合では、試験官達がスピードガンを見て、驚きの声を上げていた。

 

「まさか中学生……それもセレクションでこのスピードを見るとは」

「本田吾郎、やはり逸材だな!」

 

 スピードガンで出た数字は151km/h。それはこのグラウンドにいる全員を驚かせるには十分なスピードであった。

 そして、このセレクションに参加している全ての選手の戦意を喪失させるにも十分な数値であった。

 

「江頭さん、もうこの試合を行う必要はないんじゃないですか? 本田兄弟と佐藤寿也は特待生での入学を認めていいのでは──」

 

 試験官の1人が江頭に進言をするが、江頭に睨まれて黙ってしまう。

 

「いえ、まだですよ。彼らへの特待生としての入学条件は、セレクションで()()()()()()()()()()()()です。

まだトーナメント初戦で負けたクズどもに勝っただけです。これを勝ち上がった残りのチームに行ってこそ、彼らは資格を得るのですよ」

「し、しかし! これでもし他の学校へ行ってしまったらどうするんですか? 多少は譲歩してでも──」

「──いえ、どうせならもう少し見ましょう。なに、わざわざ海堂(うち)のセレクションに参加してきているんです。

1回特待生として断った彼らが、どれだけ()()を見せてくれるのかを見せてもらいましょうよ」

 

 江頭が悪い笑みを見せて、教頭や北川を含む試験官全員を黙らせる。

 何も言えない雰囲気の中、Cチームとの試合が始まるのであった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 じゃんけんの結果、Eチームが先攻となり試合がスタートする。

 1番打者は寿也。香取と唐沢はマウンドで作戦を練る。

 

「どうする?」

「……あたし達に出来ることは 高速スライダー(コレ)しかないでしょ? いくら奴らでも簡単には打てないはず……」

「Aチームのときみたいに粘ってきたら?」

「それこそあたし達の評価が上がるじゃない。シニア全国優勝メンバーでも()()()()()()()()()()()()()()()()ってね」

「……そうだな。じゃあストレートと混ぜながら決めていこう」

「オッケー!」

 

 唐沢は作戦を立てた後、ホームに戻っていき全員に声を掛けて座る。

 寿也はその様子を見て、バッターボックスに入るのであった。

 

「プレイボール!」

 

 試合が開始して、香取が構えて初球を投げる。

 

「ボール!」

 

 初球は外角真ん中にストレートを投げるが、わずかに外れてワンボールとなる。

 2球目。今度は外角低めに高速スライダーを投げて、ストライクとなる。

 

(よし! あたしの高速スライダーは初打席で打てる代物じゃあないわ!)

 

 3球目。同じコースのボール1個分外側へ投げた高速スライダー。

 これを寿也はバットを振る。香取も唐沢も引っ掛けたと喜びの顔をするが、寿也が打ったボールは右中間のフェンスを越えてホームランとなった。

 

「え……な、なんで……」

 

 香取はショックのあまり、マウンドで膝をついてしまう。

 今までの人生で高速スライダーを初打席でホームランはおろか、まともなヒットすらも打たれたことがなかったためである。

 唐沢も一緒の中学でバッテリーを組んでいて、香取の高速スライダーがどれだけ凄いものかを知っている。だからこそ、自信を持って最高のコースに投げこまれたボールを打たれてしまったことに同じくショックを隠せなかった。

 

 しかし、ゲームはまだ始まったばかりのため、まだ続けなくてはいけない。

 香取達はまだショックから立ち直れずにはいたが、次の打者へと気持ちを切り替える。

 そしてここからは、彼らにとって地獄のような出来事が始まるのであった。

 

 

 

 続く、大地、吾郎からも同じくホームランを打たれてしまい、3対0と更に点差が広がると、Eチームを止めることが一切できず、点差がどんどん広がっていくのであった。

 

「はあ……はあ……。な、なんでよ!!」

 

 半ば泣きながら投げた高速スライダーを大地が打ち、フェンスを越えていく。

 香取はそのまま泣き崩れてしまい、立ち上がることが出来なくなっていた。

 

(……もうダメだな。ありゃあ)

 

 大貫は試合続行不可能と判断し、キャッチャーの唐沢に確認を取る。

 唐沢は一瞬だけ香取を見て、残りのメンバーを見渡した後、大貫に頭を下げて試合終了をお願いするのであった。

 

「……分かった。まだ1回表だが、CチームとEチームの試合は続行不可能とし、Eチームの勝ちとする!」

 

 試合結果は17対0。Cチームはアウトを1つも取れずに敗退するのであった。

 その様子を江頭以外の試験官、A、B、Dチームの全員が可哀想な目で見ていたのであった。

 

(ふふふ……ふはははは! 素晴らしい! 素晴らしいぞ!)

 

 江頭は大地達の活躍を見て、心の中で歓喜の声を上げていた。

 海堂の特待生推薦を1回断ったことは気に食わないことではあるが、それでもわざわざ海堂のセレクションを受けに来るということは、他の高校の特待生の条件が納得できるものではないのだろうと考えていた。

 それであれば最上級の条件を出せば、大地達は喜んで海堂に来るに違いないという認識を持っていたのだ。

 

(1年目から一軍に上げて、レギュラーとして使ってやろう。その実力はあるし、1年から海堂(うち)のレギュラーになるだけでも十分なニュースになる。

それに加えて、本田兄弟の()()()()はまだまだあるからな……)

 

「それでは最後の試合を始める!」

 

 江頭が皮算用をしている間に最後の試合が始まろうとしていた。

 最後は海堂入りを決めたAチームとの試合である。しかしここで小森から待ったが掛かる。

 

「すみません」

「……なんだ?」

「この試合、僕たち(Aチーム)は棄権します」

「な、何を言っている! そんなこと認められるはずがないだろうが!」

 

 小森の突然の棄権宣言に対し、北川は認められないと一蹴する。

 

「ですが、正直に言ってAチームとEチームには明らかに大きな実力差があります。せめて僕達が9()()()()()()()()()()、勝負にもなるかもしれないのですが」

「なんだと──」

「──いいじゃないですか。それでやりましょう。最後はAからDの選抜チーム対Eチームの試合で」

「で、ですが、それではあまりにも……!」

「…………何か意見があるのですか?」

 

 小森の突拍子も無い提案に対し、江頭が賛成をしたことでまさかの選抜チーム対Eチームでの試合をすることになった。

 特待生が掛かっているEチームは、反対をすることは出来ない。大地はため息をつき、小森を見る。

 小森は大地と目を合わせると、リトル時代から変わらない笑顔で応えるのであった。

 

(小森め……やるじゃんか!)

(ごめんね、大地くん。僕はどうしても君達に勝ちたいんだ!)

 

 

 

 海堂高校野球部セレクション、その最後の試合が始まろうとしていた。

 




小森としてはなんとしても勝ち残りたいというのがあります。
まぁ……寿也が海堂入りしたら3年間補欠の可能性が高まりますからね。
卑怯ではあるんですけど、大地達も受け入れているので次回からは9人対3人での試合をお届けします。

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『MAJORで寿也の兄になる』という作品も掲載しておりますので、下記から併せてご覧いただけますと幸いです。
https://syosetu.org/novel/216813/

『テイルズ オブ デスティニー〜7人目のソーディアンマスター〜』という作品も掲載しておりますので、下記から併せてご覧いただけますと幸いです。
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