MAJORで吾郎の兄になる   作:ねここねこねこ

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第六十九話

 聖秀学院高校の入学式よりも数ヶ月前のある日。

 海堂高校の会議室で野球部首脳陣による緊急会議が行われていた。

 

「本日は、来年度入学予定だった特待生の内定辞退について話し合いたいと思います」

 

 ファシリテーターのスタッフが、会議の開始を宣言する。

 

「今回内定辞退を申し出てきた者は、薬師寺、大場、渡嘉敷の三名です。理由は全員、一身上の都合によりとのことでした」

 

 総監督の早乙女義治、一軍の現場監督である伊沢、二軍監督の早乙女静香、二軍トレーナーの早乙女泰造は黙って話を聞いていた。

 

「それで、彼らの進学先はどこの強豪校なのですか? 引き抜き疑惑で、その高校を高野連に訴えることも考えなくてはいけないでしょう」

 

 海堂の野球部長であり、チーフマネージャーの江頭は不機嫌さを隠さずにスタッフに質問をする。

 

「そ、それが……」

 

 スタッフは言葉に詰まってしまう。

 

「……なんですか? まさか彼らの進学先を調べられていないとでも?」

 

 江頭のひと睨みでスタッフは縮こまりそうになるが、必死に堪えて返事をする。

 

「い、いえ……高校は分かっているのです。ただ……」

 

 勿体ぶった言い方をするスタッフに、江頭の怒りメーターが更に上昇していく。

 

「彼らの進学先には()()()()()()()()()……」

「な、なんだと!?」

 

 江頭は高校さえ分かれば、あとは高野連に訴えるなり、高校側を脅すなりして解決できると思っていたのだが、野球部がない場所を選ばれてしまってはそれが出来ない状況になってしまっていた。

 スタッフの言葉に江頭は立ち上がったのだが、他の全員もまさかの出来事に目を見開いて驚いていた。

 

「……彼らの進学先の高校はどこなのですか?」

 

 先に落ち着いた二軍監督の静香がスタッフに質問をする。

 

「は、はい。えっと……()()()()()()というところです……」

「聖秀学院高校?」

 

 静香と泰造は高校名に覚えがないため、本当に野球部がないところなのだろうと考える。

 

「……そんな高校聞いたことないわね」

 

 泰造の言葉にほぼ全員が頷くが、江頭だけは違っていた。

 

「今、()()()()()()と言ったのか……?」

「は、はい……」

 

 江頭の剣幕に対し、恐怖を感じながらも必死に頷くスタッフ。その様子を気になった伊沢が、江頭に声を掛ける。

 

「江頭さん、高校名に聞き覚えがあるのですか?」

「……ええ」

 

 視線だけで人を射殺しそうな目をしながら、江頭は一言だけ答える。

 

「聖秀学院高校は、横浜シニアにいた本田兄弟と佐藤寿也が進学した高校ですよ……」

「…………!!」

 

 その発言で全員が全てを察した。本田兄弟達と海堂はセレクションなどの件で揉めており、スカウトに失敗していた。

 

「ふふふ……良い度胸ですね。本田兄弟と佐藤が薬師寺達を引き抜いたのでしょう」

 

 江頭は、この場にいる全員が思っていることを口にする。

 

「でも、所詮は新一年生でしょ? 海堂のカリキュラムもない、野球部としての設備も整っていない場所でやったところで、海堂(うち)に勝てるとは到底思えないのだけれど……?」

 

 二軍トレーナーの泰造がごく当たり前のことを話す。特待生三人と、シニアで優勝経験がある三人。確かに驚異に見えなくもないが、それは中堅から強豪レベルの話である。

 海堂のような名門校になると、同じような才能を持っている人間はどんどん集まってくる。それに最高のカリキュラムに最高の設備を用意しているからこそ、その才能は他校よりも伸ばせていると泰造は思っていたのだ。

 

「ええ……通常であればそうだと思います。ただ、本田兄弟と佐藤はそこらのレベルとは思わない方が良いかもしれません」

「……どういうこと?」

 

 スタッフの返答に、泰造は理由を話すように促す。

 

「えっと、私は今年のセレクションを見学していたのですが、その時の最終テストの試合で……本田吾郎が151km/hを出したのを確認しています。そして、兄の本田大地と佐藤寿也も同じくらいの実力があると思ってもらって構いません」

 

 まさかのスタッフの言葉に、再度江頭以外の全員が目を見開いて驚く。まだ伸び盛りの中学生で、そこまでのスピードを出す人を見たことがないからだ。

 もちろん才能も大切であろう。しかし、それ以上に練習環境が良くなくては、伸びるべき才能も伸びないのだ。

 この事実は、本田兄弟と佐藤寿也の才能が凄いということだけでなく、海堂にいなくてもその才能を伸ばせるだけの練習環境を作り出せるということを示していたのだった。

 

「……元々野球部がないところに進学されてしまっては、引き抜き云々どころの話ではなくなってしまうな」

 

 総監督の早乙女義治は、冷静に状況判断をして話す。同時に静香も口を開く。

 

「そもそも本田兄弟達をスカウト出来なかったのは、何が原因だったのですが? 私のところには結果しか来ていないのですけど?」

「それはあたしのところもね」

 

 泰造も静香の話に同意する。そして海堂高校野球部編成担当部長で、今回のセレクションの試験官長を務めていた北川を見る。

 北川は責任追及されまいと影が薄くなるように会議室の端に座っていたのだが、全員から注目を浴びてしまい、冷や汗が顔からテーブルに(したた)り落ちるほどの動揺をしていた。

 

「えっと……そ、それはですね……」

 

 ちらりと江頭を見るが、彼は冷静を装っている風に腕を組み、何も知らないといった様子であった。北川は汗を拭いながら、静香の質問に答える。

 

「む、向こう側との条件が合わずでして……」

「向こうの条件って何だったのよ?」

 

 静香の追及は止まらない。

 

「そ、それは……寮に住むことが出来ないといったことなど色々とありまして……」

「そんなのこっちの待遇次第でどうにでもなる条件でしょ? そんな程度で彼らを逃してしまうことのほうが──」

「いえいえ、他にもありましたよ。海堂側(我々)にとっても、断らざるを得ない()()()()()がね」

 

 北川が責められている中、静香の発言を江頭が遮った。

 

「重大な内容……?」

 

 静香が江頭の言葉を繰り返す。

 

「ええ。彼らはマニュアルに従わないであろうというのが、スカウト陣の考えでした。それで推薦を断ったのですが、セレクションにまで来ましてね。それで不合格にさせたということですよ……そうですよね、北川さん?」

「え…………は、はい! その通りです!」

 

 江頭にひと睨みされた北川は、すぐに江頭の話に合わせて相槌を打つ。海堂高校において、マニュアルは決して破ってはいけないものである。それを持ち出されると、静香も泰造も何も言えなくなるのだった。

 

「……分かりました」

 

 静香があっさりと引き下がったため、ホッとする北川。

 

「それでは現状は何も出来ないので、様子を見るということで。次の議題ですが……」

 

 議題が次の内容に変わっていたのだが、江頭は話を聞かずに大地達のことを考えていた。

 

(ここまで私に楯突いた人達がどうなったのか、彼らにも思い知らせてあげましょう……)

 

 

 

     ◇

 

 

 

「で、どこで練習するの?」

 

 入学式の次の日の放課後。渡嘉敷は、不機嫌そうに大地に話す。

 

「ああ。場所についてはもうちょっと待ってくれ。先に人数を確保して、部として承認させてもらわないといけないからさ」

「部としてって……まさか素人の()()()()を使うっていうのか?」

 

 薬師寺は、席に座っている男子生徒をちらりと見る。自己紹介はもう済んでいるので名前は分かっているのだが、素人を使うということに納得していない様子であった。

 

「一人だけ経験者がいるよ。本牧シニアでキャッチャーをやっていたやつ」

 

 大地はそう言いながら、一人の男子生徒を見る。そこには髪を短く切り、少し目つきが悪い生徒がいた。

 

「あいつ……たしか、田代って名前だったよな?」

「そうだな。結構上手いから、誘っておきたいんだよね」

 

 大場が田代の名前を思い出し、大地も出来れば先に勧誘しておきたいと話す。

 

「お、じゃあさっさと声掛けようぜ! おーい、田代ー!」

「え……ご、吾郎君!?」

 

 吾郎が遠慮なしに田代に話し掛けに行く。寿也はそんな吾郎を止めようするが、大地はその様子を見ているだけだった。

 

「……なんだよ?」

「お前、本牧シニアにいた田代で合ってるよな?」

「…………! そうだけど、何か用か?」

 

 まさか吾郎に名前を覚えられているとは思っていなかった田代は驚くが、すぐに冷たい態度で吾郎に用件を聞く。

 

「今、聖秀に野球部作ろうと思ってんだけど、田代も入ってくんねえか?」

 

 ストレートに吾郎が田代を勧誘する。吾郎としては、田代が断るとは思っていなかったのだ。

 

「…………」

「な? いいだろ? 一緒に甲子園目指そうぜ!」

「……断る」

 

 一言だけ伝えると、田代はそのまま席を立ち上がって教室から去っていった。吾郎はぽかんとした表情のまま、立ち尽くしていたのだった。

 その様子を見た渡嘉敷は肩をすくめ、辛辣な一言を吾郎に浴びせる。

 

「あーあ、断られちゃったよ。あんなストレートに勧誘して、入ってくれるヤツのほうが珍しいっての」

「なっ! じゃ、じゃあお前がやってみろ──」

 

 渡嘉敷の言葉に反発した吾郎が八つ当たりをしようとするが、大地が制した。

 

「吾郎、やめとけ。渡嘉敷も言い過ぎだ」

「……ちっ」

「とりあえず吾郎(お前)は、人の気持ちを考えて話しかけろよな」

 空気が若干悪くなっていたのだが、大地は吾郎に構わず話しかける。

「人の気持ちってなんだよ。中学まで野球やってたんだから、高校だって野球やるだろ!」

「俺らはそのために聖秀に来たんだけどな。じゃあ田代は()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「え……?」

 

 大地の言葉に、吾郎は言葉を詰まらせる。シニアまで野球をやっていたにも関わらず、わざわざ野球部のない高校に行く人間の理由はそこまで多くない。

 野球自体を辞めたか、野球部を作ろうとしているかなどである。大地は田代が聖秀に来た理由を知っていたが、ここであえて言わずに吾郎に考えさせていた。

 

「誰にでも、何かしら事情はあるんだ。それを知ろうとしないで、自分の都合だけで声を掛けても無理に決まってるだろ?」

「…………」

 

 吾郎は黙っていた。今まで、そこまで考えていたことがなかったためだ。

 

「とりあえず、田代の件は吾郎に任せるから。相手の事情もちゃんと考えて誘ってみろ」

 

 大地は、吾郎に田代の勧誘を任せると伝える。

 

「おい、本田兄。これでアイツを誘えなかったら、どうするんだよ」

「大丈夫だよ。吾郎ならちゃんと出来るさ。それよりも薬師寺、他の人達をどうするか考えようぜ」

 

 残りの藤井、内山、宮崎をどうやって誘うか考えようと話し合いを始めることにした吾郎以外のメンバー。

 

「…………」

 

 吾郎が黙って考えているのを横目に見ながら、大地は嬉しそうな顔をしていた。これで吾郎が少しでも良い方向に成長してくれたらと兄として願っていたのだ。

 

「……あれ? てかよくよく考えたらさ、本田兄が俺達を誘ったのって自分の都合じゃね?」

 

 渡嘉敷の指摘に全員が黙り、気まずい空気が流れるのであった。

 




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