聖秀学院高校へ入学した大地、吾郎、寿也の三人。
海堂高校へ入る予定だった薬師寺、大場、渡嘉敷の勧誘に成功した大地達。
聖秀学院高校野球部の設立を目指して田代、藤井、内山、宮崎に入部してもらうために勧誘をするのであった。
田代以外の勧誘を大地が中心に行うこととなった。まず大地が目を付けたのが内山だった。
放課後、帰り支度をしている内山に声を掛ける。
「えっと……内山君、ちょっといいかな?」
「君は本田君……だっけ?」
同じクラスメイトではあるが、まだ新入生として入学してから日も浅いため、全員の名前をフルネームで確実に覚えられているわけではない。
それでも大地の名字をきちんと覚えていてくれた内山に好感を持つ。
「そうそう。あそこにいる吾郎の兄で大地っていうんだ。よろしく」
「うん、それで……何か用?」
急に話しかけられたことに少し戸惑いながらも、大地に何用かを問う内山。
大地もなんと切り出していいか分からず、少しの間が空くが、意を決して率直に要件を話す。
「あのさ、内山君ってここで何か部活に入る予定はある? 良かったら俺らと一緒に野球でもやらないかな?って」
「……あ〜、そういうことか。野球……ね……」
少し嬉しそうな顔をした内山だったが、すぐに顔を伏せる。
「……あ、いや、ごめん。やっぱり無理だわ。野球なんてやったことないし……そんなことをしている暇もないし……」
最後の言葉を誰にも聞こえないようにぼそっと呟く内山。だが、大地にははっきりと聞こえていた。
内山は
「用はそれだけか? じゃあ俺はもう帰るから……」
それだけを言ってバッグを手に帰っていく内山。
しかし残された大地は断られたにも関わらず、諦めたような顔をしていなかったのであった。
◇
「兄ちゃん、お帰りーっ!! ……あ、あれ?」
ある家のインターフォンを鳴らした大地。そこから出てきたのは二人の小さな子供であった。
知らない人が目の前にいる状況に戸惑う子供達。兄だと思っていたのだから、それは当然だ。
「こんにちは。お兄ちゃんの同じクラスメイトなんだけど、まだお兄ちゃんは帰ってない?」
「う、うん……。買い物行ってるから」
「そっか。買い物なら、もうそろそろ帰ってくるか……な?」
大地が帰ってくるまで玄関前で待たせてもらおうか悩んでいたとき、横から声を掛けられる。
「本田……君? どうしてここに……」
「あ、内山君……ごめん、急に来て」
「……すぐそこの公園でちょっと待ってて。今、荷物を置いてすぐに行くから。」
内山はそう言うと弟と妹と一緒に家の中に入っていってしまう。この場で何かを言うことは出来ないと判断した大地は、指定された公園に向かって内山を待つことにした。
そして待つこと数分、ベンチに座って待っていた大地の前に内山が現れる。
「ごめん、待たせちゃったよね?」
「ああ、いや、大丈夫だよ。こっちこそ突然来ちゃってごめん……」
お互いに謝り合い、その場に少しだけ気まずい空気が流れる。
事情を分かっている大地ではあったが、きちんと内山の口から聞きたいと思い、先に口を開くことにした。
「あのさ……さっき教室で話していたことなんだけど、そんなことをしている暇もないって言っていたのはもしかして──」
「……ああ、そう……なんだ。俺さ、片親なんだよ。それで母親が働いているから、弟と妹の面倒を見なきゃいけなくて……部活とかやっている暇ないんだよね……」
「…………」
「中学まではまだ良かったんだよ。バスケ部に入っていたし。でも、日増しに大変そうになっていく母さんを見て、俺にも出来ることを手伝いしなきゃって……」
「……そっか」
事情を聞けば聞くほど、内山を誘うことに対して罪悪感を覚えていく大地。片親で弟を支えなきゃいけない兄の気持ちを痛いほど分かっている大地は、無理に誘うことは出来なかった。
「かっこ悪いよな……こんな理由で部活が出来ないなんて……」
「……ううん、そんなことないよ。俺もさ、内山君の家と同じような環境だからね……」
「えっ……、それって……?」
大地は自身の境遇を話すことにした。もちろん同情を誘いたかったわけではない。内山の気持ちを理解できた大地には、単純に自分のことも知ってほしかったのだ。
実の両親の他界。そこから親戚に利用されそうになったところを当時の保育園の先生が引き取ってくれたこと。
まだこれからいくらでも恋愛して幸せになれる年齢にも関わらず、
だから応援してくれている母親のためにも、自分の夢を叶えたい。そして、いつも無茶をする
「……ほ、本田君……それってうちの環境なんて目じゃないくらい大変じゃんか! なのに……なんで……?」
内山は大地の話を聞き、自分だけがそういった環境は無かったことを知る。
そして、自分以上に過酷な環境にいた大地に対して信じられないといった顔をした。
「そんなことないさ。母親に感謝しているところとか、助けてあげたいところとか、兄弟を支えたいと思っているところとか一緒だろ?」
ベンチから立ち上がった大地。やはりこれ以上、内山を誘うことは出来ないと判断した大地は家に帰ることにした。
「……ごめんな。大変なときなのに急に家まで来ちゃって……」
「ほ、本田君! 俺のことを説得しに来たんじゃないのか!?」
「……あはは。本当はそうだったんだけどね。大変だって分かっている内山君をこれ以上誘えないよ。あの時期の子供って親か兄貴が愛情を注いであげたほうがいいからね……」
大地は弟達によろしくとだけ伝えて家に帰ることにした。振り返ることなくそのまま駅に向かった大地。
内山はベンチに座って項垂れながら、ずっと何かを考えているようであった。
◇
「ただいま」
「おう、お帰り。内山はどうだったんだ?」
家に到着した大地は、吾郎に迎えられて家の中に入る。
吾郎は内山のところに行った大地がどういう結果だったのか気になっていたため、素直に聞いた。
「えっと…………ダメだった……」
「え……はああ!?」
軽く笑いながら勧誘に失敗したと言う大地に対して、吾郎は驚きの声を上げる。
大地が勧誘に失敗したということも驚きだったのだ。今まで大地の失敗という失敗を見たことがない吾郎は本当に驚いていた。
「な、なんでダメだったんだよ……?」
少し動揺しながらも理由を聞く吾郎。制服姿でソファーに座った大地がポツポツと理由を話す。
「──というわけでさ。俺にはこれ以上誘うなんて、無理だったよ。多分逆の立場でも断っていたと思うし」
「…………そうか。まぁそれなら仕方ねえな。後は藤井と宮崎を誘えれば九人にはなるんだし、それでなんとかするか!」
ダメだったものは仕方がないとすぐに次を考えようとする吾郎。そういったポジティブさには本当に救われる大地ではあったが、大地は大地で気になることがあった。
「そういう吾郎は田代の勧誘はどうだったんだよ?」
「え、俺か? 田代なら人数が揃うなら野球部に入ってくれるってよ」
「……え? は、早くない? 田代に何したの?」
「へっへっへ〜! それは秘密だ!」
どんなに聞いても、頑なに田代がOKしてくれた理由を話さない吾郎なのであった。
◇
次の日の朝、学校に来た大地の前に現れたのは内山であった。
「お、おはよう」
「内山君、おはよう。どうしたの?」
少し様子がおかしい内山に、大地は問いかける。内山は少しモジモジした様子で俯いていた。
そして何かを決心したのか、両手を強く握りしめた内山は顔を上げて大地を見つめる。
「あ、あのさ……俺……」
「う……うん……」
そこで言葉が途切れる。吾郎や寿也はもちろん、渡嘉敷達も何事かと見つめている。
「俺も……野球部に……入ってもいいかな……?」
「……え?」
「もちろん、妹の送り迎えや晩メシの支度があるから放課後に参加は出来ないんだ……でも、それでも本田君が迷惑じゃなかったらなんだけど、朝とか夜に俺だけでも野球のことを教えてくれないかな?」
大地としても予想外のことであった。内山は絶対に無理だと考えていたため、九人ギリギリで大会を勝ち抜く必要があると思っていた。
そこに内山が自分から野球部に入りたいと言ってくれたのだ。そのことにとても驚き、そしてとても嬉しく感じていた。
「お、おう! それなら歓迎、大歓迎だよ! これからよろしくな、内山君!」
「内山……でいいよ。これから同じ野球部なんだし……」
「そっか、俺のことも大地って呼んでくれ! じゃあ改めてこれからよろしく、内山!」
「ああ、よろしく。大地!」
こうして諦めていた内山が野球部に入部することとなった。現在の野球部員は吾郎が説得した田代を含めて八人となった。
吾郎は内山が野球部に入ってくれる様子を見て、笑みを浮かべていた。
(だよな……大地なら絶対に説得してくれると思ってたさ……あとは藤井と宮崎だけか……)
野球部を設立して甲子園に行くために、大地達は色々と動いていくのであった。
遅くなりまして、大変申し訳ございません。
昨年の投稿再開のすぐ後にPCのデータが全て消えてしまい、ずっとヘコんでいました。
ストックも消えてしまったので、今後の投稿はストックを作りながらゆるゆると行っていきます。
きちんと完結まで書いていきます。