MAJORで吾郎の兄になる   作:ねここねこねこ

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復帰してすぐの第七十話でデイリー8位になるとは驚きでした。
本当に皆様のおかげです。
ありがとうございます。



第七十一話

「君、清水薫ちゃんでしょ?」

「…………そうだけど? 誰?」

「俺さ、同じクラスの藤井だよー。覚えてくれていないかなぁ?」

 

 内山の勧誘が成功した次の日の朝、聖秀学院高校へ向かうバスに乗っていた清水は少し幼いながらも軽薄そうな男に話し掛けられる。

 同じ制服を着ていたので、聖秀学院生ということは分かる。そして、男子がいるのは清水と同じクラスの人間だけだということも理解していた。

 しかし、彼女はほとんどの男──極端に言えば吾郎以外──に興味がないため、同じクラスの男子でも名前と顔を覚えてはいなかった。

 

 なおかつ、清水の苦手な見た目と話し方をしているため、その男(藤井)に対して嫌悪感を抱いてすらいた。

 よって清水の回答は一つだけである。

 

「……知らない」

「え、ちょ、ちょっと冷たいなぁ! じゃあお近付きの印に今度どっか遊びに行こうよ」

「行かない」

 

 清水の周りがどんどん冷え込んでいく。しかし藤井はそれにめげずに清水を口説いていく。

 どんなに話し掛けられていても無視し続けているため、周りからも冷ややかな視線を感じる藤井。

 うざったいと思いながら清水が窓から外を見ていたとき、少し離れたところから二人の話し声が聞こえてきた。

 

「ほら吾郎、早く助けてあげなよ」

「え、なんでだよ」

「なんでって……清水さんが絡まれてるじゃん」

清水(あいつ)なら強えから大丈夫だろ」

「そういう問題じゃないってば……」

 

 清水が声のする方を見ると、そこには大地と吾郎が立っていた。

 バスが混んでいてお互いにニアミスしていたため、同じバスに乗っていたことに気付いていなかったのだ。

 停留所で人が降りて人数が少なくなったため、気付くことが出来たのだった。

 

「吾郎! 大地!」

「え、ちょっと、薫ちゃ──」

 

 清水は藤井を無視して、大地達の方へと歩いていく。

 

「清水さん、おはよ」

「おう、清水。朝からアツアツだな」

「おはよ、二人とも……って違うわ!」

 

 吾郎のボケに対し軽快なツッコミを入れる清水。朝から藤井に絡まれてウザいと感じていたため、吾郎のボケすらも温かく感じることが出来ていた。

 

「朝から大変だったね」

「んー、まぁ……ね」

 

 大地が苦笑いをしながら清水を労うが、反応がいまいちだった。本当であれば吾郎に声を掛けてほしかっただろうし、助けてもらいたい気持ちもあったのかもしれない。

 しかし、彼女の性格的にそういったことを直接口に出して言ったりはしないため、大地は更に苦笑いをするしか出来なかった。

 

「……か、薫ちゃん。」

 

 そこに再度藤井が声を掛けてくる。

 

「……何?」

「そいつらって同じクラスのやつでしょ? 仲良いの?」

 

(……うわ、メンタル強いな、藤井(こいつ))

 

 明らかに大地達と態度が違うのに、いつまでもめげない藤井にある種の尊敬の念を抱く大地。

 吾郎は藤井の顔と制服を見て、同じクラスメイトであることを思い出す。

 

「お! おめーはもしかして同じクラスの…………?」

「藤井だよ! 名前くらい覚えとけ!」

「あー! そうそう、フジイ君! ……本当におめでとう」

「ああっ? どういうことだよ?」

 

 藤井は吾郎が目をキラキラさせながら自分の両手を握手するように包み込むのを不審に思う。

 

「君は現時点で聖秀学院高校野球部の一員に選ばれた──いてぇ!!」

「お前は急に何を言ってるんだよ……」

 

 突如藤井を強制的に入部させようとした吾郎の頭をはたく大地。

 藤井はポカンとしながら、聖秀学院高校に着くまで本田兄弟の即興漫才を見せられていたのであった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

「だから入らねぇって言ってんだろうが!」

「もういいじゃん。どうせそのうち野球をすることになるんだから」

「…………はぁ」

 

 聖秀に到着し、校舎へと向かっていく一同。

 藤井は頑なに野球部の入部を固辞していたが、吾郎が最近では珍しく自分本位な態度を崩さない。

 それに対し、散々ツッコミを入れていた大地も疲れてため息をつくだけだった。

 

(まさかとは思うけど……吾郎、清水さんが絡まれていたのを怒ってたのか……?)

 

 吾郎の様子を伺うが、怒っている風には見えないため頭をかしげる大地。

 バッグを左肩に担いで吾郎は校舎の中に入っていくのであった。

 

 

 

「なぁ、いい加減諦めろよ」

「なんなんだよ、てめーは! しつけーんだよ! 肩組むな!」

「ちょっと、吾郎君。やめなよ……」

 

 教室に入っても休み時間ごとに藤井に突っかかる吾郎。

 寿也も明らかに吾郎の雰囲気がおかしいのを感じたのか、恐る恐る注意していた。

 そんなやり取りを冷めた目で渡嘉敷が見ていた。

 

「もうやめとけば? そいつもやる気ないだろうし、そんな奴がいたって邪魔なだけだよ」

「な、なんだとっ!!」

 

 渡嘉敷の言葉に苛立ちを隠せない藤井。肩を組んでいる吾郎を振りほどき、睨みつけながら渡嘉敷のところまで歩いていく。

 

「てめぇ、もう一度言ってみろ!」

「はぁ……だからさ、君みたいにやる気もない奴がいたって邪魔なだけだって言ったんだよ。そんな格好して、どうせ運動だって出来ないんだろ?」

「ふ、ふざけんな! 俺だって小学校のときに野球やってたわっ!」

 

 藤井は馬鹿にしたような渡嘉敷の言葉に反論する。

 その言葉を聞いた渡嘉敷が目を細くしながらも更に言葉を続ける。

 

「へぇ。でもどーせ途中で挫折した組だろ? 甲子園行こうとしている俺達にはついてこられないよ。だから来なくていいから、安心していーよ」

「……言うじゃねぇか。小学生までしか野球をやっていなくたってお前みたいなチビには負けねぇよ!」

「…………へぇ」

 

 渡嘉敷はチビと言われたことに反応し、更に海堂特待生にまで推薦された自分をコケにした藤井に更に目を細くする。

 

「……じゃあその()()に負けたらどうするよ?」

「おう、なんでも言うこと聞いてやろうじゃねえか!」

「……その言葉、確かに聞いたからな」

 

 渡嘉敷は席を立ち、ちらっと大地の顔を見て笑うと、そのまま教室を出ていこうとする。

 だが、そのやり取りを見ていない藤井からすると、突然渡嘉敷が教室から出ていくようにしか見えなかった。

 

「おい、どこ行くんだよ? 勝負するんじゃないのか?」

 

 藤井はもはや頭に血が上っているため、自分で自分を追い詰めていることに気が付いていない。

 渡嘉敷は振り返ると藤井に告げる。

 

「……今日の放課後、グラウンドでどう? まぁ自信無かったら一週間くらいは時間あげるけど?」

「ばっ、馬鹿にすんじゃねぇ! 今日の放課後だな! 首洗って待ってろ!」

「おっけー」

 

 渡嘉敷はそのまま教室を出ていく。

 

(ああ、()()()()()()か……。渡嘉敷(アイツ)もやり方が上手いな……)

 

 大地も渡嘉敷の意図に気付く。大場と薬師寺も気付いたのか、目が合うと軽く笑って肩をすくめる。

 寿也はまだ気付いてないようで、吾郎は面白いことになったと薬師寺たちとは違う意味で笑っていたのであった。

 

 

 

 

 そして放課後、渡嘉敷と藤井の野球対決が始まる──

 




次回投稿は少し空くと思います。
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