MAJORで吾郎の兄になる   作:ねここねこねこ

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思ったことが1つあります。
皆さんの感想ってめちゃくちゃ嬉しいですね。
なかなか返せないー!って思っていても、時間あるときに返したくなる病になってしまっています(笑)



第七十二話

 放課後、渡嘉敷と藤井はグラウンドの隅に来ていた。グラウンドの大部分を女子生徒が使っているため、彼らが対決するとしても端っこを使うしか出来なかった。

 二人以外には大地、吾郎、寿也、薬師寺に大場と、今回巻き込まれている清水も見学に来ていた。

 

「おーおー、たくさん来ちゃってるね。君、ここで恥かくことになるけど、大丈夫?」

「うっせぇ! 恥かくのはてめぇだっつーの!」

 

(そんな格好して何言ってるんだか……)

 

 今回勝負をするとなったときに二人の服装にも差があった。渡嘉敷がユニフォーム姿なのに対し、藤井は制服なのだ。

 準備もあるはずだから渡嘉敷は後日でも良いと言ったのだが、藤井本人が当日の勝負で良いと言ったので、これは藤井にも悪い部分があった。

 せめて体操着のような動きやすい格好で来るのであれば、周りにやる気を示すことが出来たかもしれない。

 

「あー、まぁいいや。勝負なんだけど、どうする? こんな狭いところで出来て勝敗が分かりやすいのは、お互いに十球ずつ投げてより多く打てたほうが勝ちってやつとかだと思うけど」

「……ああ、それでいい」

 

 渡嘉敷の提案に対し、藤井は拒否をせずに受け入れる。自分が負けるわけがないと思っているため、どういう勝負でも良いと思っていた。

 

(薫ちゃんも応援に来てくれてる! これで俺のすげーところをアピールして、一気に彼氏の座をゲットするぜ!)

 

 ユニフォームを着てきて、使い込まれたグラブなどを見れば、渡嘉敷が野球経験者だということが分かると思うのだが、藤井はそれよりもどれだけ清水に良いアピールが出来るかだけが頭にあったのだ。

 

「じゃあお前が先に打っていいぞ」

「え、俺が先で大丈夫なの?」

「フン、なめんなよ。こう見えても俺は小学生の時、子供会の野球チームでピッチャーやってたんだ。むしろ打てなくてビビんなよ」

 

 藤井の言葉に渡嘉敷は唖然として、一気にやる気が無くなる。

 小学生時代に野球をやっていたと豪語するからには、最低でもリトルリーグでやっていた経験があると思っていたのだ。

 

(……馬鹿らし。こいつ、余計にいらないじゃん)

 

 さっさと終わらせようとバットを構える渡嘉敷。素直な人間、やる気ある人間、きちんと野球をやったことがある人間。

 そういう人材であれば、渡嘉敷としても入部に反対するつもりはない。だが、藤井はそのどれにも当てはまらないため、聖秀が甲子園行くのに足枷にしかならないと判断した。

 

「行くぜ! おらァあああ!」

 

 藤井が少し離れたところからボールを投げる。しかし、藤井から投げられたボールはストライクゾーンから外れるだけでなく、大暴投となってしまう。

 そのボールを見た渡嘉敷は、冷めた目で藤井を見つめる。

 

「あれ? あははははっ! 今のナシな! ダメだな、まだ肩があったまってねーや!」

 

(……バーカ。それ以前の問題だっつーの)

 

 藤井の苦しい言い訳に対し、渡嘉敷は更にやる気が無くなっていった。野球経験者と言っても子供会レベルで経験者を名乗ったこと。

 それだけならまだ許せる。しかし藤井は勝負をすると決まったのに、制服のまま現れ、しかも準備運動すらしていない状態であった。

 これでは何をどう勝負しても、渡嘉敷の負ける要素が見当たらなかった。

 

「くおっ!」

 

 藤井は何球も投げるが、ストライクに一切入らない。そして数球投げただけで息が上がってしまっていた。

 

「あ、あれ? おっかしーな?」

「……ねぇ。もうやめる? はっきし言って時間の無駄なんですけど」

「うっせぇ! まだ身体自体があったまってねーんだよ! だったらお前から投げろや!」

 

(あんたが先に投げるって言ったんだろうが……)

 

 もはや言い合うのも面倒くさくなった渡嘉敷は、何も言うことなく藤井と交代する。

 藤井も自分が先に打てば問題ないと思い、渡嘉敷と交代してバットを持つ。

 

「おし来い!」

「…………なぁあいつって野球部に入れて本当に大丈夫なのか?」

「ああ、俺も不安なんだが」

「僕もさすがに……」

「……俺もだ」

 

 藤井が構える姿を見て、薬師寺、大場、寿也、そしてあれだけ勧誘していた吾郎ですら不安に思っていた。

 渡嘉敷が勝つのは誰の目から見ても確実であろう。しかし、それで野球部に入った際に確実に足を引っ張る人を入れるのであれば、九人ギリギリでもきちんとやる気がある人だけでやりたいと思うのは間違っていない。

 そして、藤井は渡嘉敷の球をかするどころか見えてすらいなかったのだった。

 

「はい、これで十球全部投げ終えたんだけど? このまま交代してやる?」

 

 渡嘉敷は構えたまま立ち尽くしている藤井に声を掛ける。しかし藤井は呆然としたまま、渡嘉敷の問いに答えない。

 

「あれ? 聞こえる? おー──」

「おい、もう止めてやれ。もう良いだろ、行くぞ」

 

 渡嘉敷が藤井の心を抉ろうと呼びかけ続けるのを薬師寺が止める。

 そしてそのまま立ち去っていく。

 

「本田兄、()()()()()()()を集めて本当に甲子園に行けるんだろうな? お前に賭けて入ってきた俺達を失望させるなよ」

 

 大場は大地にチクリと刺さる言葉を残して薬師寺達の方向へ歩いて行った。

 

「…………」

「大地君、僕らもそろそろ帰ろうよ。彼は仕方がないよ」

 

 寿也も大地に帰ろうと促したのだが、大地は藤井を見たまま黙ってしまっていた。

 

「……そうだな。さすがに俺も無理に勧誘しすぎたな。帰ろうぜ、清水」

「あ、え、う、うん」

 

 吾郎は清水と一緒に先に教室へと帰り、その数分後、寿也に再度話し掛けられた大地も藤井を置いて教室へと戻っていったのであった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

 帰り道のバスの中で大地達四人は藤井のことについて話していた。

 

「藤井君……大丈夫かな?」

「あー、別に大丈夫だろ。これで大人しくなるなら、それはそれで良いからな」

「まぁさすがに今朝みたいな絡みはウザかったからなぁ。それだけは無くなってほしいよね」

「…………」

 

 寿也達が話している中、大地だけはずっと黙っていた。

 

「なんだよ、大地。ずっと黙ってばっかじゃねーかよ」

「え、ああ。ごめん」

「大地君、何かあったの?」

「いや、別に……大丈夫だよ」

 

 大丈夫と伝える大地の様子は、明らかに大丈夫ではなかった。

 そして、何事か考えていたと思った大地は、バスが停まる直前になって声を出した。

 

「ごめん、先帰っててくれ! 俺はちょっと降りるわ!」

「え……おい、大地!」

 

 吾郎の静止も聞かず、大地はバスを降りてしまう。

 そして、そのままバスが走ってきたルートを戻っていくのであった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

「く、くそーーっ!!!」

 

 大地が向かったのは聖秀の近くにあるバッティングセンター。

 恐らくここに来るであろう人物を待とうと思っていたのだが、声を聞いて既に来ていたのだと気付く。

 バットにほとんどど当たらず、当たってもファールチップにしかならないようなひどい振り方をしていた。

 

(……ふふっ。やっぱり性格は負けず嫌いなんだな)

 

 大地がバッティングセンター内で見たのは、先程渡嘉敷に野球対決でボコボコにされた藤井の姿。

 負けた直後は呆然としていたのだが、渡嘉敷に負けた悔しさからバッティングセンターで練習をしていたのだった。

 

「藤井」

「……え? あ、お前は!」

 

 藤井がネットから出てきたため、大地は自動販売機で買ったスポーツドリンクを手に持ち、藤井を呼んだ。

 

「さっきは大変だったな。ほれっ」

「う、うわっっっとお! な、なんだよ、これは……」

「いいから飲めよ。あっちのベンチ行こうぜ」

 

 大地は強引に藤井にスポーツドリンクを投げ渡すと、誰も座っていないベンチに座ろうと先に向かう。

 藤井も特に拒否する理由も無いため、ついていきベンチに座る。

 ペットボトルの蓋を開けて一口飲んだ藤井は、息を切らせながら大地に話しかける。

 

「……なんだよ。あのチビに負けた俺を笑いに来たのかよ」

「あのチビって、渡嘉敷のことか? ああ、アイツに勝とうなんてさすがに無理があるだろ」

「なっ──!」

「だって渡嘉敷って海堂高校の特待生にスカウトされるくらい上手いんだぜ?」

「か、海堂高校!?」

 

 大地の言葉に藤井は驚く。海堂高校といえば野球で名門と言ってもいいくらいの神奈川県の甲子園常連校。そこまで野球経験がない藤井でも、その特待生としてスカウトされることがどれだけ凄いことなのか分かっていた。

 

「う、嘘だろ! そんなやつが男子のほとんどいない聖秀(うち)に来るわけがないだろ!」

「……本当だよ。ついでに言うと、俺や吾郎、寿也に薬師寺、大場も同じだよ」

「……ほ、本当なのか?」

 

 まだ疑心暗鬼状態の藤井に対し、頷いて答える大地。

 ドリンクを飲んで口を湿らせた大地は続きを話す。

 

「なんでわざわざ聖秀(うち)にって思うだろ? 俺達は()()()()()()()()()()()()つもりなんだ」

「か、海堂を……」

 

 詳しい内容を省いて、簡単に説明する大地。

 なにがなんでも海堂を倒したい大地達にとって、メンバーが揃うのは必須事項。

 だからこそ吾郎も藤井を熱心に誘ったのだと話す。

 

「だ、だけどよ……俺には無理さ……内山だって田代だって宮崎だって同じことを言うよ」

「宮崎はまだ声掛けてないけど、内山と田代は野球部に入ってくれるって言ってくれたよ」

「内山と田代が……!?」

「ああ。だからあと一人いれば俺らとしては問題ないから、藤井が無理だっていうなら、宮崎に声掛けるだけなんだけど……」

 

 その言葉に藤井は声を詰まらせる。万が一、宮崎が野球部に入ると言った場合、藤井だけが男子の中で取り残されることになる。

 しかし今の藤井からするとそのことはどうでも良かったのだった。

 

「お、俺は……野球部に入る入らないはどうでもいい! あのチビをギャフンと言わせたいだけだ!」

 

(ふむ……)

 

 大地は少し考えたあと、藤井に提案するのであった。

 

「じゃあその復讐(リベンジ)、俺が付き合ってやるよ」

 

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