MAJORで吾郎の兄になる   作:ねここねこねこ

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とりあえず吾郎sideが出来たので先に投稿します。
寿也sideは正午までに投稿出来るように頑張ります。



第七十三話

 渡嘉敷と藤井の対決から一週間。

 この一週間、大地は吾郎達とは別行動を取り、藤井とマンツーマンで特訓していた。

 

「投げるときのコツは、まず的をきちんと〝見る〟ことだ。投げたい場所を見てないのにストライクを投げるなんて素人には到底出来ないからな」

「打つときも〝見る〟ことが大切だ。ボールを見て、打つために頭を動かさないほうがいい」

 

 藤井は大地のアドバイスを真剣に聞き、そのとおり実践していた。子供会レベルとはいえ、小学生時代に野球に触れていたというのは意外と良かったのか、藤井は大地の予想以上に成長していた。

 

(出来ればきちんと基礎を叩き込むのに数ヶ月は時間が欲しいんだけどなぁ……)

 

 渡嘉敷とのリベンジに燃える藤井のためにきちんと時間を取ってやりたい。その気持ちはあるのだが、それをやっていると夏の予選が始まってしまい、甲子園を目指すどころではなくなってしまう。

 そのため彼らに与えられた時間は一週間。これで渡嘉敷達に認めさせるだけのことができないのであれば、藤井が野球部に参加することは事実上不可能ということになる。

 

「おぉ! 本田、今のは上手く打てたんじゃねーか!?」

「ああ、ナイスバッティングだ」

「よし、この調子でぇぇぇい!」

 

 数日で100km/hくらいのボールであればほぼ打てるようになった藤井。しかし120km/hを超えると極端に打てなくなる。

 目がスピードに慣れていないのもあるが、純粋に練習量が足りないためである。

 十球中、一球くらいは良い当たりが出来るのだが、あくまでバッティングセンターでの話なので、生きた球を打つとなるとほぼ打てないであろうことは大地も予想出来ていた。

 

(それでもなんとかしてやりたいんだよね。あの手を見ると余計に……)

 

 藤井の手のひらを大地が見ると、豆が潰れてボロボロになっている。それは大地との練習だけでなく、家に帰ってからもバットを振っている証拠だった。

 バットを振ってできた豆を、更にバットを振り続けることによって潰したときの痛みは尋常ではない。

 

 大地達とは違い、その経験がほぼないであろう藤井にとって、この激痛に耐えながらバットを振り続けることは本当に苦痛だった。

 しかしそれでも藤井がバットを振り続けたのは、()()()()()()というただ一つの気持ちだけだった。

 

「よし、じゃあ今日はここまでにしよう。明日がリベンジの日だからな」

「はぁ、はぁ……ああ、分かった……」

 

 息を切らした藤井は大地の様子を伺っていた。

 

「ん? どうしたんだ?」

「いや、その……なんでお前が俺の練習に付き合ってくれたのかなと思ってよ……。だって本田は渡嘉敷達の味方じゃねぇか。

あ、でもそれが嫌とかではなくて、俺からしたらありがたいことなんだけど……明日が本番だって思ったら、つい気になってさ」

 

 藤井は大地の気持ちが理解出来ていなかったため、少し照れながらだったが大地に率直に聞いていた。

 その質問を聞いた大地は少し驚いた顔をしていたが、すぐに笑いながら答える。

 

「……ああ、そういうことか。まぁ確かに渡嘉敷達は味方だけどさ、藤井(お前)のことだって敵だとは思ってないよ」

「……え?」

「そりゃあ渡嘉敷と対決したときまでは、ちょっとなぁ……とは思ったけど、そのあとバッティングセンターで泣きそうな顔しながらバットを振り続けていた藤井を見て、心の底から手助けしてやりたいって思ったんだよ」

「ほ、本田……」

「藤井がこの一週間どれだけ一生懸命やってきたのかを俺は見てたからな。明日の結果がどうであれ、思いっきりぶつかってやろうぜ!」

 

 そう言いながら大地が藤井に拳を出す。藤井はその拳を見て少しだけ戸惑ったが、すぐに自分の拳を合わせて、「……ああ!」と笑うのであった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

 次の日の放課後、聖秀高校グラウンドの端で前回と同じメンバーが揃っていた。

 

「……てかさ、一週間で何が変わるってのさ?」

 

 渡嘉敷はやや不機嫌な様子で腕を組んでいた。

 それは吾郎や寿也、薬師寺達も渡嘉敷と同じ気持ちであった。

 野球を小さい頃からやってきて、海堂の特待生に選ばれたという肩書を持っている彼らからすると、大地からの今回の申し出は正直に野球を舐めているとしか思えなかった。

 

 これが数年みっちりやった上での提案ならまだしも──ただ、その頃には渡嘉敷も藤井のことなど忘れているであろうが──ほぼ素人がたった一週間で再戦をするなどあり得ないのである。

 やる前から結果が決まっていることをやる意味はないのではないかと考えていても無理はなかった。

 

「いいからやるぞ。藤井も準備はいいな?」

「……ああ」

 

 藤井は学校の体育着に身を包み、大地が以前使っていたお古のグラブを手にはめていた。

 前回の制服姿で何も持っていなかったときと違う装いと、テーピングの巻かれた藤井の手を見た渡嘉敷は少しだけ感心したような顔をする。

 

(へぇ。本田兄が教えたってのは本当みたいだね。……それでも一週間で勝とうなんて無理だけどね)

 

「じゃあ勝負の方法とルールは前回と同じでいいか?」

「それでいいよ」

「俺も大丈夫だ」

 

 大地が音頭を取り、勝負は前回と同じでお互いに十球ずつ投げてより多く打てたほうが勝ちというシンプルなもの。

 打った回数が同じであれば、より当たりが良かった者が勝利となる。ヒットの当たり判定はここにいるメンバーであればほぼ同じ判定になるはずなので、特に揉めることもないと誰もが考えていた。

 

「じゃあ今回はそっちが先に打っていいよ」

 

 前回は渡嘉敷が先行だったため、今回は藤井に先行を譲っていた。

 藤井は無言で頷くと、打席に立って構える。

 

(へぇ……少しはサマになっているじゃん)

 

 前回の初心者丸出しの構えとは違い、初級者レベルには到達していると渡嘉敷は判断していた。

 この時点で彼のこの勝負での意味合いは変わっていた。軽く笑った渡嘉敷は、ワインドアップからボールを投げ込む。

 

「────ッ!」

 

 カァン! という音に横で見ていた一同が驚く。なぜなら藤井が渡嘉敷のボールを打ったからであった。

 それもバットを振り回した結果、たまたま当たったわけではない。彼はボールの軌道をしっかり見て目を逸らすことなく、下半身を使って腰でバットを振っていたのだ。

 バットの芯に当たったボールは渡嘉敷の横をライナーで飛んでいき、誰がどう見てもヒット性の当たりであった。

 

 その出来事に一番驚いたのは藤井本人であった。たった一週間で前回かすることすら出来なかった渡嘉敷からヒット性の当たりを打つことが出来たからである。

 藤井は驚いた顔で大地を見た。目が合った大地は笑って頷く。

 

「よっしゃあ! 来い!!」

 

 大地に褒めてもらったのだと分かった藤井は気合いを入れた声を出し、渡嘉敷に次のボールを投げるように言うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ結果は俺の勝ちだね」

「…………くそっ!」

 

 初めは調子が良かった藤井であったが、そこから徐々に渡嘉敷のボールが打てなくなり、結果として渡嘉敷に惨敗した。

 攻守を交代した藤井のボールを渡嘉敷はいとも簡単に全球打ち、誰がどう見ても渡嘉敷の勝利であった。

 実は藤井の打席のとき、渡嘉敷は100km/h程度から投げて徐々にスピードを上げていたのだ。そのため、初めは藤井も打つことが出来ていたのだが、最後にはボールを目で追うことすら出来ていなかった。

 

「もうこれでいい? 俺は帰るから──」

「ちょっと待ってくれ!」

「……なに?」

 

 渡嘉敷が帰ろうとしたところで、藤井が渡嘉敷を呼び止める。

 これ以上藤井に付き合うつもりがなかった渡嘉敷は、振り向いて少し不機嫌そうに答える。

 

「…………」

「用がないならもう行くからね」

「…………ッ! そ、その……す、すまなかった」

 

 藤井は言葉に詰まるが、うなだれるようにして渡嘉敷に謝罪をする。

 

「正直に言って、俺は野球を舐めていた……。ボールを棒で打つだけのスポーツなんて誰でも出来るって……でも渡嘉敷(お前)に負けて、本田に教えてもらいながら練習してようやく大変さが分かったんだ。

この一週間、俺はリベンジをするために一生懸命に練習をしたつもりだ。だがお前達はきっとそれ以上にハードな練習を何年もやってきていたんだろ。

野球がどれだけ大変なのか分からないやつにあんなこと言われたら、誰だって怒るよな……野球を馬鹿にして本当にすまなかった」

 

 頭を下げて謝る藤井。その素直さに吾郎や清水、寿也達も驚いた顔を見せる。

 しかし大地と渡嘉敷は特に驚いた顔を見せてはいなかった。頭を下げた藤井を見た渡嘉敷は、そのまま校舎に帰ろうとして立ち止まる。

 

()()()()とはもう勝負はしないよ。絶対に勝つと分かっている勝負はつまらないからね」

「────ッ!」

「……でもまぁ野球部で練習していれば、いずれ()()勝負出来るかもね」

 

 そのまま校舎に帰っていく渡嘉敷。薬師寺と大場は渡嘉敷の言葉に笑みを浮かべて一緒に校舎へと帰っていった。

 藤井は頭を上げると、目に涙を溜めながら「……ああ!」と渡嘉敷に応える。

 その様子を見た大地は藤井に近付き、「お疲れ」と声を掛けた。

 

「野球も悪いもんじゃないだろ?」

「そう……だな……」

 

 涙を拭った藤井は、近付いてきた大地の方を向く。

 

「本田。この一週間、本当にありがとう。お前のお陰で初めて自分で納得するだけの努力が出来たと思う」

 

 藤井は大地に感謝の言葉を伝える。藤井は記憶にある限り、今まで自分が納得するまで努力をしたことがなかった。

 いつも中途半端で、少し辛くなると物事を投げ出していた。そしてそれが仕方のないことだと受け入れるようになってしまっていたのである。

 しかし今回本気で悔しいと思えるくらいの挫折を味わった藤井。

 

 いつもであればそのまま逃げてしまっていたのだが、短い期間ではあるが大地のお陰で最後までやり遂げることが出来た。

 そのことが藤井の中で大きな出来事となっていたのである。

 

「…………でもまだ渡嘉敷(あいつ)に勝てていないのが悔しいんだ! だから俺も……俺も野球部に入れてくれ!」

 

 藤井は自分の気持ちを素直に出して野球部に入りたいと大地に頭を下げる。

 大地は吾郎、寿也、清水の顔を見て、お互いに頷いたあと、「もちろん歓迎するよ」と藤井に返事をする。

 

「よっしゃあ! これで聖秀(うち)の男子は全員野球部に入ったな!」

「……え? まだ宮崎が入っていないだろ?」

 

 吾郎の言葉を大地が訂正する。しかし吾郎は寿也と目を合わせ、「ふふん」と笑うと宮崎も野球部に入ると了承を貰っている旨を大地に伝える。

 

「吾郎、いつの間に……!」

「大地が藤井の面倒を見ているのが分かっていたからな! 寿也と相談して、宮崎は俺達で勧誘しようって話をしたのさ」

「大地君だけに任せるのも悪いからね。僕達でも出来ることは手伝うよ」

 

 大地が藤井の練習に付き合っていた一週間で宮崎の勧誘に成功していた吾郎達。

 詳しい話を聞くと、吾郎が宮崎に付きまとって半ば強引に仲良くなったというのだが、大地の性格ではそういうことは出来ないため、宮崎の勧誘は吾郎がやって正解であった。

 こうしてようやく野球部メンバーが集まった大地達。これから甲子園を目指して動き始めるのであった。

 

 

 

 

 

「…………私は絶対に認めないからね」

 

 

 少し離れた場所で様子を見ていた女子生徒が一人いた。彼女は藤井達のやり取りを見て、不機嫌そうな顔をして去っていくのであった。

 




今日で『MAJORで兄になる』シリーズが一周年になります。
最近はなかなか更新頻度を上げられずに本当に申し訳ございません。

皆様のお陰でエタらずにここまで来ることが出来たと思っています。

一周年記念としまして、少しの間だけ毎日投稿をします!
そしてその間は非ログインの方も感想が書けるように設定を変更しておりますので、たくさん書いてくださいますと嬉しいです!
力尽きた時点でまた不定期に戻ると思いますが、なるべく頑張ります!

これからも『MAJORで兄になる』シリーズを何卒よろしくお願いいたします!
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