MAJORで吾郎の兄になる   作:ねここねこねこ

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毎日投稿2日目です。
寿也sideは正午の投稿になると思います。



第七十四話

「今のままでは部として正式に承認するわけにはいきません」

 

 理事長室に野球部の設立届を提出に来た大地達は、理事長より野球部の設立は出来ないと告げられる。

 それに最初に反応したのは吾郎だった。

 

「なっ!?」

「吾郎」

 

 大地は突っかかろうとする吾郎を冷静に止め、彼が落ち着いたのを見計らって理事長に理由を尋ねる。

 

「……理由をお聞きしても?」

「ええ。理由は簡単よ。この設立届……()()()()()の欄が空白になっているからよ」

 

 これには全員が盲点だったようで、声を揃えて「…………あ」と呟く。

 吾郎だけならまだしも、大地や寿也、薬師寺、大場、渡嘉敷、田代といった面々が気付いていなかったため、各自内心で羞恥を覚えていた。

 野球部メンバーが揃ったという喜びで、勢いのまま来てしまっていため気付かなかったのだ。その様子に理事長はため息をつく。

 

「分かりました。それでは顧問はこちらで用意するわ」

「え……そこまでお任せしてもよろしいのですか?」

「まぁせっかく聖秀学院の男子一期生が積極的に活動しようとしているのだからね。私達としても応援するのはやぶさかではないのよ」

 

 顧問を用意するという理事長の言葉に、寿也が遠慮がちにそこまで任せても良いのかと聞く。

 それに対し、理事長は表向きのみの回答をしたが、本音としては共学になった聖秀学院が一年目で甲子園に行ったという実績があれば、来年以降の男子生徒の入学希望も増えるだろうというところまで考えていた。

 ただし、それはあくまで健全な学校生活を送るということが優先されるので、海堂高校の考えとは似ても似つかない。

 

 結局、大地達は顧問の件を理事長に任せ、そのまま理事長室をあとにするのであった。

 一人残された理事長は、椅子に座りながら息を吐く。そして電話の受話器を取って、内線番号を打ち込む。

 

「あ、私です。一つお願いしたいことがあるのですが、今から理事長室に来ていただけますか?」

「今からですか……分かりました」

「よろしくお願いします」

 

 電話の相手に今から理事長室に来るように伝えた彼女は、受話器を置く。

 

(……海堂高校の特待生に選ばれたと言っても、あの子達はまだまだ子供。私達もそのことはきちんと理解していかなきゃいけないわね)

 

 お茶を口に含んだ彼女は、考え事をしながら先ほどの電話の相手が部屋に来るのを待つのであった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

「これで聖秀に野球部が出来るな」

「ああ、ようやくだ」

 

 教室に戻った大地達は男子だけで集まり、今後について話していた。

 

「顧問は大丈夫だとして、練習場所の確保が大切になってくるな」

「それに練習試合の相手も探さないとだよ?」

聖秀(うち)のような創部一年目を相手してくれるような高校だと……完全な弱小校になりそうだな」

 

 薬師寺、渡嘉敷、大場がそれぞれ思いつく課題点を出す。

 一から野球部を作るとなれば、これくらいのハンデは背負わなくてはいけないと理解していた。

 だからこそ悲観的になることなく、冷静に話し合うことが出来るのであった。

 

「まずは顧問の先生に挨拶しないとだな」

「お昼休みにでも教員室に行ってみようぜ」

「そうだね」

 

 大地、吾郎、寿也も自分の考えを出していたのだが、そこで藤井達が少し気まずそうな顔をしていた。

 その様子に気付いた大地が声を掛ける。

 

「ん? どうした?」

「え、いや、そのな……俺達は野球部が出来さえすれば、あとはお前達の実力があれば甲子園に簡単に行けると思ってたんだよ」

 

 藤井の話に内山、宮崎、田代も話を続ける。

 

「俺も同じ考えだったよ。そんな簡単なことじゃないんだな」

「俺みたいな運動音痴の素人だと、マシな考えも浮かばないのが申し訳ない……」

「まぁ俺はシニアまで経験しているし、ある程度やることは多いと思っていたけどな」

 

 積極的に意見を出す者、考えが甘かったと反省する者などに分かれていたが、ゼロから作るという部分にワクワクした気持ちがあるのは全員が共通であった。

 

 

 昼休み。全員で行くのは流石に迷惑になるのは分かっていたので、代表して大地と吾郎が教員室に向かった。

 薬師寺からは「お前達が言い出したことなんだから、ちゃんと動け」と言われてしまっていたので、大地は何も反論できずに大人しく──吾郎は終始文句を言っていたが──行くことにしていた。

 

「失礼します」

 

 大地がノックをして教員室に入る。辺りを見回すが、()がいなかったため、念の為近くにいた男性教諭に居場所を尋ねる。

 

「あの……」

「ん? なんだね?」

「山田先生はいらっしゃいますか?」

「山田? ああ、英語の山田君か」

 

 男性教諭は教員室内の一つの席を見て、不在であることを確認する。

 

「ちょっと席を外しているみたいだね。ああ、そうだ……彼なら多分中庭で昼休みを取っているんじゃないかな?」

「そうでしたか。ありがとうございます」

 

 大地は男性教諭に頭を下げて、教員室から退室する。

 そして、吾郎と一緒に中庭に向かおうとしたところで、吾郎から質問を受けた。

 

「なぁ大地」

「ん? なんだ?」

「顧問の先生は()()()()って名前なのか?」

 

 吾郎は単純に質問をしただけだったのだが、その質問で大地は顧問になる教員の名前を聞いていなかったことに気付く。

 

(あ……し、しまった! 山田先生で確定だと思っていたから、名前を聞くの忘れていた……)

 

 内心慌てている大地。そしてどうやって吾郎に誤魔化そうかと悩んでいたら、吾郎が続けて「山田みたいなよくある名前だと、沢山いたら分かんなくなるよな!」と笑っていたため、「ほ、本当だよな!」と勝手に話が流れたことに心の底からホッとするのであった。

 

 そして中庭へと二人で歩いていくと、ワイシャツにネクタイ、スラックスの出で立ちをした教員らしき人が、芝生のところで新聞を頭に乗せて寝ていた。

 

「ん? あれか?」

「そうみたいだな」

 

 〝芝生内立入禁止〟と書かれたところで堂々と寝ている人間が教師なのはどうかと大地は思っていたが、なんにせよ話し掛けてみないことには始まらないと思い直す。しかし、声を掛けようと近付いたところで逆に話し掛けられてしまう。

 

「何か御用ですか?」

「え……あ、その山田先生が中庭にいらっしゃるとお聞きして来たのですが……」

「いかにも私が山田一郎ですが?」

「うわっ!!」

 

 顔に乗せられた新聞を取った山田が顔を見せると、その見た目に吾郎が驚きの声を上げる。

 

「が、が、が、外国人だァ!?」

「外国人? 私は外国人ではありません。にほんジンの山田一郎でぇす」

 

 流暢な日本語を話す山田一郎という男性は、日本人の女性と結婚して日本に帰化したのだと説明する。

 元々はミネソタに生まれ育ったスティーブ・ティモシーという白人であるということを吾郎に話していたが、それは彼の興味範疇外であった。

 

「ま、まぁいーや何人(なにじん)でも。それよか校長から野球部の顧問の話って聞いていないか?」

「ちょ、先生に言葉遣いしっかりしろって! あと正しくは理事長だからな。……っとうちの弟が失礼しました。僕は本田──」

「OH!! 話は伺っていますよ。あなた達がベースボールクラブを作りたがっているというホン・ダイチ君と弟のダゴロー君ですね」

 

 大地の話を遮り、どんどん話を進めようとする山田。

 

「がってん承知しました。私で良ければ、喜んで野球部の顧問を引き受けましょう、ダイチ君、ダゴロー君」

「名前を切るところはそこじゃねーって! てかなんで大地はそのままで、俺はダゴローなんだよ!」

 

 吾郎のツッコミを無視して、山田は野球部を作るための現状の課題を大地に聞いていく。

 大地はメンバーは正式に十人集まったこと、練習場所と練習試合の相手、そしてユニフォームが欲しいことも告げる。

 

「OK! 分かりました! 練習場所ですが……私から教頭へ話をしてみます」

「あの、そのときは僕も連れて行ってくれませんか?」

「なにか問題でもあるのですか?」

「多分ですが、今の聖秀のグラウンドの使用状況では危険な硬球を使うような硬式野球部に貸すスペースは無いって言われる気がするんです。なので僕からも交渉をさせて欲しいなと思いまして……」

「そうですか……OK! それでは放課後に一緒に話に行きましょう!」

 

 大地は山田を説得して、放課後に一緒に教頭へ話をすることの許可を貰うことが出来た。

 吾郎だけは教室に戻ってからも不満をずっと言っていたのだが、大地は自身が本田大地という名前で良かったと本当に思うのであった。

 




本田姓だと、山田先生から呼ばれるときはノゴロー君ではなく、ダゴロー君になるんですね。
ただ、よくよく考えると〝一郎〟という名前を自分で付けているのに、〝吾郎〟という名前を受け入れられずにノゴロー呼びするのは少しおかしいですよね。

山田先生なりにかなりの悪意があるのだと私は勝手に思っています(笑)
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