寿也sideは正午に投稿予定です。
「よし! もう一球!」
「吾郎君、ナイスピッチング!」
大地達が野球部を創設してから一ヶ月が経った。
この間、大地達は目まぐるしく動いていた。まず山田一郎を顧問に加えて正式に野球部として受理してもらう。
その日の放課後に教頭へ練習場所の交渉へと向かっていた。
その際、大地が予測していた通り──原作知識通りとも言える──聖秀のグラウンドを貸し出すことが出来ないということだった。
危険な硬球を使う野球部は、周りに人がいる場所で活動するには危険すぎていた。
そのため、山田が屋上を使わせてほしいと提案しようとしたところで大地が間に入った。
「それでは野球部が結果を出せることが分かれば、場所を用意していただくことは出来ますか?」
「む……それは私の一存ではなんとも言えないな」
教頭からの回答は理事長の許可が無いと出来ないということだった。
そのため教頭、山田、大地の三人はそのまま理事長室へ向かい、同じ交渉をしたところ結果を出すのであればと言う条件で、了承を貰うことが出来ていた。
「ただ……あなたは結果を出すというけれど、どうするつもりなの?」
「えっと、強豪高校と練習試合をして勝つことが出来れば認めて欲しいです。そのために練習試合を組んでもらえると助かるのですが……」
「練習試合ですか……? まだ新設されたばかりの野球部の相手をしてくれる強豪高校など無いと思うのですか……」
大地の提案に理事長が現実的な意見を述べ、そこで一旦話が途切れる。
理事長も教頭も強豪高校と練習試合を確実に組めるだけの人脈が無いため、このままでは場所の確保が出来ないまま活動しなくてはいけなくなる。
「山田先生は何かいい案はありませんか?」
「いい案ですか……」
気まずい空気が流れる中、大地が山田に話を振る。
大地としては、原作にあった山田の人脈を使って強豪校である横浜帝仁高校との練習試合が出来ないか考えていた。
「そうですね……それでは私が以前赴任していた高校に当たってみましょうか。横浜帝仁高校といって、去年も夏大会でベスト四まで進んでいたので、十分強豪と言えるのではないでしょうか?」
「……そうね。それでは横浜帝仁高校に話をしてみていただけますか?」
数日後、山田のツテを使い、横浜帝仁高校との練習試合が組まれることとなる。
時期は一ヶ月後に設定し、それまでは素人組に基礎を教えることと、残りのメンバーは連携を確かめる期間とした。
大地にとって意外だったのは、そのあとの理事長の行動であった。
「一ヶ月の間、練習が全く出来ないというのも辛いと思うので、こちらで場所を用意しておきました。練習試合が終わるまではそこを使ってください」
理事長は帝仁高校との試合までの間、近くにある市営グラウンドを聖秀高校野球部が出来る限り使えるように借りていた。
ただし市営グラウンドのため、なるべく一つの団体がずっと使うことはあまり好ましくない。なので、もし市営グラウンドを使いたいという希望者が出た場合はそちらを優先するということが条件であった。
これは大地達への期待の表れであり、原作と明らかに待遇が違う理由は吾郎一人だけではなく、他に大地や寿也、薬師寺、大場、渡嘉敷といったシニア全国優勝チームメンバーを含む海堂特待生のメンバーがいたからにほかならない。
(高校生になったばかりの子達が、神奈川県ベスト四に勝てるとは思わないけれど……勝てたときのことを考えてこちらもある程度動いておかないといけないわね)
理事長は受話器を取り、聖秀野球部専用グラウンドを用意するべく動くのであった。
◇
練習場所が確保でき、練習試合も一ヶ月後に決まったので、それを目標に各自で練習に励むこととなる。
吾郎と寿也がピッチング練習。大地が内山、宮崎、藤井の初心者組の練習指導、薬師寺、大場、渡嘉敷、田代が守備練習や打撃練習に時間を割くというのが基本の流れであった。
内山が放課後に練習時間が取れないため、放課後の練習では宮崎と藤井を教えて、朝と夜を使って内山を教えるということをしていた。
「なぁ大地。俺らに時間をここまで使っていて大丈夫なのか? お前も自分の練習時間を取ったほうがいいんじゃ……」
「ん? 気にしなくて大丈夫だよ。藤井達が少しずつでも上手くなってくれれば、全員で練習できるようになるし、野球は皆でやったほうが面白いからね」
藤井は大地が自分の練習をせず、初心者組を教えることにほとんどの時間を使っていることに不安を覚えていた。
しかし大地にとって初心者組が上手になることは、今後の全体の練習効率UPにも繋がるため、自分の練習時間を削ってでもやるべきことだと思っていた。
そして一番大切なのは、
野球の楽しさを知るためには最初が肝心のため、大地は手厚くフォローしていた。
ちなみに初心者組が基礎を学んでいるこの一ヶ月で、藤井達だけでなく、薬師寺達も吾郎と大地のことを区別するためとはいえ下の名前で呼ぶようになるほど距離は縮まっていた。
「じゃあ今日の練習はここまでだな。山田先生がユニフォームを配ってくれるから集まってくれ!」
帝仁高校との練習試合前日、いつものように市営グラウンドで最後の調整を行ったメンバーに山田が新しく作ったユニフォームを配っていく。
背番号も付いているが、今回のレギュラーは暫定であり、夏大会のレギュラーは直前にまた決めると伝えられる。
「それでは最後にキャプテンのダイチ君から一言貰えますか?」
「…………え? 俺がキャプテンっていつ決まったんですか?」
山田がさも当然かのように大地にキャプテンとして挨拶するように促す。
しかし大地はそんなこと一言も聞いていなかったので、思わず山田を見る。
「え……ダイチ君がキャプテンだと思っていたのですが、違うのですか?」
「ああ、俺もそう思ってた」
「俺も」
「俺も」
「僕も」
山田の言葉に他のメンバーも次々と同じことを思っていたと発言し、いつの間にかキャプテンになっていたのだった。
頭を掻きながら前に出る大地。
「えっと、急にキャプテンになったと聞いて、まだ少し混乱してるんですけど……とりあえず明日の試合は精一杯楽しんで勝とう!」
『おお!』
◇
「え! 大地君がキャプテンになったの!?」
「さすがですね!」
家に帰った大地達は、週末になると遊びに来る涼子と美穂と一緒にリビングで話していた。
次の日に試合があるのは聞いていたので、応援に行くつもりではあった。しかし大地がキャプテンになったと聞いて、喜びつつも称賛していた。
「まぁ実際に上手くいくか分からないけどね。出来る限りやってみるよ」
「大地さんなら大丈夫ですよ! 絶対に!」
「私もそう思うよ!」
二人は大地なら必ず上手くいくと心から思っていた。精神的にも大人だと感じている──実際に精神年齢はかなり上──のもあるし、面倒見も良いため、今だけでなく後輩が入ってきても大丈夫であると自信を持って言えるようであった。
「明日はお母さんと美穂ちゃんの三人で応援に行くからね!」
「頑張ってくださいね!」
大地の応援を行くと張り切る二人。大地は「ありがとう」と笑いながら返し、夜も遅くなってきたため二人を家まで送り届けるのであった。
【小話:結局ノゴロー君】
山田
「ダゴロー君、ダゴロー君!」
吾郎
「だから切るところがちげえって言ってるだろ!」
薬師寺
「ちゃんと名前を教えるほうが早いんじゃないか?」
渡嘉敷
「そうだね。お、それなら……山田せんせー!」
山田
「おお! どうしたのですか?」
渡嘉敷
「本田吾郎の名前ですが、ホンダ・ゴロウが正しいんですよ」
山田
「ホンダ……ホン・ダゴロー……?」
渡嘉敷
「あーっと……それなら本田〝の〟吾郎って名前を分けると覚えやすいかもしれないな!」
山田
「ホンダ……ノゴロー……。OH! つまり
吾郎
「それもちげーから!!」
渡嘉敷
「あ、あれ……?」
原作の修正力というものは恐ろしい。
そして、まさか感想欄にこのネタがバレていたとは……。