MAJORで吾郎の兄になる   作:ねここねこねこ

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第七十八話

 全国高校野球選手権神奈川大会。出場校196校という激戦区である。

 聖秀学院高校が甲子園に出場するためには八回勝つ必要があり、その中にはシードである横浜帝仁高校や海堂高校ももちろん含まれていた。

 トーナメント表を見る大地達。

 

「海堂は……反対のブロックか」

「当たっても決勝だね」

「どうせなら疲労が溜まる前に当たっておきたかったがな」

 

 海堂特待生組である薬師寺、渡嘉敷、大場はすぐに海堂の位置を確かめる。

 第一シードである海堂とは逆のブロックになったため、決勝以外で当たることはない。

 そして、帝仁高校も逆のブロックであった。

 

「先に海堂とやるのは帝仁か!」

「順当にいけば、海堂と帝仁は準決勝で当たることになるね」

 

 吾郎と寿也は帝仁が海堂と同じブロックにあることを確認し、聖秀と決勝で当たるのはどちらかになるであろうと予測していた。

 

「それよか聖秀(うち)の初戦の相手だけど……」

「平塚漁業? どこだ?」

 

 内山と藤井が初戦の相手の高校を知らないといった素振りを見せる。

 田代は対戦相手を見て、ニヤける。

 

「よっしゃ! ここなら楽勝だ!」

「え、知ってるのか?」

「ああ、昨年の夏大会で42-0の大敗をしてる高校だ。というか、組み合わせを見る限り三回戦までは初心者組を中心にやっても確実に残れそうだ!」

 

 宮崎に平塚漁業高校を知っているか聞かれ、昨年の夏大会でかなりの点差で負けてしまったというのが記憶に残っていたのか、田代の中では確実に勝てるという印象があった。

 そしてトーナメント運に恵まれたのは、選手層が薄い聖秀にとってありがたいことであった。

 なぜならピッチャーは吾郎を中心に回していく予定なのだが、吾郎一人でやっていくにしても体力面で無理が出てしまうからだ。

 

 対戦相手が比較的弱いところであれば、渡嘉敷をピッチャーにすることも出来るので、大地を含めて三人でローテーションを組むことも可能だ。

 そして初心者組の藤井、内山、宮崎にも試合の経験を沢山積んでもらう必要がある。

 練習試合と本番の試合では緊張感がまるで違う。空気がヒリつくのだ。だからこそなるべく早くその空気に呑まれないように慣れてもらう必要があった。

 

「じゃあ俺は一回戦のスターティングメンバーを山田先生と相談してくるから、先に練習行っててくれ」

「おお、分かったぜ!」

 

 大地は吾郎達に先にグラウンドへ行くように伝え、教員室へと向かうのであった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

 七月も中旬に差し掛かろうとしていた夏の日。聖秀学院高校野球部の初めての夏予選が始まった。

 球場へ移動した聖秀メンバー。その中に足を震わせている者が()()いた。

 

「まだ緊張してんの?」

「ううううううっせーー! お前にはこの気持ちが分からねーだろ!」

「まあ俺は素人じゃないからねぇ」

「ぐ、ぐぬぬ……」

 

 渡嘉敷が緊張している藤井をからかい、それにムキになって反論する。

 しかしそれは渡嘉敷が素人組の緊張を和らげようとしてやっていたことだった。

 

(ふふふ……なんだかんだで渡嘉敷は優しいね……)

 

 寿也はその光景を微笑ましく見ていて、やり取りが終わった渡嘉敷と目が合う。

 渡嘉敷は照れた様子でそっぽを向き、寿也は笑いを堪えるのに必死だった。

 

「はい、では皆さん。ここからは記念すべき聖秀野球部のスタートです! 精一杯やっていきましょう!」

 

 山田が全員に向かって声を掛け、スターティングメンバーを発表する。

 

◇スターティングメンバー

 

 1番:レフト 藤井

 2番:セカンド 内山

 3番:ライト 宮崎

 4番:センター 田代

 5番:サード 薬師寺

 6番:キャッチャー 佐藤寿也

 7番:ファースト 大場

 8番:ショート 本田吾郎

 9番:ピッチャー 渡嘉敷

 

 控え:本田大地

 

 

 大地は山田と相談し、元々想定していた打順を大幅に代えて初戦に臨もうとしていた。

 相手が実力的に格下だと分かっているため、失礼ではあるが素人組の成長を優先させようとしていたのだった。

 そして吾郎のことを考えるのであれば、控えは吾郎のにした方が良いと思ったのだが、彼が絶対に文句を言うのが分かっていたため、下位打線として出すことで少しでも打席を回さずに体力を使わせないようにするしかなかった。

 

「聖秀高校か……今回が初出場とのことだが……」

 

 平塚漁業の監督は聖秀の情報を知らないため、油断をしていた。

 

(人数も十人ってギリギリだし、元女子校ってのを考えると……この試合は貰ったな!)

 

 人数も少なく、内山や宮崎を見た目で判断し、ただの寄せ集めであると確信する。

 聖秀が相手であれば、昨年の神奈川県の歴史に残るであろう大敗という汚名を払拭出来ると勘違いしているのであった。

 

「それではこれより、聖秀学院高校と平塚漁業高校の一回戦を始めます」

「よろしくお願いします!!」

 

 全員が同時に頭を下げて挨拶をする。先攻は聖秀からのため、一旦全員がベンチに戻る。

 

(お、俺が一番打者かよ……)

 

 三塁コーチに向かおうとしていた大地は、藤井が再度緊張しているのが分かった。

 バットを持ってガチガチに固まっている藤井の後ろから、両脇腹を指でつつく。

 

「わ、わあ! ……何すんだ! って大地?」

「何緊張してんだよ」

「だ、だって仕方ないだろ……」

 

 初めての公式戦。しかも野球を始めてからまだ数ヶ月程度。緊張するなという方が難しかった。

 そこで大地は藤井にアドバイスをしようと決める。

 

「内山、宮崎! バットを持ってちょっと来てくれ!」

 

 ベンチにいた内山と宮崎を呼ぶ大地。何事かと思いながらバットを持って向かうと、大地が三人に構えるように言う。

 

「一回だ。一回だけ思いっきり振り切って素振りしろ」

「振り切る?」

「ああ、そうだ。今までの練習を思い出して、縮こまらずに振り切ってみろ」

 

 急に素振りをしろと言われた三人。しかし言われたとおり、今まで大地に教わった練習通りに思い切りバットを振り切る。

 

「うん、それで大丈夫」

「え、何がだよ?」

 

 大丈夫という大地に、藤井は何がだと問いかける。

 

「今の振りを忘れずに、打席に立って振り切ってくれればいいよ。今の振りが出来るなら三振して構わないから、どんどん振っていこう!」

 

 大地は笑顔で三人に三振をしても構わないと伝えて、そのまま三塁コーチャーボックスへと向かっていった。

 藤井、内山、宮崎は目を合わせたあと、自分のバットを握りしめて小さく頷くのであった。

 

 

 

「プレイボール!」

 

 審判の号令で試合が始まる。

 平塚漁業のピッチャーは少し緊張した様子であったが、ワインドアップからボールを投げる。

 

「ボール」

 

 外角を外れてワンボールとなる。

 キャッチャーからボールを受け取ったピッチャーは、再度構える。

 

(……振り切るを意識だ!)

 

 藤井は大地のアドバイス通りに思い切り振り切ろうと待ち構えていた。

 闇雲に思い切り振るのではなく、下半身と腰を使い、投げられたボールから目を離さずにそのまま打ち返すイメージ。

 そしてバットにボールが当たった瞬間に、最後まで振り切る。

 

「あッ……!」

 

 ピッチャーは藤井に打たれ、ボールが飛んでいった方を向く。

 ボールはサード真正面に飛んでいったが、思い切り振り切ったボールは勢いが強く、サードの股下を抜けてレフト前まで転がっていった。

 

「おおおお! 藤井が打ったぞ!」

 

 嬉しそうにガッツポーズする藤井に対し、田代や吾郎が声を上げる。

 これが彼の公式戦初ヒットであった。

 

(思い切り……振り切る!)

(振り……切る!)

 

 続く内山、宮崎にサインを特に出さずに自由に打たせる大地。

 先程のアドバイスを意識していたのか、藤井と同じくバットを振り切り、センター前、レフト前と続けてヒットを打つ。

 

「よっし、満塁だ!」

「えっ、え? ……え?」

 

 田代が気合を入れて打席に入ったとき、平塚漁業の監督は混乱していた。

 

(初出場の寄せ集めだろ? なんであんなデブやヒョロガリ眼鏡にうちのピッチャーが打たれるんだ……?)

 

 本人からするとあり得ない光景に、理解が追いついていかない。

 そして戸惑っている間に、田代がレフトスタンドへ満塁ホームランを放っていたのだった。

 

(おっしゃあ! 俺だって大地から教わってかなり成長してんだぞ!)

 

 喜びながらベースを回る田代。本牧リトルとシニアで四番を打っていた実力者だが、本人は中二の終わり頃から伸び悩んでいた。

 父親に言われ野球をやめさせられたときは反発もしたが、ある意味助かったとも思っていた。

 しかし吾郎に説得され再び野球を始めた田代。それから大地と一緒に練習をするようになって、この数ヶ月が自身の中で一番成長していると実感できていた。

 

 野球をやるからには甲子園にも行きたいし、プロでもやってみたい。

 本田兄弟たち(こいつら)と一緒であれば、それも出来るかもしれないと心の底から思うようになっていた。

 

(ありがとよ……大地、吾郎……)

 

 結果として、聖秀と平塚漁業の対戦は、12-0で聖秀が勝利した。

 途中からは点数を取るのではなく、これからの聖秀のために色々と調整や試したいことを行っていたため、点数自体はそこまで伸びなかった。

 しかし、試合内容としては満足できる内容で終えるのであった。

 

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