MAJORで吾郎の兄になる   作:ねここねこねこ

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緊急事態宣言が出ていて、外で好きなことをしづらい情勢になっていると思います。
そのため、GW中はなるべく毎日更新をしたいなとは考えています。

新作の投稿も始めたので、良かったらご覧くださいませ。
あとがきにリンクを貼っておきますね。

それと、80万UAを達成しました!
全ては皆様のお陰でございます。これからも何卒よろしくお願いいたします。



第八十四話

〈車さん、ここまでを見てどう思いましたか?〉

〈ええ、やはり初回の聖秀の攻撃が凄まじかったですね〉

〈確かにそうですね。ではこの試合は聖秀が有利な展開になりそうでしょうか?〉

〈いえ、初回は偶然が重なっただけなので、このままではおそらく帝仁が勝つでしょう〉

〈それは……なぜでしょうか?〉

〈単純な経験の差ですね。聖秀のメンバーがいくら優秀でも強豪校には勝てないですよ。十回やって一回勝てれば御の字といったところでしょう〉

〈……あ、今情報が入ってきました。聖秀と帝仁はつい最近まで何回も練習試合を行っていたようですね。勝率は聖秀がダントツで上だったようです〉

〈…………〉

〈以上、解説は車さんでした〉

 

 

 一回裏は吾郎が三者凡退に、二回表は石元が無失点でなんとか抑え、吾郎が再びマウンドに立つ。

 相手は練習試合でも手こずっていた強打者であった。

 

〈二回裏、帝仁高校の攻撃です。四番サード、橘君〉

 

 吾郎は楽しみにしていた対決を前に嬉しそうな顔をしていた。

 逆に橘は真剣な表情で吾郎を見る。

 橘は三年生。これが最後の大会なのだから無理もない。

 

 三点リードしている自チームに、吾郎は少し気持ちが緩んでいるようだった。

 しかし、兄の大地はそれを見ているだけで何もしない。

 橘がバッターボックスに入り、構える。

 

 寿也は甘い球を投げると打たれてしまうと確信させる橘の威圧感に、コーナーギリギリで攻めていこうと判断してサインを出す。

 吾郎としては少し考え方が違っていたのだが、素直にサインに従おうと振りかぶって初球を投げる。

 

「────ッ!?」

 

 吾郎は振り返ってレフトスタンドを見た。

 しかし、そこにはボールは飛んでいなかった。

 

「ストライク!」

 

 主審のコールでハッとして前を向く吾郎。

 橘は初球を空振りしていたのだが、彼のスイングスピードと威圧感にスタンドまで運ばれたと思ってしまっていたのだった。

 

(……ちっ)

 

 吾郎は心の中で舌打ちをしながら寿也からボールを受け取る。

 大地はその様子を黙って見ているだけだった。

 

(打てるもんなら…………打ってみやがれ!)

 

 吾郎の二球目。真ん中低めに制球されたジャイロボールを橘は当てて、バックスタンドへファールとなった。

 タイミングが合ってきていることに寿也は気付いていた。

 

(このままだと打たれるか……どうすれば……)

 

 ふと寿也はショートの大地を見る。

 大地は吾郎を見ていたが、寿也の視線に気が付くと目線を寿也の方へとやる。

 目が合った二人だが、大地は無表情のまますぐに吾郎の方へと視線を戻すのだった。

 

(えっ、大地君も何も言ってくれないの?)

 

 寿也は大地の今の対応に少しだけ不満を持ったが、寿也が座らないと試合が進まないため、対策も出来ていないまま座るしかなかった。

 三球目、四球目とコーナーを突いて投げるのだが、全て橘によってファールにされていた。

 それもただ当てにいっているのではなく、フルスイングで当てられているのだ。

 

(くそ……どうすれば……)

 

 そして寿也は対策を立てられぬまま、無情にもその時がやってきた。

 それは七球目だった。ファールが続き、しびれを切らした吾郎が独断で真ん中高めにジャイロボールを投げ込んでしまった。

 ()()()()()()()()()とばかりに橘が思い切り振り切ると──ボールは横浜スタジアムのレフトスタンド中段へと運ばれていくのであった。

 

〈ホ……ホームラン! ホームランです! 橘英雄君が本田吾郎君からホームランを打ちました! 横浜スタジアムのレフトスタンド中段まで鮮やかなアーチを描いてのホームランです!〉

〈ほら言ったでしょ。やはり帝仁が有利なんですよ。このまま逃げ切ってしまいそうですね〉

〈……これで3-1、依然として聖秀がリードしています〉

 

 聖秀の内野手は、タイムを取ってマウンドに集まる。

 吾郎は気まずそうな顔をしていた。

 

「あーあ、完璧に運ばれちゃったよ」

 

 渡嘉敷の声で「うぐっ!」と痛いところを突かれた顔をする吾郎。

 寿也がすかさずフォローに入る。

 

「い、いや、でも今のは打った彼を褒めるしかないよ。吾郎君も気にしないで!」

「と……寿くん……」

 

 渡嘉敷に落とされたところに、救世主のように現れた寿也を見て、目を輝かせた吾郎。

 薬師寺は白けた顔でそのやり取りを見ていたが、ふと大地の様子がおかしいことに気付く。

 

「大地、どうした?」

「……いや、なんでもない」

「なんだよ、気になるじゃんか! 言いたいことがあるならはっきり言えよ」

 

 大地が何か含みを持たせた言い方をしたため、吾郎は気になったのか大地に言うように詰め寄る。

 そう言われてしまっては仕方がないとため息をついて口を開く。

 

「……はぁ、それなら言うよ。今の橘との対戦、()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「な、なんでって……」

 

 寿也を見た大地は、攻めるような口調で話す。

 急に自分に話を振られた寿也は困惑していた。

 

「吾郎をちゃんと見ていれば、三点先取できて明らかに浮ついていたのは分かっただろ? それを一球も外すことなく()()()()()()()()()()()()()、こうなるのは目に見えていただろ?」

「────ッ」

 

 寿也は言葉に詰まっていた。実際には寿也は()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 だが事前の帝仁対策ミーティングで言われていたことを思い出していた。

 

「橘英雄はボール一個分ストライクゾーンが広い。そう共有されていたはずだ。今の対決は全てゾーン内だったんだよ」

「あー、なるほどね。ストライクゾーンに来ると分かっていれば、ストレートしか投げられないピッチャーなんて彼からしたら打ててもおかしくないってことね」

 

 渡嘉敷は納得したかのようにペラペラと話した。

 まさにその通りだが、渡嘉敷の口調で改めて説明されると責められる側からすると傷口を槍で突かれたような気分になる。

 

「…………ご、ごめん」

 

 寿也が気まずそうに項垂れて全員に謝る。

 そこで反省して次に活かそうと大地が口を開こうとしたところで、吾郎が寿也を庇い始める。

 

「だ、だからって何もそこまで言わなくてもいいじゃねえか! もうちょっと──」

「いや、お前が()()()()()()()って言ったんだからね」

「う……」

「てかお前もお前でなに簡単に打たれてるの? あんな真ん中高め(絶好球)に投げられたら、俺でも打つっての」

 

 大地は存外にお前にも責任はあるのだと伝える。「まぁ、俺なら上段まで運ぶけどな」と付け加えるのをもちろん忘れない。

 

「相手は帝仁高校。お互いの手の内は知っているはずだ。だが、彼らも海堂高校を破って決勝まで来ているんだから、油断していいはずがないだろ。

練習試合での勝率は一切忘れろ。相手は名門帝仁高校。油断していたら、このままズルズルと取られ続けるぞ」

 

 吾郎と寿也は責められ続けて項垂れていたが、薬師寺達三人はその通りだと頷いていた。

 

「ちょっと、いつまでタイムを取る気だね? 少し長いぞ」

「あ、もう終わりますので」

 

 主審が注意をしに来たため、全員がそれぞれの守備位置へと戻ろうとする。

 そこで吾郎が大地に問い掛ける。

 

「じゃ、じゃあどうすればいいんだよ?」

 

 吾郎の自信なさげな問い掛けに対し、大地が振り返って答える。

 

()()()()()()()。油断せず、寿也と一緒に、試合に勝つために何が出来るかを考えろ。……それだけ」

 

 この答えにハッとしたのは吾郎だけではなかった。

 ホームベースへと戻っていく青少年も、自身が心のどこかで油断していたということに気付いたのだった。

 

(そうだよ。僕は何をやっていたんだ! 相手は海堂に勝った強敵じゃないか! 練習試合と本番で実力が変わるのはシニアのときから散々経験してきただろ!)

 

 寿也はマスクを被り、座るとミットを右手で思い切り殴りつける。

 その音は横浜スタジアム中に響き渡るほど大きく、何が起こったのかと誰もが一瞬思うほどであった。

 気合を入れ直した寿也は、これ以上は絶対に点を入れさせないと頭を切り替えて次の五番打者を迎えるのであった。

 




新作の投稿はじめました。
よろしければご覧くださいませ。短編なので十話にもならない程度だと思いますが、なるべく中身が詰まった話に出来るようにしたいと思います。
良かったら感想や高評価など頂けたら幸いです。

ドラゴンボール 新たなHOPE! -もうひとりの戦士-
https://syosetu.org/?mode=ss_detail&nid=257236
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