MAJORで吾郎の兄になる   作:ねここねこねこ

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5月5日(水)、23:07
あとがきに【小話】を追加しました。



第八十六話

 聖秀が五回裏に一点追加し、4-2と帝仁高校を突き放す。

 石元はその後も大場と渡嘉敷が出塁するなどで一気にピンチとなるが、なんとか踏ん張り、流れを聖秀へと行かせないようにした。

 

(帝仁……一緒に練習したのは失敗だったかな?)

 

 大地は帝仁と合同練習をして、教えたりしていたことを少しだけ後悔していた。

 まさかここまで強くなるとは思っていなかったのだ。

 

(それにしても、まさか()()()()のベストメンバーが帝仁のメンバーと入れ替わっているなんて、誰も思わないでしょ……)

 

 初めて練習試合をしたとき、実はメンバーの名前を見て薄々とは感じていた。

 確信したのは、合同練習の最初に全員で自己紹介をしたときだった。

 

 サードを守っている橘英雄、ピッチャーをやっている石元。原作(H2)で史上最強の三番打者を目指していた中井など、記憶にある名前がどんどん出てきたため、安易に合同練習をしないほうが良かったと思ったりもしていたのだった。

 そのせいで原作の明和第一に勝るとも劣らない実力を身に付けてしまい、聖秀は手こずっていた。

 

 それでも大地は海堂を倒してくれたことだけは感謝していた。

 江頭は何をするか分からない。それは硬球を使った野球の試合という、最悪のことすらあり得るスポーツではなおさら対戦したくなかった。

 原作(MAJOR)で吾郎がやられた仕打ちを考えると、誰もがターゲットにされてしまうし、聖秀を負かす方法は簡単なのである。

 

(俺らのうち、()()()()()()()()()()()()()()()だけだからね)

 

 そう。それは別に大地や吾郎を狙う必要はない。

 内山や藤井、宮崎のような素人組を狙えば、より簡単に試合を終わらせることが出来る。

 野球は九人いなくてはならない。プロであっても八人しかいないのであれば、大会だったら小学生のチームにすら負けてしまうのが現実だ。

 

 聖秀のこの一年の課題は上手くなることだけではない。いかに離脱者を出さないかというのが重要になってくる。

 甲子園に出場し、更に勝ち進めば経験は積むことは出来るが、怪我のリスクも増すし、警戒される可能性も高くなる。

 全国に山のようにある高校であれば、江頭のように邪魔者を排除する考えを持っている人間がいてもおかしくはないのである。

 

 その点、帝仁は信用が出来るといってもよかった。

 もし警戒しているのであれば、合同練習をしている時に狙えばいいし、そのタイミングはいくらでもあったからだ。

 

(それにしてもこの大会中、江頭は一切動いてなかったけど……っと、今は試合に集中しなくちゃだ)

 

 大地は飛んできたボールを捌いて、二塁にいる渡嘉敷にトスをする。

 渡嘉敷はそれを利き手で受け取り、その流れで一塁に投げてアウトにする。

 

「アウト! 三死(スリーアウト)、チェンジ!」

「よし! ゲッツーだ!」

 

 大地と渡嘉敷はお互いのグラブでハイタッチをしながらベンチへと戻っていく。

 試合は既に終盤へと差し掛かっていた。

 

 

 

     ◇

 

 

 

「……全くもって面白くありませんね」

 

 江頭は自室に備え付けられたテレビで神奈川県大会の決勝を観ていた。

 海堂野球部のチーフマネージャーになってからというもの、毎年この日はテレビで決勝を観ていたのだが、海堂が準決勝で敗退してしまったために他チームの試合を眺めているだけとなってしまっていた。

 

 (かた)や準決勝で海堂を破って決勝に行ったチーム。(かた)や自身をコケにしてくれた因縁があるチーム。

 どちらがより憎いかは分かりきっているのだが、それでもう片方のチームを応援する気には一切なれなかった。

 江頭は椅子に座り、机に両肘を付いて口元で手を組みながら考え事をしていた。

 

(どうすればあいつらに一矢報いることが出来るか……あいつらに甲子園にだけは行かせるものか……)

 

 海堂が負けてからというもの、江頭は頭をフル回転させていた。

 睡眠時間を削り、法律に引っ掛かることはないレベルで彼らの邪魔をすることだけを考えていたのだ。

 

(アレも駄目だ、コレも駄目だ。あの方法なら……! いや、それでは弱すぎる。あいつらには最大限の屈辱を与えてやらねば……)

 

 そこでふと頭の中によぎるものがあった。

 手で口元を隠していたのにも関わらず、明らかにニヤリとしたのが分かった。

 

「ふはは……ふははははっ! そうか、これならば!」

 

 江頭は誰も居ない部屋で大きな声で笑い続けていた。

 

(くひひ……潰してやる! 潰してやるぞ、本田兄弟と佐藤寿也ぁ!)

 

 

 

     ◇

 

 

 

〈八回が終わり、遂に九回まで来ましたね。4-2で聖秀学院がリードしています〉

〈やはりこうなりましたね! 私は初めから聖秀が有利だと思っていたんですよ!〉

〈そ、そうでしたか?〉

〈当たり前じゃないですか! シニア時代、全国大会を優勝したバッテリーにキャプテンの本田大地君もいるんですよ? それに薬師寺君達もシニアで有名だった選手です。ここまで集まっていたら鬼に金棒ですよ!〉

〈…………〉

〈何よりも初回の攻撃が良かった! さすが〝聖秀三連弩(ポリボロス)〟と呼ばれた三人ですね! あれは偶然では絶対に起こせませんからね!〉

〈えー、この番組を録画している皆様。決して巻き戻して最初から観ないようにお願いします。

以上、解説は車さんでした。それでは最終回の攻防をお楽しみください〉

〈なっはっはっは!〉

 

 

 九回表の帝仁の攻撃。五回に聖秀が追加点を取ってからは試合が動くことなく、石元と吾郎が完璧に抑えていた。

 帝仁側からすると追い付くためのチャンスを一回でも欲しいが、聖秀側からしても二点差では何があるか分からないため追加点が欲しい状況だった。

 追う側も追われる側も、お互いのチームが追い詰められていたのだった。

 

〈九回表の攻撃。帝仁高校の攻撃は一番セカンド、本間君〉

 

 本間はゆっくりとバッターボックスへと向かっていく。

 聖秀側は内野陣がマウンドへと集まっていた。

 

「吾郎君、最終回だけど大丈夫?」

「ん? おお、大丈夫だ。心配いらねぇよ」

 

 寿也の言葉に吾郎は明るい声で返事をする。

 それを聞いて安心したメンバーであったが、大地だけは吾郎のやせ我慢が分かっていた。

 

(この炎天下を帝仁相手に全力投球で投げ続けていたんだ。無理もないな)

 

 ペース配分が上手く出来る弱小校相手ならまだしも、真夏の炎天下を強豪相手に手加減など出来るわけがない。

 吾郎はまだ高校一年生である。身体もまだ出来上がっていない彼には、この炎天下を全力で投げ切るにはまだまだ体力が足りていなかったのだ。

 

「ん? 大地、どうしたんだ?」

 

 また何か言われるのではないかと思っていたのか、恐る恐る大地に問い掛ける吾郎。

 大地は口を開きかけたが、吾郎の気持ちを考えてそれ以上は何も言うことはなかった。

 

「おお、なんでもないさ。そろそろ始まるだろ、全員気合い入れていこう!」

 

 大地は全員の顔を見ながら鼓舞をした。メンバーも全員大地の顔を見て頷く。

 そして各々のポジションに戻っていく。

 

「大地……ありがとな」

「……何言ってんだよ。下手なピッチングしやがったら、俺と交代だからな」

「……ああ!」

 

 吾郎は大地が自分の限界を隠してくれていたことに気が付いていた。

 そして、そのことを黙っていてくれていたことに素直に感謝の言葉を告げる。

 二人は初めて試合をしたときにも同じやり取りをしていたことを思い出していた。

 

 吾郎と大地は目を合わせて微笑み合う。

 二人は同じ顔をしているが、性格はそこまで似ているようには見えない。

 だが、二人の気持ちは確かに通じ合っているのが双子の証拠であった。

 

(さあ、最終回だ!)

 

 吾郎は手に持ったロージンバッグを地面に置き、ボールを握りしめる。

 

「プレイ!」

 

 そして大きく振りかぶり、ジャイロボールを投げ込むのだった。

 




【小話:敵を知るためにはまず応援から③】

佐々木
「(つ、ついにここまで来ちゃったわね……これって、もしかして甲子園に行けちゃうの……?)」

涼子
「あ! 吾郎君が一番を三振に抑えたわよ!」

美穂
「すごいすごい! ……あ! 二番の人にヒット打たれちゃいました……」

清水
「このままだと四番にまで打順が回ってきてしまいますね……」

佐々木
「(四番の橘って人、さっきホームラン打った人じゃない! ピッチャー、何やっているのよ!)」

涼子
「大地君が投げてくれれば絶対に抑えるのにぃ!」

美穂
「本当ですよね! 大地さんなら絶対に抑えますよ!」

清水
「むっ……ご、吾郎だって絶対に抑えますよ!」

佐々木
「(え……本田大地ってピッチャーも出来るの!? な、投げたら今のピッチャーよりも凄いのかしら?)」

桃子
「ふふ、吾郎のことも信じてあげなきゃね! ……ってフォアボールで塁に出しちゃったじゃない!」

観客
「聖秀のピッチャー、結構へばってきてるな」

観客
「最後はあの〝橘英雄〟だけど、大丈夫なのか?」

佐々木
「(もう、何やってるのよ! このままだと負けてしまうんでしょ! 本田大地、ピッチャー出来るなら投げなさいよーー!!!)」
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