MAJORで吾郎の兄になる   作:ねここねこねこ

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少し短いのですが、投稿します。
神奈川県大会優勝してからの出来事です。

そして、大変遅くなりました。
ちょっとだけ新規業務が落ち着いてきたような気がするので、続きを書きました。
なるべく週一ペースで書けるようにはしていきたいです。

感想のご返信は出来ていないのですが、いつも拝見させていただいております!
いつも本当にありがとうございます!



第八十八話

「う、うおおおぉぉぉぉぉおおお!! こ、甲子園だぁぁぁぁぁぁ!!」

「おわっ! やめろよ、気持ち(わり)ぃな!」

「だ、だってよぉ〜! ま、まさか俺達が本当に甲子園に行けるだなんて……」

 

 レフトの藤井が真っ先にマウンドへと走っていき吾郎へ抱きつこうとするが、吾郎がサラリと躱してしまい、藤井は勢い余って転んでしまう。

 藤井の顔は嬉しさのあまり涙と鼻水、そして涎でベチャベチャになっていた。吾郎でなくても避けるであろう。

 

 それに追従する形で、他のメンバーもマウンドへと駆け出してくる。

 大地はファインプレーの余韻もあって、ゆっくりと立ち上がった後にマウンドへと歩いていく。

 

「吾郎」

「……大地」

 

 大地と吾郎は向き合いながら笑顔を見せて、ハイタッチを交わす。

 その姿を見て、二人を囲むように全メンバーが抱き合うのだった。

 

 

 

 

「それでは4-2で聖秀学院高校の勝ちです。互いに礼!」

「ありがとうございました!!!」

 

 帝仁高校のほとんどの生徒は泣いていたが、橘だけは唯一泣いていなかった。

 そして、吾郎ではなく、大地と握手をしていた。

 

「……参ったよ。あの球を捕られるんだったら、帝仁(うち)の勝ちは厳しかったな」

「いえ。たまたまグラブに入っただけです。次やったら捕れる自信なんてないですよ」

「そういうことにしておくよ」

 

 大地の言葉は謙遜と取られたようで、橘は苦笑いをしていた。

 

「甲子園……絶対に勝ち進め」

「……はい、必ず」

 

 そう言葉を交わし、二人は背を向けて互いのベンチへと戻っていった。

 

 

 

 

 

「先輩……」

 

 橘がベンチに戻ったとき、石元が待っていた。

 声を震わせ──いや、声だけでなく、全身を震わせて橘の名前を呼んでいた。

 

「石元、すまない。お前が何点取られようとも、俺が絶対に取り返してやると思っていた」

「…………ううっ……」

 

 橘の言葉を聞いて、石元は泣き崩れてしまう。いつもの張り裂けるような大声ではなく、ただ静かに泣いていた。

 そんな石元の方に手を置いて、「来年は勝てよ」と一声掛けて荷物を持ってベンチ裏へと去っていく。

 

 

 

 

 

 そして、橘が荷物を置いていた場所には、一雫(ひとしずく)の涙の跡だけが残されていた。

 

 

 

     ◇

 

 

 

「ふざけるなっ! よりにもよって聖秀が甲子園出場だと!?」

 

 本当であれば見るつもりもなかった神奈川県大会の決勝を、つい最後まで見てしまった江頭。

 その結果に怒り狂ったのは、彼の性格を知っているなら当然のことだ。

 持っていたボールペンを力任せにへし折り、机の上に置いてあった物をぶちまけていた。

 

「……はぁはぁ……はぁはぁ……」

 

 その形相は親の仇を見たときのようなものであり、この場に誰かがいたら恐怖で身動き取れなかったであろう。

 

(なんとしても……あいつらの甲子園出場だけは阻止してやる……! しかしどうやって……? このまま何も問題がなければ聖秀がある限り、あいつらは……)

 

 そこでハッとした表情を見せる江頭。

 

「聖秀がある限り……。そうか聖秀が無くなれば、()()()()()()()()()()()()()()()のか?」

 

 歪んだ顔でニヤリとし、手帳を取り出した江頭は机の上に置いてあった電話の受話器を持ち上げる。

 そして、ダイヤルを回そうとしたところで何かに気付き、受話器を置く。

 

(この部屋の電話でやり取りするのはまずい……)

 

 江頭はいくつか手荷物を持つと、そのまま車に乗って海堂高校から出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今、高校から出ていったわ」

「分かったわ。あとは私に任せて」

 

 その後ろを何者かにつけられているとも知らずに。

 

 

 

     ◇

 

 

 

「なぁ、ふと思ったんだけどさ」

「どうした?」

 

 閉会式も終わり、帰りのバスではしゃいでいた聖秀学院高校メンバー。

 渡嘉敷がふと疑問に思ったことを口にする。

 

「藤井ってレフトなのに、なんで優勝したとき内野の俺らよりも吾郎に飛びつくのが早かったんだ……?」

「あ……たしかに……」

 

 優勝が決まった瞬間、数秒と掛からずに藤井はマウンドまで走ってきていた。

 最後にファインプレーを決めた大地は立ち上がっていない状態だったのだから遅くても仕方がないが、それ以外のメンバーよりも早いというのが非常に気になっていた。

 

「藤井、お前まさか……」

「いや、その……だ、だって仕方ないじゃんか! まさか本当に甲子園に行けるって思っていなかったし……つい……」

 

 それが理由になっていないことは誰から見ても明白であり、藤井を問い詰める聖秀メンバー一同。

 結果、藤井は吾郎が最後の一球を投げた瞬間に飛び出していたとのことだった。

 

「お前……飛んだ場所が大地のところだったから良かったものの、レフトに飛んでいたらどうしてたんだよ!」

 

 本当に危なかったのである。これがレフトに飛んでいたら、最悪ランニングホームランになっていたかもしれない。

 一点差になっていたら、万が一の可能性もあり得たのだ。

 

「す、すまねぇってば!」

「ごめんで済んだら甲子園はいらねぇんだよ!」

「吾郎、それはさすがに意味分からん」

 

 大地のツッコミに全員が笑い、それで藤井の罪が許される。

 実際は許されているわけではなく、これから夏が終わるまでの間、藤井は聖秀野球部カーストの最下位に君臨し続けるのだが。

 それはまだ藤井本人だけが知らなかった。そして他のメンバーと一緒にのんきに笑い続けるのであった。

 




新作を投稿しました。良かったらぜひご覧くださいませ!
『英雄伝説 青薔薇の軌跡』
https://syosetu.org/novel/261919/
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