早くて週一(土日のどちらか)での更新になると思います。
毎日更新できるようになりたいと切に願っています。
「それでは、甲子園出場を祝って! 乾杯!」
「かんぱーーい!」
聖秀学院高校の体育館を使って、野球部の甲子園出場を祝う食事会が開かれていた。
そこには聖秀学院野球部のメンバーはもちろん、教師、家族、そして他校の友人すらも招かれて、それぞれが思い思いの時間を過ごしていた。
「おい、藤井! 学生は酒ダメだからな! もし飲酒がバレたら甲子園はおろか、対外試合も停止になるから気をつけろよ!」
「え……! わ、分かってるよ!」
教師の一人が、どさくさにまぎれて酒を飲もうとしていた藤井を注意していた。
何人かでしんみりと端っこでジュースを飲んでいる者、可愛い女の子二人に囲まれている者、男女で仲良く話している者。
その中で、なぜか藤井だけが一人ぼっちでポツンと立っていた。
(え……お、俺だけなんで一人なんだよ! 大地はめちゃくちゃ可愛い女の子に囲まれてるし、吾郎は薫ちゃんとイチャついてやがるしよ。お、俺だって女の子と……!)
辺りを見回すが、目ぼしい女の子はどこにもおらず、藤井はふてくされていた。
(ぐ、ぐぞーっ! これも全ては大地のせいだ! あんな可愛い女の子に囲まれやがってぇ! でもアイツに勝てる要素なんて俺には……ん?)
藤井はふと隅っこに置かれた物に気が付く。それは
小・中学生のときに遊びでやっていたのを思い出す藤井。
(懐かしいなぁ……あのときは卓球部のやつ以外には誰にも負けなかったからな! 誰に……も……? そ、そうか! これだ!)
藤井は何かを思い付いたのか、すぐさまジュースが入ったコップを置いて走り出す。
そして大地の目の前で止まる。
「ど、どうしたんだ、藤井?」
「ふっふっふ! 大地! 今から俺と勝負しろ!」
突然勝負を持ちかけられた大地は困惑する。
「勝負? 急にどうした?」
「野球じゃお前に勝てないけどな、
藤井が指した先には先程発見した卓球台が置いてあった。
それを見た大地の表情が変わる。
「……ひっ!」
「なっはっは! こう見えても俺は中学校まで卓球部以外には誰にも負けたことがないからな! 野球一筋のお前にだってこれなら勝てるはずだ!」
卓球台と大地の顔を見て、
寿也の妹である美穂は何のことか分からずにぽかんとしているが、涼子は次第に震えだす。
「あ、あなた! 悪いことは言わないから、やめておきなさい! 大地君にだけは挑んではダメ!」
「ふん、大地の彼女からすると大地が負けるのは嫌だろうけどな、俺だって負けられないんだよ!」
「彼女……えへへ……じゃ、なくて、本当にやめなさいってば!」
「涼子さんは大地さんの彼女じゃありません! でも涼子さんがここまで言うなら、本当にやめておいたほうがいいんじゃ……?」
彼女扱いされて一瞬だけ現実逃避をしそうになった涼子だったが、すぐに我に返って藤井を止める。
美穂は涼子だけが彼女扱いされたことに腹を立てるが、涼子がここまで止めるのは変なので一緒に止めに入る。
しかし、今の藤井を止めることは誰にも出来なかった。
「……卓球、でいいのか?」
「ん? おおよ! 俺の強さを見せつけてやるぜ!」
「分かった。じゃあ準備をしようか」
大地は目つきが明らかに鋭くなっていたが、すでに勝ったつもりでいる藤井はそれに気付くことはない。
そしてその騒ぎにようやく吾郎達が気付き始める。
「ん? なんだ、どうしたんだ?」
「吾郎君!
「…………な、なんだとッ!?」
涼子の言葉に驚く吾郎。だが他の聖秀メンバーには何が何だか分かっていない。
分かっているのは
「だ、大地……藤井も悪気があったわけじゃないんだし、やめてやれよ……な?」
「え? ただ卓球勝負を持ちかけられたからやるだけだよ? おかしな奴だな、吾郎は」
「……ひっ! り、涼子ちゃん! ダメだ、ああなったら俺も止められねーよ!」
「どうしよう……もう、犠牲者を、増やしてはいけないというのに……」
吾郎は絶望の顔をして、涼子は泣きそうな顔をしていたが、もはや誰にも止めることは出来ない。
こうして準備が整ったところで大地対藤井による卓球対決が始まるのだった。
◇
十一点先取、一セットマッチ。サーブは三回交代で大地サーブからスタート。
大地はボールを数回台に軽く弾ませたあと、少し高く上げてボールを打つ。
対角線上に飛んでいったボールは横回転されており、相手コートについた瞬間、逆回転をして藤井の顔めがけて飛んでいく。
「うおっ!」
「ふふ。ツイストサーブだよ」
避けきれずに顔面に当たってしまい、大地のポイントとなる。
ニヤリと笑う大地の顔が、周りの観客に恐怖を与える。
「も、もうダメだ。これ以上は……」
「や、やめてあげて……」
吾郎と涼子だけは過去のトラウマを呼び起こされたようで、ガタガタと震えだす。
ポイントは1-0。
先ほどと同じく数回台にボールを弾ませた後、大地はボールを高く上げ打つ。
今度はスライス回転することなく、通常通り弾んでいく。
「くそっ!」
藤井はなんとかボールを打ち返すが高く上げてしまい、大地にとってチャンスボールとなる。
すると後ろに事前に下がっていた大地は軽く助走をつけ、ジャンプした。
そのまま身体全体を使って思い切り叩き落とすようにボールを打ち込む。
ものすごいスピードで相手コートに飛んだボールは台に付いたあと、藤井の横を抜けていった。
「どーーーん!」
「な、なんだよそれ……?」
ポイントは2-0。
あまりの実力差に藤井は冷や汗をかくが、勝負はまだ始まったばかりである。
彼は生来の負けず嫌いを出し、勝負を続けるが、難なくサーブが決まり3-0と点差が広がる。
(大地のサーブだから点が入っているだけだ! 次の俺の番になれば!)
サーブチェンジとなり、藤井のサーブの順番となる。
藤井は回転を掛けてサーブを打つ。
「お! 藤井やるじゃん」
「確かに手慣れてそうだな」
いつの間にか観戦に来ていた清水や薬師寺達が藤井のサーブを褒める。
(どうだ! 卓球部直伝のサーブだぜ! これで薫ちゃんも……!)
藤井は大地が変なところに打ってしまうか、空振りするという妄想をしていたのだが──。
ボールが卓球台を弾く大きな音がなり、藤井の顔を何かが掠めていった。
「これで4-0だな」
無表情の大地は左腕を上に掲げ、ラケットを持った右手を正面に突き出していた。
「な……なにが起こったんだ?」
「見えてなかったの? 今、大地が〝レーザービーム〟みたいなショットを打ったんだよ」
内山の言葉に渡嘉敷が冷静に答える。
正確には超高速パッシングショットというのが正しいのだが、レーザービームと呼ぶにふさわしい技であり、そのスピードを追える目を持っている人はこの場には少なかった。
ここからは──最初からだが── 一方的な試合となっていった。
藤井は為す術なく、大地から一ポイントを取ることも出来ずに敗北した。
「プリッ♪」
「く、くそ……!」
大地の余裕そうな顔を見るたびにあの時の恐怖が蘇ってきてしまい、吾郎と涼子は動き出すことが出来なくなっていた。
息が上がってしまい、座り込んでいる藤井の前に立つ大地。
「さて、俺に卓球で勝つって言ってたのはどこのどいつかな?」
「……ひっ!」
大地の笑顔があまりにも恐ろしく、藤井は後退りしようとするが、腰が抜けてしまって動くことが出来ない。
殺される──そう思ったときだった。
「ふん、藤井を倒したくらいで調子に乗るなよ」
「ああ、調子に乗るなら俺達に勝ってからにしろ」
「そうだね。あれくらいなら問題なく返せるし」
その場に現れたのは、薬師寺、大場、渡嘉敷の三人だった。
無表情で三人を見つめる大地。
「へぇ、じゃあ早くやろうよ。何人でやる? 一対三でもいいよ?」
「……ちっ。本気で調子に乗ってるようだな!」
ここから海堂待生組による大逆襲が始まった。
「まだまだだね」
否、逆襲は始まることはなく、大地によってトラウマを植え付けられた人間が増えただけだった。