MAJORで吾郎の兄になる   作:ねここねこねこ

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あと、いつも高評価や感想ありがとうございます!
返信は出来ていないのですが、ちゃんと拝読しておりますので本当に嬉しいです!
これからもよろしくお願いします!



第九十話

〈さぁこの真夏の快晴の下、高校球児達が全国から甲子園球場に集まってきました!〉

 

 八月某日。兵庫県にある甲子園球場では、全国から集まった各都道府県の代表校の生徒達が開会式に臨むべく、行進をしていた。

 そこにはもちろん、神奈川県代表である聖秀学院高校野球部の姿もあった。

 

「お、始まったな」

 

 入院中の大地は病室のテレビからその中継を見ていた。

 そのそばには桃子、涼子、美穂の三人がいて、一緒にテレビを見ている。

 

「そういえば母さんの幼稚園ももう夏休みだっけ?」

「そうよ。だから毎日大地のところに来てあげるからね!」

「い、いや、それは……あ、はい。ありがとうございます……」

 

 それは流石にやめてくれとお願いしようとした大地であったが、桃子の泣きそうな顔を見て何も言えなくなってしまう。

 その横では涼子と美穂はこういうやり取りを見て、大地を落とす方法を学んでいた。

 

(やっぱり大地君には、年上の包容力的なものが必要よね)

(ああやって甘えるようにすれば大地さんも……あ、メモメモ!)

 

 行進を終えて、開会式が始まる。

 その間に各校の紹介をしているアナウンサー。

 

〈次は神奈川県代表の聖秀学院高校です! 神奈川県はあの海堂高校が破れたということでも話題になっていましたね!〉

〈ええ、とはいえ聖秀学院高校が直接対決したわけではないので、海堂以上の実力を持っているかと言うと疑問ですけどね〉

〈ということは、やはりそこまででもないと?〉

〈ええ、そうでしょうね。高校野球は一発勝負。何十年もやっていればこうやって創部一年目の高校がラッキーで勝ち上がってくることもあるでしょう〉

 

 解説の人は、聖秀がまぐれでここまで勝ち上がってきたと意気揚々と話していた。

 挙句の果てには、「初戦でボロ負けするだろうから、早めに荷物をまとめて帰ったほうが良いのでは?」とまで言い出す始末。

 それには大地ではなく、桃子達が憤慨していた。

 

「ちょっと! 何よ、あの解説!」

「本当ですよ! 何も知らないくせに! ちょっと昔プロ野球で活躍したレベルで何でも知っているとか思ってるんじゃないわよ!」

「今は時代が違うんですーっ!」

「……いや、その。廊下に声が響いてるから……」

 

 大地は叫ぶように怒りの気持ちをぶちまけている三人を宥める。

 彼がいるところは個室のため、同じ部屋に別の入院患者がいないのは幸いだったが、廊下まで聞こえるレベルの大声を出されるのも困りものだった。

 

(甲子園か……出たかったなぁ……)

 

 一歩引いた目線でテレビを見ていた大地は、本当であれば自分はあの場にいたはずだった。

 それが幸か不幸か、自分ひとりだけが本田家近くの病院で過ごすこととなっていた。

 

(いや、でも吾郎を助けることが出来たんだ……それだけでも良しと思わないとな! 贅沢を言うものじゃ……ない……)

 

「大地……?」

「だ、大地君?」

「大地さん……」

 

 ふと大地の顔を見た桃子は思わず声を上げてしまう。

 それに反応した涼子と美穂も大地の顔を見て驚いてしまっていた。

 

「……え?」

 

 大地も初めは何のことか分かっていなかった。

 だが、自分の手に何か冷たい感触があったのに気付いて下を向くと、自身の顔から水滴が落ちていたのだった。

 

(え……俺……泣いて、いるのか……?)

 

 そこでようやく大地は自分が泣いているということを理解した。

 なぜ泣いているのか分からず困惑していると、不意に抱きしめられる。

 

「大地……貴方は本当によく頑張ったわ。キャプテンとしても、お兄ちゃんとしても。だからってそんなに我慢しなくていいのよ。泣きたいときは泣きなさい」

「母さ──!」

 

 桃子が優しく大地を抱きしめ、頭を撫でて慰めていた。

 大地はついに堪えきれなくなり、自分の気持ちを吐き出してしまう。

 

「俺……俺……おかさんとおとさんが死んじゃってから、吾郎を精一杯助けようって……そのためなら別に自分なんてどうでもいいって思ってたつもりだった。

でも、でも……なんでかなぁ? すごい悔しいんだよ。甲子園(あの場)になんで俺だけいられないんだよ……! なんで俺だけなんだよって……!

吾郎と、寿くんと、聖秀のみんなと一緒に甲子園で野球をしたかったんだ……!」

 

 大地は桃子の胸に顔を(うず)めて、小学生のように泣いてしまっていた。

 聖秀野球部の一員として、あの場に自分がいることが出来ないことが何よりも悔しかったのだ。

 大地自身は今まで気付いていなかったのだが、吾郎を助けることが出来たことでその気持ちは更に高まっていたのだった。

 

「大地君……」

「大地さん……」

 

 涼子と美穂も今まで見たことがない大地の様子にもらい泣きしてしまう。

 そして、桃子と一緒に大地を抱きしめるのだった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

 結局、聖秀学院高校野球部の初めての夏は、甲子園二回戦で姿を消すこととなった。

 相手は決して強くはなかった。しかし、彼らの精神状態は大地がいることでいつも以上に落ち着くことが出来ていたのだ。

 その精神的支柱がいなくなってしまったことで、チームワーク自体にズレが生じてきてしまっていた。

 

 それだけではない。精神的に最も追い詰められていたのは吾郎だった。自身を庇ったせいで甲子園に出ることが出来なくなった大地。

 動揺で思ったところにボールは行かず、失投を重ねてしまい打ち込まれてしまう。そして、初めての甲子園に素人組は浮き足立ってしまい、エラーを重ねる。

 その失点を取り返そうと他のメンバーも粘ったのだが、力及ばずだった。

 

 彼らは帰りの新幹線でも終始暗い表情をしていた。

 それもそのはずだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そのことが彼らの頭の中で繰り返されていたのだ。

 

 素人組は、自分達が浮き足立ってしまったせいで何も出来なかったことを悔やんでいた。

 それはシニアで全国経験が無い田代も同じ。

 動揺を見せていても、一定以上の実力を発揮出来ていたのは寿也、薬師寺、渡嘉敷、大場だけである。

 

 その四人ですら、神奈川県大会ほどの力は出せていなかったのだ。

 誰もが他の全員を責めることなど出来ない。だからこそ誰一人として口を開くことはなかったのだった。

 それは顧問の山田一郎も同じであった。

 

(やはり私では力になれませんでしたか……こういうときに大地君がいてくれないといけないのですが、大地君ばかりに頼っていた弊害が出てきてしまったようですね)

 

 山田は何か決心したような顔つきで新幹線の窓から外の景色を眺めるのだった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

「はい、どうぞ」

 

 聖秀が二回戦で敗北した日の夕方。もう少しで面会時間が終わろうとしていたときに大地の部屋のドアがノックされる。

 桃子達は先程帰ったばかりだったので、何か忘れ物でもしたのかなと大地が思っていると、開けられたドアからは驚くべき人物が入ってきた。

 

「おや、元気そうですね」

「…………何しに来たんですか?」

 

 その人物は半袖のワイシャツにスラックスとクールビズの格好にいつもの眼鏡を掛けていた。

 手にはビジネスバッグと紙袋を持っている。

 

「いえね、神奈川県代表の試合を今日見ていたら、大地君(あなた)の姿がないものですからどうされたのかなと学校に問い合わせてみたんですよ。そうしたらこちらに入院されているということじゃないですか。これは一大事だと思いまして、帰りにお見舞いに来たのですよ」

「…………」

 

 薄ら笑いを浮かべているその男は、お見舞いの品だと紙袋を近くの机の上に乗せると、大地の返事を聞くことなく本題に入る。

 

「車に轢かれたということでしたが、具合はどうなのですか?」

 

 大地はその言葉で確信した。

 

(……それが本命か。わざわざ自分で直接確かめないと気が済まないようだな)

 

 心の中で舌打ちし、どう答えようか悩んでいたが、いつまでもその顔を見ているのもイライラすると思ったのか、素直に答えることにした。

 

「特に大した怪我でもなかったですよ。避けたときに電柱に頭を打って、切っただけですからね」

「……ほう? それだけですか?」

「ええ……()()()()()()

 

 男は眼鏡の奥から鋭い眼光でベッドにいる大地を見下ろす。

 大地も負けじとその男を睨み返していると、その時間が不毛だと思ったのか、男は再度薄ら笑いを浮かべる。

 

「ふふっ……大した怪我がないのであれば良かったです。秋大会は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……()()()()とは笑わせてくれますね」

 

 誰がやったのかを分かっているぞというニュアンスで先程から話している大地。

 しかし現時点で証拠は何一つない。それが分かっているからこそ、男は余裕の表情を崩すことはなかった。

 

「まぁいいでしょう。では次は秋大会で」

 

 そう言い残し、去っていこうとする男を大地は呼び止める。

 男は立ち止まるが、振り返ることはなかった。

 

「もう闇討ちは無意味ですよ。()()()()()()()B()+()()()()()()()()()

「…………?」

 

 男は大地が何を言っているのか一切分かっていなかったのだが、何も答えることなく病室を後にするのだった。

 




そういえば、近いうちにこの吾郎sideの間話で短編ミステリーを書こうと思っているのですが、見たい方はいますか?
題名は「本田少年の事件簿」です。題名は何を参考にしたかは分かりますよね(笑)
登場人物は聖秀野球部メンバーと清水、佐々木さん、オリキャラですね。
プロットは出来ていてもうある程度書き始めています。

犯人は誰か、トリックは何か、動機は?というのを全員で考察していけたら面白いなと。
アンケート取るので、ぜひご回答ください!

ミステリー短編間話 「本田少年の事件簿」を見たい?

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