MAJORで吾郎の兄になる   作:ねここねこねこ

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第九十一話

 九月。神奈川県秋季大会。

 結論から言えば、聖秀学院高校は準決勝で敗退した。相手は夏の大会決勝の相手だった帝仁高校。

 大地はすでに退院をしていたが、大事を取って秋季大会は試合に出ることは許されなかった。

 

 準々決勝までは渡嘉敷を中心に投手を回していたが、それも帝仁相手には通じず。

 攻撃も守備も中堅高校までであれば問題はなかったが、強豪校が相手では穴だらけであり、夏の決勝で敗戦投手となった石元相手に完璧に抑えられてしまった。

 その勢いのまま、帝仁高校が決勝で海堂高校を破り、センバツ出場を決めたのだった。

 

(……帝仁に決まったか)

 

 大地はテレビの電源を切り、ソファーに背中を預ける。

 負けてしまったことに対しての悔しさはあったが、()()()()では勝つのは難しかっただろうと息を吐く。

 そしてちらりと視線だけを横にズラす。

 

(あれから一ヶ月経つけど、ずっと()()()()なんだよなぁ……)

 

 彼の視線の先には弟である本田吾郎が胡座をかいてうなだれていた。

 吾郎は秋季大会一回戦で登板したものの、四球を連発して試合をぶち壊してしまうところであった。

 このときは相手が弱小校だったため、逆転勝ちをすることが出来た。それからの試合は渡嘉敷が投手を務め、準決勝敗退という結果になっていた。

 

 そんな吾郎に対し、誰も責めることはしなかった。

 なぜなら甲子園でのときと同じく、全員が本来の力を発揮できていなかったからだった。

 吾郎はそれが顕著になっているだけ。そのことで吾郎を責めるわけにはいかなかったのである。

 

「吾郎、もうすぐ練習だぞ。そろそろ準備しないと」

「…………」

「……おい、吾郎」

「ん? あ、ああ。分かってる」

 

 吾郎は覇気がない状態のまま、大地と一緒に用意を始める。

 大地はまだ練習には参加できないが、全員の練習を見ることは出来るため、練習時間には必ず顔を出していた。

 

(……動き出しているのは()()()()()なんだよなぁ)

 

 やはり大人は強しなのか、と大地は全員がより成長するためにはどうすればいいのか考えながら吾郎と一緒に家を出ていった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

「体調はどうですか、大地くん?」

「ええ、来月には練習に参加してもいいとのことでした」

「おお! それは良かった! ですが、来月ですと()()()()()微妙なところですね」

「何言ってるんですか。()()()()()()()()ですよ、山田先生」

 

 大地と顧問の山田は目を合わせて笑みを浮かべる。

 だが、問題は目の前に山積みであった。

 

「差し当たり、彼らをどうするかが当面の課題でしょうかね?」

「ですね。まぁそれに関しては俺に考えがあるので、今は山田先生が出来ることをゆっくり覚えていってください」

 

 山田は大地に対して信頼をしているため、彼に考えがあると言うのであればそれを信じて任せようと読みかけの本に視線を落とす。

 今読んでいる本は、野球部の監督をするうえで学んでおくべき基礎的な知識の本であった。

 

 夏の甲子園が終わり、神奈川に戻ってきた次の日。

 山田は入院中の大地の病室を訪れ、謝罪とともに「顧問だけでなく、監督になるためにどうすればいいのかを教えてほしい」と頭を下げたのだった。

 突然頭を下げられた大地は困惑したが、理由を聞き、それであればと了承する。それ以降、ずっと大地から野球の基礎はもちろん、監督業として覚えなくてはいけないことを必死に学んでいたのだった。

 

(この状況でチームの弱点に気付き、自分からすぐに動こうとできるのは大人だからというのもあるんだろうね)

 

 大地は山田に対し、尊敬の念を込めて接していた。

 原作では彼は()()として動いていたものの、()()として何が出来たかというと、ほとんど何も出来ていなかった。

 それは茂野をコーチとして招いていたことからも明白である。

 

 だが、現実の彼はそうではなく、自分自身で動こうとしていた。それは大地におんぶに抱っこの状態である今のチームが良くないと感じていたためだ。

 大地がいないだけでここまで質が落ちてしまうのでは、聖秀野球部に未来はない。

 そのため、少しでも大地の負担を減らすため、そして大地が卒業したあとの聖秀野球部が今よりも落ちることがないように精一杯サポートをしようと決めたのだった。

 

 甲子園とは選手にとってだけでなく、顧問(山田)にとっても大きく成長させる場となっていた。

 

(元々生徒のために色々と考えてくれる人だったけど、この人が一番に変わるとは思わなかったよ)

 

 山田に対しては微笑んでいた大地だったが、

 

(……本当に大丈夫かな?)

 

 中学の部活動レベルにまで練習の質が落ちている光景を一ヶ月以上も見ている大地は、聖秀ナインに対して不安を抱かざるを得なかった。

 初めは誰かが気付いて、そこから変わっていくだろうと様子見をしていたのだが、全く変わる気配がない。

 バッティング練習では大振りするだけで、先が見えない。守備練習ではポロポロとエラーして、お手玉を繰り返す。

 

 

 

 そういう内容の練習を繰り返す彼らを単純に怒るだけなら誰でも出来るが、まだまだ若い彼らを奮起させるには他の方法の方が良いと思っている。

 ため息を付きながらも、今は()()()ことに決めて必要以上のことは言わないように努めるのだった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

 神奈川県厚木市。海堂高校二軍の拠点がある場所の一室にて。

 部屋のドアをノックする音が聞こえる。

 

「はい」

「あたしよ」

「……どうぞ」

 

 ドアを開けたのは海堂二軍トレーナーの早乙女泰造。そこで待ち構えていたのは、海堂二軍監督である早乙女静香である。

 

()()()、どうしたの?」

「あら、静香ったら。あたしのことは()()()って呼びなさいよ」

「……ふざけているなら出てってくれる? 私も暇じゃないのよ」

 

 いつものやり取りではあるが、静香は立場的にも忙しいことが多い。

 今年の一年生が夢島から二軍へと合流していたため、この時期は全体の調整でいつもより忙しくなっていたのだった。

 その様子を察した泰造は「ただのお茶目じゃないのよぉ」とふざけつつも、次には真面目な顔に戻った。

 

「……()()()()、ようやく調べがついたわよ」

「──!? どうだったの!?」

 

 静香は椅子から立ち上がり、泰造へと迫る勢いで向かっていく。

 

「ちょっと落ち着きなさいよ。そんなに来なくても答えは変わらないんだから」

「……そうね。で、どうだったの?」

 

 泰造に窘められて、落ち着きを取り戻した静香は冷静に泰造に尋ねる。

 

「本田兄弟の件、()()()()()()()()()()()わ」

「……え? どういうこと!?」

 

 静香が泰造のまさかの回答に対し、詳細の説明を求める。

 

「そのままの意味よ。彼らのひき逃げに江頭は関与していなかったわ」

「じゃ、じゃあ一体誰が本田兄弟を襲ったというのよ?」

「近いうちにニュースになると思うけど、飲酒運転をした男が本田大地くんを轢いて、怖くなって逃げ出したというのが真相だったわ」

 

 大地達が甲子園に向かう前日の夜。そこから朝まで浴びるようにお酒を飲んでいた男。

 泥酔に近い状態で店を出た男は家に帰ろうと車に乗り、深酒をしていたことと朝まで寝ていなかったことから飲酒状態で居眠り運転をしてしまっていた。

 そして大地を轢いたあとにその事実に気付き、そのまま逃げてしまったということだった。

 

「そ、それじゃあ私達が江頭を尾行したときに会っていた人物は誰だったのよ!?」

「彼は全く関係ない人物だったわ。……()()()()()()()()()()

 

 早乙女兄妹は、甲子園に向かう当日に大地がひき逃げされたと聞いて、すぐに江頭の仕業ではないかと当たりを付けていた。

 そして密かに色々なルートへ独自に依頼をして、今回の件を調べてもらっていたのだった。

 その結果がこれであり、後日大地を轢いた男は逮捕されるのだが、それはまた別のお話である。

 

「とりあえず本田大地くんも無事復帰できそうだし、海堂(うち)が関与していないと分かっただけでも不幸中の幸いだわね」

「…………兄さん、さっき()()()()()()()()()と言っていたわよね?」

「……ええ」

「じゃあ何に関係があるというの?」

「江頭が秘密裏に会っていたあの男は──」

 

 この話の後、静香と泰造は誰にもバレないように裏で動き続けようと決める。

 そして海堂内で信頼できる人物を仲間に引き入れるために少しずつ動き始めるのであった。

 




遅くなり申し訳ございませんでした。
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