こちらが正しい内容です。
(俺のツーシームが……おとさんと一緒に作り上げた切り札が……打たれた……!?)
マウンドに立ち尽くした吾郎に小森が近付いていく。
「ほ、本田君。大丈夫?」
「……あ、ああ」
「とりあえずツーアウトだから、あと1人バッター集中で抑えていこ!」
吾郎にボールを手渡し、ホームに戻っていく小森。
動揺し続けている吾郎には小森の声は届いていなく、寿也に打たれたという事実だけが頭の中を駆け巡っていた。
バッターは5番真島。前の回、吾郎の球を打つことが出来ず真島も焦っていた。
下級生に4番を譲るだけでなく、翔と吾郎だけが打っていることに自身のプライドは傷付けられていた。
今度こそ打ってみせると意気込むが、
「ボール! フォアボール!」
吾郎の球がストライクに入らず、4連続ボールでフォアボールとなった。
舌打ちをしながら吾郎を睨みつける真島。
吾郎はそれすらにも気付かず、ランナー一、二塁となる。
「タ、タイム!」
小森がたまらずタイムを取ってマウンドに行く。
内野手も全員集まるが、空気は重かった。
「ど、どうする?
「そうだな! フォアボールが怖いなら打たせても大丈夫だから」
「本田君、どうする?」
「あ、ああ……」
歯切れの悪い吾郎の返事に全員の空気もさらに悪くなる。
特に案もないまま、全員が自分の守備位置に戻ろうとしたとき、
「み、みんなごめん……」
突然の吾郎の謝罪に全員が振り向く。
「お、俺さ……みんなに勝手なことを言って、ここまで無理してついてきてもらったのに……こんなことで崩れちゃってさ。
これじゃあ本当にただのわがままだよ……」
「ほ、本田君……」
「俺には、
それが俺に出来る唯一の誠意だって。
全員が吾郎の話を聞いて黙る。
小森は俯いていたが、何かを決心したかのように急に顔を上げて吾郎に向かって叫ぶ。
「そんなことないよ!!」
「小森……」
「そりゃあ本田君がチームからいなくなるのは寂しいよ! でも、僕たちはみんなで決めたんだ!
いなくなってしまう本田君のために、
「そうだ!」
「本田が自分勝手な行動するなんて初めからだっただろ!」
「これは俺達全員の問題なんだ! 勝手に自分だけの問題にするなよな!」
「……みんな」
吾郎は内野にいる全員だけでなく、外野にいた沢村や清水、鶴田も見た。
話の内容は分かっていないが、全員同じ気持ちであろうことは伝わったのである。
そして再び小森が近付いてくる。
「みんな、今は1球でも多く本田君と野球をしていたいんだ。
だから贖罪なんて気持ちで試合をしないで欲しいんだよ。今は、この大会だけは僕のミットを目掛けて
吾郎は全員の言葉を聞いて涙を浮かべていた。
目を瞑り、一筋の涙が流れるが、それを袖で拭い取りすぐに笑顔を浮かべる。
「よし! じゃあピンチだけど、気にせずにバッター重視でいくよ! 全員これ以上は絶対に点をやらないからね!」
「「「「おおっ!!」」」」
小森の声に全員が改めて気合を入れ直す。
マウンドに立った吾郎の顔は吹っ切れたかのようにスッキリした顔となり、先ほど寿也に打たれたことなど一切気にしていなかった。
「プレイ!」
プレイが再開し、吾郎はワインドアップからど真ん中にフォーシームジャイロを投げ込む。
6番の羽生は手を出せず見送る。
(小森……みんな。ありがとう! 俺は──)
「──絶対にこれ以上打たせねえ!!」
(あ……そこだ!!)
吾郎が投げた2球目、ど真ん中に投げるも、羽生はバットを振ることすらできず見逃す。
そこですかさず小森は一塁にボールを投げる。真島が不用意に一塁ベースから離れていたためだ。
すぐに戻ろうとするも、小森の投げたボールの方が早く、真島はファーストでアウトとなる。
「ア、アウトー!!!」
「く、くそっ!」
「「「「「こ、小森ーーーーっ!!」」」」」
全員が小森のナイス判断を称え、笑顔でベンチに戻っていく。
横浜リトルはツーアウト一、二塁のチャンスを生かすことが出来ずに1点止まりでチェンジとなってしまった。
翔と寿也は崩れてしまった吾郎が復活したのを見て、喜びを隠せずに笑っていた。
(一時は心配したけど、さすが吾郎君だ。それでこそ僕らの
◇◇◇◇◇◇
4回裏、5回表と、翔と吾郎はバットにかすらせないピッチングで相手打線を抑える。
そして5回裏。最初のバッターである吾郎が打席に入った。
(正直、今の吾郎君は怖い……こうなったときの彼は止められないからね。)
(でも……だからこそ勝負したいんでしょ?)
(さすが寿也! 分かってるじゃん!)
翔と寿也の間には何も言葉は交わされていなかった。
彼らはただお互いの目を見て笑っただけ。それだけで全ての気持ちを理解したのである。
(これで吾郎君が敬遠されたらこの試合は終わるな……。というか定石として絶対に敬遠するはずだ……これが吾郎君の三船リトルとしての最後の試合になるのか……)
安藤はため息をついてマウンドとバッターボックスを交互に見た。
今確実に翔のボールを打てるのは吾郎だけであり、まぐれ当たりも寿也のリードであれば期待できない状況なのである。
ここで吾郎が敬遠されてしまうことを恐れていたのだった。
(来る! 翔くんと寿くんは敬遠なんて絶対にしない! それなら俺は全力で打つだけだ!)
吾郎は未だかつてないほど集中していた。
その闘志は翔達にも伝わってくるほどである。
樫本は一度立ち上がって敬遠の指示をしようとしたが、途中でまた座り直した。
「
子供とはいえ、男と男の真剣勝負を邪魔するような無粋な人間でいたくなかった樫本は、誰にも聞こえない声でそう言った。
あとは子供達で決着を付けるだけだった。
第1球。翔のストレートが外角低めに入りストライク。
次の球は内角に入ったボールを吾郎がカットしてツーストライクと追い込む。
(ここで1球外して、チェンジアップで三振にするのが確実なんだけど。翔の顔はそんなことしたくないって顔なんだよなぁ)
(分かってるなら、こんなところで水を差すようなサインを出すなよー!)
(大丈夫だよ。でも勝負するなら、絶対に抑えなよ!)
(それは分からないがな!)
2人はただ笑っているだけ。頷きもしなければ、首を横に振ったりもしない。
そこには2人だけがわかる空間が出来ていたのであった。
翔がワインドアップから振りかぶり、ボールを投げる。
その球は、この試合で翔自身でも最高の
(よし! この球なら打たれ──)
寿也が三振を確信して捕球体勢に入ったとき、吾郎がバットを思い切り振り抜くのが見えた。
それはまるで、翔がこの1球でベストピッチングをしてくると初めから分かっていたかのような反応だった。
ボールがバットに当たったのがわかる大きな音とともに、ボールがセンター方向に飛んでいく。
センターの関が、ボールを追いかけるために後ろに走っていくが、途中で走るのをやめてしまう。
ボールは、リトルリーグ用に設置されたホームランのフェンスではなく、その先のバックスクリーンに入っていった。
そして翔は振り向きもせずに、帽子を深く被りながら静かに微笑むのであった。
翔くんの微笑みは、何かを企んだ笑いではなく、「打たれちゃったかぁー!」といった吾郎を凄いと思ったときの微笑みだと思ってくださいませ!
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『MAJORで吾郎の兄になる』という作品も掲載しておりますので、下記から併せてご覧いただけますと幸いです。
https://syosetu.org/novel/216811/