第一話
「
ノックとともに部屋に母親が入ってくる。
双子である佐藤翔と佐藤寿也は同じ部屋で、同じ勉強机を隣り合わせにして勉強していた。
「ちゃんと勉強してる?」
「うん」
「しっかりね、今頑張って
そう言って持ってきたお菓子とコーヒーを置いて部屋から出て行った。
「翔……ドリルはどこまで進んだ?」
「んーとね、僕はもう終わるよ」
「え! 早くない!? 僕はまだ半分過ぎたあたりだよ……」
翔が早いのは仕方がない。なぜなら転生者で、この程度の内容であれば前世で習い終わっていることだからだ。
子供にとってはかなり量が多いが、元大人からするとそこまで多くないので余裕を持って出来る。
「ここ分からないから教えて」
「ああ、いいよ。これはね──」
弟である寿也に勉強を教えつつ、課題のドリルが終わったのでコーヒーを飲みながらゆっくりしている。
ちなみに翔がもっと幼い頃から視力に気を付けていたため、2人とも眼鏡を掛けずに裸眼で1.5以上ある。
2人だと寿也の勉強も捗るのか、そこから1時間ちょっとで寿也の課題も終わる。
「寿也、僕らは今日も勉強頑張ったねぇ」
「そうだね。慶林小に頑張って入らないといけないから」
両親は厳しい面もあるが、基本は優しい。
だから課題を文句言わずにこなしていれば、特に何も言わないし、むしろ何かチャレンジするのも賛成してくれる。
翔と寿也は課題もきちんと毎日終えて、成績も良いので「スポーツしたい」と言ったら、すぐにOKが出てスイミングスクールに通わせてもらっている。
「翔、外でキャッチボールしない?」
「お、いいね!」
母親に無理を言って野球グローブを1年前に買ってもらってから、水泳以外のストレス発散としてキャッチボールをしていた。
初めは「野球なんて……」と言っていた母親だが、2人の成績がぐんぐん伸びると喜んで買ってくれたのだ。
「いくよー!」
「はーい!」
翔は寿也にボールを投げる。キャッチボールを始めた時は、おっかなびっくりやっていた寿也も今は問題なく捕れるし、投げる方もかなりのスピードを出すことができている。
まだ身体が出来ていない状態で無理はしないようにしているが、それでもさすが佐藤寿也だと翔は思っていた。
「あれ? こんなところで野球やっている子が他にもいたんだ!」
大きな声に翔が振り向くと、そこには野球のユニフォームを着た同い年くらいの男の子が立っていた。
グローブとボールも持っていて、いかにも野球をしていますといった感じだ。
「うん、僕らはそこに住んでいて、気晴らしでキャッチボールをしているんだよ」
「え! そうなんだ! 良かったら一緒にやろうよ! あ、俺の名前は本田吾郎!」
(本田吾郎! こんなところで会うなんて! 確かに原作開始はこのくらいの年齢だったな)
寿也はどうする? といった感じで翔を見るが、特に反対することもなかったのか吾郎と一緒に野球を始めることになった。
「いいよ! 野球はたくさんでやった方が面白いもんね! 僕の名前は佐藤翔!」
「ぼ、僕は佐藤寿也。双子で翔がお兄ちゃんなんだ」
「そうなんだ、よろしくね! 翔くんと寿くん!」
────それが吾郎、寿也、翔の初めての出会いだった────
「いくよーー!」
吾郎は振りかぶって思いっきり投げてくる。
翔はかなり速いと思ったが、問題なく捕球する。寿也も吾郎の球は問題なく捕球出来ていた。
それも1年前からずっとキャッチボールをして慣れていたのもあるし、スイミングスクールで運動経験もあるので、少しスピードが速くても対応できていたのだ。
「2人ともすごいね! 俺のボールってそんなに簡単に捕れると思ってなかった!」
「キャッチボールくらいはね。僕と寿也も毎日やっていたから」
「えー! じゃあバッティングとか色々やろうよ!」
「バッティングはダメだね。遠くに飛んで行ったりしたら危ないし」
打撃練習はさすがに難しいので、ゴロを転がして捕ってからファーストに投げるといった簡単な守備練習をすることにした。
初めはあまり練習していなかった翔と寿也は苦戦したが、少し慣れると吾郎と似たような感じで捕球できるようになっていた。
「うまいなぁ。俺こんな感じで初めから上手く出来なかったよ!」
「吾郎君ほどじゃないよ。ね! 翔!」
「そうだね! 吾郎君はやっぱり上手だよ!」
お互いに褒め合ってなんとなく照れている3人。
その時、吾郎を呼ぶ声が聞こえた。
「あ、おとさん!」
「へえ、キャッチボールする相手ができたのか」
「佐藤翔って言います。こっちは双子の弟の寿也」
翔も寿也も頭を下げて吾郎の父親である本田茂治に挨拶をする。
思っていた以上の爽やかなイケメンに翔は少しびっくりしている。
(吾郎君のお父さんって実際に見るとこんなにイケメンなのか。そりゃあ吾郎君もイケメンってずっと言われるわけだよね)
「翔くん、寿くん! また明日ね!」
「「うん! じゃあね!」」
「翔くん、寿くん。良かったらまた吾郎と遊んでやってくれよ!」
「「は、はい!」」
吾郎が去っていくのを、手を振って見送る2人。
もう陽が落ちるところだったので、翔と寿也も家に帰ることにした。
服を汚していたことは軽く怒られたが、きちんと課題のドリルを終えていたので、他に何かを言われることはなかった。
この後もきちんと課題を終えてから遊ぶようにしていたので、両親は怒ることもなく優しく接してくれていた。
◇◇◇◇◇◇
「でやっ!」
寿也が投げたボールを吾郎が打ち、空き地を超えて飛んでいく。
「やりぃ! 場外ホームラン!」
「吾郎君! 上に打っちゃダメだって言ったじゃん! 今のが最後の紙ボールだったのに! また家に帰って新聞紙丸めて作らなきゃいけないじゃん!」
「ご……ごめん……」
バッティング練習もしたいという吾郎と寿也に対して、翔が新聞紙を丸めて紙でボールを作ってやろうと提案して始まった。
上に打っちゃダメというルールでやっているのに、吾郎は盛り上がるとすぐに思いっきり打ってしまう。
いくら怒っても反省していないような態度なので、翔も寿也も呆れてしまっている。
「でもさ、紙ボール打ったりキャッチボールしているだけだとつまんないね」
「え?」
寿也は翔と野球をゲームでもするようになっていたので、ルールはある程度分かっていた。
9人1チームでやるのが野球なので、もっと広いところで友達集めてちゃんとした野球の試合がしたいと訴える寿也に、吾郎は無理だと言う。
「幼稚園の友達だって、サッカーやドッジボールはやるけど、野球は誰も知らないもん」
「そっか……」
落ち込む吾郎と寿也。しかし、寿也が思い出したかのように「草野球チームに混ぜてもらおう」と提案する。
翔と寿也は線路の向こうにグラウンドがあり、ユニフォームを着た子供達が野球をしているのを見たことがあった。
吾郎と寿也は先ほどとは違って、明るくなりながら混ぜてもらおうと向かおうとする。
「ちょっと待って」
「え、翔どうしたの?」
「んー、一旦さ、吾郎君のお父さんに聞いてみてからにしない?」
翔は線路の向こうでやっているのが硬球を使った本格的な野球チームだと知っている。
だから怪我をしたら危ないということなどもあるし、まだ身体が完全に出来ていない状態で無理をすると良くないのだ。
「えー! 大丈夫だよ! 行こうよ!」
「向こうは硬球を使ってやっているんだよ。怪我とかしたら危ないし」
「そんなので怪我なんてしないよ!」
「うん、だからプロである吾郎君のお父さんの話を聞いてからにしようよ。お父さんは怪我にだって詳しいはずだし」
今日は無理やり納得させて家に帰った。
後日吾郎からやっぱり反対されたということと、おとさんは引退するから野球も全部嫌いになったんだと思っていたということ。
でも幼稚園の担任である桃子先生に連れられてスタジアムに観に行ったときに、一軍に上がって代打逆転サヨナラホームランを打った姿を見て、すごい格好良かったということを話していた。
その試合は翔と寿也もテレビで観ていたので、とても興奮したと3人ではしゃいでいた。
そして、硬球を使うリトルリーグはまだ早いと全員が納得して、9歳になるまで待とうとなったのであった。
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