MAJORで寿也の兄になる   作:ねここねこねこ

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第三十七話

「行ってきまーす!」

 

 ワールド高校のガイダンスが終わり、数日が経っていた。

 

「メリッサちゃん、行ってらっしゃい。翔も気を付けてね」

「うん、行ってきます」

 

 メリッサの思惑通り、彼女は佐藤家に居候することが出来ていた。ギブソンも自身の失敗のせいでメリッサが困っていたこともあり、強く反対できずに押し切られてしまっていた。

 

「ほら、早く行こ!」

 

 少し強引に翔の腕を引っ張るメリッサ。今日は佐藤家から初めての通学のため、メリッサはわくわくした気持ちで駅までの道を歩いていた。

 寿也と吾郎は、トレーニングがてら走って行くということだったので、二人きりで学校まで向かえるというのもメリッサの機嫌が良くなる理由の一つでもあった。

 

「それにしても……佐藤家(うち)に来るってなってからのメリッサは早かったよね」

「当たり前でしょ! もう行くって決めてたんだからね! 荷物は全部詰めておいたし!」

 

 苦笑いしながら翔が佐藤家に来た時のメリッサのことを話すと、それは当然だと言わんばかりの返事が返ってくる。

 

「あと、よくギブソンさんもOKしたよね」

 

 翔の言葉に、先に横にいたメリッサが満面の笑みを見せて「パパは私の味方だからね」と伝える。そういうもんかと翔は思っていたが、もちろん説得にはそれなりに苦労があったのだった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

 翔の両親から許可が出た日の夜、メリッサは早速ギブソンへ許可を求める電話をしていた。

 

「……ダメだ! 男がいるところに住むのは良くない!」

「なんで!? 翔なら大丈夫よ!」

 

 ギブソンは、開口一番メリッサにNGと伝える。しかし、メリッサもそれくらいでは諦めない。

 

「翔の両親からも許可貰ってるんだよ? 親公認なら大丈夫じゃないの?」

 

 メリッサが翔の親からはOKが出ているということを伝える。

 

「む、むうう……しかしだな……」

「じゃあ、ずっとホテルに一人で暮らせっていうの? そっちの方が心配じゃない?」

 

 ギブソンが言いよどんだところに、メリッサは畳み掛けるようにギブソンへ自分の考えを伝える。

 

「だからといって……男の家に居候して……何かあったら……」

 

 娘を持つ親として、その心配は当然であろう。何かあってからでは遅いのだ。しかし、メリッサはそれくらいで諦めるような子ではなかった。

 

「パパは数年前に翔と一緒にいて、そういうことをしそうな人に見えたんだ……?」

 

 少し悲しそうな声でメリッサがギブソンに話すと、彼は慌てたように否定する。

 

「い、いやいや! そんなことはないぞ! 彼はとても誠実な男だと思うぞ!」

「でもそういうことを話すってことは、翔は変なことをする人だって言ってるようなものじゃないの……? 私、悲しいよ……」

 

 メリッサはより悲しく聞こえるように話し、ギブソンは電話越しにメリッサが泣いているのだと気付く。

 

「いや、私は一般的なことを話しているだけであってだな……」

「じゃあ……パパは、翔がそういうことをするような人ではないのを分かっているってこと?」

 

 少し元気な声に戻ったのが分かったギブソンは、必死にメリッサの言葉を肯定する。

 

「も、もちろんさ! 彼は大丈夫!」

「……じゃあ翔の家で暮らしても問題ないわよね?」

「え……」

 

 急に明るくなったメリッサの声に戸惑うギブソン。

 

「だって、変なことはしない誠実な男性である翔の家なら、ホテルで一人暮らしするよりも安全でしょ?」

「む……むうう。それは……そうなんだが……」

「第一、パパがちゃんと寮の手続きをしていてくれていたら、こんなことにならなかったのになぁ……」

「うぐっ……!」

 

 決定的な一言を言われていしまい、ギブソンはもう何も言えなくなってしまった。今回の根本の原因はギブソンにあったからだ。そして、彼が黙ってしまった横で苦笑いをしていたのは、母親のローラだった。

 電話をスピーカーにして一緒に聞いていた彼女は、苦笑いをしながらギブソンの代わりに話す。

 

「メリッサ、あんまりパパを困らせないの」

「ママ!」

「……まあ今回は特別よ。その代わり条件があるからね」

 

 メリッサは毎日必ず電話するなど、いくつかの条件を飲むことで佐藤家に住むことを許されたのであった。

 

「よし! これでもう大丈夫ね!」

 

 電話が終わった後、先程までの演技から素に戻るメリッサ。

 

(お、女って……こええ……)

 

 中学一年生の年齢で、ここまで泣き真似の演技や声色が出来るようになる女性(メリッサ)という存在に恐怖を覚えるのであった。

 ちなみに、ローラを見て育ったからというのは余談である。

 

 

 

     ◇

 

 

 

「ほら、あんまりくっつくと危ないよ」

「えー! これくらい大丈夫だよ!」

 

 メリッサは、翔から離れようとせずに腕を組んで歩く。彼としても嫌ではないというよりも──妹と同じ年齢の女の子なので──少し気恥ずかしさが勝ってしまっている。

 彼女はそのことに気付いているのかは分からないが、テンション高くはしゃいでいた。

 不意、翔は空いていたもう片方の腕を使って、メリッサを抱き寄せた。

 

「え……?」

 

 いきなり抱きしめられたような格好になったことで、メリッサは驚く。翔がまさか人前で抱きしめてくるとは思っていなかったからだ。

 しかし、その理由はすぐに分かる。彼らの横を、車が通っていったのである。車が過ぎ去ると、翔はメリッサを離して、彼女の顔を見つめる。

 

「……翔?」

 

 メリッサはその目を見て、胸が高鳴り、心臓の鼓動が大きくなっていくのが分かった。そして彼女の頭に翔の手が置かれる。

 

「ほら、この通りは車がたまに来て危ないから、あんまりはしゃいだらダメだよ」

 

 子供をあやすような仕草でメリッサの目を見て笑う翔に、女性として見られていないと気付いたメリッサの頬が膨れる。

 

「むう……子供扱いしないでよね! 私だってもうレディーなんだから!」

「あははっ。レディーならもう少し落ち着いて行動できないとね」

 

 からかうように笑って前を歩いていく翔に、スクールバッグを振り回しながら追いかけるメリッサであった。

 そしてそんな彼女が唯一、佐藤家に来て後悔した出来事が起こってしまう。

 

「な、なにこれ……!」

 

 メリッサは駅で大勢の人に押しつぶされそうになり、電車の中でも息が出来ないくらいの人に囲まれてしまった。

 

「あれだね。こ、これは朝の通勤ラッシュってやつだよ」

 

 翔も前世から通勤ラッシュは体験しているのだが、それでもまだ慣れない──というよりも好きにはなれなかった。

 電車が駅に停車する度に人の出入りが起こるため、メリッサは文字通り、人の波に流されてしまっていた。

 

(い、息が出来ないよぉ〜! く、くるし……)

 

 人が詰まっているせいで呼吸が出来なくなっているため、彼女が思わず上を向くと、そこには翔の顔があった。翔はメリッサが潰されないようにスペースを確保しており、メリッサが見上げているのに気付いていないようであった。

 その必死な顔に、思わず見惚れてしまうメリッサ。サラサラとした黒髪。優しそうで、少し幼く見える童顔。でも身体はスポーツマンというのもあり、しっかりと筋肉が付いている。

 

 その全てがメリッサにとって、どストライクであった。元々は彼の性格を好きになっていたのだが、久しぶりに会った翔に対して、少年から青年に変わったギャップにドキドキしたのは彼女だけの秘密である。

 そして、電車内での翔の行動からも見て分かる通り、彼の優しさは全く変わっていないのであった。

 

「メ、メリッサ……!?」

 

 電車内でいきなり抱きしめられた翔。周りに人が大勢いるので、さすがの彼も顔を赤くして固まっていた。

 

「えへへっ、さっきの仕返しだよ!」

 

 そう言いながら、最寄りの駅に到着するまで翔に抱きついて離そうとしないメリッサであった。

 




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