MAJORで寿也の兄になる   作:ねここねこねこ

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第三十九話

「ではこれからアルヴィンチーム対佐藤チームの対決を始める」

 

 監督のケビンがアルヴィンを納得させるために三対三の対決を提案し、お互いに了承した。

 ルールはお互い一回ずつ打席に立ち、ヒット性の当たりが出れば四点、ツーベースで五点、スリーベースで六点、ホームランで八点という得点対決となった。

 フォアボールの場合はノーカウントでもう一打席打つことができ、最終的に得点が高いほうが勝ちとなる。

 

「これなら明確だろう。当たりの判定と審判は公平にするために俺がやる」

 

 ボールの飛んだ先がヒットかどうかを判断し、主審も一緒にやると言うケビンに対し、アルヴィンも不満はないのか何も言わない。

 順番も公平にじゃんけんで決めることとなり、翔が代表で出た。

 

「……佐藤の勝ちだな。先攻と後攻はどちらにする?」

「じゃあ後攻で」

 

 先にアルヴィンチームが打つこととなり、各々が準備を始める。

 守備側のチームはピッチャーとキャッチャーだけなので、ここは順当に吾郎と寿也に任せることとなった。

 翔の出番はまだ先のため、他の見学者と一緒に吾郎のピッチング練習を見ているとジュニアが近付いてきた。

 

「翔、吾郎達は大丈夫なのか?」

「んー、多分問題ないと思うけど……ジュニアは心配なの?」

「アルヴィンはアメリカでも結構知られている選手だからな。問題ないと思っているが、それでも万が一負けちまうとワールド高校(ここ)にいれなくなるぜ?」

 

 ジュニアの心配が翔に伝わり、少し嬉しそうな顔をする翔。

 その顔を見て、ジュニアは少し照れくさそうな顔をしてそっぽを向く。

 

「ジュニア、ありがとう。……でも僕達は負けないよ」

「そうか。アドバイスは──」

「──それは大丈夫。僕達はあくまで平等に戦いたいからね。こっちだけ有利な状況で戦うのは不公平でしょ?」

「……ふっ、そうだな。じゃあ俺は向こうで見ているよ」

 

 そう言いながら、ジュニアは翔から離れていく。翔もジュニアの優しさに嬉しくなったが、あくまで今回は公平に戦いたいと思っているのでアドバイスはいらないと伝えたのであった。

 

(……まぁそれでもアルヴィン()がどんな球種を持っているかは覚えているんだけどね)

 

 〝ワールド高校〟という名前を聞いたときから、翔はどんな人達が来るのかをある程度予想していた。

 もちろん知らない人もいたが、それも想定の範囲内であった。

 

「じゃあもう始めて良いな? 一番打者から入ってくれ」

 

 ケビンの言葉に一番打者として来たのはアインスであった。少し細身ではあるが、高校一年生で180cmを超える身長には吾郎達も警戒していた。

 

「よし、始めるぞ。プレイボール」

 

 吾郎はワインドアップからボールを投げる。螺旋状に回転するジャイロボールは、左打者であるアインスの真ん中低めに決まる。

 そのボールのスピードにアインスは固まる。

 

「ストラーイク!!」

「…………え?」

 

 寿也がナイスボールと言いながら吾郎に返すのを見て、アインスは冷や汗をかく。

 周りの見学者も騒然としていた。

 

「……へっ! 俺の球がそう簡単に打てる……かよっ!」

 

 今度は外角低めに決まり、ツーストライクとなる。

 これを見て、さすがのアルヴィンも動揺を隠せなかった。

 

(な……なんてスピードだ……アイツはたしか自己紹介でゴロー・ホンダと言っていたな………!)

 

「ゴ、ゴロー・ホンダだと!?」

 

 アルヴィンは吾郎の名前をようやく思い出す。全米大会を優勝したジョー・ギブソンJr.のチームに東洋人のピッチャーがおり、吾郎の名前は中学生にも関わらず150km/hを超えるファストボールを投げることで知られていた。

 ただ、アルヴィン自身は直接対決したことがなかったため、顔は知らず、吾郎が日本人だということも知らなかった。

 先程の自己紹介のときも吾郎達の名前を聞いてはいたが、日本人には興味がなかったためそのまま流してしまっていたのであった。

 

「ストライク! バッターアウト!」

「しゃああああ!」

 

 アルヴィンが考えている間にアインスが三振になってしまう。

 アインスと入れ替わりに入ったツヴァイも顔を青ざめながらバッターボックスに入っていった。

 

「アルヴィン……すまない」

「……もういい。あのレベルならツヴァイも打てないだろう。こうなったら俺が打って、アイツらを抑えれば良いだけの話だ」

 

 アインスはバツが悪そうな顔をしてアルヴィンに謝罪をしたため、気にするなと言う。

 よくある──本当はあってはならないのだが──人種差別をしていたとしても、アルヴィン自身の性格が歪んでいるわけではないため、身内(アインス)に気を遣うだけの優しさはあるのであった。

 

(くそ、どうするか……俺がヒットを打って、全員を抑えることができればいいのだが……)

 

 ネクストバッターズサークルで順番を待つアルヴィン。

 吾郎はすでにツヴァイを追い込んでいた。無駄球を一切投げずに、ストライクゾーンにのみ投げていく。

 そして三球目を真ん中高めに投げ、ツヴァイも三振となってしまう。

 

「ストライク! バッターアウト!」

「くそ!」

 

 ツヴァイは悔しそうにバットを地面に叩きつける。

 そして、バッターボックスに入るために歩いているアルヴィンと目が合った。

 

「アルヴィン……その……」

「大丈夫だ。俺が必ず打つ」

 

 アルヴィンは冷静にツヴァイへ返し、バッターボックスへと入る。

 寿也は一旦吾郎のところへ向かう。

 

「吾郎君……アルヴィン()、結構やりそうだけどなにか知ってる?」

「あ? 知らねぇな。アメリカ(向こう)でも俺は対戦したことねーから」

 

 吾郎はボールを上に軽く投げてグラブで捕るといった遊びを繰り返していた。

 彼としても悪気はないのだが、明らかに格下だと決めつけて舐めていた。

 

「……そうか。でも初めの二人みたいに真っ直ぐ(ファストボール)だけだと難しいと思うから、変化球も混ぜていこう」

「へーへー」

 

 吾郎の余裕そうな様子を少し心配していた寿也だったが、それ以上は何も言わずに黙ってホームへと戻っていった。

 逆に吾郎はそこまで心配している寿也に疑問を持っており、それが彼特有の()()()だということに気付いていなかった。

 

(へっ! 寿也も心配し過ぎなんだよ。アイツ程度なら簡単に抑えられるってーの)

 

 寿也が座り、アルヴィンが構えたところで対決が再開される。

 最初に寿也が指示したのは外角低めのフォーシームジャイロであった。吾郎は頷き、ワインドアップからジャイロボールを投げ込む。

 それをアルヴィンは手が出せずに見送る。

 

「ストラーイク!」

「……くっ」

 

 ギリギリストライクゾーンに入ったボールにアルヴィンは悔しそうな声を出す。

 

(な、なんて速さだ……外から見るよりも速く感じるぞ……!)

 

 冷や汗を拭ったアルヴィンは再度構えて、ボールを待つ。

 

「俺のボールが……そう簡単に打てるかよ!!」

 

 吾郎がワインドアップからど真ん中にフォーシームジャイロを投げ込む。

 アルヴィンはバットを振るが、ホップするように浮き上がるフォーシームジャイロのボールの下を振ってしまい、当てることすら出来ない。

 

(やっぱりファストボールだけで十分なんだよ。寿也も心配性なんだよな……)

 

 吾郎はボールを受け取りながら、笑みを見せる。そして、その様子を横で見ていた翔は心配していた。

 原作でも吾郎が失敗するときは大抵相手を見下したりして油断しているときだった。

 一旦タイムを取ろうか悩んだが、そのまま見守ることにした。

 

(吾郎君が油断して打たれるのであれば、そのときに言ってあげればいい。アルヴィンに打たれたとしても、僕達が彼から打てるようにすればいいし)

 

 吾郎は今すぐに注意しても受け入れる人間ではないと分かっている翔は、彼のフォローを寿也と二人でしようと決めて何も言わないようにした。

 そして案の定、吾郎と寿也でミスコミュニケーションが発生していたのであった。

 ボール球を投げて様子を見たい寿也に対し、吾郎は三球勝負をしたいと要求していたのであった。

 

(吾郎君、ダメだ! ここは一球外すんだ!)

(なんでだよ! ここはどう見ても三球勝負だろうが!)

 

 寿也は何回も外すように指示をするが、吾郎は首を横に振り言うことを聞かない。

 そのやり取りが一分ほど続いたあと、しびれを切らした吾郎が腕を振り上げて投げるモーションに入る。

 

(ご、吾郎君……!?)

 

 まだサインが決まっていない状態で吾郎がモーションに入ったため、寿也は動揺する。

 だが、すぐに気持ちを切り替え、どんな球でも捕ってみせるとグラブを構える。

 

(これ以上何を言ったところで無駄だからな。ここは三球勝負に決まってるだ────あっ!)

 

 吾郎がボールから手を離した瞬間、ボールが滑る感覚になる。

 寿也とのやり取りのせいで、腕から汗が垂れているのに気が付いていなかったのであった。

 きちんと指を掛けることが出来ずに投げられたボールは、ハーフスピードのままホームへと向かっていく。

 

(……失投か!? だがこれしかチャンスはない!!)

 

 アルヴィンはボールを思い切り振り抜く。彼によって打たれたボールは左中間へと飛んでいく。

 吾郎は後ろを振り返り、寿也もマスクを外してボールの行方を追った。

 左中間を突き破ったボールはそのまま転がっていき、途中で止まる。それを見たケビンは今の当たり判定を行うため、マスクを外して大声で告げる。

 

「今のは……スリーベースヒットとする!」

「えっ!?」

 

 周りのチームメイトやアルヴィン本人ですらスリーベースヒットではないと思っていたため、驚きの声を上げる。

 そして、一番納得出来ていないのは打たれた本人(吾郎)であった。

 

「おいおい、おっさん! あれのどこを見たらスリーベースになるんだよ! てめー、本当に野球知ってんのか!?」

「ご、吾郎君……!」

 

 ケビンに詰め寄る吾郎。寿也は吾郎を止めようと間に入るが、吾郎はそれくらいでは止まらなかった。

 その様子を冷めた目で見ているケビン。

 

「おい、いい加減にしろ──」

「──何だお前は? いつから審判に意見が言えるようなくらい偉くなったんだ?」

「……あ?」

 

 ケビンが先程までとは打って変わって冷たい口調になっていたため、周りの空気も変わる。

 

「あれは()()()()()()だ」

「なんだと……?」

「あれくらいの打球をスリーベースに出来ないようなやつはワールド高校(ここ)には必要ないんだよ。いい加減理解しろ。こっちは遊びでやっているんじゃねぇぞ」

「てめぇ──」

 

 ケビンの挑発に我慢の限界に達した吾郎は、胸ぐらを掴んで殴ろうとした。

 しかし、その拳は翔によって止められることとなったのだった。

 




次回投稿は少し空くと思います。
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