MAJORで寿也の兄になる   作:ねここねこねこ

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第四十話

「……翔、なんで止めんだ?」

「吾郎君、監督(ボス)を殴ったら退学になるよ? それでもいいの?」

 

 翔が吾郎の右腕を止めたことに対し、吾郎は翔にまで威圧的な態度を取る。

 吾郎の態度に翔は冷静に返事をしていた。しかし、吾郎はそれで納得するような男ではない。

 

「……退学上等だ。飛んだ打球の位置でどれくらいの当たりになっているかも分かんねーやつの下でやってられるか!」

 

 吾郎はケビンの胸ぐらを掴んだまま翔に対して感情をぶつける。

 ケビンはされるがままの状態になっていた。そして翔はそんな吾郎の行動にため息をつく。

 

「はぁ……。野球のことになったらいつも全力なのは変わらないよね」

「そんなこと当たり前だろ! 馬鹿にしてんのか!?」

「ううん、そう……でもあるか。とりあえず監督(ボス)、吾郎君や周りも納得できるように今の内容を()()()()()()()()()()()()()()?」

「馬鹿にしてんのかよ!?」

 

 吾郎が翔の言葉にツッコミを入れるが、あえて無視をしてケビンの言葉を待つ。

 ケビンは半目で翔を見た後、笑いながら話し出した。

 

「くくくっ……今の説明で理解出来たやつがこの中にいるとはな。ちったあ頭が使える奴もいるじゃねえか」

「あ、そういうのいいので、早く説明してください。今にも監督(ボス)を殴りそうな吾郎君を止めるの大変なので」

 

 ケビンの挑発をさらりと流して説明を求める翔。ケビンも観念したように両手を上げて説明を始めるのであった。

 

「分かったよ。いいか、よく聞いておけ。そもそもお前達はワールド高校(ここ)が創られた理由を知っているか? それはな、才能がある奴が環境や指導者のせいで夢半ばのまま散るのを無くすためなんだよ」

 

 ワールド高校とは、世界中の才能のある人間を集め、最高の環境と最高の指導者を揃えることで次世代の大事な才能()が潰されないようにする目的で創設されていた。

 それは〝ベースボール〟だけに特化した話ではない。スポーツ、学問、芸術など全ての分野において、子供達の才能が埋もれないようにしたいという気持ちが含まれていた。

 

「才能ある奴が集まれば、そこから切磋琢磨してその才能を更に伸ばすことが出来る。つまり、お前達は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を身に付けることが出来る可能性を秘めているんだ。

レギュラー争いをする必要はもちろんあるが、ここならその争いをするにしてもより高度な実力が要求される。〝才能〟を持った者が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんだよ」

 

 もちろんケビンはここにいる生徒達が努力をしていないとは思っていない。だが、それは環境と指導者、そして周りのレベルが()()()()()だったのかと聞かれたら、誰もがNOと答えるだろう。

 回りくどい言い方だが、その環境がここに整えられていると話していた。

 

「それでさっきの打球の話に戻ってくるわけだ。ワールド高校(ここ)の野球部員になった以上、あれくらいの打球はスリーベースにしてもらわなきゃ困るんだよ。もちろんそれは現時点で不可能だ。だがここでやっている以上、俺が指導すれば全員がそのレベルに達するはずだ」

「…………っ!」

 

 ケビンの言葉に吾郎を含む理解していなかった生徒が何も言えずに黙る。

 確かにここにいるメンバーはエースで四番を狙おうと思えば、全員が狙えるだけの才能はあるのだろう。

 しかしそれは他の高校のチームにいた場合の話だ。同じ才能を持つ者達が揃っている以上、それはあり得ない。だが、だからこそ全員の実力を伸ばすことが出来ると信じての発言であった。

 

「はっきり言おう。今のお前達の実力はルーキーリーグの連中に勝てるやつがいるかどうか程度だ。だがな、お前達は次世代のメジャーリーガーになるだけの才能を持っているし、そのために必要な実力をワールド高校(ここ)で身に付けられるんだ。

だからこんなところで日本人がどうとか、肌の色や言葉、文化の違い程度のレベルで仲違いしてんじゃねぇ!」

 

 ()()()()()()()──ケビンのそう言わんばかりの言葉に、吾郎もケビンを掴んでいた左手の力が抜けていく。

 同時に翔もケビンの回答に満足したのか、抑えていた吾郎の右腕から自らの手を話す。

 

(まあ……言っていることは〝海堂〟と似ているような気もするんだけどね)

 

 翔と寿也が蹴った海堂高校も()()から特待生や推薦組と称して、スカウトが才能のある生徒を集めていた。

 そしてその才能を海堂マニュアルに沿った最高の環境と指導者を用意して育てる。そうして切磋琢磨した才能はより育ち、常勝海堂としてのブランドを高めていく九人──ベンチ入りを含めると二十人──に絞られていくのだ。

 

 ワールド高校も似たような位置付けには見える。しかし、海堂高校と異なる点はいくつもあった。

 まず単純に集める選手の〝質〟が違う。世界レベルでの才能の持ち主を育てるため、更に才能が伸ばされていくのである。

 そしてワールド高校は全員を()()()()()()()()()()()()()()()()にしようとしている点も異なっている。

 

 海堂は選手をあくまで商品として甲子園で活躍させ、プロ野球に()()()()ところまでを一つのプロセスとして考えているが、ワールド高校は才能を伸ばし、メジャーで活躍する選手にすることまで考えている。

 そのため甲子園はあくまで通過点に過ぎず、そこで満足してもらっては逆に困るのだった。

 こうして次世代の才能ある者達を伸ばすことで、ベースボール全体のレベルを何段階も上げることに貢献することまでを目的としていたのであった。

 

(選手同士でやり合いたいのであれば、実力をどんどんつけてメジャーの舞台でやれってことなのかな?)

 

 翔はケビンの考えを聞いて更に深く考察していた。原作で仮に吾郎が海堂に三年間残り続けていたとしても、正直に才能が一つ二つ抜きん出ているため、彼が燃え上がるような舞台は決して整うことはなかったであろう。

 今の環境でもいずれワールド高校と戦いたいと言って辞める可能性はゼロではないが、そういったことを無くすために先を見せてあげることが必要なのかもしれないとまで考えていた。

 

「……だってさ、吾郎君」

「……ちっ。わーったよ。監督(ボス)、俺が悪かった」

 

 吾郎がケビンを監督(ボス)と呼び、素直に頭を下げる。まだ納得出来ていないこともあるであろうが、彼なりに理解はしたのかもしれない。

 

「ああ、気にすんな。若造はそれくらいの気概がないといけないからな」

「へっ! じゃあ次は俺達の番だな!」

 

 ケビンはあっさりと吾郎の暴挙を許し、吾郎と笑っていた。

 そして次は翔のチームの攻撃に入ろうとしたところで、ケビンがまた驚くべきことを言い出す。

 

「ああ、吾郎。お前は退場だ」

「…………え? な、なんでだよ!?」

 

 突然退場と言われた吾郎は、慌ててケビンに詰め寄る。

 

「審判の胸ぐらを掴んで殴ろうとしたんだぞ? 通常の試合なら退場でもおかしくないだろうが」

「ふ、ふざけんなっ! じゃあこのあとの打席は翔と寿の二人でやれってことかよ!」

「ああ、そうなるな」

 

 ケビンは冷静に吾郎の言葉に頷く。これには翔も寿也も吾郎の味方は出来なかった。

 

「吾郎君、これはさすがに監督(ボス)の言う通りだよ」

「そうだね。むしろこの程度で済んで良かったくらいだよ」

「お、おめーら、裏切るのかよっ!!」

 

 味方がいなくなった吾郎は泣きそうな顔をしてジュニアを見るが、彼も肩をすくめるだけで吾郎の味方をすることはなかった。

 

「ま、感情的になると損になることが多いってことだ。一つ良いことを学べたじゃないか」

 

 ケビンは少し小馬鹿にするような言い方で吾郎に話すが、吾郎は悔しそうな顔をして「くそっ!」と地面を蹴り飛ばして、ジュニアのところに歩いて行ってしまう。

 

「お前達もそれでいいな?」

「まぁ……それは仕方ないですよね」

「ええ、僕もそれでいいです」

 

 反論は許さないという様子を一切感じさせないような緩い口調で翔達に問いかけるケビン。それでも翔と寿也も苦笑いで受け入れるしかなかった。

 

(佐藤兄弟だったか……吾郎を除いた日本人枠としてここに来ていたが、物事を見極める能力は高そうだな)

 

 ケビンは翔達を観察していた。いや、それは()()()()()()()()()()。この場に来たときから吾郎にジュニア、アルヴィン達全員のことを観察していたのだ。

 誰が何の才能があるのか、性格はどういうものなのか。そして()()()()()()()()()()()。彼は観察をしつつ、一人一人の今後を考えていたのだった。

 

「じゃあ再開するか。どっちの打席からにするんだ?」

 

 翔と寿也のどちらが先に打席に立つのかを確認するケビン。二人はお互いに目を合わせると笑って頷く。

 

「えっと、じゃあ僕が行きます」

 

 ここで先に打つと声を上げたのは寿也であった。

 

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