アルヴィンチームとの対戦で先に打席に立つのは寿也。アルヴィンがピッチング練習をしている間に寿也は素振りを繰り返す。
「寿也、打てそう?」
「翔が先に行けって言ったんじゃないか」
実際に言葉に出したわけではないのだが、翔と寿也はアイコンタクトでどちらが先に打つかを決めていたのであった。
吾郎はまだその横でふてくされた顔をしていた。
「
「あ、ごめん。それは言わないで」
翔がアルヴィンの使えるであろう球種を伝えようとしたところ、寿也はそれを止める。
寿也としては翔の手助けなしにアルヴィンと勝負をしたかったのだ。
「一打席勝負だと打者に不利なのは分かっているんだけどね……僕が打ってみせるよ」
吾郎の退場のせいもあり、寿也と翔の二人しか打席に立てない。
それでも寿也の顔は自信に満ち溢れていた。決して負けるつもりはなかったのだ。
(これから初見の相手はいくらでも出てくる。今この場で打てないようであれば……僕は
初めはアルヴィンの言葉に怒っていただけだった。しかし、ケビンの言葉を聞いて、怒りよりも今の自分がどこまで出来るのかを知りたいという気持ちにもなっていた。
そして、自分に
「じゃあ準備はいいか? 始めるぞ!」
ケビンの号令で寿也がバッターボックスに入る。本人にしか分かっていないが、彼にとってワールド高校で最後になるかもしれない打席。
通常であれば緊張しても不思議ではないのだが、その様子は一切なかった。
(あの
寿也のその自信に溢れた様子が、アルヴィンにプレッシャーを与えていた。
アルヴィン自身も今まで積み重ねてきた努力と実績がある。だからこそワールド高校の一期生として選ばれている。
それは東洋の小さな島国で〝野球〟というベースボールではない──とアルヴィンは思っている──スポーツをしている者に負けるわけがないと思っていた。
しかし吾郎のピッチングを見て、彼が日本人だと思い出したアルヴィン。
吾郎と同じく日本人枠でワールド高校に呼ばれている翔と寿也も、もしかしたら吾郎と同じ実力の持ち主なのではないかと思うようになっていた。
(……だが俺は負けるわけにはいかない!)
アルヴィンは振りかぶり、オーバースローからファストボールを投げ込む。
「ストライク!」
ボールは真ん中低めに決まり、ワンストライクとなる。
続いての二球目は変化球が少し外れ、ボールになった。
(今の変化球、もしかして……)
寿也はアルヴィンが投げた変化球に覚えがあった。それは一番身近である
だが、変化量は
(……
アルヴィンの三球目をカットしてカウントはワンボール、ツーストライク。これで寿也が追い詰められることとなった。
ここで寿也は一度バッターボックスから出て、素振りをする。
(これでツーストライクだ。最後は俺の決め球で終わりだ!)
寿也が打席に戻ったのを確認したアルヴィンは、自身の得意球を投げるためにボールを握る。
それは他の誰にも投げることが出来ない、自分だけのオリジナル変化球。
「これで…………フィニッシュだッ!!」
アルヴィンの手から放たれたボールは、寿也から見て揺れ動いていた。
今まで見たことがない球の動きに戸惑った寿也であったが、なんとかバットの先に当てることが出来てファールボールとなる。
(な……! 今のは……!)
寿也だけでなく、周りで見ていた選手達も驚きを隠せない。それは現代の魔球と呼ばれている〝ナックルボール〟であった。
ナックルボール──ほぼ無回転で放たれたボールは左右へ揺れるように不規則に変化しながら落下する。右へ曲がったボールが左に曲がって戻って来るなど、常識的には考えにくい不規則な変化をするため、魔球と呼ばれていた。
(俺の〝ミラージュナックル〟を当てる……だと……!)
アルヴィンは自身のウイニングショットを当てられた悔しさから心の中で舌打ちをする。
今まで初見で彼の決め球を当てることが出来た人はいなかったため、思わず寿也を睨んでしまう。
しかし睨まれているとは気付かずに、寿也は今の球の分析をしていた。
(今のはナックルボールだ……だが、思っているよりも球速があるのは彼独自の投げ方を編み出したのだろう。これをどうやって打つかが勝負の分かれ目になるはず!)
寿也は素振りをして、アルヴィンの〝ミラージュナックル〟へタイミングを合わせていた。
それがアルヴィンに伝わったのか、彼は怒りでボールを強く握りしめていた。
(〝ミラージュナックル〟を打とうっていうのか……! 上等だ! 打てるもんなら、打ってみやがれ!)
アルヴィンは再度〝ミラージュナックル〟を投げる。寿也は先程と同じくなんとか食らいついてファールにする。
そして打席を離れると、素振りをしてまた打席に立つ。
その動作がアルヴィンにとって気に食わなく、彼の神経を逆撫でていく。
「ファール!」
「い、一体何球目だ……?」
アルヴィンは意地になって〝ミラージュナックル〟を投げ続けていた。自分だけの決め球が見下していた寿也に打たれるのだけはどうしても許されなかったのだ。
ここで別の球種を投げて逃げることも出来たが、それも彼のプライドからしてその選択肢はあり得なかった。
しかし、勝負は唐突に終わりを告げる。
「いい加減に…………しやがれっ!!」
アルヴィンが投げたボールは、先程までと同じように不規則に揺れ動く。
その不規則な動きとボールスピードに目が慣れた寿也は、しっかりとボールが来るのを待ち、変化する直前を思い切り振り切った。
硬球を打つ大きな音が鳴る。そのボールは左中間を突き破り、大きく飛んでいった。そして広いグラウンドを転がっていくのであった。
「う、うおおおおおお!!! 寿也が打ちやがった!!」
吾郎が驚きのあまり大声で叫ぶ。それは誰の目にも結果が明らかなほどの打球の伸びであり、寿也のこの打席で翔チームの勝利が決まった瞬間であった。
寿也はボールの行方を確認した後、ケビンに振り返って判断を促す。
ケビンはその自信に溢れた顔を見て軽くため息をついたあと、結果を伝えるのであった。
「……ホームランだ。よって今回は翔チームの勝利とする」
ケビンの勝利宣言を聞いた寿也は、そのまま翔が立っていたネクストバッターズサークルへ歩いていく。
「どうだった?」
「どうもなにも完璧だったよ……ナイスバッティング」
翔と寿也は微笑みながらハイタッチを交わすのであった。
「さっすが寿くんーーっ! 俺はやるって信じていたぜっ!」
「まぁどっかの誰かが退場食らっちゃったからね。なんとかして打たないとダメだって思ってさ」
「う……寿也、それは面目ない……」
飛びついてきた吾郎に皮肉をぶつける寿也。その漫才のようなやり取りを翔とジュニアは笑って見ていた。
「しかしアルヴィンの〝ミラージュナックル〟を初見で打つとはな。俺だって打てなかったんだぜ?」
「まぁそれだけ僕らも練習してきたってことだよ。ジュニアもうかうかしていると寿也に四番取られちゃうからね?」
ジュニアは寿也のことを認めてはいたが、それは小学生時代のセンスの良さを鑑みてのことであった。
実際に今の寿也の実力を見たのは今回が初めてだったため、改めてその実力を認めて称賛するのであった。
「……お、俺の〝ミラージュナックル〟が打たれた……だと……?」
アルヴィンは打たれたことが信じられないのか、呆然とした表情でマウンドを見ていた。
その様子を見たケビンがアルヴィンに近付く。
「ああ、そうだ。お前が見下していた日本人に打たれたんだよ」
「…………」
「お前は何のために
ここに来たのは
「俺の……夢……」
ケビンに言われ、なぜワールド高校への進学を決めたのかを改めて思い出すアルヴィン。
彼の夢は偉大なるメジャーリーガーになること。それはジョー・ギブソンですらも超える選手になってみせるという強い意志からだった。
「そうだ。もう一度何のために来たのかを考えろ。そのために人種差別なんてくだらないことをしている暇があるのかってこともな」
そう言ったあと、「おら! 次の試合を始めるぞ!」とケビンは他の選手のところへと歩いていった。
アルヴィンはケビンの言葉を頭の中で反芻するのであった。
本日で『MAJORで兄になる』シリーズが一周年になります。
最近はなかなか更新頻度を上げられずに本当に申し訳ございません。
皆様のお陰でエタらずにここまで来ることが出来たと思っています。
一周年記念としまして、少しの間だけ毎日投稿をします!
そしてその間は非ログインの方も感想が書けるように設定を変更しておりますので、たくさん書いてくださいますと嬉しいです!
力尽きた時点でまた不定期に戻ると思いますが、なるべく頑張ります!
これからも『MAJORで兄になる』シリーズを何卒よろしくお願いいたします!