ちょっと早めに投稿しますね。
「 」を英語、『 』を日本語の表記としています。
土曜日。朝から翔達はワールド高校にいた。今日はEL学園と金城高校との練習試合があるためである。
ワールド高校設立の一週目から試合をやるということに、差はあれど全員が緊張をしていた。
「試合には全員を出すと言っていたけど、スターティングメンバーは誰になるんだろうね?」
「俺と寿也がバッテリーで、翔とジュニアも確定だろうな!」
吾郎と寿也がキャッチボールをしながら誰が出るか話をしており、吾郎は自分達がスタートから出ることを疑っていなかった。
「まぁ順当に行けばそうなるのかな……?」
「吾郎は初日に退場食らってるから、分からんぞ?」
隣でキャッチボールしていた翔とジュニアも話に混ざる。ジュニアが冗談を言うと、吾郎は「……ちぇっ」と少しだけ拗ねるような顔をするが、冗談だと分かっているので特に引きずることはない。
他のメンバーもウォーミングアップをしている中、野球部のスタッフが練習試合のための準備をする。
メリッサも慣れないながらも必死についていこうと頑張っていた。
『おはようございます! よろしくお願いします!』
「……おおっ!? なんだ!?」
グラウンドの端でいきなり大声がしたため、吾郎が驚いて声がしたほうを見ると、そこにはEL学園野球部の生徒がグラウンドに入る前に整列して挨拶をしていたのであった。
監督であるケビンがEL学園のところへ近付いていき、一言二言交わしていたのだがどこか様子がおかしかった。
数分ほどやり取りしたあと、グラウンドの方を見たケビン。
「翔! ちょっと来てくれ!」
「僕……? イエッサー!」
ケビンに呼ばれたため走って行くと、少し気まずそうな顔をしているケビンと困った顔をしたEL学園の監督がいた。
「どうしたんですか?」
「いやな……英語が通じないから通訳をしてくれ」
英語が通じなかったため、翔に通訳するようにお願いをするケビン。
翔達と普段から英語で話していたため、他の日本人も英語が同レベルで話せると勘違いしていたケビン。
そのことが分かった翔は通訳を了承し、EL学園の監督の方へ向く。
『あっと……おはようございます。僕はワールド高校野球部一年の佐藤翔といいます。
『おお、助かるよ。佐藤君のことは知っているよ。去年、シニア全国大会優勝チームの君と弟の寿也君をスカウトしたのだけれど、断られてしまったからね』
翔が来て通訳をしてくれることに嬉しそうな顔をするEL学園の監督。
監督の皮肉に苦笑いをするしか出来ない翔であったが、『過ぎたことだから、もう気にしなくて大丈夫だよ』と朗らかに笑う監督を見て安心する。
『それでは皆さんはあちらの更衣室に荷物を置いて着替えてください。試合開始は予定通り九時からで大丈夫ですか?』
『ああ、大丈夫だ。よし! お前ら、さっさと着替えてウォームアップを始めろ!』
『はいっ!!』
統率の取れたやり取りと、近くで大声を出されたことに目を丸くする翔。
リトルやシニア時代に自身も似たようなことをしていたのだが、久しぶりというのもあってまだ慣れていなかった。
EL学園の生徒達が更衣室へ向かったあと、ケビンにお礼を言われる翔。
「翔、助かった」
「あ、いえ」
「日本人は英語を話せる人が少ないんだったな。お前達を見ていたから、忘れてたよ」
「まぁ……それは仕方ないですよ」
「これからもやり取りはすべて任せるわ」
笑いながらも、結構な仕事をさらっと押し付けたケビン。
翔が何か言う前に行ってしまったケビンの後ろ姿を見て、ため息をつく翔。
「翔、なんだったんだ?」
「んー、EL学園の人達との通訳を任されたんだけど……」
「もしかして今後のやり取りも全てやらされることになったの?」
「……そうなんだよねぇ」
吾郎の質問に答え、その歯切れの悪い回答に寿也が察して続きを話す。
寿也の予想は当たっていたため、苦笑いで答える翔。「僕も手伝うよ」と寿也が言ってくれたため、翔は少しだけ気が楽になったが、ケビンにも日本語を覚えさせようと少しだけ考えるのであった。
◇
「それではこれからワールド高校とEL学園の練習試合を始めます!」
「よろしくお願いします!」
『よろしくお願いします!!』
午前九時。ワールド高校とEL学園の練習試合が始まる。先攻はEL学園。
◇スターティングメンバー
1番:センター 佐藤翔
2番:セカンド ケロッグ
3番:サード ジョー・ギブソン・Jr.
4番:キャッチャー 佐藤寿也
5番:ピッチャー 本田吾郎
6番:ファースト マキシマム・池田・クリスティン
7番:レフト ヴィクター・コールドバーグ
8番:ショート ロイ
9番:ライト ヤーベン・ディヤンス
「プレイ!」
一番バッターが打席に立ち、構える。吾郎は腕を上げ、ワインドアップからジャイロボールを投げ込む。
「ストライク!」
「ナイスピッチング!」
『……は、速え! あんなやつ日本人でいたか!?』
吾郎のファストボールを見て、その球速に驚くEL学園側のベンチ。
〝本田吾郎〟という名前を聞いたことがなく、150km/hを超える球を投げる
小学校時代にアメリカに渡っていたため、吾郎の名前は知られていなかった。
そのため、彼が日本で知られていないのは無理もない。ただ、アメリカでゴロー・ホンダといえばその年代屈指の実力を持つピッチャーとして知られているため、調べようと思えば簡単に分かることでもあった。
「ストライク! バッターアウト!」
一番バッターはボールを振ることなく三振してしまう。ベンチに戻った時にEL学園の監督が怒鳴っている声が聞こえたが、ワールド高校側はほとんどが日本語を理解していないため、何を話しているのかは分からない。
(まぁ……体育会系だもんね……)
寿也はEL学園側ベンチをちらりと見る。EL学園は昔から名門のため、よくある体育会系という印象を寿也は持っていた。
日本の高校の部活動は体育会系のところも多いため、仕方ない部分はある。
場所によっては体罰が酷いところもあると噂には聞いていたので、EL学園がそうではないことを祈っていた。
(とりあえず今日は勝つのは大前提だけれど、全員の連携を鍛えるためでもあるからね)
(……分かってるさ)
寿也と吾郎はただ勝つだけでなく、なるべく打たせるように指示を受けていた。
今の吾郎にとっては苦痛でしか無いのだが、ケビンとしては吾郎だけでなく全員の成長を求めなくてはならない。
そのときに三振三振ばかりでは連携を確かめることもできなくなる。それは高校野球だけしかやらないのであればまだ良いのだが、メジャーを目指す選手達にとっては今のうちに何をどうやるかなど、色々と考える癖をつけてもらう必要があった。
だからこそ吾郎には我慢をしてもらう必要があるのであった。
「ストライク! バッターアウト!」
「…………あ」
吾郎には我慢をしてもらう必要が────あるのであった。