MAJORで寿也の兄になる   作:ねここねこねこ

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毎日投稿4日目です。



第四十四話

『おっしゃー! いけいけ!!』

『もう一点だっ!』

 

 四回表。ノーアウトランナー二塁。点差は0-4でEL学園が勝っていた。

 

「おいおい……何がどうなってるんだよ?」

 

 ヴィクターはボソッと呟く。

 アメリカで一線級の選手だったメンバーが、現在の数字だけを見るとEL学園に点差を広げられていた。

 

(おいおい……これでもまだ()()()()()()って言うのかよ)

 

 吾郎は監督であるケビンを見るが、ケビンからの指示は最初と変わらずであった。

 一回表はなんとか抑えた吾郎。しかしここからワールド高校のよくない部分が浮き彫りとなる。

 

 それは打線が繋がらないということだった。

 翔がヒットで出塁するも、二番のケロッグが初球の難しい球を打ちにいきゲッツーを取られてしまう。

 三番のジュニアは前にランナーが溜まっていないせいで気持ちが落ちたのか、センターフライとなってしまう。

 

 二回裏の寿也から始まった攻撃も、寿也と吾郎がヒットを打ち、ランナーを一、三塁とするが、六番のマキシマムが外角攻めに合い三振。

 続くヴィクターがピッチャー正面にライナーを打ってしまい、飛び出していたランナーもアウトでゲッツーとなった。

 三回裏も八番ロイ、九番ヤーベンが凡退となり、翔がツーベースを放つもケロッグが先程の打席を反省していないのか、初球の同じ球を打ち凡退となる。

 

 守備も問題だった。ただでさえ打たせるように言われていたことでストレスを溜めていた吾郎なのだが、更にイライラを募らせる出来事が()()()()()()であった。

 攻撃でリズムが狂っていたワールド高校ナインは、打たせたところはほぼすべての守備位置でエラーをしていた。

 バッテリー以外だと、翔だけは唯一エラーをしなかったが、ジュニアですら素人と思われるようなお手玉をしていたのであった。

 

 これに対し吾郎が指示を無視しようとしていたが、どっちつかずのままでボールに気持ちが乗り切れていなかったのも良くなかった。

 吾郎が投げたボールは高校球児には打ちごろのスピードとなり、エラーで溜まったランナーが帰ってしまうということに繋がってしまう。

 このせいで完全に流れはEL学園側になっていたのである。

 

『よっしゃ! ワールド高校なんて大したことないぞ!』

『この調子で打ち込んでやれ!』

 

 日本語が分かる吾郎、寿也、翔はヤジを聞いてなんとも言えない顔をしていた。だが、このことを他の選手に伝えたところで、変に力が入ってしまい更に打てなくなるであろうことは分かりきっていた。

 

「おい、ゴロー」

「ああ? なんだよ?」

 

 タイムが取られ、内野がマウンドに集まったところにファーストのマキシマムが吾郎に話し掛ける。

 その話し方が明らかに不機嫌そうだったため、吾郎も同じように返してしまう。

 

「お前、なにバカスカ打たれてんだよ。やる気無いんならさっさと別のやつに代われよ」

「あ!? なんだと!?」

「ちょっと吾郎君やめなよ……」

「マキシマムも抑えろ」

 

 二人は寿也とケロッグに抑えられたが、それでも納得ができなかった吾郎は周りにも当たり散らす。

 

「俺が悪いってのかよ。お前達が簡単にゲッツーになるわ、エラーするわで足を引っ張るからだろ! 文句あるなら結果を出してから言え!」

「なんだと〜?」

「てめえ……」

 

 吾郎の言葉にマキシマムだけでなく、抑えようとしていたケロッグやロイまでも吾郎へ突っかかろうとする。

 

「ジュニア、お前もだぞ。あんなド素人みたいなお手玉しやがって。やる気無いなら帰れ!」

「ああ!?」

 

 ジュニアにまで喧嘩腰に話す吾郎。寿也はその様子をきちんと止められずに慌てるしかなかった。

 

『なんだなんだ?』

『マウンドでなにか揉めてるぞ?』

 

 マウンドの様子を見て、揉めているのが分かったEL学園側もざわざわとしだす。

 そして味方同士で乱闘騒ぎになりそうになったとき、後ろから低く冷めたような声がするのだった。

 

「ねえ……何してるの?」

「ああ!?」

「なんだ!?」

「関係ねーやつは引っ込ん……」

 

 そこには笑顔の翔がいた。笑顔なのに目が笑っておらず、その迫力に思わず黙ってしまう内野陣。

 

「君らさ、今が試合中だって分かってる?」

「…………だってよ──」

「だって? だってなに?」

「うっ……」

 

 吾郎が言い訳をしようとしたが、翔の威圧に再度黙ってしまう。

 そしてため息をついた翔は吾郎に向かって手にはめているグラブを差し出す。

 

「……なんだよ」

「やり取りは全部聞こえてたよ。結果を出していれば文句を言っても良いんでしょ? だったら僕と吾郎君は交代。吾郎君はセンターへ行って」

「な……! 勝手に決めるな──」

「別にいいぞ」

 

 ボールを寄越せと言う翔に対し、吾郎は反発する。マウンドを簡単に譲りたくないためだ。

 しかしいつの間にかマウンドに来ていたケビンによって許可が出る。

 

「ボ、監督(ボス)!」

「このままだと試合にならんし、翔がやるって言ってるなら任せてもいいだろう。その代わり、()()()()()()()()()だからな?」

「はい。大丈夫です」

「じゃあ……審判! 吾郎と翔のポジションを交代!」

 

 話をどんどん進めていく翔とケビン。あれよあれよという間に吾郎はセンターに立っているのであった。

 

(ちっ……なんだよ。俺が全部悪いっていうのかよ……)

 

 吾郎としては一生懸命にやっているつもりだった。全員が打線を繋ぐ努力をして、各自でエラーもしないようにしていれば、点差は逆であったと思っていた。

 エラーをしたことが悪いのではない。それが続いているにも関わらず、誰も注意しようとしないのに腹を立てていた。

 凡退になったことが悪いのではない。様子を見ようともせずに簡単に打ち取られたことを、不運(アンラッキー)だと思っていることに腹を立てていた。

 

 吾郎なりに一生懸命やっていたつもりなのだが、先程のやり取りは全て吾郎が悪いと言わんばかりの結果となっていたことに腹が立っていた。

 他の内野陣は交代無しで、吾郎だけがマウンドから下ろされているので、そう思っても不思議ではない。

 ピッチング練習をし終えた翔がマウンドで寿也と話しているのを、吾郎は不機嫌そうに見ていた。

 

「ランナー二塁だけど、どうするの?」

「ここは三者三振を狙っていくよ」

「え、それって監督(ボス)の指示と違うんじゃ……?」

 

 寿也は先程翔が吾郎と同じ条件で投げるように言われているにも関わらず、三振で終わらせるといったことに疑問を持っていた。

 それを聞いた翔は軽く笑う。

 

「何言ってるんだよ。監督(ボス)()()()()()()()()としか言ってないよ。この状況で打たせるピッチングをしてもいいけど、追加点を取られる可能性があるのであれば、ここは全力で抑えに行くのが正しいよ」

 

 吾郎と寿也はケビンの言葉を誤解していた。なるべく打たせろという言葉から、三振を取ってはいけないと思ってしまっていたのだ。

 そのせいでランナーが溜まっている状態でも打たせて取るという戦法を取ったせいで、ヒットやエラーを誘発してしまい点を取られてしまっていたのだった。

 

「大丈夫。監督(ボス)は何も言わないから。僕に任せて」

「…………分かった。この回は全力で抑えていこう」

 

 そう言って元の守備位置に戻っていく寿也。翔は一度深呼吸をすると、内野の守備についている全員の顔を笑顔で見る。

 目が合った選手達は、先程の翔の笑顔の威圧と違っていたことに少し驚いた顔をするが、全員が他の選手に分からないように深呼吸をして腰を落とす。

 頭に血が上っていた内野手が冷静になったのを確認した後、翔はワインドアップから全力でボールを投げるのであった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

「ストラーーイク! バッターアウト!」

 

(おいおい……三振は取っちゃダメだろ……)

 

 翔が三振を取っているのを見て、やり方が違うだろうと思っていた。

 しかし吾郎のその気持ちは届くことなく、結局三者三振で四回表を終えるのであった。

 ベンチに戻ってきた吾郎は翔に文句を言おうと詰め寄る。

 

「おいおい、監督(ボス)から三振は取っちゃダメだって言われていただろ。俺だって三振取って良いんなら、こんなに点を取られてなかったぞ!」

 

 吾郎の言葉に翔はポカンとしたあと、笑いながら先程寿也に伝えたことと同じことを言う。

 

「吾郎君。何を勘違いしているのか分からないけど、監督(ボス)()()()()()()()()としか言ってないよ。そうですよね、監督(ボス)?」

「……ああ。その通りだ。なるべく打たせろとは言ったが、三振を取るなとは言っていない」

「だからって三者三振ってやりすぎだろ……」

「あの場面で点を取られない最善手を取っただけだよ。ランナーを埋めて打たせて取るっていうことも考えたけどね。今は守備のリズムが崩れているから、万が一を考えると、その行動はあまり良くないと思って」

 

 翔の言葉をケビンが認めたため、吾郎は徐々に何も言えなくなる。

 ついにはふてくされて「なんだよ、俺が悪いのかよ……」とベンチに座ってしまう。

 その吾郎を見た翔は、苦笑いをしつつも自分が思っていることを話す。

 

「吾郎君言ったよね? 文句があるなら結果を出してから言えって。あれはある意味正しいんだよ」

「…………」

 

 吾郎は返事をしないが、翔は言葉を続ける。

 

「正しいけど、それだけではチームはやっていけないんだ。誰だって失敗はする。仲良しこよしも良くないけど、ずっと反発し合っていても意味がないんだよ。

ワールド高校野球部(僕達)は出来たてだから、まだまだ付き合いが浅いのは当然だ。だから僕達はこれからの五十試合で、誰もが認める()()()を作っていく必要があるんだ」

 

 これから仲間としてやっていくときに正論だけを振りかざすだけでは意味がない。時に反目し、時に支え合う。こうして流した汗の分だけチームは出来ていくものだと説明する。

 この言葉を聞いたとき、吾郎の中で三船リトル時代のメンバーの記憶が蘇っていく。彼らはどんなときでも諦めず、一生懸命努力して一つのチームを作り上げていた。

 吾郎もその素晴らしいチームを作った立役者の一人だったのだが、その大切なことを忘れていたようであった。

 

(これ以上は言う必要もないかな……)

 

 翔が言った言葉は吾郎だけに向けて言った言葉ではない。今ベンチにいるワールド高校野球部の選手全員に向けての言葉だった。

 今出ている選手たちは翔の言葉を聞いて、全員が今日のこの試合で自分達がやってきたことを思い返していた。

 自分達がやってきたことは、本当にチームのことを考えてやってきたことだったのかと。口には出さないが、全員の答えは〝否〟であった。

 そしてそのことに気付いた彼らの目の色は自然と変わっていた。

 

(翔には……相変わらず敵わないなぁ……)

 

 寿也は笑みを浮かべながら、ヘルメットを被る。そして、ネクストバッターズサークルに向かおうとしたところで、次の打順であるジュニアが寿也に隣を歩く。

 

「寿也……絶対に逆転するぞ」

「そうだね。()()()()()()()

「ああ。()()()()()()()だ」

 




吾郎は伝え方が良くないんですかね?


【小話:試合中のメリッサ】

メリッサ
「(はぁぁ……翔、めっちゃかっこいい!)」


「──誰もが認める()()()を作っていく必要があるんだ」

メリッサ
「(はぁぁ……もう周りが翔の凄さに気付いているのね。本当に格好良い……)」

ジュニア
「寿也……絶対に逆転するぞ」

寿也
「そうだね。()()()()()()()

ジュニア
「ああ。()()()()()()()だ」

メリッサ
「(もう! 二人とも翔のために頑張ってよね!)」
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