MAJORで寿也の兄になる   作:ねここねこねこ

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『MAJORで吾郎の兄になる』という作品も掲載しておりますので、下記から併せてご覧いただけますと幸いです。
https://syosetu.org/novel/216811/



第四話

「お、おじさん!!!?」

「……」

 

『デ、デッドボール!! ギブソンの初球が本田の頭部を直撃しましたーー! これは大丈夫か!?』

 

 茂治はバッターボックスに倒れていて、動かない。

 ギブソンも日本人プレイヤーなら行うであろう帽子を取っての謝罪もせずに、ただ呆然と立ち尽くしている。

 そんな様子に茂野が何かを言いながら向かっていっているのが中継されている。

 しかし、他の選手に抑えられてそれ以上進むことはできていなかった。

 

「ギブソン退場!!」

 

 主審から危険球での退場を言い渡されたギブソン。

 158km/hのストレートを頭部に当ててしまったのだ。それは当たり前だと実況も話していた。

 しかし、本田はまだ起き上がる様子がない。

 

「翔! おじさんは大丈夫だよね!?」

「……分からないよ。でも無事であることを祈るしかないよ」

 

 興奮する寿也に対して、翔は冷たく答える。

 それも無理はない。翔は今この場でのことではなく、試合が終わってからのことをどうするか考えていたからだ。

 

『ああっと! ほ、本田が立ち上がりました! 大丈夫そうです! その顔には笑顔も見えます!』

 

 本田は問題なく立ち上がり、そのまま一塁へ向かう。

 翔と寿也はほっとして、試合の続きを観る。

 日本球界最速の160km/h、6連続三振を含む15奪三振を記録したジョー・ギブソンは、日本初公式戦で危険球退場という記録にも記憶にも残る鮮烈のデビューを果たし、マウンドを降りた。

 

 その後、さらに追加点を上げた横浜は、好調茂野の完封もあり、5対0で勝利した。

 寿也は大喜びではしゃぎだし、妹の美穂もよく分かっていないが、寿也が喜んでいる様子を見て一緒に楽しんでいた。

 その様子を見て、翔は出かける準備をする。

 

「翔! どこかに行くの!?」

「うん……ちょっとね」

「え……でもお母さんに見つかったら、怒られちゃうよ?」

「寿也……ごめん。本当に大事なことなんだ。お母さんには黙っていてくれないかな?」

 

 真剣な眼差しの翔。その顔を見て、何も言わずに頷く寿也。

 この2人は双子というのもあり、何も言わなくても互いの気持ちが通じ合うことがかなりの数あった。

 翔は母親にバレないように、こっそりと家を出る。

 

 

 ────茂治を救うために。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 古いアパートの裏にある駐車場に一台の車が停まる。

 そこから出てきたのは、本日のヒーローである茂治と吾郎だった。

 2人は歩いていると、ふと誰かが目の前にいるのに気付いて足を止める。

 

「あ、翔君……だよね?」

「うん、そうだよ。吾郎君」

 

 翔と寿也は一卵性双生児のため、どちらが翔なのか寿也なのかが親でも分からなくなるくらいに似ていた。

 吾郎も一瞬迷うが、彼の野生の勘で外したことがないのが凄い。

 本人曰く「なんとなく」だそうだ。

 

「おじさん、吾郎君。今日はおめでとうございます」

「うん、ありがとう。でもこんな時間に1人でどうしたんだい?」

 

 茂治はこんな時間に吾郎と同い年の翔がいることに疑問を投げかける。

 もし親の許可を得ていたら親を叱りに、許可を得ていないなら翔と親を叱るくらいの勢いがある男だ。

 翔も言葉を間違えないようにしないとと思い、一度深呼吸をする。

 

「おじさん、今日はお願いがあって来ました」

「お、お願い?」

「はい。本当に突然のことだとは思います。でもこのまま家に帰らずに病院に向かってください」

「……え?」

 

 茂治は戸惑った。恐らくギブソンに当てられた頭を心配してのことだと思うが、それでも子供がわざわざ夜中に来ることでもないと思っているからだ。

 しかも病院に関しては、明日茂野と一緒に行く約束をしているため、特に心配ないと思っていた。

 

「あー、今日のことを心配してくれているのかな? でも大丈夫だよ。病院は明日行くから。だからあんし──」

「明日じゃダメなんです!! 明日じゃ間に合わないんです!」

「ど、どうしたの、翔君?」

 

 突然のことに吾郎も不安になって翔に問い掛ける。

 子供とはいえ、ここまで真剣な顔をしている翔に何も言えなくなっている茂治。

 翔は続けて言葉を発する。

 

「急なことで戸惑っていらっしゃるのも分かります。こんな子供が急に言い出しておかしいと思っていると思います。それでも……それでもお願いします。

これはおじさんだけのことじゃないんです。千秋さん、桃子先生……そして吾郎君のためにお願いします」

 

 そう言って頭を下げる翔。千秋の名前が急に出て来たため、さらに混乱する茂治。

 しかも翔の口調は、子供のソレではなく、明らかに大人びた感じの話し方なのだ。

 それに凄い熱意で話してくる翔に対して茂治は──

 

「……翔君。君が言っていることは、おじさんにはよく分からない。今行くことがそこまで大切なのかと思ってもいる。

でも……それでも“今”じゃなきゃダメなんだね?」

「はい。“今“じゃなきゃダメなんです」

 

 茂治は目の前の子供に対して、1人の人間として問い掛けた。

 翔もそれを察して素直に答え、その返答を聞いた茂治が吾郎に車に乗るように伝える。

 吾郎は何が何だか分からないまま、車に乗ることになった。

 

「翔君、君も乗りなさい」

「……えっ!? いいのですか!?」

「ここまで来たんだ。親御さんには私からきちんと説明をして怒られるよ。だから最後まで見届けなさい」

「──はい! ありがとうございます!」

 

 そうして3人が乗った車は病院に向かって行くこととなった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 夜中にやっていた緊急病院に着いた茂治は検査後にすぐに手術、入院という流れになった。

 吾郎は医者に連れて行かれる茂治を見て泣きそうな顔をしていたが、翔が一緒についていたのもあり、安心して待合室で寝てしまっていた。

 手術が終わったのが、午前4時頃。手術室から出て来た茂治を見て、吾郎を起こす。

 

「吾郎君! 吾郎君! お父さんの手術終わったよ!」

「んー? ……えっ!? おとさんは大丈夫だったの!? 成功したの!?」

「それを今から聞きに行くよ!」

 

 翔はまだ眠そうな吾郎を連れて、医者のところへ行く。

 2人の子供を見た医者は少し驚いたが、茂治の子供だと分かり、結果を教えた。

 

「手術は成功だよ。お父さんは助かった」

「え! ……やったーー!! よかったぁぁ!」

 

(よ、よかったぁぁ! 彼が死なないようにするのはこれしか方法はなかったんだけど、間に合うかだけが不安だったから……)

 

「先生。本当にありがとうございました」

「ありがとうございました!」

「どういたしまして。君達は小さいのに礼儀正しいね。良いご両親をお持ちだったんだね」

 

 その言葉を聞いて嬉しそうな顔をする翔と吾郎。

 茂治はこのまま病室に連れて行かれるということだったので、今から色々なところに電話を掛けなければならないなとため息をつく翔であった。

 事前に茂治から連絡先を聞いていた翔は、病院の公衆電話を使って、桃子先生、茂野、自分の両親に電話をした。

 

 全員朝方というのもあり、まだ寝ていたが、翔が説明すると今から病院に来てくれることとなった。

 翔は両親にめちゃくちゃ怒られると心配していたが、普段からこういうことをしない翔がしたということは何か理由があったのではときちんと話を聞いてくれた。

 詳細は病院に着いてからということで電話を切った。

 

「よし! これでおしまいだ!」

「翔君……本当にありがとう。翔君がいなかったら、おとさんまで死んじゃう……ところ……だった」

 

 吾郎はようやく事態が飲み込めたのか、泣き出してしまった。

 翔は気持ちがわかるので頭を撫でながら慰めてあげて、一緒に茂治が寝ている病室で病院に向かっている大人達を待つことにしていた。

 

 

「はい、どうぞ」

 

 ノックがしたので、返事をすると最初に来たのは桃子先生だった。

 挨拶もそこそこに佐藤家全員──翔はまさか全員が来るとは思っていなかった──と茂野も来た。

 吾郎は泣き疲れて寝てしまっていた。

 

「医者の先生に聞いたよ。もう少し遅かったら、本田はこの世にいなかっただろうって」

「本田さんが生きていてくれて本当によかった……翔君、本当にありがとう」

 

 茂野と桃子先生は医者から事情を聞いて、翔のファインプレーを褒めたり、お礼を言ったりしていた。

 翔の両親も初めは軽くでも叱ろうと思っていたのだが、そのことを聞いて何も言わずにいた。

 

 

 

 それから数時間が経ち、時刻は午前10時過ぎになった頃。

 茂治が目を覚ました。

 

「ん……あれ? ここは……?」

「本田!! 目を覚ましたか!」

「本田さん!」

 

 茂野と桃子先生は本田に駆け寄る。

 2人から事情を聞いた茂治は、翔を見て柔らかい笑顔を見せてくれた。

 

「翔君……本当にありがとう。君がいなかったら、俺は吾郎を初めとして色々な人を不幸にしてしまうところだった。

翔君のお父さん、お母さん。翔君を叱らないでやってください。夜中にご両親に黙って家を出たのは悪いことだと思いますが、それを咎めずにここまで連れて来てしまったのは私の責任ですので……」

「ええ。叱りませんとも。むしろ1人の人間の命を救ったことを心の底から褒めてやりたいくらいです」

 

 翔の父親は翔の頭を撫でて、照れながら話す。

 

「でもね、これは寿也のお陰でもあるんだ。もし寿也が僕を全力で引き留めていたら、こうはならなかったよ。

俺を褒めるなら、寿也のことも褒めてあげて欲しい。寿也……本当にありがとね」

「翔……」

「そうだったのか。寿也も本当なら引き留めなきゃいけないところをよく我慢したな。寿也も本当に偉いぞ」

「……へへっ」

 

 寿也は翔が撫でられているのを羨ましそうに見ていたが、自分も撫でられると嬉しそうな笑顔になった。

 翔は寿也をフォローしただけではなく、本当に思ったことを言っただけだったのだが、上手くいって良かったと心の底から思っていた。

 

 

 

 

 

 それから少し談笑をして、そろそろ帰ろうかという空気になったとき、ノック音とともに1人の男が現れた。

 その男は身長198cm、体重105kgの巨体で、160km/hの豪速球を投げるメジャーリーグでもトップクラスの男──

 

 

 

 

 

 

 

 

────そして昨日の試合で本田茂治を殺しかけた男。ジョー・ギブソン本人であった。

 




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