MAJORで寿也の兄になる   作:ねここねこねこ

60 / 68
少し短いのですが、投稿します。



第五十四話

〈四番ファースト、結城君〉

 

 四回表、二死(ツーアウト)ランナー無し。ここでワールド高校〝第一レギュラー〟のエースである本田吾郎と青道高校のキャプテンであり主砲でもある結城哲との二回目の直接対決となった。

 ワールド高校はタイムを取り、内野陣が全員マウンドへ集まり、対策を立てているようであった。

 結城は気にせず素振りを繰り返す。

 

『ふざけんな! そんなこと出来るか!』

『吾郎君!』

 

 結城が集中力を高めていると、突然マウンドから大声で怒鳴る吾郎の声が聞こえてきた。

 キャッチャーの寿也は少し困惑しているようだ。

 色々とやり取りがなされているようだったが、全て英語で話されており、結城には全てを聞き取ることが出来なかった。

 

(何か……揉めているのか?)

 

 結城はそう感じていたが、すぐに自分の打席に集中せねばと思い直し、乱れかけた集中を研ぎ澄ませていく。

 彼がやるべきことは吾郎のジャイロボールを打つというただ一点のみであった。

 

 ようやく話し合いが終わったのか、ワールド高校の内野手が各自のポジションに戻っていく。

 それに合わせて、結城もバッターボックスへと入る。

 結城が吾郎の様子を伺うと、まだ何かに怒っているようであった。

 

「プレイ!」

 

 主審の合図で試合が再開される。

 不貞腐れたような顔をしながら、吾郎はワインドアップからボールを投げ込む。

 

「ボール!」

 

 ボールは内角低めに外れる。

 結城は再度構えようとしたのだが、何か様子がおかしいことに気付き、一回バッターボックスから外へと出る。

 そしてふとベンチの方をを見ると、片岡からサインが出ていた。

 

(〝一球待て〟……? どういうことだ?)

 

 結城は疑問に思っていたが、片岡の指示に従おうと次の一球を見逃すことに決める。

 そして、二球目──。

 

「ボール!」

 

 今度は真ん中高めに外れるボール球であった。

 ここで片岡よりタイムが掛かる。結城は片岡に呼ばれたため、ベンチ近くまで走っていく。

 

「どうしたんですか?」

「結城……あのピッチャー、何か様子がおかしいと思わなかったか?」

 

 片岡が結城の質問に質問で返す。

 しかしそのことに気にすることもなく、彼は感じたことをそのまま口にする。

 

「ええ、先程タイム中に何か揉めている様子でした。そこから不機嫌そうな表情をしていたと思ったのですが……」

「ああ、そうだな。実はあのピッチャー、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「──!?」

 

 さすがの結城もそのことには驚いていた。

 自分のチームを見ていても分かるが、ピッチャーは基本我が強い人間が多い。

 もちろん揉めることもあるし、それ以上の喧嘩になることもある。

 

 だが、試合中に揉めてキャッチャーのサインと真逆にボールを投げるなどありえない。

 それも甲子園出場が掛かった大事な試合で、しかも同点の状況ならなおさらだ。

 コントロールが悪いピッチャーなら偶然そうなることもあり得るかもれないが、吾郎のコントロールは悪くなく、二球とも真逆に投げている時点で意図的であろうことは誰の目から見ても明白であった。

 

 そして、片岡は結城にボソボソと指示を出すとベンチへと戻っていった。

 

「プレイ!」

 

 バッターボックスへと戻った結城は再度構える。

 さり気なく吾郎の様子を伺うと、当たり前だが今も不機嫌さは直っていないようであった。

 

「ボール! フォアボール!」

 

 結局二回目の対決はフォアボールでお預けになった。

 そして、ここからワールド高校──もとい吾郎──は崩れていくのだった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

〈ま、まさかこんな展開になるとは……〉

〈ええ……その通りですね〉

〈四回表、二死(ツーアウト)ランナー無しの状況だったのですが、現在そこから青道高校が三点追加し、4-1となりました。依然として、二死(ツーアウト)満塁となっています〉

 

 

 結城がフォアボールとなってから、青道高校はヒットを一本も打っていない。

 それどころか()()()()()()()()()()()のだった。

 

「おいおい……あのピッチャー、こんなところで試合をぶち壊しちまったよ……」

「何考えてんだよ、勝手に自滅してるし」

 

 観客はそれぞれに不満を漏らしていく。

 吾郎は結城含め六連続四球をしてしまい、青道高校が有利な状況となってしまっていた。

 片岡は選手全員に〝ストライクが入るまでバットを振るな〟と指示を出し、それが見事的中したお陰で今の状況となっているのであった。

 

〈一番ショート、倉持君〉

 

 倉持は打席に入るが、今までと同じくフォアボールとなってしまい、押し出しで更に追加点が入ってしまう。

 だが、この状況でもワールド高校の監督であるケビンは動くことはなかった。

 

(こんなんで甲子園に行っても……いや、先輩達と一緒にプレイできる大会はこの夏が最後だ。贅沢は言ってられねぇ……)

 

 倉持は一塁に向かいながら変なことを考えそうになっていた自身を戒める。

 この状況を一番望んでいないのは、最上級生である三年生達である。

 それを自身のエゴで駄目にしてしまうなんてことは絶対に許されざることなのだ。

 

 

 

 その後、フォアボールを出しつつもなんとかチェンジとなったワールド高校だったが、6-1とかなり不利な状況で中盤戦の攻撃に入るのであった。

 




【小話:本田家族②】

茂治
「あちゃあ〜、吾郎のやつ何やってんだ?」

桃子
「どうしちゃったのかしらね?」

亜美
「お兄ちゃん、どうしたの?」

桃子
「ん? ちょっと今大変なだけよ」

観客
「おい、何だあのヘボピッチャー?」

観客
「本当だよ。せっかく決勝を観に来たってのに、ぶち壊しやがって」

観客
「やる気無いなら帰れってんだ! ヘボが!」

観客
「そうだそうだ! ヘボピッチャーが!」

桃子
「…………じゃありません」

観客
「……ん? なんだって?」

桃子
「吾郎は……うちの息子はヘボピッチャーなんかじゃありません! ちょっと苦戦しているだけです! 勝手なこと言わないでください!」

茂治
「おいおい……桃子……」

観客
「え……あ……もしかして、あんた本田茂治選手か!?」

観客
「あ! 本当だ!」

茂治
「あ…………は、はい。すみません、騒がしくしてしまって……。ただ、うちの吾郎はヘボピッチャーではないです! ……それだけは訂正してください」

観客
「え、あ……す、すみません」

観客
「ご……ごめんなさい……」

茂治
「……分かっていただけたのであれば、それでいいです。失礼します」

桃子
「あなた……」

亜美
「(おとさん、格好良い……!)」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。