「それでは7-6でワールド高校の勝利です。互いに礼!」
「ありがとうございました!!!」
ワールド高校と青道高校のメンバーがお互いに礼をする。
その後、何人かは握手を交わしていたが、すぐにお互いのベンチに戻り、そのまま閉会式が始まるのだった。
夏の甲子園出場を決めたのは創立一年目で初参加である〝黒船〟ワールド高校。
その現実に未だ信じられない青道ファンの観客。テレビやラジオで聞いていた者たちも信じられない人が多かったであろう。
6-1の状態からコツコツと点を奪い続け、最終的にサヨナラホームランで勝負を決められたあの瞬間は、誰もが夢だと思ったに違いない。それほど劇的なシーンだった。
◇
閉会式が終わり、場所は神宮球場のベンチ裏。
そこでは各チームが記者から取材を受けていた。ワールド高校のケビン・スコフィールドはキャプテンである翔の通訳でインタビューに答え、翔も一緒にインタビューを受けていた。
そして青道高校側にも少ないながらも記者が監督の片岡に対して数名インタビューをしていた。
「あの〝黒船〟ワールド高校をあと一歩というところまで追い詰めたわけですが……」
「選手達はそれぞれよく戦ってくれましたし、強い気持ちを持ってプレーしてくれたと思います。あの子達を甲子園の舞台に立たせてやれなかった。今はそれが……一番悔しいです」
毅然とした態度で片岡は自身の責任だと記者の質問に答える。
その姿に対し、インタビューをした記者たちは生徒達から信頼されるであろう彼の内面を見たような、そんな気がしていたのだった。
それぞれの取材も終わり、選手達が帰ろうと神宮球場から外に出ると、そこには大勢の観客が待ち構えていた。
「ナイスゲーム!」
「来年またがんばろーぜ!」
「本当に惜しかった!」
青道高校を惜しむ拍手がそこかしこから起き、その言葉に対して胸が締め付けられる思いを感じながらも青道ナインは整列をする。
そしてキャプテンである結城哲也が代表して挨拶をする。
「期待に応えられなくてすみませんでした!! 応援ありがとうございました!!」
「したぁ!!」
結城に続いて他のメンバーも頭を下げる。
観客も彼らを責めることをせず、良い試合だったと本音で彼らに言葉をぶつけていた。
その言葉が本当に嬉しく、そして苦しく。だが、この場で涙を見せる者は誰もいなかった。
単純な実力だけで見れば、ワールド高校の方が上だったかもしれない。
しかし最終的な試合結果を見て分かる通り、ワールド高校はあわや敗戦するところまで追い詰められてしまっていた。
それでも青道高校とワールド高校のチームの決定的な差が何だったのかを挙げるのだとすれば、それは
ワールド高校野球部は
そこまでの道のりは過酷であり、誰もが通れる道ではないのだ。
そんな彼らにとって、『甲子園への出場』、『甲子園の優勝』は通過点に過ぎず、そこで躓くわけにはいかない。
今日の試合のように苦しい展開もあるだろう。
それは試合だけではなく、今後の練習やレギュラー争い、高校を卒業したあとも今回以上に苦しいこともあるに違いない。
そのことを覚悟している彼らには、これくらいの苦しみはクリアしていかなければいけないのだ。
だからこそ逆境でも慌てず冷静に一つずつ対処していく。
それを乗り越えた先に彼らの夢が待っているのだから。
◇
(な、なんで……あとアウト一つだったのに……そこから勝ち越せば、勝っていたのはこっちだったのに……)
帰りのバスの中。落ち込み、何も話すこと無く
(これで……終わり? これで……)
帽子を床に落とした沢村はゆっくりと拾い上げ、ふと左に視線を向ける。
そこには声一つ上げず、ただただ涙を流し続ける結城がいた。
その光景を見た瞬間、沢村の目からも涙が溢れ、こぼれ落ちていた。
(……っ。先輩達、みんなすげぇ人ばっかだし……尊敬できるし、カッコいいし。なんていうか俺、このチームでずっと戦っていたいんだなって……)
今日の試合は決して沢村だけのせいではない。
青道野球部で誰一人そういうことを言う人間はいないだろう。
それでも本人は違った。
(負けた……このチームが負けたんだ……俺の、俺のせいで……!)
佐藤翔を敬遠していれば変わったのか、それは決して分からない。
だが、沢村は初めからそんなことは頭になかった。もし少しでもそのことが頭をよぎり、彼を敬遠して二番のケロッグを抑えていれば、次の回で勝ち越しのチャンスもあったに違いないと思っている。
ああしていれば、こうしていれば──そんなことを考えても意味がないのは分かっている。
それでも沢村の頭の中で
こうして青道高校野球部の夏が、結城達にとっては高校野球最後の夏が今日終わったのだった。
遅くなり申し訳ございませんでした。