できる限り更新頻度を上げていこうと思います。
8時に吾郎兄も更新済みなので、よければご覧ください。
また、お詫びになるかはわかりませんが、本話のあとがきに間話を追加しております。
合わせてご覧ください。
「ストライク! バッターアウト! ゲームセット!」
〈あ、あ……圧倒的!! もはやこの言葉以外他に思い付く言葉が出てきません! ワールド高校が! あの〝黒船〟ワールド高校が創立一年目にして夏の甲子園を制しました!!〉
海堂高校を準決勝で破ったワールド高校に決勝で波乱が起きるわけもなく、佐藤翔率いる第一レギュラーチームが15-0という圧倒的な差での勝利を手にする。
全国大会での優勝。これは翔や寿也、吾郎だけでなく、ワールド高校に所属しているほとんどの人が経験していることであり、もはや慣れているような様子を見せるかと思いきや、
「よっしゃぁぁぁあああ! 甲子園優勝だ!」
「吾郎君、やったね!」
「なんだ、このくらいでそんなに喜ぶのか?」
「とか言いつつ、ジュニアも顔がニヤついてんじゃねーか」
ベンチにいる第二レギュラーチームも含め、全員がマウンドに集まって喜びを分かち合っていた。
優勝経験が何度あったとしても、勝利を素直に喜べない者はこの場にはいなかった。
「おい、お前ら。最後の挨拶があるだろ。さっさと並んでこい」
監督のケビンがいつまでも喜んでいる選手達をなだめるようにベンチから出てきて、ホームへ整列するように促す。
相手チームは圧倒的な差に泣き崩れるどころか、ようやく終わったというホッとした気持ちでいる者がほとんどであり、さっさとこの場から逃げ出したいとすでに整列済みである。
「よし! みんな整列だよ!」
「おうっ!!」
全員が翔の声に反応しつつ、
ケビンは「まだ浮かれてんのか?」と頭を掻いていたが、このあと起こる悲劇──あくまで彼にとってだが──を知る由もなかった。
『15-0でワールド高校の勝ちです。互いに礼!』
「ありがとうございました!」
『ありがとう……ございました……』
これでようやく帰れる。相手チームは観客席への挨拶もそこそこにベンチから引き上げていく。
甲子園の砂を持ち帰る気力すらなかった彼らを、誰も責めることなど出来ない。
実際に試合中や試合後のネットの反応は、彼らに対しての同情の声が大半を占めており、ワールド高校に勝てなかったことを責めようものなら、逆に叩き潰されるといった徹底ぶりであった。
そしてその場に残されたワールド高校のメンバーは表彰式がすぐに始まるというのに、ケビンをベンチから引きずり出すと全員で彼を拘束する。
「なななな! 何しやがる! おい、翔! こいつらを俺に近付けるな!」
「いやぁ、それは出来ませんね。これは僕の指示なので……」
「おまっ!? いつもとキャラが違うじゃねーか!」
悪どい顔を見せる翔を見て、首謀者が彼だと分かり絶望的な顔をするケビン。
しかし、その程度で彼が許されるわけもなく、ワールド高校野球部メンバーたちによって両手、両足、身体を持ち上げられる。
「や、やめろ……お前ら……! な、何をするんだ……!?」
まさに恐怖である。筋肉ムキムキな高校球児が二十人弱で襲いかかってくる──ケビン目線──のだ。
まさか全国中継されているこの場で暴行を受けるなどとは思いたくはないが、拘束されている以上、もはや抗うことは出来ない。
「よし、みんな! 準備は大丈夫だね?」
「おうっ!!」
「じゃあ行くよ!」
翔の合図とともに、ケビンが宙へと舞い上げられる。
「う、うわわわーーっ! や、やめろ! 落ちるっ!!」
「ほらもう一回だ!」
胴上げ。メジャーでは習慣になっていないため、ケビンは知らない。
そして甲子園で優勝したら全員でケビンに胴上げをしようと、翔の発案で秘密裏に動いていたメンバーは全員が張り切っていた。
解説者も「微笑ましい光景ですね」とケビンが本気で怖がっているとも知らずに、微笑んでいる。
「よーし! 次でラストだ! 行くよーっ!!」
「おっしゃぁ!」
ようやく解放されたケビンの表情は青白くなっており、翔を睨みつける余裕すらないようであった。
胴上げはされた本人は分かるのだが、
これは胴上げで舞い上がる高さが実際よりも高く感じるというのもあるが、胴上げしている側が受けそこねると事故にもなりかねない。
今回に関しては体格の良いスポーツマンが行っているのもあり、観客やテレビで観ている人達からしてもかなり高く上がっているように見えていた。
〈それにしてもまさか高校創立一年目にして、夏の甲子園を制覇する高校が現れるとは驚きですね〉
〈ええ。もちろん前代未聞ですし、彼らのニックネームの通り《黒船襲来》という言葉がまさに当てはまりますね〉
解説者達も驚きを隠せず、各ニュースではすぐにこの情報が取り上げられていた。
新聞も各社一面で《黒船襲来》で埋め尽くされるというのは簡単に予想出来ることであろう。
ワールド高校野球部は、観光したいというメンバーの要望を高校側が受け入れ、決勝戦の日を含めて三泊してから東京へと凱旋した。
この三日間で翔とメリッサの距離が少しだけ縮まるのだが、それはまた別の話。
◇
東京に帰ってから彼らに心休まる日は皆無であったと先に伝えておく。
練習試合の申込み、毎日何十校という偵察、大勢のファンに囲まれるなど、一般の人達であれば心に動揺が生まれても仕方がない。
しかし、それでも彼らの言動が変わることはなかった。なぜなら彼らにとっての甲子園優勝というのは
メジャーリーガーになればこのようなことは日常茶飯事であるし、この程度に心を乱していてはこの先は望めないというのを理解していた。
もちろん監督であるケビンや高校側も選手のメンタルケアに努めていたというのも大きな理由の一つである。
東京に戻ってからの練習では、しばらくメンタルトレーニングが中心となり、少しでも変化が見られそうな場合はすぐに専門家によるケアがなされていた。
これはワールド高校経営陣の考えであり、そのための資金は惜しむことはなかった。
余談だが、こういったこともあり実は野球部以外の部活でも結果が出るようになっており、夏以降も部活動のみならず勉学関係などでも有名になっていくのだった。
◇
九月下旬。ワールド高校野球部メンバーはそれぞれの出身国に帰っていた。
理由は十八歳以下の高校生を対象にしたベースボールワールドカップが開催されるためだ。
参加国数は二十ヶ国。日本代表としてワールド高校からは吾郎、寿也、翔の三人が選ばれており、甲子園出場校からだけではなく、実力が伴えば一回戦敗退の高校からも選出されていた。
青道高校からは結城とクリスが選ばれ、吾郎達と同じチームで戦える喜びを噛み締めていた。
しかし結果から言うと日本は準決勝で破れ、三位という結果だった。
理由は球数制限と周囲からの批判防止、一部の選手による吾郎達への妨害があったためである。
投手は投球数によって、休養日を与えることが義務化されている。
吾郎と翔もピッチャーとして──翔はピッチャーをやらないときはセンターを守っていた──投げていたのだが、二人が投げていたときに限って
そして初登板時、思うように投げられない吾郎は熱くなってしまい、自滅する直前まで陥ってしまっていた。
そして、例えエラーが無かったとしても、二人が登板できる機会はそこまで多くはなかったであろう。
現時点ではあるが、単純に二人の投手としての能力はずば抜けており、二人を中心に全体を調整していけばもしかしたら優勝も見えていたかもしれない。
しかし、世間の反応はそうはいかないのである。一部の選手を贔屓しているように見えてしまう状況は批判の的になりかねず、日本選抜チームのトップ層としても避けなくてはいけない。
(まぁ……仕方ないよね)
吾郎はそういった理由を聞いて憤慨していたが、翔と寿也は意外にも冷静だった。
一部の選手による妨害行為に関しては二人も怒りを覚えていたが、球数制限や世間の反応というのは理解も出来るし負けた理由にしてはいけないとも思っていた。
単純に実力をもっと上げればいい。それに尽きるのである。
(とはいえ、彼らの妨害行為に関してはしっかりと覚えておこう。こっちも怪我しかねない状況だったわけだしね)
妨害行為の中には守備時の選手同士の接触によるものもあった。
たった一度ずつではあるが、下手したら吾郎達は怪我をしてもおかしくない状況だった。
しかし、証拠はない。もちろん分かる人には分かることではあるが、
(こんな重要な大会で仕掛けてくるとはね。一度の接触で怪我したとかなら、偶然で済ますつもりだったのかもしれないけれど……)
翔は可能性の一つとしてあり得ることだったので、事前に吾郎と寿也には特定の選手と接触しそうなときは気を付けるように話をしていたため避けられたと言ってもよいのかもしれない。
「……どうするの? ワールド高校を通じて抗議してもらうようにお願いする?」
「いや、やめておこう」
「なんでだよ? 証拠がなくても、エラーの数といい明らかにおかしいのは誰でも分かるだろうが」
寿也と吾郎は抗議することに賛成であったが、翔だけは反対だった。
「
「じゃあどうするってんだよ」
「……まずは証拠集めから始めよう。前回、僕らの父さんのときも
今はまだ手が出せない。
だが、翔はいつ同じことが起こっても対応できる準備を整えないと、安心した高校生活を過ごしていくのは難しいのではと考え始めていた。
高校選抜ワールドカップベースボールはアメリカが優勝を決め、戻ってきたドヤ顔のジュニア達に対して吾郎達ではなく、妹のメリッサが予想以上に怒るというハプニングはあったものの、日常が戻りつつあった。
その後、ワールド高校は秋大会を優勝。春の甲子園選抜出場を決めた彼らは、その勢いのまま選抜も優勝し、創立一年目にして《夏春連覇》という偉業を成し遂げる。
他の高校とは比べ物にならないくらい偵察と研究されているワールド高校の二年目が始まるのだった。
間話 高校初めてのクリスマスデートでの服選び
(えへへ、明日は翔とデートだ)
アメリカでのクリスマスは家族で過ごすのが一般的である。しかし、日本の風習はそうではない。
日本ではクリスマスイブやクリスマス当日にパートナーと過ごすことが多い。
そのことを知ったメリッサは、アメリカに帰る予定だったのだが急遽帰国をキャンセル。
ギブソンやジュニア達家族に最初は猛反対されたのだが、翔の家族と一緒に過ごしたいという
しかし翔の家族と過ごすのはクリスマス当日で良い。彼女からしてみれば、二十四日は予定が空くことになるのだ。
それを逃す手はないメリッサは、こっそりと翔に二十四日の予定を空けておくように伝え、ジュニアが帰国したタイミングで一緒に出かけようと誘って了承をもらっている。
今はどんな服で出掛けようかを考えているところだった。
メリッサは美少女なので、どんな服を着ても似合ってしまう。
だが、出掛ける相手が翔なので、少しでも可愛いと思ってもらえる服にしたいと思うのは、まだ中学校一年生という年齢だったとしても関係なく思ってしまうものだ。
「メリッサちゃん、この服似合いそう! お兄ちゃんも可愛いって思ってくれるよ!」
「……うん、そうね! 美穂の選んだ服にしようかな!」
美穂に着ていく服を一緒に選んでもらい、彼女がおすすめした服を見てそれを着ていくことを決める。
上はタートルネックニット、それにコーデュロイ素材のサロペットを合わせるコーデに決める。
身長が高いメリッサには、より脚長効果もあり、見た目もシンプルにまとまりつつ大人っぽさも出すことが出来るというところで、ごちゃごちゃした格好が好きではなさそうな翔に合わせつつの服装を選んだ。
(翔、可愛いって思ってくれるかなぁ……?)
好きな人のことを考えながらドキドキしてしまうのは、誰しも通る道である。
そこには年齢や性別は関係なく、メリッサもその一人なのであった。
翔と一緒に暮らしているとはいえ、彼が野球一筋なのもあって、思っている以上に距離を縮めることが出来てはいなかった。
だが、今以上を望んでしまうは我儘であろう。それを分かっているメリッサは無理せずに今の状況を楽しむと決めていた。
「メリッサちゃん、すごい嬉しそうだね!」
「えへへ、分かる? 翔とお出掛けできる日のほうが少ないからね。早くクリスマスにならないかなぁ」
「なんか羨ましいなぁ。私にもいつかそういう恋愛が出来たりするのかな?」
「大丈夫よ、美穂は可愛いし絶対素敵な彼氏が出来るわよ!」
お互いに褒め合い、服を選んだりする関係が顔は似ていないのだが姉妹に見えてしまう不思議である。
この年のクリスマスデートは少しだけ事件が起こってしまうのだが、それもまた別のお話。