霧雨さん家の次女が頑張るお話   作:セキャーン

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表現が楽でわかりやすいので、センチメートルやキログラムなどの単位を使用しています


第一話

 人間の里。

 一つの通りに面する一軒の貸本屋「鈴奈庵」に来客があり、店番をしていた本居小鈴が対応していた。

 

 

「いらっしゃ――――って、あなただったのね」

「ひさしぶりー」

 

 

 カウンター越しに下から覗き込んできている少女を相手に、小鈴は柔らかく目を細めて少女の頭に手を置く。

 少女も特に抵抗はせず、片目を瞑りされるがままになっていたが、暫くして思い出したように口を開いた。

 

 

「あ、そうそう。帳簿の為に白紙帳が欲しいんだけど」

「そういえばそろそろ終わる頃だったね。持ってくるから、そっちも準備しといてね」

「はーい」

 

 

 言われて、小鈴は奥の棚の方まで行き状態の良さそうな白紙帳を見繕い始めて、少女もまた持っていた手さげをガサゴソと漁り始めていた。

 暫くして小鈴が"これなら丁度良いかな"と二冊手に持ってカウンターに戻ると、カウンターの上に少女が色々な物を並べていた。

 

 

「はい。いつもどおり二冊ね」

「ありがと! んっとねー、これが修理頼まれてた万年筆で、こっちが墨壺だよー。それでこっちは――――」

 

 

 少女は持ってきた道具をそれぞれ手に持ちながら、大げさな身振り手振りを混じえて嬉しそうに説明していた。

 小鈴もそれを飽きる事なく眺めていて、時折気になった点を聞いてみたり、実際に使ってみたりして、二人共が笑い合う。

 

 

 小鈴は白紙帳を渡し、少女は修理を頼まれた物や自作であるという道具等を渡す。

 普段もたまにそれぞれの店を訪ねることはあるが、定期的にやってくるこの時間が、二人共気に入っている。

 

 

○○○○○○○○○○

 

 

「そういえば琥珀?」

「んー?」

 

 

 琥珀、と名前を呼ばれて少女が小鈴の方を向く。

 先程までの道具紹介を終え、出された椅子に座り足をぷらぷらさせて適当に取った本を眺めていたので、琥珀は少し生返事をした。

 

 

「店番は? もうお昼を過ぎてだいぶ経ってるけど……」

「いーの。おとーさんと喧嘩中ー」

「喧嘩って――――ああ、そういえば今年もそんな時期か」

 

 

 心当たりがあったのか、小鈴は琥珀の話に納得した。

 琥珀は、里の大手道具店である「霧雨店」の娘だ。

 当然普段は店番などで手伝いをしているのだが、"この時期"になると琥珀はどうにも機嫌が悪くなりがちである。

 というのも、琥珀は霧雨家の次女であり、つまり姉がいる。

 その姉は里でも有名な、弾幕勝負では幻想郷でも有数の実力を持つ、かの霧雨魔理沙その人。

 当然だが魔理沙も霧雨家の娘なのだが、家は魔理沙を半ば勘当していて、魔理沙自身も家には近寄らない様にしている。

 魔理沙が出ていった当時など、琥珀は毎日のように泣きまくっていたし、今でも割と寂しそうにしている。

 それでも実家の手伝い等をキチンとしている辺り、しっかりとしたいい子なのだが、やはり"この時期"はわかりやすく機嫌が悪い。

 ……その"時期"というのが――――

 

 

「魔理沙さんの誕生日、ねぇ……」

「『ねぇ……』って何さ。だっておねーちゃんの誕生日なんだよ!? それなのにぃー……」

「ああ、今年もダメそうなのね」

 

 

 ――――姉である魔理沙の誕生日が近い、ということである。

 数年前に魔理沙が家と里を出て以降、琥珀は色々手を尽くして魔理沙に会おうとしている。

 しかし、魔理沙が住んでいるのは魔法の森であり、ただの里の子供である琥珀が行くのは危険である。

 そして何より。

 

 

「おとーさんが呼び掛けたみたいで、自警団さんとか門番さんとかが通してくれないの」

「当たり前でしょ。むしろ止めない方が心配よ」

 

 

 こういう時に、ある程度立場のある大人の根回しというものに、子供は対抗できないものである。

 琥珀が頬を膨らませながら、目の前のテーブルにのの字を書いている。

 すると――たまにあるのだが――琥珀が唐突にとんでもない発言をし出した。

 

 

「あっ! じゃあさ、"いろじかけ"ってやつ、やってみようかな」

「…………はい?」

 

 

 あまりに突拍子の無い、そして実現性の無い提案に、小鈴は思わず肩をこけさせた。

 

 

「だってほら、この前家の掃除してておとーさんの部屋から出てきた良くわかんない本に、"男は女から迫られると弱い"って……」

「……後で霧雨さんに殴り込みに行こうかなぁ……」

「それにほら、ボクだって女の子だよ?」

 

 

 自身を指差しながらにこにこと笑う琥珀は、確かに紛う事無い"可愛い女の子"だが、それにしたって無理がありすぎる。

 霧雨店の娘という存在に手を出す輩などいないだろうとか、里の子供に手を出す様な奴は護衛組織にはいないだろうとか、普通に犯罪だろうとか。

 そして、何より。

 

 

「……ねぇ琥珀」

「うん? あ、手伝ってくれるの?」

「お断り。……それより、あなた年齢は?」

「? この前十になったよ? 知ってるよね?」

 

 

 まず、年齢。

 

 

「……身長」

「ひゃ、140cm……」

「明らかな嘘言わないの」

「……130」

「…………」

「うぅ…………この前、ようやく125cmに……」

 

 

 そして身長。

 

 

「じゃ、体重は?」

「んっと、23kgだったよ」

「そこは素直に答えるのね」

 

 

 更に体重。

 

 

「…………はぁ。その年齢と見た目で、どこをどうして色仕掛けなんてするのよ」

「でもっ、読んだ本には――――」

「あのねぇ、あなたも言ってたけど、それは"女"がやるからよ。琥珀はまだ"女の子"だし……というか、男女とか以前にまだただの"子供"じゃない」

 

 

 要するに、琥珀自身ですら性差を理解できていないのに、どうやって性を利用した行動などするのか、と言う事である。

 もちろん一部の変態には需要はあるだろうが、そんな輩は組織になど居ないだろうというのは先に述べた通り。

 それ以外の大人(変態)に仕掛けようにも、色々と問題がありすぎる。

 というか、そんな奴がいたら阿求に呼び掛けて潰してやろう、と小鈴は考えていた。

 

 

「んむむ? 女と女の子……? 確かにボクは子供だけど……」

「そこがわかってないから子供なの」

「じゃあ、ボクが大人になるまで……でもおねーちゃんには今すぐ会いたいし……」

 

 

 うんうん唸りながら考える琥珀を見て、小鈴はため息まじりにあくびを噛み殺した。

 勉強の要領はかなり良いのに、何でこういう事はわかんないのかなぁ、とか考えながら。

 

 

「あっ、じゃあやっぱり小鈴も手伝ってよ! ボクより歳上だし」

「でこぴんするわよ。というか色仕掛けから離れなさい」

「んむぅ……あの本には挿絵は無かったけど、たしか抱きついてお胸がどうとか……」

 

 

 挿絵が無かった分そこまで悪影響は無いのだろうが、それはさておきやっぱり霧雨さんはひっぱたこう、と小鈴は決めた。

 目の前でぺたぺたと自身の胸を触る琥珀を見ながら、小鈴は改めて見知った友人の姿を確認する。

 

 

 年齢は十。

 身長は先の通りとてつもなく小柄。

 体重からもわかるがこれまた細くちみっこい。

 当然二次性徴などまだであり、女らしい丸みなども無く、今自身で触っている胸だって、ふくらみの"ふ"の字も無い。

 大きくくりくりとした真ん丸な琥珀色の瞳。

 ふっくらとして子供らしくほんのり赤い頬。

 美人だとか絶世の美女だとか、そういう類では当然無いが、それでも非常に整った、子供らしくとても可愛いらしい顔つき。

 姉と同じ金色の髪を肩甲骨の辺りまで伸ばしていて、普段通り今日も低めの位置で二つ結び――――いわゆるツインテールにしている。

 まだまだ子供で、もちろん女の子ではあるが、間違っても"女"ではないだろう。

 庇護欲が湧く小動物的な印象は受けるが、これに性的に興奮したらただの変態である。

 そして琥珀自身がその性的な興奮を理解していない為、尚更である。

 

 

 改めて小鈴はそんな感想を抱いていた。

 結局、霧雨琥珀という少女――――というか幼女は、その通りまだただの子供なのだ。

 危険だと言われている魔法の森に行こうとしたり、その件で親と喧嘩したり。

 姉が好きなのはわかるが、それで他に少し迷惑を掛けていて、それを自覚していない辺りなど。

 なまじ家が家なので勉強は自室で済ませて、一応在籍している寺子屋には気が向いた時にしか行かない。

 この子の教育――――主に情操教育とかはどうするつもりなんだ、と小鈴はまたため息をついた。

 そんな事を小鈴が考えていると、当の琥珀が突然身を乗り出して小鈴の胸をぺたぺたと触り出していた。 

 

 

「ちょ、なに?」

「ボクより小鈴の方がちょっとだけお胸あるから、やっぱり手伝って――――」

「ていっ」

「あうっ!」

 

 

 色々な思いを込めて小鈴がでこぴんをした。

 おでこを押さえてジト目で琥珀が睨むが、それ以上の目つきで小鈴が呆れた表情になっていた。

 

 

「いい加減それから離れなさいって。というか、自制心とか羞恥心を理解しなさい」

「……?? …………ボクまだ子供だもーん」

「わからないからって開き直らない!」

「ふぐぅっ!!」

 

 

 小鈴は今度は全力ででこぴんを放った。

 もうなんか更に色々込み上げてきて、努めて笑顔で、しかし右手は常に構えて小鈴が琥珀に説教を始めた。

 

 

 その後数十分程、小鈴の叱る声と時折指を弾く音が響いていて、琥珀はどんどんおでこを赤くして目に浮かぶ涙が大粒になっていったとか。




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