カルデアで作る、という場面が思い浮かばなかったので、現パロにしました。
イメージは【ラーメンすきすきアナスタシアさん】参照
サバふぇすって、ほんとネタが多いなぁ。助かる。
バイトの時間が長引いたせいで、帰りがいつもよりも1時間半も遅くなってしまった。時計を見れば午後の10時30分。
「はぁ~、遅くなっちゃったなぁ」
アパートまでは徒歩5分で着くものの、バイトの休憩時間に食べたカ〇リーメイトだけではお腹が持たなかったみたいだ。
ぐ、ぐぎゅるるぅぅぅぅ~……
抑えきれない腹の虫が静かな町によく響く。夜遅くに食べると太るという話はよく聞くが、今日は無理だ。この空きっ腹を抱えて眠れる気がしない。
「仕方ない、か」
生憎、部屋には冷凍ご飯もインスタント食品もない。乾麺はあるけど、それに耐えるだけのお腹具合でもない。財布を見れば夏目さんが二人、これだけあれば十分に食べられるだろう。家への帰路を急ぎつつ、手近な店を探すとしよう。とは言え、こんな時間まで営業しているこの辺りのお店の殆どは居酒屋だ。酒を飲めない私が居酒屋に行くぐらいなら、コンビニに行って適当な弁当でも買った方がいいだろう……そう思っていた私の諦念を他所に、美味しそうな匂いが漂ってくる。え、本当に?
「え、この辺にラーメン屋なんてあったっけ?」
私のフードサーチャーから逃れられる店などあったのだろうか。美味しい店は大体マシュと行った記憶があるんだけどなぁ……決めた、今日はこの未知のラーメン屋にしよう。
──この時間にそんなカロリーの暴力は大変魅力的かと思いますが、体型には影響しないのでしょうか?
何故か、此処にはいないマシュから警告を受けた気がするが……気のせいだろう。それに、今の私の空腹具合は空腹時に獲物を見つけた肉食獣のようなもの。そんな程度のカロリー、後で運動して消化すればいい、あのレオニダスブートキャンプでな!
「……っと、そんなことより店を探そう」
お店が閉まっていたら、食べられるモノも食べられなくなってしまう。左右を確かめながら、匂いの元を辿っていく。……此処の曲がり角だろうか、匂いが強くなっている。匂いに惹かれるまま道を進んでいき、目的の場所に到達した事を、頭と鼻で理解した。
「……嘘ぉ?」
私が驚いたのも無理は無いと思う。だって、そのお店は今時珍しい、屋台販売式のラーメン屋だったのだから。まぁ、軽トラなんだけど。しかし、昭和の香りが何処となく漂うその外見、暖簾には慣れない日本語で書かれた【ラーメン食堂】、店主は一体何を参考にしたのだろうか、それとも古い価値観に捕らわれた人なのだろうか。それはそれで趣を感じられていいんんだけど、何よりもお腹が減った。暖簾の内側に置かれた長机と丸椅子を見るに、席は五つほど。今は幸いにして、他のお客さんが一人居るだけだ、そのお客も何処かで見たような気がするが、後回しでいいだろう。何しろ、深夜のラーメンにありつけるのだから。
「すみませ~ん、今やっていますか?」
「……ああ、やっているぞ」
何処かぶっきらぼうな若い声、てっきり厳つい面の店主かと思ったのだけど、若い店主のようだ。それにしては聞き覚えのある声だった気がするけど、気のせいだろう。気を取り直して、注文する為に店主の顔を見て……その感覚が間違っていなかったことを知った。
「……え?」
「は?」
マジか、マジかカドック。君が店主だったのか。
「カ、カドック!?」
「お前、藤丸立香か。こんな所で何やってんだ!?」
「それはこっちの台詞だよ、カドック。こんな面白……じゃない、美味しそうな店をやっているだなんて聞いてないよ!?」
「誰が面白いだ、誰が!?」
まさか、知り合いがラーメン屋台をやっていたとは、世の中とは存外に狭いのかもしれない。と、同時にお腹の虫が鳴る。カドックが笑ったら面白可笑しく拡散してやろうかとも考えたが、ぶっきらぼうに座れ、と一言。とりあえず、客として扱ってくれそうだ。
「あらカドック、その女性とは随分親しい様ね」
何処か、見覚えのあるお客さんがそんな事を挟んでくる……って、アナスタシアさんだった。しかも、カドックが見ていないタイミングを図って、口に人差し指を付けるジェスチャーを……うん、暫く黙っていて、ということだろう。
「君は一体、何を言うんだ?」
「だって、そうでしょう。私と話す時はいつも一歩離れた話し方をするのに、そこのリツカさんにはそんな様子が無いじゃない」
カドック弄りが楽しいのか、アナスタシアさんの声が上擦っている。うん、カドックは相変わらずだなぁ。
「だとしても、君には関係ないだろう」
「いいえ、大有りだわ。あなたのラーメンが宝蔵院のラーメンより勝るその時を見る為に、私はこうして足繁く通っているのよ。それなのに……」
いつもの漫才、ご馳走様です。本当に、見ていて飽きが来ない。ただ、そろそろ私のお腹の方もエマージェンシーコールが鳴りそうだ。
「……アナスタシアさん」
「リツカさん、面白い所なんだからもう少し……」
「今、面白いって言ったよな、アナスタシア」
そして、二人の会話を遮るように鳴る私の腹の虫。
「ごめんなさいね、リツカさん。つい……」
「まぁ、カドック弄りはアナスタシアさんの日常だもんね」
「……分かっていたなら止めろよ、藤丸立香」
それはいいけれど、止めたら止めたで、別の面倒事が起きると思うよ。主にカドックが、だけど。
「それでアナスタシアさん。カドックのラーメンのおすすめは?」
「断然、ショウユね」
このアナスタシアさんはサバスタグラムで「わたくし、この一杯のために生きている……!」と言うコメントと共に様々なラーメンの画像を上げる猛者だ。彼女の選択に間違いはないだろう。
「カドック、醤油ラーメンで」
「分かった……少し待っていろ」
カドックが私の注文を請けて、調理を始めたようだ。アナスタシアさんと雑談をしながら、背伸びをしてカドックの様子を見ていたけれど、麺の湯切り、チャーシューなどの具材のカットなど随分と手馴れている。この屋台を始めて随分と経つのだろうか。以前はロックが好きと聞いていたが、まさかラーメンを作る屋台をやっていたとは。今度、マシュや他の方も連れてこよう。
「……出来たぞ」
「待ってました!」
まず目に入るのは醤油をベースとした透明感のあるスープの湖とその湖の大地である主役の細麺だ。……む、よく見れば、細麺は市販の業務用の乾麺ではない。恐らく、小麦粉から作ったものだろう。アナスタシアさんが通うというだけはある。具材の方はスープの湖の上を船のように浮かぶ薄切りされたチャーシュー二枚と、器の縁に佇む黒い海苔。そして、細麺の大地に散らされた青ネギと濃い緑のホウレン草。パッと見た感じは、シンプルなラーメン。ただ、スープから漂う香りは醤油だけではなく、魚介類や他の具材も使っているようにも感じられる。いざ、実食……と、その前に。
「ありがとう。お金はこれでいい?」
「ああ……」
お釣りを受け取って、財布に仕舞う。
「よし、頂きます!」
まずは透明感のあるスープを一口。折角なので、味を確かめるように口の中で転がしてみると、醤油だけではなく鰹節の優しい香りが口の中で広がっていく。あと一つ、二つの隠し味がありそうだけど、何だろうか。
「……美味しい!」
「良かったわね、カドック」
「うるさいぞ、アナスタシア」
やはり、サバスタグラム界のラーメンマニアの言う事に従って良かった続けて麺をズズッと啜る。うん、麺に絡んだスープの香りが口に広がって……次の一口が待ち遠しい。お腹が減っていたのもあるだろうが、これならマシュも今度連れてこよう、絶対に。そう言えば、この麺を啜るのって、海外の方は出来ないと聞くけどアナスタシアさんは出来るのだろうか。ふと横を見れば、残り少ないラーメンから箸で掴み、レンゲに入れてから麺を口にしていた。やはり、難しいのかもしれない。続いてチャーシュー。お腹が減っていたから、厚い方が……とも思っていたが食べてみてその考えを撤回する。このスープの味に絡ませるために、カドックはこの薄さにしているのだ。そして再び、麺を一啜り。うん、これを一回しか食べないのは勿体ない。今度、何処でやっているのかアナスタシアさんに教えて貰おう。カドックにせがんでも言ってくれない気がする。
「やぁ~、美味しかった。ご馳走様!」
気が付けば、あっという間に器の中身が空になっていた。横を見ると、アナスタシアさんの器も水洗い程度で済ませられそうな程だ。ふとカドックを見ると、薄く笑っている。
「全く、こんな時間によく食べられるな」
「そりゃあ、昼がバイトの休憩時間に食べたカ〇リーメイトだけだったんだよ。そりゃあ、お腹が空いちゃうよ」
「それはそうだろうが、こんな時間に女性がラーメンを食べると太るんじゃないか?」
今何気なく返したその言葉、それが凄まじい地雷を踏んだ事に気が付いていただろうか。まぁ、嫌でもカドックは理解させられるんだけど。
「……カ ド ッ ク?」
あ~あ~、お客さんは私だけじゃないんだよ。
「……ご、ご馳走様カドック、またやっていたら来るね!」
いつも通り、アナスタシアさんと言い合いをしていて返事を聞くことは出来なかったが、その内にまた食べられる、そんな予感がしていた。
そうして後日、アナスタシアさん経由で場所を教えて貰った私がマシュと一緒にカドックの屋台へ行こうとした矢先、噂を聞き付けたキリシュタリアさんと合流して阿鼻叫喚の夕食となったのは別の日の事。
屋台販売式のラーメン屋って1日100食以上売らないと、採算が取れないみたいですね。後、営業を行うにも保健所の営業許可や警察署の道路使用許可とかが必要なんだとか。