山で楽しくピクニック……だったはずが、大量の脱落者を出す結果となった夏の特異点。後から振り返れば、偽のマスターが現れたり、色々とおっかないサーヴァントである虞美人が二人に分裂していたり、と自分がマスターの側に居ない間に色々なことがあったらしい。噂の一つによれば、自分同士の戦いもあったらしいが、一体何の事を言っているのだろうか。
さて、何だかんだで最後まで残った数少ないサーヴァントであるマンドリカルドは、この間起きていた事象について改めて確認しようと思い立ち、マイルームに戻ろうとするマスターに声を掛けて、特異点であったことを確認していた。
「……つまり、この間の特異点は様々なホラー映画をモチーフにしていた……ってことすか」
「うん、幽霊やゾンビが群れになって襲ってきたり……サーヴァントでも考えられないような怪力をした敵が追いかけてきたり……みたいな。ホラー映画でも色々な種類があるんだ」
「へぇ、怖がる為の娯楽があるんすね。マスターの時代は」
生前を思い返したものの、娯楽事情に疎かったマンドリカルドは生返事をするばかり。
(やっべー、折角話して貰っているのに、分からないことばかりだ)
「まぁ、そんな俺も今まで進んで観たことは無かったんだけどね。当事者になると結構怖いものだったよ……負けず劣らず、変な展開も多かったけど」
「……変な展開って何すか?」
唐突に発生する特異点(イベント時空)での出来事は、毎回のように訳の分からない展開が起きる、ということは既に身を以て知っている。配達の時には無我夢中で動いていたから忘れていたが、何だ、チェイテピラミッド姫路城って。
「例えば……ホラー現象が起きた時、お約束のように死亡した後、当然のように復活するパイセンとか、ジャンクフードを食べながら幽霊退治とか、扉を破壊する髭とか……うん、どうしてああなったんだろう」
当事者であるマスターすら、そんな感想なのだ。それを聞いたマンドリカルドが理解できるはずもなく、段々と死んだ魚のような目に変わっていく。
「……つまり、あの水着の聖女様が使い魔にしていた鮫みたいな話が起きていたってこと、っすか」
訳の分からない最たる事例を挙げて、何とか納得しようと言葉にした直後、
「ゴホッゴホッゴホッ……」
突然、マスターが咳き込む。
「だ、大丈夫、っすかマスター?」
「な、何でも……ないよ」
しかし、その表情を見る限り、何でもないようには見えない。何か、トラウマを思い出させてしまったのだろうか。そんな自分が嫌になる。
「だ、大丈夫じゃないと思うっすけど」
(あの慌て方を見る限り、過去のイベントで絶対何かあったな)
「……いや、大丈夫だって。あの時は兎も角、今は姉と認識してないから大丈夫、大丈夫」
「そ……そう、っすね」
(確かに、あの水着の聖女の方がよっぽどホラー、っすよね、何だ、姉って。空気が悪くなってしまった、どうしようか。何か、何か良い話題を……そ、そうだ)
「あー……話は変わるんですが、マスター」
「ん?」
「……その手の娯楽ってよく分からないんすけど、マスターの時代には色んな作品があるらしいじゃないすか。それで思ったんですが、(今後の為になるような)ホラー映画って下のライブラリで見れたりするんすかね」
「うーん、紫式部さんに聞けば探してくれるんじゃないかなぁ。あ、そう言えば、前に借りた本を返すの忘れていたから、俺も一緒に行こうかな?」
「い、いいんすか、マスター」
(正直、一人だと何借りたらいいか分からなかったんで、助かったっす)
「うん。それにしても映像作品かぁ……特異点が出てくるまでの休憩時間に観た、聖杯戦争に関する映像資料も見たけど、あれは面白かったなぁ」
「え、聖杯戦争の映像作品?」
「うん。俺はあの作品の主人公みたいに戦えはしないけど、ああいうのもいいな、って」
(聖杯戦争で戦う……サーヴァントがメインの話っすかねぇ。マスターが面白いというなら借りて見ようか)
~~偉大にして恐るべきされど可憐なる紫式部図書館にて~~
「……と言う訳で、ホラー映画を何本か見繕ってもらっていいかな、紫式部さん」
「お、お願いします、っす」
「承知致しました。マスターが借りられた本は私の方で戻しておきますね。ところで、マンドリカルドさん。他にも映像資料を借りたいとのことでしたが……どんなジャンルを観られたいのでしょうか」
「出来れば今後の特異点に役立ちそうな資料があればいい、っすけど……」
(うう、あまり話さない人だし、目のやり場にも困るし、いつも以上に緊張する)
「特異点、ですか。そうですねぇ、色んな事が起きますから……探すだけ探してみましょう」
そんな俺の心境など知る由など無く、マスターの依頼を請けた紫式部は慣れた様子で作品を探し始める。
(俺みたいな三流サーヴァントが役に立てるとしたら……そうだ)
「……あ、あと、一ついい、っすか」
別の用事で呼ばれたのか、丁度マスターが図書館を後にしていた。
「何でしょうか?」
(マスターが観たことあるんだし、聞くなら今しかない)
「あの、その……聖杯戦争に関するいいライブラリって、あるんすか。もし、あるなら観てみたい、っす」
(レイシフト先では何が起きるか分からないんだし、色々な事例を知っておいた方がいいよな、きっと)
ダメで元々、無ければ他の資料を見ればいい。そんな考えで聞いたのだが……
「そういえば最近、それに関連する新しいライブラリが入ったんですよ。実はまだ、私も観ていないのですが……良かったら先に観ますか?」
意外なことに、そんな作品があるのだと言う。
「え、いいんすか。まだ、式部さんも観ていないのに」
「他にも色々な作品がありますので。それで、鑑賞されましたらこちらまで戻して頂けたら、と思います」
(この人も観たいだろうに、何か悪いことをしてしまったっす)
「あ、ありがとうございまっす」
それからマンドリカルドは、紫式部から他のホラー映画を借りた後、折角だし、という心持で図書館の内部を散策していた。資料を探してみると、トロイア戦争やヘクトールに関する書籍もあったので、それらを即決で借りることにした。そうして、貸し出し手続きを終えた時、図書館の入り口からマシュと一緒に入ってきたのが目に入る。やはり、誰かに呼ばれた後、ミーティングでもしていたのだろう。
「ごめん、マンドリカルド。途中で離れちゃって」
「いいんすよ、マスターは忙しいですし。それに、受付にいる式部さんが見繕ってくれたんで」
俺が何を借りたのかが気になったのか、マスターが徐に此方の手元を覗き見る。
(おっと、これだけは見られたくないので……)
そうしてトロイア戦争の書籍やホラー映画などの資料をマスターに見せる。
「あぁ~、マンドリカルドってヘクトールさんのファンだもんね。ホラー映画、かぁ。最近そういう目には遭ったけど、作品は観てなかったからなぁ。もし、面白い作品があったら今度借りてみようかな」
「うっす。マシュさんも一緒に観られる作品だったら、是非おススメしとくっす」
「そ、そうですね。マスター、今度一緒に映画を観ましょう!」
マシュが若干照れた顔を見せながら図書室を後にする。それを観て、マスターは子供の成長を見守る親のような顔を浮かべていた。
「マシュも期待しているようだし、面白いのがあったら宜しくね」
「うっす」
そんなマシュを仕方ないなぁ、と言いたげな顔を浮かべて、マスターはマシュの後を追った。
「……ふぅ、何とかこれはバレずに済んだか」
幾つか借りた映像作品の内、マスターには見つからないように他の作品の下に隠した作品が一つ。
「聖杯戦争……っすか。俺みたいな三流サーヴァントには縁が無いとは思うっすけど」
この時のマンドリカルドは知らなかった。今後の為に、と図書室から気軽に借りた聖杯戦争い関する映像資料は、マスターが言っていた作品と違っていたこと、そしてその作品を観ることで、彼の心を深い傷を残す事になるなど。
~~視聴中~~
「ひえっ、やっぱり冬木の聖杯戦争って恐ろしいメンバーしか居ないっすねぇ。こんな所に居たら、即座に逃げるしかないっスよ……え、何すか。あの黒い影」
「ちょ……待つっす。冬木のキャスターって神代の魔女っすよね。その魔女がこんなあっさり……あの蟲のマスター、人外にも程があるっすよ」
「嘘……っすよね。クー・フーリンが何も出来ずに敗退……というか、サーヴァントですら勝てないあの黒いのは何何すか……怖、これが、聖杯戦争……」
「ヒェッ、騎士王すらあの黒いのには勝てないんすか」
~~冷たい花びら 夜を引き裂く まるで白い雪のようだね 切なく……
「前々から思っていたっすけど、マスターも大概可笑しくないっすか?」
「こ、これが反転した騎士王とギリシャの英雄ヘラクレスとの闘い……」
「え、黒い影が風船みたいに膨らんで……あれ、これやばいんじゃ……な、よく厨房にいるあの赤い人、ローアイアスと言えばヘクトールさんの投擲を防いだ伝説の……一体何処の英雄なんだ……!」
「……嘘、っすよね。あの、あの英雄王がこんなにあっさりと?」
「え、あの黒い影の正体って……!?」
「…………」
~~視聴終了~~
「彼、どうしたんだろうねぇ」
ブーディカが心配そうに見る視線の先には、真っ白になって燃え尽きているマンドリカルドがいた。
「……あれはキャットでもどうしようも出来ないのだワン」
相槌を打つように頷いたキャットも同じ人物を見る。
「……あ、あれがホ、ホラー映画っすか」
その視線の先の人物、マンドリカルドは食堂で水を飲みつつも、真っ白になって燃え尽きていた。その様子を見てどうしたらいいか分からず、心配そうにマンドリカルドを見るキッチンにいる人々。
「真っ白に燃え尽きたこと虚栄の塵の如し、このままでは、おとめ妖怪が暴れ出すと見た。それを察したキャットは根暗ボーイをラビットの如く、此処から切り離すのだワン」
「あ、おい、キャット君!?」
他にキッチンに居たメンバーが止める隙もなく、タマモキャットはあっという間もなく、マンドリカルドを連れて食堂を後にしてしまった。
さて、マンドリカルドがそんな事になっているとは露とも知らないマスターは、高難易度のクエスト編成を考えながら廊下を歩いていた。
「うーん、アーチャーとアベンジャー、か……ん、あれは」
どうしてか、マンドリカルドがふらふらした足取りで廊下を歩いている。
「あれ、マンドリカルド。ゲッソリした顔をしてどうしたの?」
「あー、マスター、ですか……この前言っていたホラー映画って奴をですね……」
其処でマスターは、マンドリカルドの表情が青い事に気付く。
「え、そんなに怖い作品があったの?」
「ま、まぁ、そんな所っすね。しばらくは──黒くて細長くてうねうねしたものは見たくないっすね……」
「え、何でそんな具体的なの?」
マンドリカルドの様子を心配していたマスターの後ろから、ゆっくりと、されど音を立てずに近付く紫髪のサーヴァントが一人。
「はーい、何処からともなくやってきた、貴方の後輩BBちゃん、です!」
突然、話しかけられて驚いたマスターと、聞き覚えがあり過ぎた声とその姿を見て、一層顔を青くするマンドリカルド。
「急に驚かせないでよ、BB」
「えぇ~、先程アベンジャークラスがどうのって言っていませんでしたかぁ?」
何処から聞いていたのか、そもそもどうしてこのタイミングに限って近くにいたのか。マスターは突っ込みを入れないことにした。
「……うん、そうだね。実は、今度の高難易度のクエストにアベンジャーのクラスが居てさ。良かったらマンドリカルドも……え?」
そうして、マスターは彼の異変に気付く。マンドリカルドはBBを見た瞬間、頭が真っ白になったのか、石像のように固まっていたからだ。
「え、どうしたの、マンドリカルド!?」
誰かがニヤリ、と面白がるような笑みを浮かべた気がした。
「マスターさんと、そこの冴えないサーヴァントに朗報です。突然ですが、BBちゃん特製キャンディーをどうぞ!」
突然、BBがそんな事を言い出すと、何処から取り出したか分からないオレンジ色のキャンディーを渡してきた。状況がよく分からないものの、悪意は無さそうなので、とりあえず受け取ろうとしたマスターが、おもむろに横を見ると……目を閉じて、カルデアから退去しようとしているマンドリカルドを見た。
「マ、マンドリカルドォォォォッ!!?」
突然の事態に、珍しく絶叫を上げるマスターの声に気が付いたのか、マンドリカルドが薄っすらと目を開ける。
「……マスター、ごめんな。俺はもうダメみたいだ。あの聖杯戦争のように、俺は、これから……」
……バタン
「え、ちょっと、マンドリカルド!?」
気絶してしまったマンドリカルドを見て焦るマスターを他所に、一連の流れを見ていたBBは腹を抱えて笑っている。
「あ~、これはもうちょっと時間を置いてからの方が良かったですかねぇ。この反応も面白かったですが、そっちの方がもっと面白い反応をしたかもしれません」
「BB、何をしたの?」
およそ、原因であろうBBをジト目で見る。
「ヒドイです。マスターさん、私を真っ先に疑うなんて、BBちゃん、ショックで泣きそうですよ」
「今の様子を見ると、BBがマンドリカルドに何かしたようにしか見えないんだけど」
「……まぁ、それはそう思いますよねぇ~。ただ、今回に限って私は何もしていませんよ。どうしてそこのちっぽけなサーヴァントがそうなったかを知りたければ、図書室にいる方に何を借りたか聞いてみればいいんじゃないですかぁ?」
──逃がしません♡
何故だろうか、BBの攻撃ボイスが聞こえたような……そんな幻聴を振り切ったマスターは、マンドリカルドと話していたことを思い出す。
「マスターさん、気になっちゃいましたか、気になっちゃいましたか?」
「……何となく、オチが見えたんだけど」
「何の事でしょうか、マスターさん。善は急げと言うらしいですから、早速レッツゴーです」
BBに引っ張られたマスターは、そのままある映像資料を視聴することに……
~~やがて、キラキラ夢の中~~
「…………」
「マ、マスター!!」
後日、マスターが真っ白になった姿を見たサーヴァントが集まっているのを、にやにやと眺めるBBが居たとか居なかったとか。
……ところで、イヴァン雷帝持っていないんですけど、図書館の名前これで合ってましたよね?