因みに、天満屋事件というものがこの話に該当します。
とある掲示板で挙げた時とはタイトル名を変えています。
マスターの指示の下で無事にモンスターの討伐も終わった俺達は、とある町から歓待を受けていた。町の住民も気のいい人物が多いからか、料理や酒を皆は思い思いに食べているが、見張りは大丈夫なのか。ふとそんな不安が頭を過る。
「ああ、そう言えば昔……」
護衛の任務があった。酔った振りをしようとして、酔っ払ってしまった過去のミスを思い出す。そんな事を思い出しながら見張りを続けていると、マスターが何かを持ってこっちに来ているのが目に入った。
「おや、マスターちゃん。どしたの」
「えっと、一人だけ見張りをしているのも申し訳ないな、と思って」
マスターが持っていたのは酒瓶だった。確か、マスターは酒が飲めないはず。グラスも一つしかない事から、自分の為に持ってきたのだろう。
「あー……マスターちゃん、今日はパスで」
折角気遣ってくれたマスターには申し訳ないが、昔のミスが頭に過ったからか、どうしても酒を飲む気分になれない。
「あれ、飲まないんですか、分かりました。もし、欲しいのがあったら気軽に言って下さい。斎藤さん」
「ありがとさん。ま、俺に構わず、マスターちゃんも他のサーヴァント達と一緒に楽しんできな」
無いとは思うが、こんな時に酒を飲んで襲撃でも受けたらねえ、一人くらいは直ぐに反応できないと、な。マスターが引き返しているのをぼんやりと眺めていると、入れ違いに見慣れた顔が一人。
「あれ、斎藤さん。お酒、辞めたんですか?」
「あー、そういう訳ではないんよ。沖田ちゃん」
「?」
それにしても、随分と雰囲気が変わったもんだ。ま、場所が場所だからかねぇ。勿論、それだけではないとは思うけど。
「まぁ、色々あってねぇ。俺から言えることは、仕事中に飲むと碌なことが起きない、ってことさ」
「あー……」
何せ邪馬台国での事、世渡り下手な人斬りが言っていた事は事実なのだから。まぁ、そんな苦い記憶を思い返していた時に、沖田ちゃんから声を掛けられるとは思わなかったが。
「あの時に梅戸が居なかったら、死んでいたかもしれないからな。おまけにあいつは重傷を負った、と来た。酒を飲んでも呑まれるな、とは良い教訓だよ、全く」
「そ、そうでしたか……」
昔の失敗話を冗談交じりで話してみたが、沖田ちゃんには受けが悪かったらしい。まぁ、自分が関わっていない仕事の話をされてもピンと来ないよね。
「ま、そんな訳で俺はパスパス。沖田ちゃんもマスターちゃんと一緒に楽しんできたら?」
「……すみません」
しょげた犬のようにマスターの近くへ寄っていくのをぼんやりと見ていると、そんな様子を気にしたマスターが沖田ちゃんに話しかけに行くのが見える。やはり、マスターは俺達サーヴァントを驚くほどよく見ている。これが様々な特異点を攻略したマスター、というものなのだろう。他にする事もないので、その二人を引き続き見ていた所、何か案を貰ったらしい。試衛館時代以来、見ることが無くなった笑顔を浮かべていた。まさか、あの沖田ちゃんが女の子の顔をするとは思わなかったが。
「そうそう、それでいーのよ、沖田ちゃんは」
俺は最後まで生き延びたが、沖田ちゃんは体の所為で戦うことすら出来なかったんだ。今くらい、楽しんだっていいっしょ。まだ、此処に来て間もないが、それでも驚く事ばかりだ。沖田ちゃんの事にしろ、副長の事にしろ、自分が知らなかっただけで変わったことが沢山あるらしい。後、織田信長と上杉謙信は女だったとか。いや、驚くだろ、フツー。
……気を取り直して、マスターを含めた全体の状況把握でもするか。与えられた拠点の広さは申し分ない。マスターにマシュ、それと何名かのサーヴァントが出入りしても問題ない広さがある。マスターとマシュが休んでいる間の見張りの交代要員も十分だろう。沖田にしろ、赤い弓兵にしろ、腕の立つ者が英霊となることが多いこのカルデアだ、誰に任せても見張りは機能するだろう。流石に危険は無いだろうが、やはり今日は酒を飲む気分にはなれないので、大人しく見張りでもしましょうか。とは言えど、このままでは暇を持て余す。折角だから、コロッケそばをもう一杯貰おうか。確かカレーコロッケを使ったコロッケそばもあるらしい、これを機に試してみようか。……何だ、沖田ちゃんが何かを持ってこっちに来ているな。丼二つに……あれは何だろうか。
「斎藤さん、折角だから一緒に食べませんか」
「おっと、気が利くねえ沖田ちゃん」
持っていたのはまさかのコロッケそば、と団子でしたか。大方、マスターが案を出して、沖田ちゃんがあの赤い料理人に見繕って貰ったのだろう。
「折角だから頂こうかねぇ。丁度、小腹が空いていたんだ」
「それなら良かったです。それにしても、かけそばにコロッケを乗っけて食べるなんて初めてです」
「お、じゃあ沖田ちゃんもコロッケそばデビューか。合わないようで意外と美味いのよねぇ、これが。ま、とりあえずは頂きます」
二人でそばを啜る。時に汁に浸ったコロッケを食べていると、沖田ちゃんが感心したように呟いた。
「ふんふん……それにしても、斎藤さんのそば好きは知っていましたが、意外と合うんですねえ、コロッケとそば」
「俺も意外だったよ。サーヴァントに食事なんて……と思っていたんだがね。好物くらいは偶には食べたいでしょ、ってマスターに勧められちゃってねぇ」
「私も最初はそんな感じでしたね。まず最初にお団子を頂きました」
「やっぱ、沖田ちゃんはお団子を頼んだか。ま、俺もその流れでかけそばでも貰おうとしたんだけど、その時に何となくそばだけじゃ味気ないなぁ、って思っちゃってね。何か見透かされたのか、食堂にいるあの赤い兄ちゃんが天ぷらを作ろうとしたんだけど、流石に一人の為に天ぷらを作って貰うのはねえ。かけでいいよ、ってあの赤い弓兵に言ったんだけど……」
今も尚、皆にデザートを作っている赤い弓兵を見る。
「コロッケならあるぞ、と言われてしまってね。コロッケにそばとは思ったけどね、好意で用意したものだから断れなかったのよ。折角だし、物は試しだ、と思って食ってみたんだが、これが嵌っちゃってねえ」
「相変わらず、料理については何でも知っていますね、あの弓兵」
「本当にねえ。どの時代の英雄なんだか。コロッケのいい所は天かすよりも油が少ないから、意外と脂っこくならない所。そして、つゆに浸して柔らかくなったコロッケをそばと一緒に食べる……すると、また違う味になる。これを生きている時に知っていればなぁ」
気付けば、丼が空になっていた。手軽に食べられて美味しいのは有難い。
「ふぅ、ご馳走様でした。やはり食べ慣れた食事はいいですね」
どうやら、沖田ちゃんも食べ終えたようだ。
「あー、色んな国の英雄様が居るからねえ。食べ慣れないのは、何の味が分からない時が時々あるんだよね」
「ええ、そういう意味ではマスターが日本人で助かりました、本当に」
分かる分かる、宮本武蔵とか佐々木小次郎が同じ場所に居るだけでも顎が落ちても可笑しくないのに、他国の王様まで居るとは。
「斎藤さん、折角ですから団子も食べませんか」
「おっと、いいのかい。沖田ちゃん」
好物だろうに、と思ったが一人で食べるには少し量があるような。
「ええ、その為に多く作って貰いましたから」
「そういう事か。マスターちゃんとじゃなくていいのかい、沖田ちゃん」
「そうなんですけど、久し振りに斎藤さんとも出会いましたから、色々な話がしたいと思いまして」
なるほど、折角の好意なんだから有難く頂こうか。それにしてもこの団子、中々美味い。昔と比べて味も進歩したんだねえ。若しくは、作る人がよっぽどの腕か。
「あー、確かに。俺っちは結局最後まで生きていたからねぇ。とは言えど、沖田ちゃんに話せることなんてそんなに無いよ?」
「斎藤さんならそう言うとは思っていましたけどね……それでしたら、カルデアで今まであった事とかどうです?」
「お、いいね。俺も此処に来て浅いからねえ。面白い話があればよろしく頼むよ」
しかし、全く知らない場所で食べる、食べ慣れた味がこうも美味いと感じるとは。長く生きた身だが、それは知らなかった。
「面白い話ですか……色々な事があり過ぎたので全部を話すと斎藤さんの頭がパンクしてしまいそうですが……ピラミッドを城でサンドイッチにした外見のトンチキ建造物の話と、持病が治る代わりにジェットパックを同意なく接合された水着姿になった私の話、どちらが聞きたいですか?」
………………今、沖田ちゃんは何を言ったのかな?
「……ごめんね、沖田ちゃん。俺の耳が聞こえなくなっちゃったかなぁ」
10階建て高床式倉庫とか普通は驚くはずなのに、沖田ちゃんや副長も何の抵抗も無かったし、マスターに至っては、「今年は随分と控えめだなあ」とか言っていたけど、そういう事でしたか。
「まぁ、私もあれを初めて見た時は目を疑いましたけどねえ」
「…………」
折角の団子とコロッケそばの味を忘れてしまうような、そんなインパクトのある話が初っ端から来るとは思いませんでしたよ、全く。僕はもうお腹いっぱいですよ、沖田ちゃん。それと、トンチキ建造物もそうだけど、ジェットパックもどういう事だい?
「大丈夫です。斎藤さんもカルデアにいれば慣れますから」
何、此処ではあんな事が日常茶飯事な訳?
「いやぁ~、それは慣れたくないなぁ」
「大丈夫ですよ、私も土方さんも慣れましたし。何時か大空に浮かぶ特異点、なんていうのも起きるかもしれませんよ。そうしたら、この沖田さんが大空を舞台に大活躍すること間違いなし、なのですから!」
「そもそも、水着は水辺で使うものでしょうが。そこで何で空を飛ぶのよ、沖田ちゃん」
そんな曇りの無い笑顔でそんな事を言われると本当に起きるかもしれないよ、沖田ちゃん。
「……そんな事が起きるのがこのカルデアなのです。まずは定期的に話題になる謎の違法建造物、チェイテピラミッド姫路城の話をしましょうか」
……そして、結局始まるのね、その話。まぁ、沖田ちゃんが元気そうで良かったよ、色々と。
ジェット付けた水着姿って、今更ながら何で水着なんでしょうかね。
いや、外付けなんですけど、ジェット付けた状態で水辺に入れるのだろうか。
寧ろ、大空へ飛び立つ方が似合う水着姿って何だろう……